第141話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-レジェリクエside⑥」
「《来い=ぼくの魔導枢機、チェルブクリーヴ・トゥモリア!》」
声高らかに唱えられた召喚詠唱に従い、13個の魔導規律陣が空に描かれる。
それぞれ魔法陣から出現した頭、胸、胴、両手、両足で7つ、そして1枚でチェルブクリーヴ本体に匹敵する大きさのブレードウィングが計6枚。
鳳凰と呼ぶにふさわしい巨大な翼が、真紅のボディに映えている。
『あらぁ、デザインが変わっているわねぇ?』
「ふふん!どうだカッコイイだろう?フル神聖金属製の超豪華仕様だからね!」
このチェルブクリーヴ=トゥモリアは天窮空母の船首を胸に飾るコンセプトはそのままに、あらゆる面が一新されている。
右腕はエゼキエルシリーズを踏襲する円筒状の腕、その先端には鷹のように鋭いカギヅメ状の物質ジェネレーターユニットを装備。
神聖金属を含む金属を錬成できる3Dプリンターであるそれは、メルテッサの世絶の神の因子と相性のいい、過去を持たない高品質の武器を生成可能。
他の帝王枢機の武装を作り出し装備することすら可能であり、事実上、最も汎用性の優れた機体となっている。
そして、左腕、両足……、更に3対6枚の巨大な翼には、作り出した武器を装備するサブアームを隠し持つ。
これにより、チェルブクリーブ=トゥモリアは最大9つの武器の同時使用が可能であり、多彩な攻撃手段を豊かに使った継戦能力は他の追従を許さない。
「《さてと、搭乗せよ、帝王枢機!》」
当然のことながら、この機体の神製金属含有量は帝王枢機の中で一番多い。
貴重な神製金属をロス無しで生成できるメルテッサがムーと交わした契約は、『チェルブクリーブシリーズの製造・改修に必要な材料の全提供』。
材料枯渇問題に悩んでいたムーはこれを快諾し、メルテッサはラボラトリームーに保管されている材料を無制限で使用できるようになっている。
そんな背景を持つチェルブクリーブ=トゥモリアは、メルテッサが主導で作り上げた浪漫機体だ。
造物主を使用し独自の理論で作り上げられた旧チェルブクリーブの構造をムーのエゼキエルシリーズに融合させるには、あまりにも時間が無さ過ぎた。
だからこそ、ムーが研究してきた効率の良い機械構造を度外視し、最大性能を高める事に重点を置いた。
どんなに難しい前提条件であれ、それを一度発揮してしまえば、メルテッサの造物主でいつでも能力を引き出せるからだ。
「さぁ行こう、トゥモリア。豊かで楽しい、真実の明日へ!」
明日+真実。
指導聖母が聞いたら鼻で笑いそうな安直なネーミング、だが、メルテッサはこれで良いと胸を張る。
主人公が乗る新機体の名前は分かりやすさ重視、これこそがロボ愛好家が抱く浪漫なのだと陽気に笑みを零す。
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「やぁ諸君、炊事係お疲れ様。君らの隊長達が煮えてしまう前に、ちょちょいと決着をつけてくるよ」
「んな別の鳥!?いや、見たことにない機体だに!?」
ドゥニームが率いる帝王騎士団の現在の役割は、作成した砂鉄の火釜を熱し続けること。
ルドワール達が帰還するまで内部温度を1000度以上に保ち続け、ケライノーの能力を低下させる檻の死守が命じられている。
「さて……、デモンブラッシュとエジルリコリスの戦闘システムをトゥモリアと同期。挙動制限解除……、神経速での運用を開始する」
トゥモリアを通気口から突入させながら、メルテッサは操縦桿を強く握り込む。
操作方法は彼女にしか扱えない特殊なもの――、造物主で操縦桿と自身の肉体の境界を無くすことで、機体がメルテッサそのものであると誤認。
機械を生物だと偽ったことで、電子ケーブル内の通信を神経速で行えるようになる。
「実際に見るとさらに小さく見えるね。2機の攻撃がかすりもしないのも納得だ」
トゥモリアのメインカメラがとらえた映像に映し出されているのは、全長30cmほどの地味な雌鳥。
しいて言うなら、くちばしと爪が鈍銀色に輝いているだけの、どこにでもいる鶏だ。
