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第118話「恋人狼狐・昼の化かし合い④ ポーンとルーク」

雑音ノイズに構ってる余裕はねぇ、来るぞ、2時方・迎撃、てぇい!!」



 テトラフィーアとの魔法通信を強制切断し、セブンジードが叫ぶ。

 目の前にいるのは、軍靴を鳴らして歩く魔王……、などではない。


『赤髪の魔弾バレッタ

 かつて、この大陸を震撼させた殺し屋。

 その名声は裏稼業のみならず、一般人にまで広く知られているほどに有名な、世界一の狙撃手ヒットマンだ。


 既に戦闘中であったセブンジード達は、思いつく限りの準備を終えている。

 大規模個人魔導、テトラフィーアのバッファ魔法による強化、選りすぐった装備。

 英雄であるレジェリクエ達と互角以上に渡り合えると試算された超一級武装の数々を身に纏ったセブンジードは、当然のように過去最強の戦闘力を有しているのだ。


 ――それなのに、恐怖した。

 ただ歩いているだけのメナファスの前に立っている事実が怖かった。

 そんな臆病風に吹かれたからこそ、セブンジード達は戦いの舞台に上がれた。



「了解」

「りょう…っ、…かい」


「「2時、5発、ファイア」」



 前方右手側から迫っていた5発の弾丸、それはメナファスが事前に放っていたもの。

 10kmもの距離を速度減退無しで飛ぶ弾丸は町中を跳弾し、意志を持つ蛇のようにセブンジード達に迫った。


 だが、所詮は当てずっぽうで放った弾丸。

 セブンジード達のおおよその位置は分かっていても、命中する可能性は低い。

 そんな弾丸への対処としてセブンジードは、二人に真っ向からの迎撃を命じた。



「「着弾を確……、ぇ」」



 ヴェルサラスクとシャトーガンマが一丁ずつ持っているのは、テトラフィーアから下賜された『レヴィの双撃』。

 標的の情報を習得し、確実に着弾する条件の魔法を付与した弾丸を発射する自動魔法銃だ。


 二人の高い狙撃技術と、銃のサポートにより、5発の弾丸は真っ向から迎撃された。

 グシャリと潰された弾丸、そして、その内部に仕込まれていた二つの魔法陣が接触したことで銃撃は魔法攻撃へと変化する。



「……ッ!!集中砲火フルバーストォ!!」

「判断が早ぇ。狐の悪知恵のおかげか?」



 メナファスが放った弾丸は、そのものが殺傷性を持つ狙撃弾ではない。

 破損した瞬間にその場で高威力魔法を放つ、擲弾飛翔体グレネードだ。



「狐の悪知恵?はは、チャラ男の経験談だよ」



 片腕で構えたべルゼの針撃で一斉掃射しつつ、左腕で動きが鈍いシャトーガンマを回収。

 ヴェルサラスクが準備した手榴弾を蹴っ飛ばして作った爆風を使い、その場から離脱する。



「シャトーガンマ、テトラフィーア様が言ってた同調をしろ。できるか?」

「は……、い」



 精霊拍節器メトログノームにより、傷ついているシャトーガンマの心拍などの生命活動は健常なヴェルサラスクと同期。

 一時的に痛みも忘れ、二人は同じ戦闘力となる。



「お前ら、あれが赤髪の魔弾だ。今の射撃の何がやべぇか分かるか?」

「何度も跳弾しているのに、その時点では魔法が炸裂してない」

「弾丸の耐久値を理解している、だけじゃない。跳弾させる側の強度の理解も必要」


「ひゅー、将来有望なお姫様だぜ」



 セブンジードを真ん中にして、左右にヴェルサラスクとシャトーガンマが立つ。

 それぞれの手に持っているのは、レジェンダリアで採用されている魔導銃の原型たる伝説の魔道具。

『レヴィの双撃』

『べルゼの針撃』

 かつて、この世界を滅ぼしかけた滅亡の大罪期、『渇望した命脈(レヴィアタン・ラスト)』・『星屑を齧る暴食ベルゼビュート・ダスト』の名を冠する通り、内蔵されているエネルギー源には王蟲兵の核が使用されている。



