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第4話「悪魔会談・敵の狙い」

「さぁて、リリンにユニクルフィンくんは、どんな面白い話を聞かせてくれるのかな?」

「話題は一杯ある。けど、時間も限られているし、最初に重要な案件から話したい」

「あぁ。なんでも、リリンは闇の組織に狙われているらしい」


「闇の組織?」

「そう、恐らくは暗劇部員だと思う」


「あー、この仮面の?」

「そう」

「……。」



 平然とした顔で怪しげな仮面をカミナさんは取り出した。

 やっぱり持ってるのか……。

 という事は、こりゃ、残りも全員が持っているだろうな。

 あれ?

 ……普通に1チーム出来てるじゃねえかッ!!



「でさ、リリンを襲った人の、人数構成は何人なの?」

「先日行われたのは盗賊30人の襲撃。簡単に返り討ちにして問いただしたら、裏側に最低二人の女が暗躍している事が分かった。盗賊達には認識阻害の魔法が掛けられて詳細が分からない。けれど、その二人は"黒"かったと……」


「ふむ、黒か……。その二人が不安定機構・”ノワール”の暗劇部員かもしれないのね………。証拠は?」

「まずは物証、この映像を記録・転送する魔道具を盗賊全員が着けていた。こういった物を暗劇部員はよく手にしている」


「なるほど。1個バラしてみてもいい?」

「いい」



 リリンに確認を取ってからカミナさんは、机に無造作に置かれた魔道具を手に取った。

 慣れた手付きで空間から道具箱を引き出し、中から一本の鉄の棒を取り出す。


 先端が尖っているだけの鉄の棒。

 だが、カミナさんが呪文のようなものを唱えると、鋭い刃物のような形になった。


 作業に集中し始めたカミナさんに変わり、リリンに「アレはなんだ?」と問いかけると『万能工具』という精密機器を製造解体するのに使う古道具なのだそう。


 ……カミナさんって、医者だよね?

 見事な手さばきを見せられ、そんな疑問を抱き始めた頃にはすっかり魔道具の解体が終わっていた。

 だが、なにやら思い当たる節があるらしく、リリンに追加の申し出をしている。



「も2個いい?」

「好きなだけどうぞ」



 再び始まったカミナさんの魔道具解体ショー。

 しかし、先ほどとは速さも精密さも段違い。

 的確に外装を外された魔道具は、綺麗に解体されていくにもかかわらず、部品同士の線はつながったままで、カミナさんがカチリと何かのスイッチを入れると同時に魔道具に光が灯る。


 リリンが魔道具を預けてから、ここまでわずか5分。

 どうやらカミナさんは魔道具の仕組みを理解し、擬似的に起動させたらしい。


 あれ?本業メカニックの方だっけ?白衣着てるけども。



「ん、これは、凄いわねぇ………。仮で動かしてみたけど、全ての映像化がリンクされてる。恐らく受信機に写る映像は一つに統合されて、360度を見渡せるようになっているはず。だからこれは………」


「何か分かった?」

「そこそこ高価な魔道具ね。そして、回路の劣化もないから新品同様な事も踏まえると………2億エドロってとこかな」

「に、に、に………2億エドロォ!?」



 2億エドロだとッ!?

 高ぇぇぇぇぇッ!!

 まさかのボッタくりホーライ店レベルだと!?まぁ、あっちは正真正銘、伝説の魔道具だったけど。


 だが、これはますます事態が悪くなったんじゃないだろうか。

 だって、敵は2億エドロの魔道具を使い捨てにする財力を持っているということ。

 それはつまり財源があるということで、リリン同様、高ランクの依頼を簡単にこなしているってことだ。


 俺の意見に二人とも頷き、相手は相当の財力が有る可能性が認められた。

 一応の確認として他の可能性、安価でのレンタルや、資金の借用などがないか話題にあげてみる。



「そうね。まず、レンタルはあり得ないわ。中古の格安販売ならともかく、常に破損の可能性が付きまとう魔道具はレンタルが成立しないもの。物を見る限り新品だし、この魔道具を手に入れるのは相当の資金が必要なはずよ」

