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第117話「恋人狼狐・昼の化かし合い③」

『何をなさっていますの!?セブンジード!!』



 魔法でつなげた意識の中にテトラフィーアの怒声が響く。

 チェスの駒が自分の意志に反して動くという想定外の不祥事に、思わず声を張り上げてしまったのだ。


 ……何を馬鹿なことをしていますの、セブンジード。

 貴方の役割は陛下への決定打、決して子守りなどではございません。

 炙り出された歩兵ポーンなど、捨ててしまうのが定石です。


 それに放っておいても、シャトーガンマが真の意味で死ぬことはありません。

 陛下はブルファム王国との国交で優位に立っている立場。

 姫であるシャトーガンマの死はそれに過大な影響を与えるのですから、回避する方法を用意しているはず。

 相手にレーヴァテインを持つローレライやカミナ先生がいるのです、苦痛はあれど、命は助かりますわ。


 それなのに……、


 そんな独白を、テトラフィーアは飲み込むしかできない。

 ただでさえ動揺しているヴェルサラスクやシャトーガンマを見捨てるような発言をすれば、戦線が崩壊しかねない。

 ましてや、相手は心理戦のプロ、レジェリクエ。

 内輪揉めなど、格好の餌食にしかならない。



『セブンジード、二人を連れて後退なさい。仕掛けておいた転移の魔道具を使用し、体勢を立て直すのです』



 テトラフィーアの手札は、ワルトナ、セブンジード、ヴェルサラスク、シャトーガンマの4枚。

 町中には英雄であるワルトナが仕掛けた罠、そして、遠距離戦闘に特化した4名の戦力だ。


 一方、相手は準備不足のレジェリクエと手負いのローレライとメナファス。

 カミナは健在だが戦闘力は低く、前者三人ともが敵に接近する近距離戦闘タイプ。

 その相性差はひっくりかえせず、十分に余裕がある戦いになると、テトラフィーアは計算していた。



『シャトーガンマ、痛いでしょうが我慢なさい。精霊拍節器でヴェルサラスクと呼吸を合わせれば、マシになりますわ』

『……ヴェルサラスク、シャトーガンマ、通信を切れ』


『セブンジード!?何を馬鹿なことを――』

雑音ノイズに構ってる余裕はねぇ、来るぞ、2時方・迎撃、てぇい!!』



 唐突に打ち切られた魔法通信。

 そしてその直後にテトラフィーアの耳に届いたのは、温泉郷内の生活音を塗りつぶしてしまう程の壮大な射撃音。



「なにが、起こって……」

「だから言ってるじゃなぁい。ワルトナが裏切っているってぇ」


「……ッ!!何を……、私達を襲ったのは陛下でしょう」

「くすくすくす、神の耳を持っていなくても焦ってるって解るわよぉ、潜り込んだ敵の内側をボロボロにするのはぁ、ワルトナの常套手段だものねぇ」



 テトラフィーアはレジェリクエの声を聴きとれるのに対し、レジェリクエはテトラフィーアの声を聴く術は無い。

 ……はずがない。


 この場に姿を現さないメルテッサの仕事は、温泉郷内の魔道具の掌握。

 設計者であるカミナから提供された資料の配置図を参考に、既に通信網を支配下に置いている。



「愚かね、テトラフィーア。結局、貴女が得意なのはチェスでしかないの。決まった性能を持つ駒を、確実に動かせる遊戯が上手なだけ」



 レジェリクエのその言葉は、心の底から出た本心だ。

 狐に化かされた友に贈る、最大限の嘲笑と侮蔑。



「駒を有用に運用する、確かにそれは誇るべき才能だわ。でも、貴女はそれしかできない。人を性能でしか見ていない。だから裏切られる」

「あなたは何を知っていますの?そんな、まさか……、」


「人生はね、死ねば終わりなのよ。駒を並べ直せば元通りなんて、そんな都合よくできてないわ」



 チェスの初期配置は決まっている。

 どれだけ熾烈な戦いを繰り広げようとも、戦いが終われば元通り。

 そこに駒の損失は無く、ゲームを行うこと自体にリスクなど存在しない。


 レジェリクエがテトラフィーアに告げた、『根本的な所で騙されている』。

 それは、彼女が、「このゲームで死者は出ない」と思わされていることだ。



「温泉郷にはサチナちゃんの結界がありますのよ」

「それが?ねぇ、いつから貴女は神を超えたのかしら?あの唯一神ですら、他者の力を使うのは一人と決めているのにぃ」


「縛りプレイを好む神と同じにしないでくださいまし。操る方法なんていくら――っ!!」

