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第130話「人狼狐狸・昼の化かし合い⑬ キングと帝王②」

「《窮狸の正拳・椀飯振舞おうばんぶるまい!!》」

「《単位系破壊ユニットゼロ重量ダイン!!》」



 マシンガンのように繰り出される確実死の拳。

 それを避け、撃ち落とし……、たったの一回、グラムの切っ先がバビロンに届く。



「かすったか。だが、この程度」

「《熱量破壊ケルヴィンブレイク》」


「凍った、だと!!」



 脚の付け根は隠れた急所だ。

 命に直結する臓器こそないが、ここを凍結されると著しく移動能力が低下。

 神経は冷やされ過ぎると体内信号の伝達が困難になり、一時的な下半身麻痺を引き起こす。



「あっけないリベンジだったぜ、じゃあな、バビローー」

「うぉおおおおお!!《タヌキ断栽爪プレッシャー!》」



 三つに分割されたトロイアの悪食=イーターに眩い閃光が放出。

 光学兵器と化した巨大なレーザーブレードが俺とバビロンの間を削ぎ落す。



「はっ、どこ狙ってやがる!」

「君もどこ見てるの?《タヌキ圧壊爪プレスト》」



 まったく音を感じさせない軽やかなタヌキステップでご老人?タヌキが壁を爆走。

 老人どころか若い冒険者でも出来ない挙動で右側から迫り、俺の腹めがけて殴った。



「いい連携だな、タヌキ共」

「おぁ!?かっっったっっ……!!」


「それはそれとして、覚悟は出来てんだろうなァ?あ”ぁ”??」



 ご老人タヌキーー、ヨミの殴打は爆走して稼いだ運動エネルギーを拳に集約したもの。

 並の建築物なら一撃で粉々、だが、俺の腹筋がそんなに柔らかいはずがない。


 防ぐ価値のない攻撃は、ただの自爆だ。

 ヨミは右腕を突き出した反動で無防備を晒している最中、そして俺は両手が余っている上に、グラムまで持っている。



「食らわせてやるぜ、タヌキ。本物の拳って奴をよぉ。《質量衝打ダインブロウ》」

「ごふっ……!」



 グラムをヨミの服に引っ掛けてバランスを崩させ、空いた腹にガントレット付きの拳を叩き込む。

 1発、2発、もぅいっちょ、3ァ発ッ!!

 くっくっく、お前、タヌキの癖に口程にもねぇな。

 ……ん?



「いてて……、やるねーユニクルフィン。カナン姉ちゃんのビンタを思い出す」



 相手が老人の姿だからやりにくいが……、相手はタヌキ。

 この緊急事態に容赦をするは……、んん?



「やっぱダメだろその体。変えろよ、ヨミ」

「変えると戻せなくなるかもだし、内大陸に行った枢機卿が行方不明になりましたとか、国際問題待ったなしだし」


「あー、ちょうど枢機院当番なのか」

「くじ引きで負けて一番偉いぞーって感じのボジションにいるよん。あ、ごはんのメニューは決め放題!」



 学級委員みたいなノリで国の運営をすんな。

 つーか、タヌキが中枢に食い込んでるって、もはや人間の国って呼べない気がする。


 それにしても、老人の演技が上手いな、このタヌキ。

 ガントレットを付けているとはいえ、さっきのは絶対破壊を乗せてない普通の殴打だ。

 致命傷には程遠いし、そんなにヨボヨボになるはずが……、なんかおかしくないか?



「うわー、大変だー、ヨミ。腹から血が出てるぞー」

「うわー、本当だー、どうしよう。助けてトロイアー」

「……。」


「俺とバビロンさんが時間を稼ぐ、その間に回復魔法を使うんだー」

「分かったー。《第九守護天使ー!》」



 何だろうこの茶番。

 お前らタヌキ帝王なんだから、そんな傷、一瞬で治せるだろ。



「行きましょう、バビロンさん!」

「うぉぉぉー!よくもやったなーユニクルフィンー!!俺の可愛い弟子をー!!」

「……。」


「……くらえー必殺ぅー!!しきんどーー、ぶーーんぶくーちゃーーがーーーまぁーーーーーー」



 ……いや、なんかおかしい。

 相手はタヌキ帝王4匹+アホタヌキ。

 その上、実力が未知数なタヌキが2匹も、あれ、若奥さまタヌキ?

 お前、そんな所で棒立ちで何してんの?



「インティマヤさんは戦闘に参加しないのか?」

「私はエデンみたいなド脳筋じゃありませんので、見学です」


「もう一度聞くぞ。戦、闘、に、参、加、し、な、い、の、か?」

「……えへ」



 バビロンとトロイアの攻撃を裁きつつ聞いてみたら、なんだその笑顔。

 後ろで回ってる悪食=イーターの動きも、心なしか申し訳なさそうに見えてくる。

 なんか、すっげぇ殺意が削がれ……、殺意が……、殺意?


 って、おかしいおかしいッ!!

 こんな切羽詰まった状況で、なに呑気にタヌキと戯れてんだ、俺ぇぇぇ!?!?



「ぶっ殺すぞ、タヌキ共ッ!!いやらしい攻撃しやがって、認識改変か何か仕掛けてやがるな!?」

真帝王エンペラーって柄でもないですし、一応、タヌキ元帥って役職を頂いてますので」



 ここにきて新しい役職増やすな、ママーシャルタヌキィ!!

 露骨な時間稼ぎをしやがって、何が狙いだ、こん畜生がッ!!