「それと、ユニク。お金を借りるのは金額が上がるにつれて難しくなり、1億エドロ以上を借りるのは、不動産を購入する場合を除いては不可能といっても言い」

「そうなのか?余談だけどさ、なんで不動産だけは大丈夫なんだ?」


「元本、つまり借用したお金で借用者が不動産を建てるのならばお金の回収がしやすい。家は建ててしまえば動かすことは出来ず、使用するにはそこに来るしかない。金貸しとしても居場所が分かるなら安心だし、最悪、家を奪い取ることもできる」

「やけに詳しいな………」


「ワルトナの"講座"のおかげ」

「そうね。私も医療知識以外の事もずいぶん詳しくなったわ。ワルトナの”講座”のおかげで」

「………その、"講座"とやらの名前を聞いても?」


「「ワルトナ監修の『詐欺師のススメ!』」」

「そんな感じだろうと思ったよ!!」



 まったく。ドッ直球に犯罪臭がするじゃねえか。

 あぁ、ホロビノの背に乗って集金に向かうリリンの姿が目に浮かぶ。

 お金を払えなかったら、トンデモナイ事になるな。

「私の懐をホクホクさせたいか、ホロビノのおなかをホクホクさせたいか。選ぶと良い」

 うわぁ、すっげぇ言いそう。



「敵側に資金源がいることは確定ね………。他に証拠はない?リリン」

「それ以外に、相手は高位の魔導師である可能性が高いという事が分かっている。認識阻害の魔法の他に星魔法も扱えるらしい」


「らしいというのは憶測なの?」

「……ごうも……けふんけふん。尋問の結果、聞き出した情報」



 ……おい、今、拷問って言いかけなかったか?



「どのくらい追い詰めた?自白剤は持ってなかったよね?」

「かわりに、『魔王の右腕(デモン・ライト)』を使ったから、信憑性は高いと思う」



 ……おい、なんだその、物騒な名前は?


 魔王の右腕(デモン・ライト)

 ん?なんか、何処かで聞いたような……?

 だめだ、思い出しちゃいけないような気がする。なぜだか物凄く怖かった気がする。よくない。やめよう。



「なるほど、それなら十分に信用できるわね。それで、使われた魔法に関する情報は聞けた?」

「前方からバラバラに走ってくる盗賊30人の群れ。それを一撃で殺すことなく全て昏倒。なお、場所は幅6~7mの洞窟。発動後は輝く星の回廊が形成された」


「確かに星魔法っぽいわね。でもそれだけで、大部絞込めるはずよ」

「どのくらい絞り込める?」


「私の患者様の統計的に、実践レベルで星魔法を扱えるのは、冒険者の大体、0.2%。その内、接近してくる盗賊30人を昏倒させるなんて芸当が出来るのは、そこからさらに10%ってところね。冒険者全体でみれば、2万人に一人くらいかしら?」

「2万人に1人……?思ってたのよりずっと少ない」


「私では魔法の特定は出来ないけれど、後半の、30人を殺すことなく昏倒という所が気になるわ。そういうのって殺すより難しいのよ」



 そうなのか?

 確かに、殺すのならばやり過ぎればいいだけの話か。


 ここでふと、俺はどうしても聞いておきたい事がわいた。

 その難しいという芸当を、リリンやカミナさんは出来るのかってことだ。

 出来ないのならば、敵は技術面でこちらの陣営を凌駕しているって事になってしまうのだ。


 俺は素直に疑問を提示し、回答を待つ。そして、順に回答がもたらされた。

 最初にリリン。そのあと、カミナさんだ。



「私は……同時だと40~50人が限界。それ以上は仕損じる可能性が出てくる」

「私は200人はイケるわ。だって私、医者だし。今日も手術だったから昏倒させたし」

「……。」



 ……カミナさん。医者が患者を眠らせるのを昏倒と一緒にしないでください。

 あらぬ誤解を生みます。

 つーか、本当に殴って意識を奪ってるんじゃないだろうな?


