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第133話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-サチナ side」

「……きゅあ」

「大丈夫かって?大丈夫な訳ねーだろ、です。でも、負けたままでいられる訳ねー、ですっ!!」



 天高く昇るホロビノの背中に跨ったサチナ、その目に溜まった涙が風に乗って消える。

 自分の人生を賭けた遊び、『温泉郷の運営』。

 リリンサ、レジェリクエ、カミナ、メナファス……、そして、ワルトナとテトラフィーアとの思い出がいっぱい詰まった故郷を舞台にした、遊び。

 それを利用した二人の嘘も、詐欺も、裏切りも、サチナにとっては筆舌しがたいもの。

 だが何よりも、最初に脱落したのが自分だったという不甲斐なさが許せなくて。


 目に溜った涙を袖でこすって落とし、可愛らしい犬歯を剥き出しにして息を吸う。

 そして、力いっぱいに、声に感情を乗せて、叫ぶ。



「《御神楽幸七みかぐらさちな久遠竜鬼(こおりおに)っっ!!》」



 自身に許されたありったけの力を。

 不可思議竜が持つ命の権能を余すことなく、白銀比が持つ時の権能で記憶へ変えて受け継がれた権能を。

 世界に向けて、解き放つ。



「っ!?俺の遊びが上書き……、されたっ!?」

「サチナか。いやはや困ったものだな、絶対に勝てない相手に遊びを挑まれるというものは」



 ラグナガルムに跨っていた紅葉、いや、温泉郷を中心とした半径200kmの範囲がサチナの遊び場に設定された。

 ダルダロシア大冥林――、木星竜を余すことなく取り込んだばかりか、別の大森林を有する蓋麗山の一部も対象にした超大規模権能結界。

 それが出来た理由は、サチナが特別だからとホロビノがこっそりサポートしたから……、だけではない。



「きゅあら!?きゅあきゅあん!!」

「夢の中で、じぃじに会ったです」


「きゅあっ!?」

「そこでは何故か、那由他とハナちゃんが酒盛りしてたです。心身ともに絡まれてうざかったですが……、助けてくれたじぃじに権能の遊び方を教えて貰ったです!!」



 不可思議竜の子であり、長き時を生きる竜を統べる者であるホロビノは、始原の皇種についても知っている。

 サチナの祖父、『金枝玉葉きんしぎょくよう

 リリンサの先祖であり、不安定機構の創始者ノワルに遊びを持ち掛け、勝った褒美として神との謁見を果たした稀代のギャンブラー。

 あの那由他を洗脳し、自身の子供を育てさせたという話を不可思議竜から聞いた時には、心の底から驚愕した覚えがあるヤバすぎる狐。


 そして、わんぱく触れ合いコーナーに出没する蛇、ハナちゃん。

 ホロビノが全力を出しても命を狩り取れる気が全くしない、別次元の理を持つ超常存在。


 そんな奴らが、あろうことか、那由他と並んで座り酒盛りをしていた。

 あ、これ、ヤバいやつ。

 一瞬で命の危機を察知したホロビノは、ちょうど良く始まった遊びに意識を向けることにした。



「きゅあー、きゅあっす」

「分かってるです。参加者に焼き付かせた記憶通り、嘘も騙しもない、ルール通りのガチンコ勝負です」



 サチナが歌った『御神楽幸七みかぐらさちな久遠竜鬼(こおりおに)』。

 この遊戯を簡単に説明するならば……、わんぱく触れ合いコーナー(結死)だ。


 そのルールは、

 ① 参加者は両陣営130名+狐3名。白と黒のチームに分かれている

 ② 全員が鬼であり逃亡者、触れることで相手を凍結させられる

 ③ 凍結の判定は『命に触れる』……、『相手を絶命させる』こと

 ④ 凍結状態は時の権能による時間停止クリスタル + 命の権能による魂の接収

 ⑤ 凍結を解除できるのは狐のみ