「後手に回る……、相手に準備させちまったら俺達の負け。そういう勝負だ」

「こっちの方が数は多い。それに」

「あの人が持ってるのはリボルバー銃。連射性は低い。圧殺が有効だと判断する」


「「「《最大性能形態マキシマム・サクセス、発動》」」」



渇望した命脈(レヴィアタン・ラスト)』を起こした、血王蟲・カツボウゼイの世界最大の加速力ガル

星屑を齧る暴食ベルゼビュート・ダスト』を起こした、針王蟲・ホウブンゼンの世界最大の応力パスカル


 その能力を開放することで、セブンジードが持つ銃は世界最高の貫通力、ヴェルサラスクとシャトーガンマが持つ銃は世界最高の初速を手に入れた。

 無色の悪意に付随する記憶、それにより、熟練度という制約が取り払われ――。



「いくぞ」

「「了解」」



 メナファスに向かい突撃するセブンジード、左右に分かれて走り出すヴェルサラスクとシャトーガンマ。

 それぞれが地面に設置されている可能性がある罠を警戒し、飛翔脚を使って空中を駆ける。

 奇しくもそれは、メナファスを最も撃墜させた決戦兵器リリンサと同じ戦法だ。



「リリンの……、あぁ、ワルトナ(キツネ)の入れ知恵か」



 僅かに進路を変えたセブンジードは遮蔽物に隠れた瞬間に撃鉄を響かせ、弾丸を発射。

 世界最高の貫通力を持つ弾丸は一本の針のように真っすぐに、標的へ突き刺さろうと――。



「なっん……」



 セブンジードが狙ったのは、メナファスの心臓。

 強者との戦闘は、魔力の器である心臓を破壊した者が勝者となるからだ。


 そして、べルゼの針撃が放った弾丸は確かに、メナファスの心臓に切っ先を向けていた。

 だが、その間に差し込まれた彼女の裏拳により弾かれ、曲げられてしまっている。



「ヴェル!」

「合わせるよ、シャトー!」



 絶対に当たる条件で発射された、2発の亜光速弾丸。

 ターゲットが準備している防御や迎撃・回避を無効化する魔法を持ち、目視してからの回避は不可能。

 そんな、レジェリクエを殺すために隠していた決死の一撃は、無意味に空を切った。



「「はずっ……し」」



『大規模個人魔導・戦争依存地帯パラノイア・コンフリクト

 メナファスが纏っているこの魔法は、『物質の損耗率を可視化し、残命の把握』を可能とするものだ。


 敵、自分、飛び交う弾丸、周囲の環境、メナファスは目に映ったあらゆる物質の強度を把握し、最も適切な対応をした。

 神製金属を上回る強度のダークマター板が仕込まれた手袋の甲でべルゼの弾丸を弾き、銃口の角度でレヴィの双撃の進路を予測し回避。

 セブンジードでも理屈は理解できる真っ当な防御、だが、メナファスはそれを行ってなお、自然体のままだ。



『じじぃにも指摘されたと思うが、メナファスが伸ばすべきなのは防御面だ。回避、受け流し、防御、迎撃、俺が知っているダメージ回避術を一通り教えていくぞ』



 それは、ユルドルード直伝の英雄戦闘技術。

 温泉郷でのワルトナ聖母教育の横で行われていた、超越者への対応を想定した訓練だ。


 レベル99999を突破した多くの超越者の移動速度は音速を超える。

 もしくは、周囲の環境に即死級アンチバッファを放つ者、視覚などの感覚を欺く認識外攻撃を放つ者など特殊な手段を持つ者も多い。


 それらへ適応力こそ、英雄の最低条件。

 神殺しを覚醒させることで手に入る能力を、メナファスは自力で手に入れたのだ。



「「ナナ!効かない!!」」

「どうなってやがる、なんで、どんな攻撃も通用しねぇ!?」



 戦闘開始から65秒。

 三人が放った攻撃は銃撃のみならず、持っていた手榴弾、詠唱魔法、仕掛けていたトラップ、全てが無意味に終わった。

 そしてその渦中、自分たちが放ったものではない銃声が6回、響いている。



「ヴェル、右だ!!」