 この質問は流石に出来ない。

 俺まで昏倒させられたらたまったもんじゃないからな。



「そうなると、敵はやっぱりリリンと同じくらいの強さの魔導師か……」

「ユニクの言うとおりだと私は思うけど、カミナはどう思う?」

「そうね。魔導師である事は確定だと思うわ。だけど、その人達の狙いは本当にリリンだけなのかな?」


「どういうこと?」

「だって、リリンを襲うのに盗賊を仕向ける理由がないわ。負けるって分かりきってるのに」


「……それは、確かに変だよな」

「言われてみれば不自然。私はやる時は徹底的にヤる。仕返しをするにしても相応の戦力が必要な事は分りきっているはず」

「そうよね。だとしたら、リリン以外の戦力を知るのが目的だということ。だからリリン個人を狙ったわけではなく、ユニクルフィンくん、または二人共を狙っている可能性が高いわ。盗賊達は、狙いはどちらかだと明確に言った?」


「……言ってない、そういえば、一言も私だけが狙いだと言ってなかった……」

「なにより彼は英雄の息子。その価値は正直、リリンよりも高いはずよ」

「……。聞きたくないし、知りたくもないんだが、確認せざるをえないんで、しぶしぶ聞くぞ? もしかして、狙われてるのって、俺?」


「「……うん、たぶんそう。」」

「なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?」



 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁ!!?

 なんだよッ!?狙いはリリンって話だっただろッ!?

 俺なんて、ちょっと高級な鎧を着て、わりと伝説級の剣を振い、知られざる英雄から至宝を授けらた、それなりに有名な英雄の息子ってだけなのに!!


 ……狙われる理由十分じゃねえかッ!!ちくしょうめッッ!!



「なぁ、リリン。俺、どうなっちゃうんだ?捕まって売られるのか?奴隷行きなのか?」

「私が負けた場合、そうなる運命も可能性的にはある。でもその場合、高確率でレジェに買われる事になるので命の心配いらない、けど……」


「レジェリクエ女王に買われる?何でだ?」

「レジェはこの大陸の奴隷組織を完全に掌握している。私にも、奴隷としてユニクが売っていたら買い取っておくと約束してくれた。……私的には最悪に等しいけれども」

「そうね。最悪ね。身の毛もよだつわ」


「そんなに?怖っえぇー」

「大丈夫だよ、そんな事はさせないから。敵がたとえどんな奴だったとしても、見つけ次第、徹底的に痛めつけて絞めあげる。『魔王デモンシリーズ』も完全解禁する!」



 ……おい、今、魔王デモンシリーズ(・・・・)と言ったか?

 いや、詮索はやめよう。考えただけで魂が震えてきた。



「敵は星魔法を扱える相当に熟練した魔導師の二人組で、財力に余裕があり、狙いにユニクルフィンを含む。それ以上は情報不足で分からないわね。とりあえず、ワルトナにはこの事を伝えてリサーチをしておいてもらうわ。これから行くんでしょ?」

「もちろん行く。当然、メナフやレジェの所にも」



 あぁ、もう誰かこの状況から助けて欲しい。色々な意味で。

 そう考えて真っ先に想い浮かんだのが、やる気満々な『じじぃ』だった。


 ……確かに、妖怪じみている動きはするが、レベル9981のじじぃじゃ無理だ。記憶の底で安らかに眠っていてくれ。



「カミナ、力を貸して欲しい。具体的にはユニクに合うように鎧とかの装備品を改造して欲しい」

「そうね。ちょっと気になってたけど、その鎧買ったばかりみたいだしね。良いわよ、直ぐに準備するわ」



 俺が妄想の中でじじぃと戦い敗北している間にも、話題が別のものに切り替わっていく。

 どうやら、カミナさんが俺のカッコイイ鎧を改造してくれるらしい。


 ……。

 …………。

 ………………医者なのに。


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