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第140話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-レジェリクエside⑤」

「降伏……、ですっテ?冗談じゃないワ」



 そして、ルドワールの降伏勧告は、ケライノーの琴線に触れた。

 無色の悪意によって強化されている支配欲にとって、戦わずに降伏するなど、どうあっても受け入れられない行いだ。



「コケッ、コケッ、コケゴッゴォォオオオオ!!」

「!?」

「!?」



 全長500mの鳥の中にいた、20mほどの黒い鳥像。

 その形は複雑に枝分かれしている巨大な角を持つ、黒光りする鷲だ。

 装備を纏ったエゼキエルの倍以上の大きさであり、纏う魔力が紫電と化している光景も尋常ではない。

 だからこそ、コケコッコーとなどという間の抜けた鳴き声が、酷く滑稽に映った。



「ミディ、無暗に突っ込むな」

「分かってますっ、油断しません新兵なんで!!」



 帝王騎士団の主な業務は、周辺の森に赴き食料を調達すること。

 すなわち、他種族が支配するくにへの侵略行為に他ならない。

 そんな軍隊の大隊長を務めるルドワールは、種族の長の厄介さを熟知している。



「鳥系超越者の鳴き声は威嚇以外の意味を持つ、能力を向上させるバッファだ」

「最初の鳥の権能は風支配エアロヴィクター。鳥も人と同じく魔法を詠唱してくる、ですよね!?」



 超越者の縄張りに囲まれている魔導枢機霊王国の軍学校にとって、最も重要視されている授業は生物学だ。

 生き物の特性を学ぶのはもちろん、古代生物史などの絶滅した種族についても学ばされる。

 ただでさえ強い危険生物が、皇種というシステムを使い記憶継承をしている以上、脆弱な人間が生き残るには知識量で勝つしかない。

 そんな枢機院タヌキの教えに則り、ルドワール達は危険生物の行動パターンにある程度の当たりを付けることが出来る。



「外気温1100度から、なおも上昇中。磁界系の技はコントロールできない筈ですが……」

「纏っている砂鉄が輝き始めた。サーモカメラの計測温度は……、なに!?」


「ルドワ様!!温度の代わりに511keVって表示でてますが!?」

「keV……、キロエレクトロンボルトだとぉ……」


「なにそれ!?」

「理科は嫌いかね?陽電子消滅、要するに、強烈な光と電磁波と金属の生成だッ!!」



 1000度を超える外気温が自身の鎧に致命的な影響を与えることなど、ケライノーは百も承知だ。

 何故なら彼女は、金鳳花が100年以上も前から仕込んでいた一級戦力。

 皇の知識を持たず、金鳳花に対する忌避感を持たない雛鳥は、与えられたきおくをなんでも鵜呑みにする。


 そうして作り上げられたのは、火花散る黒鉄八翼のガルーダ。

 鉄の分子を衝突させて光と火花、陽電子と電磁波を絶え間なく放つその姿は、水銀翼雀すいぎんよくじゃん・ラサーナヤと呼ばれた過去の鳥の皇に酷似している。



「ゴッケッェ!!」

「動くぞ!!狙いは……、私か!!」



 その飛翔は、熱した鉄を打ち付ける光景よりも苛烈だった。

 一秒間に80回も繰り返される羽ばたき毎に、翼を叩き付けられた大気が細かな炎弾と化す。

 瞬く間に燃え広がった視界は赤一色、それと同化して迫るケライノーをルドワールは認識できず……、エゼキエル=エジルリコリスが持つ十字架の自律防御翼が強靭なくちばしを遮った。



