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第137話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-レジェリクエside②」

「ルドワール様、ミディです!無理です!もう機体が持ちませーーんっ!!!!」



 黒い霧を纏う巨鳥を前で、ボロボロの満身創痍にされたエゼキエルが叫んだ。

 その機体の操縦者はミディ。

 つい先日まで新兵リーダーを任されていただけの、若輩パイロットだ。



「ふむ?確かに外見は酷いものだが……、これだけ傷ついてなお、移動速度の減退が見られない。ドゥニーム中隊長、どう思う?」

「機体重量が一般エゼキエルと比べて随分と重いですに。構造に違いが無いとすれば、材料の差が上げられますな」


「まだ持つと思うかね?」

「1~2回は大丈夫のはずだに」


「そうか。ミディ、霧の内部への突貫を命じる。時間は10秒、機体の損傷具合から攻略への糸口を探す」


 1から2。

 それは、期待する結果が状況に応じて倍以上に可変するという事。

 ならばこそ、結果が半分になってしまう可能性も多分に含まれている。



「私に死ねって言うんですか、鬼!悪魔!!」

「タヌキが魔導枢機を操縦して全長100kmの竜と戦う世の中だ、なんとかなる」

「そうだに。諦めなければ夢は叶う、オイラに嫁が出来たように」


「死亡フラグ止めろっつってんだろ、ヒキガエルゥァア!!もうヤダ、転属届だすっ!!カナン様の所にいぐぅー!!」

「判を押すと思うかね?」

「どっちにしろ、カナン様の所はやめておいた方が良いだに。碌な噂を聞かんに」



 国王ホロメタシスから受けた第二騎士団への命令は、黒い鳥の討伐だ。

 カメラ越しに確認したレベルは12万弱。

 超越者になったばかりであり、大した実力は秘めていないと判断。

 総勢50機の軍ならば問題なく処理可能、そう認識されたからこそ……、先陣を切った4機のエゼキエルの大破はルドワール達に強い衝撃と動揺を与えた。


 一般エゼキエル戦闘の基本は、剣や槌などの近接武器が主流だ。

『超越者相手に通用するレベルの高火力遠距離兵器を誤射した場合、甚大な被害が発生する』

 そんな理由から、遠距離武器は中隊長以上のエゼキエルしか装備できない規則となっている。


 ただし、現在は魔王の脊椎尾をモデルにした遠距離兵装を全ての機体が装備中。

 ホロメタシスの強権により実現した特例、だが、命を賭けた戦いで不慣れな装備を積極的に扱うはずもなく。

 そんな理由から近接戦闘を仕掛けに行った4機のエゼキエルは四肢を粉微塵に擦り下ろされ、抵抗する間もなく後退を余儀なくされた。



「どうした?行きたまえ、ミディ」

「うわーん!滅びろこんな国ーーっ!!」



 黒い鳥が纏っている霧は、機械では抗えぬ優位性を持っている。

 含まれている高い電荷により、接触した機械の電気制御系に異常が発生。

 自爆を防ぐための安全装置により、その場で緊急停止。

 そして、無防備を晒した機体の表面を黒い霧が這いずり回ってそぎ落とされる。


 それを攻略しようにも、そもそも、その霧がどんなものか分からない。

 本来ならばダメージと引き換えに手に入る情報が、電気制御系の異常により記録されないからだ。


 だからこそ、ミディは過酷なパワハラを受けることになった。

 データ収集という重要な仕事、それを行えるのは彼女が乗っているエゼキエルだけだからだ。

 この白い機体はラボラトリムーのタヌキチーフ、イリオスのエゼキエルーー、かつてはタヌキ帝王・トロイアが所持していた特別製。

 ルドワール達のエゼキエルとは神聖金属の含有量に大きな差があり、それが機体強度に大きく貢献している。



「死んだら祟ってやるからな!!タヌキに転生して祟ってやるからなぁー!!」



 経験不足なミディは気が付いていないが……、彼女の突撃は残りの49機によってサポートされている。

 下から来た眷皇種への対処に始まり、彼女の進路のクリア、万が一の脱出手段の確保、手に入れたデータの解析など――、軍としての連携は完璧と言っていい仕上がり。

 ミディだけ状況が分かっていないのも、一番重要な役割を果たす彼女を後で憂いなく労うための芝居。

 新兵では大隊長へ意見しにくいだろうと、ワザと感情を揺さぶっているのだ。



「ぐすんっ、ミディ、新兵なのに突貫しまーー」

『待ってください!こちらホロメタシス、作戦変更を指示します』


「きちゃー!?!?」

『これより、かの目標『暗黒鳥・ケライノー』の討伐を始めます。なお、ここから先の指示は、私に変わりレジェリクエ陛下が行います。彼女の言葉は国王の命令と同等であると心得よ』



 コクピット内に響いた通信を聞き、ミディ以外の全てのパイロットが気を引き締めた。

 今まで行っていたのは、言ってしまえばただの準備。

 そして、ここから先は失敗できない一発勝負。

 その重要な指示を良く知らない他国の王に委ねる――、そんな疑心暗鬼は、奏でられた支配者の声に掌握された。



『威信を掲げ、技量を磨き、命を賭した騎士たちへ、まずは心からの感謝を捧ぐわ』


『余はホロメタシス陛下と深い友誼を交わし、互いの幸せを望み合った仲。故に、貴殿らの献身への褒章は彼と余の連名で贈る。そして、一人にひとつずつ望むものを与えると約束しましょう』


『安心なさい。王たる者の威信にかけて、この約束を反故にはさせないわ。死者から願いを聞くなんて、流石の余にもできないもの』



 絶対に死なせない。

 回りくどい言い回しをしていようとも、レジェリクエの言葉を理解できなかった者はいなかった。

 運命掌握・レジェリクエが持つ世絶の神の因子の名は、『支配声域ドミニチュアリー』。

 軍に絶大な忠誠心を抱かせる万能洗脳術、その真価が示される。



『戦闘管制を始めるわ。黒い霧が纏う電磁界は、おおよそ800度で完全に消滅する。つまり、機体温度を800度以上に上昇させれば影響を受けなくなるわ』



 それだと我々は蒸し焼きになるのでは?

 そう思いつつも、誰一人として声を荒げず、静かに傾聴。

 支配者の声に含まれる誠実さにより、誰一人として不安を感じていない。



『耐えうるのはルドワールのエゼキエル=リコリス、それとミディのエゼキエル=ブラッシュ。この2機を我らの両翼とするわ』

『おぉ、私にも出番がある様で何よりだ。ミディよ、反対側は任せたぞ』

『はい!でも、あれ、ルドワール様の機体も耐えられるんなら、私だけ頑張った意味は……?』


『あるに決まってるじゃなぁい。ミディへの褒章は余とホロメタシス陛下が直接聞くわ。でも余達は忙しいから、それはきっと夜遅く……、記録に残すのが面倒になっちゃうかもしれないわね』



 言葉の中に含ませた、『どんな願いも好きなだけ叶える』という甘い誘惑。

 レジェリクエの言葉を聞いた誰しもが、ミディだけが特別扱いされると理解し、そして、無言の笑顔で肯定する。

 こうして、レジェリクエの性癖を知る者だけが苦笑いする中――、ルドワールとミディを先頭にしたエゼキエル軍団が空を駆ける。

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