「はい、アウトぉ。チェス脳が極まってる馬鹿から言質を取るのは楽でいいわぁ」



 テトラフィーアが磔を演じているのは、ユニクルフィンを騙すためだ。

 だが、捕らわれている彼女が意識を取り戻したばかりか、サチナと敵対しているかのような発言をする。

 それは自供に他ならない愚行だ。



「流石のユニクルフィンも疑問に思うことでしょう。決戦兵器リリンサ糾弾こえをまともに聞くくらいには」

「……。」


「せめて最期はチェスっぽく締めてあげるわ。王手(チェック)よ、テトラ」



 テトラフィーアの手駒はすべて失われ、盤面に残っているのはクイーンのみ。

 一方、レジェリクエの駒もクイーンとビショップのみとなっている。



「……ご存じありませんか?チェスには引き分けがございましてよ」



 チェスは、互いに駒が取れない状況が50手続くと引き分けとなる。

 そして、最強の移動能力を持つクイーンを取るのは、たった二つの駒では不可能だ。


 張り付けられているテトラフィーアの視界に、レジェリクエが映った。

 劣勢を演じたローレライに出し抜かれ、狙撃戦力が大幅に低下。

 ワルトナの狙撃だけでは手数が足りず……、余裕が出来たレジェリクエ達がテトラフィーアに肉薄する。



「仕方がありません、ユニフィン様には後で泣き落としでも致しましょう」



 再ゲームの手段を用意していない程、私は馬鹿ではありませんわ。

 貴女達が知らない金鳳花様から授かった”記憶”を使えば、いくらでもやりようがございましてよ。


 テトラフィーアの経済戦略は、細かい利益を堅実に積み上げるタイプだ。

 いかに早く損切りをする判断ができるかが要点であり、今回のケースもそうだと判断した。

 だが……、レジェリクエはそれを知っている。



「これは……故障!?いや、まさか、そんなはずは……」



 ヴェルサラスクの磔台に仕込まれていたものと同じ脱出システムを起動させ、テトラフィーアは逃げる……つもりだった。

 だが、何度ボタンを押しても反応しない。


 ひたひた、ひたひた……と刻限が迫る。

 軽快なリズムで疾走してくるレジェリクエの足音、それはまさに死神の――。



「~~っ!!」

「ごめんなさいねぇ、言葉が足りなかったわぁ」


「ディスカバードアタックによるダブルチェックよ、覆してごらんなさい、テトラフィーア」



 ディスカバードアタック、それは、動かした駒の背後にある駒による王手(チェック)

 初期配置には存在しなかった盤外の聖母ビショップ――、メルテッサが声に出して嗤う。



「君らが果たせなかった欲求はぼくが継ぐから安心してくれたまえ。同じ姫だし、指導聖母。あ、ぼくっ子なのもキャラが被ってる」



『ユニクルフィンの恋人の座を奪う』宣言、そんな雑に叩きつけられた煽りも、身動き一つ取れないテトラフィーアには屈辱的な致命傷。

 メルテッサは磔刑台とテトラフィーアが持つボタンの性能を上書きし、連携を解除。

 ボタンが押される度に鳴る教会の鐘が響く中、狂喜を顔に張り付けたレジェリクエが双剣を振り上げ――。



「ひっ……」



 無防備を晒したテトラフィーアへ向かい、レジェリクエは双剣を振るった。

 左右から真っすぐ、二度、首の上で刃を交差させて。

 テトラフィーアの首に巻かれていた首輪と、プライドをズタズタに切り裂いた。



「っ!?」

「《第四魔法次元層ぅ(ワールドフォースぅ)、開錠》」



 ステンドグラスのようにひび割れた空間へテトラフィーアを蹴落とし、嗤う。

 そしてそのまま自分も飛び込み、地面で這いつくばる愚者を見下ろし、嗤った。



「ようこそ、おねーさまの世界へ!!」


~お知らせ~


『バンダナコミック 縦スクロールマンガ原作大賞』というものございまして、こちらはロボを題材にしたコンテストなのですが……、参加するためにソドムとホロボサターリャの過去編をリメイクしました!!


条件が5000文字~10000文字という事で、5000字程度だった本文に加筆を加えながら修正。

どういう経緯で魔導枢機霊王国がタヌキに奪われ……ヴィギルア! 

滅亡の大罪期を乗り越えたのかをより詳しく語っております。


下記の評価欄の下リンクから行けますので、どうぞよろしくお願いします!!

※ポイント0なの切実にさみしいので、面白かったら評価をお願いします!!

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