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第113話「恋人狼狐・生贄の選択」

「ワルト、お喋りはここまでだ。矢倉台ステージが騒がしい」



 思い出話に花を咲かせながらも、意識の大半は外に向けていた。

 何かが起こった瞬間に対処できるように全身の感覚を研ぎ澄ませて身構え……、その時が来たことを悟る。


 覚醒グラムによって引き上げている聴覚が捉えたのは、興奮した群衆がサチナの名を呼ぶ声。

 まるで面白い光景を指さす人のように、それぞれが『捕らわれた狐』を見た感想を述べている。



「ここからじゃ見えねぇが……、予想通り、サチナは矢倉台ステージに貼り付けにされているみたいだ」

「OK、アヴァロンをユニの姿に見えるように創造したよ。既に、騒ぎに気が付いて走り出してる」


「ローレライがアヴァロンに食いついた瞬間を見計らい、俺達が逆強襲。ローレライ VS 俺・ワルトナ、おまけにアヴァロンの1:3の戦いに持ち込む、そうだな?」

「理解しているようで何より。……行くよ」



 金鳳花の認識阻害の程度によっちゃ、矢倉台ステージにいるサチナが本物かどうか判断できない。

 どう考えても罠でしかないが、もしも本物だった場合、無視をすれば見殺しをしたことになる。

 ワルトナの話じゃ、レジェリクエは俺達の感情を揺さぶるより、安全な実利を取りに来るらしいが……、さっさとローレライを処理して、サチナを助けに行くぜ。



「ユニ、君は身体能力に任せた移動を。ローレライの特性が視認なら、目で追えない速さは武器になる」

「ワルトはどうするんだ?」


「僕は闇に生きる大牧師ラルラーヴァ―様。暗躍こそが仕事だよ」



 そう言い切ったワルトの姿が霧となって消えた。

 背後の窓がいつの間にか空いているし、そこから出ていたんだろう。


 両方の手で頬を叩いて気合を入れ、ドアノブに手を掛ける。

 音が響きやすい室内は注意を払って……、そして俺は、外の路地を全力で踏みしめた。


 **********



「……いた」



 賑やかな人混みをかき分け、『俺』が走っている。

 パッと見た感じ、どこからどう見ても俺にしか見えない。

 グラムで計測した破壊値数も実にそれっぽい。


 神栄虚空・シェキナ、神をも虚ろわせる想像と創造の弓。

 ここまで神殺しを使いこなせるとか、流石だぜ、ワルト。



『おい聞いたか?キツネが捕まったってよ』

『おう、見てきた見てきた。あと5匹、どこにいんだろうな?』



 移動中に聞こえてきた声。

 あと5匹ってなんだ?

 狐は9匹って話、だった、だ……、ろ……。


 この角を曲がれば矢倉台ステージが見える。

 そんな俺の目に飛び込んできたのは、矢倉台ステージとは別の塔に張り付けられた……、テトラフィーアだった。



「てとっ……!!なん……だとっ!?」



 ……だけじゃない。

 サチナ、テトラフィーア、メイ、ヴェルサラスクがそれぞれ、向かい合うように高層建造物に張り付けられている。

 全員が意識を失っているが外傷はなく、呼吸をしているように見える。

 普段と違う点は首に鋼鉄の首輪のようなものが嵌められていることだけだ。



『……ユニ。早速、想定外だ』

『あぁ、俺から見えるのは4人。サチナ、テトラフィーア、メイ、ヴェルサラスク。そっちは?』


『同じだ。シャトーガンマは、あの血の海の持ち主か』



 ワルトからの念話を聞いて、奥歯を嚙み砕きそうになる。

 だが、今は目の前の命を優先だ、そうだろ?ワルト。



『レジェは50%:50%、2分の1の選択肢を好んで提示する。全員が偽物って事は無いはずだよ』

『俺達は正解を引けるのか。そういう楽しみ方をしてるってことか?』


『だろうね。いい趣味してるよ』



 注意深く観察しても、全員が本物にしか見えない。

 俺そっくりな偽物を作れるワルトですら判断が付かない以上、どうしても感だよりになっちまう。



『ワルト、タイミングを合わせろ。全員助けるぞ』

『無理だ。間に合わない』


『なんでだよ。それなりに離れてるとはいえ、見える距離だぞ』



 サチナ達の距離はそれぞれ500mほどしかない。

 周囲に被害を出さないように速度を落としたとしても、1秒以内で移動できる。



『奴らの首を見ろ。あれが以心伝心の首輪なら、4つ同時に破壊するしか助ける方法はない』

『それって、アルカディアさんが買ってた奴だよな?』


『そもそも、サチナ達の首輪についているのは斬首の首輪という、死刑執行用の処刑道具だ。それに、念じるだけで意思疎通ができる首輪の性能をインストールされていたら?』

『遠隔での死刑執行が、寸分の狂いもなく、同時に……?』


『2人を選び、2人を見殺しにする。さらに、本物かどうかも限らない。これはそういう2択だよ』



 テトラフィーアが生きている。

 そんな希望が真実か嘘かも、2分の1。


 公平であるという保証が一切ない、嫌らしいギャンブル。

 俺、ワルト、アヴァロンにサチナを任せたとしても、誰か一人は見殺しにしなくちゃならない。



『……。ユニ、君はテトラフィーアを助けに行け』

『理由を聞いても良いか?』


『僕の旦那様が嫁を大切にする所が見たい。ささやかな願いさ』



 なんだよそれ。

 そんなこと言われちまうと、冷静でいられなくなっちまうだろ。


 ぶっちゃけて言ってしまえば、メイやヴェルサラスクよりもテトラフィーアの方が大切だ。

 深い関わりを持っていない二人よりも、好きだと言ってくれる女性を優先したいに決まってる。

 だが……。



『全員が助かる方法は本当に無いのか?ワルト』

『……。分の悪い賭けだし、君にとっては辛い選択になるよ』


『言ってみてくれ。それでみんなが助かるなら、なんだってする』

『メルテッサを殺す。蘇生が出来ない様に、絶対破壊を使って』

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