第111話「恋人狼狐・朝の考察⑤」
「さてと、ユニ。僕らがやることは至ってシンプルだ。人狼狐の全滅……、レジェ達を潰すよ」
確定した人狼狐は5匹。
レジェリクエ、ローレライ、金鳳花、セブンジード、メイ。
限りなく黒に近いのが、
カミナ、メナファス、金鳳花の二人の兄の紅葉、紫蘭。
そして、自分の意志で裏切ったのが、メルテッサだ。
「見つけ次第、対処するってのは理解した。だが、メルテッサはどうするんだ?」
「処分に決まってるだろ。考えようによっちゃ一番性質が悪い」
「操られている訳じゃないから、生粋の敵ってことか?」
「指導聖母なんてものは、自分の利益を最優先に考えるものさ。僕も含めてね」
相手の英雄クラスの戦力は、ローレライ、メルテッサ。
次点で、レジェリクエやメナファスも準ずる強さは持っているだろう。
カミナさんは完全なサポート役、非戦闘員になるはずだ。
一方、俺達の戦力は俺、ワルトの二人だけ。
サーティーズさんも行方知れずだし、かなり分が悪い。
「戦力対比は4対2か。ローレライ以外が相手なら俺は問題ないと思うが……、」
「レジェはローレライを信奉し、それに応じる実力が備わっている。だからこそ、どこで仕掛けてくるか手に取るように分かる。……彼女の役割は遊撃だ」
「遊撃?」
「こちらの勝利条件が相手の全滅であるように、向こうの勝利条件もこちらの全滅。だからこそ、2対1の状況に持ち込みたいのは同じだろう」
「なるほどな。例えばメナファスを囮に使っておびき出し、ローレライが奇襲を仕掛けてくる訳だ」
「そして、相手の布陣は完璧と言っていい。餌であるサチナをカミナが設置し、監視魔道具を支配しているメルテッサが僕らの動きを探る」
「!!」
「近接戦闘もこなせるレジェが囮になって罠を張り、ローレライが奇襲。援護射撃にメナファスと隙が無い」
サチナが生かされているのは、俺達をおびき出す囮にするためか。
その囮だって本物であるかどうかも疑わしく……、まったく、敵にすると厄介だな、魔王って奴は。
「突破口はあるのか?」
「もちろんだとも。奴らの目の良さを逆手に取る。騙すのは僕の専売特許さ」
「……メルテッサとローレライは温泉郷全体を見ている、あぁ、そういうことか」
魔道具とローレライの絶対視束による二重の監視に掛かれば、俺達の動きを把握するなんて造作も無いだろう。
だからこそ、ユニクルフィンが複数存在すれば、相手は必ず混乱する。
「僕のシェキナは想像と創造の弓、ユニクルフィンという存在を想像し、創造するなんて造作も無い」
「おう、ワルトの認識阻害は真理究明のクソタヌキすら騙せてたもんな」
「あの時も実はこっそりシェキナを使っててねー。という事で、温泉郷の観光客をユニに仕立て上げてローレライを釣る」
「あの目は特別だからな。直接見られたらバレちまうだろうが、逆に、出てくるしかねぇって訳だ。だが、危険じゃないのか?その人って俺の代わりに命を狙われるんだろ?」
「選ばせてあげるよ。必要経費として割り切るか、人の代わりにタヌキ奉行をユニに仕立て上げるか」
「……苦渋の決断過ぎる。んー、タヌキで!!」
俺までとうとうタヌキになるのか。
いや、タヌキが俺に化けるんだったか?
人命には代えられないとはいえ、生理的に嫌すぎる。
「交渉している所を見られたら意味ないからね、物陰からこっそり矢を撃ちこむよ」
「ローレライの一撃を耐えられそうな奴が良いな……、バビロンとかどうだ?」
「創造の矢を撃ったら華麗にキャッチされて、ド級のカウンターを食らいそうなんだけど。却下で」
「じゃ、アヴァロン」
「手頃だねぇ、いちころだねぇ」
殺すな殺すな、峰射ちにしておけ。
あのデカい尻が狙い目だ!!
「バビロンはタヌキ奉行の元締めだからね。矢倉台ステージにサチナが吊るされたら助けに行くだろうし、そういう意味でも丁度いい」
「ん?なんで矢倉台ステージにサチナが吊るされるって分かるんだ?」
「人狼狐の開催を発表したのが矢倉台ステージだからだよ。いいかい、人狼狐は観光客も参加しているイベントで、みんなサチナを探している。チラシも配ったしね」
そうか、人狼狐の認識をずらす為の仕掛けが、ここで効いてくるのか。
『狐の心臓とは、狐が持っているハート型のキーホルダーである』
そんな認識錯誤が掛かったチラシを拾った人は、サチナの所に集まる訳だ。
「レジェならその人混みを隠れ蓑に利用する。だから僕らも同じことをする」
「俺らも観光客に紛れるのか」
「タヌキに化けさせても良いけど?」
「はっ、丁重にお断りす……なんだッ!?」
おおよその方向性が決まったその瞬間、けたたましい爆裂音が響いた。
その衝撃で温泉郷を覆っている結界が揺らいでいる。
って事は、外からの攻撃か!?
「ちっ、外に何かいるようだな。魔力を感じないせいで正体が分からねぇが……、見に行くか?」
「……。いや、やめとこう。怒り狂った超危険生物がいるだけだし」
「かなりの問題じゃないのか?種族だけでも確認して対策を練った方が良いだろ」
「それでローレライに見つかって奇襲されたら?百害あって一利なし、無視だよ無視」
結界の外にはリリンがいる。
あんだけの音なら聞こえているだろうし、意志の疎通を図る意味でも見に行くのが良い気もするが……、確かにそこを狙われちゃ悪手になる。
……にしても、すげぇ音だな。
どんだけキレてんだよ、超危険生物。
腹を空かせたタヌキだって、もうちっと大人しい攻撃をするぞ。