「くぅ!!」

「何をしてるんですか!?」


「大丈夫だ、それよりも……、あの光をどうやって捕まえるかだ」



 天使シリーズは、防御に重きを置いた武装だ。

 その特性は、操縦者の認識外の攻撃にも対応できようにチューニングされている。



「初撃を失敗したとみるや、距離を取って様子見。あの鳥、かなり賢いぞ」

「ルドワ様?理科強いんですよね?光を閉じ込める方法を教えてください」


「ふっ、一般教養ではそんなことは習わんな」

「じゃあ、なんでさっきイキった!?私と同じ鳥以下の知能を誇らないで!!」



 ルドワールは卓越した経験と知識を持つ、優秀な大隊長だ。

 だが、砂鉄を電子融解させながら光速で突っ込んでくる鶏の対処方法まで知るはずもない。



『無知を攻めてはいけないわぁ』

「レジェリクエ陛下!?」


陽電子ポジトロンとか余にもさっぱりぃ、そういうのは、得意な人に任せればいいの。カミナ』

『刻んだわ。メルテッサちゃん、この魔法プレートの性能をエジルリコリスに転送』

『ほーい』



 何らかの対処法が講じられた、ルドワールに分かったのはそれだけだ。

 だが、その変化は劇的。

 エジルリコリスの外装が見る見る内に鏡のようなコーティングで覆われ、美しい銀翼を手に入れる。



『ルドワール、ミディ、操縦桿から手を放しなさい』

「「え!?」」


『あなた達の役割は真っすぐ飛ぶだけ。内部にエゼキエルを搬入した時点で役割を終えているのよ、お疲れ様』



 与えられた言葉の意味が分からなかった。

 強力なエゼキエルと言えど、操縦しなければただの的にしかならない。

 先ほどは盾で攻撃を防げたが、何度も繰り返せば、いずれ致命的な一撃を貰うことになる。


 だが、ルドワールとミディは躊躇なく操縦桿から手を離した。

『絶対に死なせない』

 そう告げたレジェリクエの言葉を信じているからだ。



battle(戦闘) trace(技術)selection(選択) "SODOM"』

battle(戦闘) trace(技術)selection(選択) "GOMORA"』



 二人の目の前の液晶ユニットに映し出された文字列、それは、この世界で最も帝王枢機の扱いに長けている二名の名前。

 魔王装備を持つデモンブラッシュには攻撃が上手いソドム、天使装備を持つエジルリコリスにはカウンターが上手いゴモラの戦闘データをインストール。

 そして、それぞれがこの瞬間に生まれ変わったかのように、雄叫びを上げて突進する。



「ひぃっっ!?」

「ぎゃああ!!」



 デモンブラッシュがブースターを吹き鳴らしながら、巨大な剣を振りかざして一回転。

 ベーゴマのように回転するミディの視界に、向かって来ていたケライノーを弾き飛ばした光景が映る。

 さらに、銀色の翼を腕に装備したエジルリコリスが、6回の殴打を放つ。

 その度に、ケライノーの体に翼を突き刺して放置。

 そして、首周りに生やされた銀色のトサカに向かって、デモンブラッシュによる尻尾砲撃が着弾した。



「なん――!?!?」

「ひょえ――!?!?」



 デモンブラッシュが放ったのは、ケライノーと同じ陽電子を用いた砲撃。

 それが着弾した銀色のトサカは、まるで鏡に光を当てたように6枚のプレートを乱反射し――、ケライノーの身体は臨界点を超える。



『あらぁ、綺麗ねぇ。で、今のは何かしらぁ?』

『陽電子って非常に不安定な状態なの。ちょっと追加してあげるだけで、すぐに原子融解メルトダウンに発展するわ』


『二人のリアクションが途絶えたけどぉ、約束を違えるような事にはなってないでしょうね?』

『バイタルから察するに、強烈な光を見たことによる気絶ね。30分は目覚めないと思うわ』



 カミナは説明を省いたが、そもそも、通常のエゼキエルでも1500度の環境で問題なく稼働できる。

 コクピットが熱くなるのも冷却装置の排熱が原因であり、外的要因ではないのだ。


 だが、カミナが狙っていたのは、メルトダウンによるケライノーの融解。

 その温度は3000度以上、鉄の融点を超える以上、神製金属を使った装備で身を覆った機体でしか耐えられない。



『この遊びは氷鬼。死んだら結晶になるはずだけれどぉ、跡形もなく吹き飛んだ場合はどうなるのかしら?』

『その疑問は意味のないものだよ、レジェリクエ。どうやら仕留め損ねたらしい』



 メルテッサが眺めていた液晶に映し出されているのは、エゼキエルの周囲に向けた生命体レーダー。

 よく見なければ見落としてしまうような小さな点、全長30cmほどの命がそこにいる。



『今のを回避するかぁ、流石ねぇ』

『距離があるとラグるからしょうがない。ということで、ぼくらが直々に行って引導を渡すとしよう』



 まるで想定内だというように、メルテッサが楽しそうに席を立つ。

 その表情が示すこと――、ワザと手を抜いた可能性にレジェリクエが眉をしかめた。



『メルテッサ、出番欲しさに手加減したんじゃないでしょうね?』

『まさか。機械は神経速を出せない、当然、判断は生物よりも遅くなる。自律行動じゃ、光速を出す相手を捉えることは難しいって話だよ』


『もっともらしいことを言ってぇ。ま、余は理解ある王だものぉ、友達に手柄を譲るくらいの度量はあるわぁ』



 メルテッサは嘘をついていない。

 旧型エゼキエルが光速を発揮する超越者と対等に戦えるのは、悪食=イーターによる超高精度未来予測があるからだ。

 過去の模倣しかさせられないメルテッサでは、状況が変わりすぎる高速戦闘には対応しきれない。



『ちゃちゃっと勝ってきてねぇ』

『もちろんさ。バージョンアップ後の初陣で手こずるとか、ロボマニアにあってはならない失態だ』



 手首に付けたブレスレット型の魔道具に魔力を注ぎ、メルテッサは天窮空母の室外船尾へ転移。

 そして、全身で感じる風に感情を乗せて――、声高らかに叫ぶ。



『《来い=ぼくの魔導枢機、チェルブクリーヴ・トゥモリア!》』



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