 ⑥ 凍結の解除はルールによって定められた仕組みであり、権能の技能や魔力は不必要

 ⑦ 本日の深夜12時、範囲内にいる生存者の数が多い方が勝利。


 通常の氷鬼と同様、触れられたものはその場で凍結し、一切の行動を封じられる。

 わんぱく触れ合いコーナーと違うのは、死体が閉じ込められたクリスタルが場に残ることと、その復活が狐に限定されている点だ。



「安心して良いです。ホロビノに手伝って貰っているとはいえ、根幹にあるのは命と時の権能の結びつき。兄様や姉様が協力して頑張っても絶対に介入不可なのです」



 肉体の時を停止し、魂を接収して幽閉する。

 この仕組みはレーヴァテインの能力とほぼ同じであり、唯一神にすら通用する拘束方法だ。


 当然、世界の敵としてデザインされた始原の皇種にすら通用するものであり、比較的使用が容易なレーヴァテインの悪用を防ぐため、那由他はこの能力の解説を悪食=イーターで閲覧できない様に秘匿している。

 そんな知識の皇ですら警戒する拘束を解ける可能性がある者は、この世界に2名のみ。

 そのどちらも酒盛りで思考が鈍っている以上、サチナの遊びを上書きできる者はいない。



「まだ誰も氷像にはなってない今なら、サチナ達は自由に動けるです」

「きゅあ!」


「まずは本丸……、木星竜兄様を、堕とす、ですっ!!」



 温泉郷の結界を抜けたサチナは、蠢いている森へ視線を向けた。

 大地と一体化していたダルダロシア大冥林が長蛇のように蛇行する身体を浮かび上がらせ、今にも空に浮かび上がろうとしている。

 ホロビノの良く知るそれこそが、竜の眷皇種たる『惑星竜』最強の存在。



輪廻を宿す(リィンカーネーション)木星竜(ジュピター)


 種族   エンシェント・森・ドラゴン

 年齢   推定6000歳以上

 性別   オス

 称号   惑星竜

 レベル999999(ミリオン)、階級 『千載せんざい

 危険度  大陸滅亡の危機(カンタナントカタフス)


『基礎情報』

 森とは、あらゆる命を内包する世界の装置。

 殺し、食い、産み、育て、殺され、生まれ……、生命の営みを行う上で必要不可欠な仕組みの一つを『森』と呼ぶのだ。


 森ドラゴンとして生を受けた彼は、命を支配する不可思議竜の子だった。

 それも、白い花を全身に咲かせるほど色濃く力を受け継いだ、奇跡と呼ぶに値する存在だ。


 有り余る力を存分に使った彼は、自らの背の上に生まれた命を慈しみ愛することに、誇りと愉悦を見出していた。

 盛者必衰せいじゃひっすい

 力ある者もいつかは滅び、世界へ溶けて輪廻する。

 その一生を観察することが木星竜の悦びであり、生きがいだった。



『戦闘能力』


 ダルダロシア大冥林という身体も、木星竜の数ある姿の一つに過ぎない。

 彼は、輪廻を”宿す”。

 木星竜は、自身の背に生った果実を食し、体内に取り込んだ存在を覚えている。

 生まれてから死ぬ瞬間……、種子を通して一生を読み取ったからこそ、その再現は容易いものだ。


 時代、環境、血統、生命を成す為の条件は全て、背中の森の中に揃っている。

 故に、木星竜は輪廻を宿す。

 過去に存在したどんな生物種の、どれだけ鍛え上げた肉体でも甦らせ、それに自身の魂を転生させることで竜という枠組みすら超えた完全な輪廻転生が可能だ。



「きゅあ!」

「背中の上の材料(いのち)が尽きるまで、木星竜は殺せない? はっ、上等、ですっっ!!」



 白銀比は自身の子に時の権能に関する知識の全てを与え、そして、身の丈以上に扱えない様に封印している。

 ……そんな封印など、サチナの中には残っていない。

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