「こんなことしてる場合じゃねんだよ、テトラフィーアやサチナ、ヴェルサラスク……!!」



 町の中から放たれた銀色の弾丸が、ヴェルサラスクの首に突き刺さった。

 その衝撃で、巻かれていた首輪が砕け、後ろの磔台も圧し折れる。

 当然、その間にあった首は――!?



「……繋がってるどころか無傷?首よりも破壊値数が高い前後の物質が粉々になってるのに?」



 そんなことは物理法則的にあり得ない。

 考えられるのは二つ。

 撃ち落とされたヴェルサラスクは魔法で作った偽物だった、いや、それはおかしい。

 今のは魔導銃による狙撃、メナファスの攻撃だとしたら、狙いは俺の動揺を誘うこと。

 なら、本物を殺して見せる方が効果が高いだろ?



「おい、バビロン。お前ら誰の差し金だ?」

「レジェリクエだが。美味い飯を食わせて貰った礼だ」


「だよな?」



 いまいち殺る気が感じられないのは飯の礼だからって、いや、タヌキだぞこいつら。

 一食一飯の恩でガチに殺しに来る、それがタヌキ。


 それに、さっきからワルトの矢に混じって聞こえる銃声が気になる。

 パッと聞いた感じ、1対2。

 1人側はメナファスで確定、他に銃撃戦が出来そうなのはメルテッサだが仲間のはず。


 一応、それができる人物に心当たりはある。

 セブンジードとシャトーガンマ、だが二人は……。



「銃声が増えた上に、連携が凄く上手いだと……、やっぱり、ヴェルサラスクとシャトーガンマなのか?」

「そういえばトロイアさー、帝王枢機をイリオスにあげたんだったっけ?」

「許可なき譲渡は強奪って言うんだぞ。つーか、お前は持ってるだろ、出せよ」


「なら、さっきの狙撃はセブンジードでヴェルサラスクを開放した?そんなことが出来るなら、なんで、サチナやテトラフィーアを放っておくんだ?」

「持ってきてるけど、結界がある内は無理ぽ」

「ガッ!!」



 人が真剣に考えている横で雑談しやがってるタヌキ共を殴って確認。

 ちっ、まだ、無意識下で殺意が薄れるようにされてるな。

 サチナの食物連鎖禁止結界の応用か、これ。


 あっちもこっちも心理誘導を仕掛けてるせいで分かりにくいが、俺は根本的な所から間違っている気がする。

 まるで、敵と味方がごちゃ混ぜになっているかのような――。



『あーあー。てすてす。ただいまマイクのテスト中ー』

「……は?」


『もしもーし、ぼくぼく、ぼくだけどー?』

「ワルトの声に似せてるが騙されねぇぞ。メルテッサ、なんで裏切った?」


『その問いの主観が誰か教えて貰っても?』

「主観だと?御旗って意味ならサチナだろ」


『じゃあ、神に誓って裏切っていない。もちろん、悪辣は裏切ったけどね』



『神に誓って』

 この言葉を使うと唯一神に感知され、一部始終を目撃されることになる。

 そこで嘘を吐くと唯一神の機嫌を損ねて、どんな神罰が下るか分からない……、そんな言い伝えを逆手に取った世界で最も信頼度が高い誓約だ。


 それを使ったメルテッサは『サチナの味方のまま』だと言った。

 そして、ワルトと俺を裏切って、レジェリクエ側に寝返ったてのも真実なら。



「どう、いう……」

『磔られた狐は全部本物って話。君はタヌキだけじゃなく狐にも化かされていた訳だ、可愛そうに』


「ッ!!」



 誘導された視線が見たのは、大魔王陛下を抱えて走るレラさんの姿。

 その目には明らかな殺意が滾っている。

 テトラフィーアは俺やワルトを吊るための餌じゃない、これは――ッ!?

 そして、意識不明を演じていたテトラフィーアは平然と目と口を開き、俺の中の真実が逆行する。



『なにが、起こって……』

『だから言ってるじゃなぁい。ワルトナが裏切っているってぇ』


『……ッ!!何を……、私達を襲ったのは陛下でしょう』

『くすくすくす、神の耳を持っていなくても焦ってるって解るわよぉ、潜り込んだ敵の内側をボロボロにするのはぁ、ワルトナの常套手段だものねぇ』

 

『駒を有用に運用する、確かにそれは誇るべき才能だわ。でも、貴女はそれしかできない。人を性能でしか見ていない。だから裏切られる』

『あなたは何を知っていますの?そんな、まさか……、』


『人生はね、死ねば終わりなのよ。駒を並べ直せば元通りなんて、そんな都合よくできてないわ』

『温泉郷にはサチナちゃんの結界がありますのよ』


『それが?ねぇ、いつから貴女は神を超えたのかしら?あの唯一神ですら、他者の力を使うのは一人と決めているのにぃ』

『縛りプレイを好む神と同じにしないでくださいまし。操る方法なんていくら――っ!!』


『はい、アウトぉ。チェス脳が極まってる馬鹿から言質を取るのは楽でいいわぁ』



 胸ポケットに入れていた携帯電魔から聞こえて来たのは、レジェリクエの尋問とテトラフィーアの自供。

 そんな、まさか、こんな……。



『流石のユニクルフィンも疑問に思うことでしょう。決戦兵器リリンサの糾弾こえをまともに聞くくらいには』



 ……。

 …………。

 ………………。



『……ご存じありませんか?チェスには引き分けがございましてよ』

『それくらい知っているわぁ。けどぉ、恋の駆け引きに引き分けなんてあるのかしら?』


『仕方がありません、ユニフィン様には後で泣き落としでも致しましょう』

 

 ……。

 …………。

 ………………俺の、恋人に、耳と尻尾が生えたんだがッ!?!?

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