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第109話「恋人狼狐・朝の考察③」

「そろそろ夜明け、ここからは村人のターンね。さぁて、狐どもを取っ捕まえる算段を始めましょうかぁ」



 四角いテーブルで向かう合うように、レジェリクエ、ローレライ、メルテッサ、メナファスが席に着いている。

 それぞれの前に広がっているのは、各々が得意とする獲物・・

 資料、魔道具、銃器……、話し合いを万全の状態で行うために、あらゆる手札を出し惜しみせずに並べている。



「悠長なことを言ってる場合かよ。サチナが捕らわれてんだぞ」

「やっぱり放っておけないわよねぇ、保母さん的にぃ」



 ユニクルフィン・ワルトナと会敵したレジェリクエ達は拠点に戻り、『狼の襲撃』の発生を待った。

 そうすることで、正体不明の狐をあぶり出そうとしたのだ。



「戯言はいい。セブンジードにもムカついてるが……、まずはサチナの奪還だ。後回しにして会議するっつうんなら、オレは行くぜ」

「サチナちゃんに関してはまだ大丈夫ぅ。テトラフィーアには殺せないもの」


「殺せない?どう考えても詰みだったろ。始原の皇種の子だろうがガキはガキ。寝込みを襲われちゃひとたまりもねぇ」



 メナファスが苛立っているのは、全員が白銀比の部屋の中で起こった会話の一部始終を聞いているから。

 メルテッサの協力により、テトラフィーアが付けている傍聴用イヤリングの音声は全て盗聴され、この場の全員と共有されている。



「まず状況を整理するわねぇ。あぁ、出掛けても良いけど、どこに行くつもりかしら?お店の場所は分かるぅ?」

「ちっ、大人しく聞けってか」


「じゃ、情報の整理を始めるわねぇ。ロゥ姉様、余に不備があったら指摘してねぇ」

「まっかせなさい!っていっても、もう、レジィの方が賢いけどねー、にゃははははー」



 陽気に笑うローレライへ微笑みを返しながら、レジェリクエは一度だけ深く息を吐いた。

 胸の奥に燻ぶっている未練や後悔をすべて吐き出し、努めて冷静に口を開く。



「まず、サチナの命の保証について話しておきましょう。テトラフィーアが管理している内は安全よ。彼女の願いにサチナの生存は必要不可欠だもの」

「どういうことだ?必要だってんなら、サチナを巻き込む必要はないだろ。こんな狂ったイベントなんかブルファムの城でやってろってんだ」



 レジェリクエは、この人狼狐を計画したのはテトラフィーアだと結論を出した。

 判明した人狼狐のメンバーが、ほぼテトラフィーアの陣営であったこと、そして、ワルトナの趣向を考慮した結果だ。



「テトラフィーアは主犯だけれども、黒幕じゃないわ。全ての事情を理解して、裏で糸を引いているのはワルトナの方」

「ほんと悪辣って感じ。狐の襲撃からぼくを救い出してくれたレジェリクエに感謝を」



『《確定確率確立》、《ワルトナ・バレンシアとテトラフィーア・Q・フランベルジュが人狼狐である割合(・・)は?》」

『―100.000%―』


 これがメルテッサとの戦闘中にレジェリクエが使用した、確定確率確立への問いと答え。

 一日三回の制約と引き換えに齎された真実により、メルテッサは狼の巣から脱出したのだ。



「ヴェルとシャトーと交流のないサチナですらあれだ。ぼくも同じ手で処分されたろう」

「ゼロ距離射撃はあなたの弱点。妹に狙われなくて本当に良かったわねぇ」



 昨夜の襲撃、ワルトナが用意した対戦カートは、

 ローレライ  VS ユニクルフィン

 レジェリクエ VS ワルトナ

 カミナ   VS メルテッサ だった。


 この思惑から読み取れるのは、レジェリクエとカミナとメルテッサへ向けた殺意。

 メルテッサにカミナを始末させ、ワルトナがレジェリクエとメルテッサを処分する。