 地面を滑るように移動してきた弾丸が、タイルの僅かな隆起に躓いて角度を変える。

 浮き上がった進路にあるのは、振り返る最中のヴェルサラスクの首筋。



「ーーっ!?」



 ヴェルサラスクのすぐ横2mで撃墜された弾丸が、ランク9の魔法『静寂の夜想曲(ノクト・セイレーネス)』を吐き出す。

 圧縮された空気の炸裂により、真空の衝撃波が周囲を透過。

 無音となった空間に、5発の弾丸が飛び込んだ。



「――!」



 爆風で巻き上がった粉塵で視覚も失っているヴェルサラスクへ3発、セブンジードとシャトーガンマへ1発ずつ。

 最も有効な手段はヴェルサラスクを見捨て、弾丸を使い切ったメナファスに強襲を仕掛けること。

 そして、セブンジードが取った行動は、



「ナナっ!!」

「ななっ!!」



 弾丸そのものの殺傷能力は低い。

 だがもしも、体内の骨に当たって弾ければ即死する。


 それを分かっていてなお、セブンジードは真っすぐに走った。

 少しでも身軽になるように銃を手放し、打ち抜かれた腹を気にも留めずに駆け抜け、3発の弾丸が交錯する死地にいるヴェルサラスクを突き飛ばす。



「悪いな。子守りはここまでだ」



 誘爆する熱と蒸気の中でセブンジードは笑った。

 女を守って死ぬ、それは、チャラ男としての誉れ。

 セブンジードは無色の悪意と共に願った『笑顔で過ごす人生』を叶えて、終え。



「うぁあああ!!」

「うぁあああ!!」



 二人も無事ではない。

 シャトーガンマが迎撃した弾丸から発生した土石風が、彼女たちをまとめて吹き飛ばす。



「ナナのッ!!」

「仇をッ!!」


「「取るんだァあああああああ!!」」



 精霊拍節器による自律神経同調は、互いの状態を参照するだけではない。

 この能力の本質は、体を意図した状態へ整えること。

 故に、強制的な肉体リミッターの解除――、疑似的な英雄への覚醒をも可能にする。



「「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!!」」

「……手を出すなよ、メルテッサ」


「「死ねぇええええええええ!!」」

「ガキを寝かしつけるのは、オレの仕事だ」



 肉体の自壊を厭わずに走るヴェルサラスクとシャトーガンマ。

 二人の視線で観測したメナファスの退路を塞ぐように、互いの走破に射撃を織り交ぜる。

 そして、メナファスへとたどり着き。



「「あっ……。」」

「そうだ、良い子はねんねしな。起きてていいのは、悪~い魔王さまだけだ。……なんてな」



 二人の首筋を優しく撫で、虫刺されパッチの様なシールを張る。

 それは、メナファスがカミナにお願いして作って貰った、張るタイプの強制睡眠薬。



「誘拐された子供に無用な恐怖を抱かせずに救出する、面白い道具だね」

「メルテッサか」


「感謝するよ。ヴェルとシャトー、ついでにセブンジードを救ってくれたこと」



 蒸気で焼かれたセブンジードの腹にナイフを突き立て、メルテッサが振り返る。

 それは、指導聖母に支給されている『救命救急救世(クロノクロン)』、効果は肉体の即時回復。

 そしてその性能には、張るタイプの睡眠薬の効果が追加されている。



「子守りを頼めるかい?まぁ、性能を弄っているから24時間は目覚めないけどさ」

「万が一って事もあるしな。お前も気を付けろよ、ワルトナのズル賢さはレジェを超えるぜ」


「知っているよ。アイツが悪辣だってことくらい。それに」



 メルテッサは歩き出す。

 メナファスに背を向けて、新たな友達と一緒に。



「一人じゃないしね」

「にゃははははー!これでも『自称ユニくんのおねーさん』だからね、そういう面でも放っておけないでしょ」


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