「君の高速戦闘のタネはもう割れている。さっき崩壊した黒い身体を風に混ぜ、この火釜を電磁コイル化している。そうだろう?」
「……クケッコッコッコー」
「その性能を書き換えてしまうのは容易だが……、せっかくの新機体お披露目なんだ。正攻法で攻めるとしよう!」
生体レーダーを通してケライノーを観測していたデモンブラッシュとエジルリコリスは、自律戦闘を継続していた。
だが、余計な鎧を脱ぎ、速度重視形態となったケライノーに触れることは叶わず。
逆に、一方的に攻撃を受け、外装の幾つかに彼女の足跡が付けられている。
「コッコッケケ……、《超電子回路》」
「――斬罰せよ、神の名の元に。《輪を描いて回る炎の剣」
電子回路のように不規則な直線軌道で空を駆けるケライノーを目で追いながら、メルテッサは右腕の物質ジェネレーターユニットを起動。
円筒状の腕を起点に高速起動する指によって、神製金属に火薬を混ぜた特性の剣が鍛造される。
「速度は亜光速、ついでに纏っている磁界による金属反発でこっちの速度は減退。うーん、嫌らしい」
「クケケケケk……!?」
「だからこそ、ぼくが直接ここに来た。回避手段のない圧倒的な物量を叩きつけるために」
鍛造された剣は1本だけではない。
既にサブアームに9本、そして、デモンブラッシュとエジルリコリスの両手にも同等の剣が握られている。
「コッッ!?」
「超新星融解斬」
メルテッサが用意した、光速で移動するケライノーへの答え。
それは、指向性を持たせた光による攻撃。
剣の表面に塗られている特殊火薬は2種類存在し、それらを接触させることで、強烈な光を伴う核融合が発生。
それを神聖金属を触媒にして凝縮させた空を飛ぶ斬撃……、これこそがメルテッサがこの『剣銃』に求めた性能だ。
「クッ!!」
「敵機動、マイナス補正2%。リトライ、更に補正1.5%」
「kっ!?」
「せい、そい、ほい。……着弾」
「ゴゲェ!!」
ケライノーの動きを3機の帝王枢機が観測し、演算。
同時に、演算結果をすり合わせることで、悪食=イーターに匹敵する高精度未来予測が実現。
そこから導き出された未来通りに、ケライノーへ斬撃が降り注ぐ。
「おや……雪?確か、1000年ほど前の皇種は風雪を操る鳥だったね」
光の弱点は水だ。
これは水分を透過する際に光の屈折率が変わってしまい、全くの別物となってしまうからだ。
それを知っているケライノーは与えられた記憶を参照し、権能を起動。
吹雪で歪まされた斬撃は本来の効果を発揮できず、ケライノーの腹に裂傷を残したのみで潰えた。
「落ちぶれようとも、始原の皇種の後継者か。まったく、神の力ってのは強大で困ってしまうね」
「コッコッコッコッコ……《花鳥諷詠》!!」
メルテッサを感嘆させる四季が風に乗り、空間を埋め尽くす。
ケライノーが放ったのは、疑似的な春夏秋冬の再現、すなわち世界。
風に溶け込んでいる黒い霧、砂鉄とケライノーの魔力の混合体を媒介にして過去の皇種の権能再現し、立て直しの時間を――。
「与えると思うかい?」
「ゴゲゴォォッ!?!?」
剣に塗られた火薬の性能へ、高い蒸発性をインストール。
それに炎上させた剣を接触させて蒸気爆発を誘発、火釜の内部から黒い霧を外に押し出す。
「さぁ、フィナーレの時間だ。最後は当然、ド派手な必殺技で締めさせてもらうよ」
「ッ!!」
「メイン砲門開放、エネルギー重点100%。いけぇ!《陽極子鳴光・武御雷》!!……なんてね」
黒い霧を剥がされたケライノーは、権能を使った光速移動も封じられている。
肉体には羽毛を削いだ大きな傷。
回避も迎撃も間に合わず――、そして、メルテッサ達の怒りの蹴り爪が、ケライノーの顔面に突き刺さる。
「ぶっ殺してやる、クソアマーッッッ!!」
「ゴゲェエエエーー!?!?」
トゥモリアの胸に取り付けられた巨大な鳥の頭の形をしたメイン砲門、そこから放たれたのは、ケライノーを幾度となく咎めた雷界の警告者・キングフェニクス。
そんな彼の渾身の飛び蹴りがケライノーの頭を粉砕。
弾き飛ばされた身体はクリスタルに覆われ……、火釜の側面にめり込む星となる。