 そんな狙いはレジェリクエとアルカディアによってずらされて、ワルトナ(キツネ)VSアルカディア(タヌキ)となり、襲撃不成立という結果となった。



「温泉郷の外にいるであろう130の頭も含め、全員の欲求が違うでしょうねぇ。テトラフィーアの欲求が一番複雑だけれどぉ……、付け入る隙が多い、幼稚な子供の癇癪ぅ」

「君の見解を聞こうじゃないか、レジェリクエ。テトラフィーアとワルトナはそれぞれ何を考えているのかな?」



 出会って1週間も経っていないメルテッサは、相手の思惑を推し測るのは自分には不可能だと判断した。

 情報通であるレジェリクエに主導権を譲り、空いた思考をこれからの作戦立案へと回す。



「テトラフィーアが煽られている欲求は、『強欲』。世界の頂に立ちたい、一番になりたい。そんな子供の夢物語よぉ」

「おや、鏡が必要かな?」


「何を言っているのかしら?余は国王の席に固執していないわ。ロゥ姉様が望めばすぐにでも明け渡すものぉ」

「それは謙虚な考えだね。で、その席をテトラフィーアが狙っていると?」


「もともと、テトラフィーアは女性というだけで可能性を否定されるのを嫌い、フランベルジュ国の支配を目論むような女。根本的に人の下に付くのを嫌がるタイプなのよ」

「それなのに、君の下に良く付いたね?」


「分かりやすいエサがあるのに利用しない手は無いでしょお。そんな訳で、狙いをフランベルジュ国の王権からレジェンダリアの王権へすげ替えることで、優秀な外交官をゲットした訳ね」



 生粋の女王であるレジェリクエは、仕事と友人関係を混同しない。

 友人である心無き魔人達の統括者には国政を秘密にし、逆に、国政を知る者を心無き魔人達の統括者に入れないのはこの為だ。



「いつかは国の頂点に。テトラフィーアはその一心で働き、そして、余に裏切られた」

「可哀そうに。君の周囲、ガッチガチに固まってるもんね」


「当然でしょぉ。ロゥ姉様が戻って来た時に知らない官僚ばっかりなんて、ありえないわ。ま、そんな訳で、テトラフィーアがレジェンダリアという土俵の上で頂点に立つことは論理的に不可能。そして、余は大陸の頂点に立ってしまった」

「今更、フランベルジュ国の頂点に立ったとしても、君には勝てない訳だ」


「ついでに言えば、不安定機構の頂点に立つのも不可能だと判明した。これを奪回するには、余達を殺すしかないわ」

「あー、ある意味でぼくのせいでもあるのか。君が死んだ時に自覚したんだろうし」


「くすくすくす、という事で、テトラフィーアの目的は『権力者の排除』、余やメルテッサ、リリンサやセフィナを殺害し、ワルトナとユニクルフィンを支配下に置くことで、国と不安定機構を同時に手に入れることよ」

「なるほど、それで、サチナを殺せないとは?」


「簡単な話よ。テトラフィーアは頂点に立って『生きたい』の。だけど、サチナを殺せば白銀比様に恨まれる。表舞台には立てなくなるわ」

「その理屈で行くと、リリンサを殺すのは悪手では?ノウィン様に睨まれるよ」


「そうね、だからこそ、ワルトナが黒幕なのよ」



 愚かなことだわ。

 そう呟いたレジェリクエは、苦虫を噛み潰したかのような忌々しい表情をしている。



「ワルトナの欲求は至ってシンプル。『あの子を甦らし、ユニと一緒にもう一度、頭を撫でて貰う』。とっても可愛らしいお願いだけどぉ、……冗談じゃないわ」

「ぼく的には『勝手に惚気てろ、バーカバーカ』って感じだけど?」


「この願いも根底にあるのは、『ユニクルフィンやあの子と一緒に生きていく』。生存欲求ぅ、略して性欲ぅ」

「ダーツの的をバズーカで射貫くのは止めたまえ」


「だけど、それには絶望的な問題がある。『ヴィクティムゲーム』、蟲量大数との決戦ね」

「全生命を絶滅させたバケモン相手にどう戦えって?ははは、なるほど」


「ワルトナはテトラフィーアに囁いたんでしょうねぇ『リリンサが死ねば、あの子も消え、ヴィクティムと戦う意味がなくなる』とかねぇ」

「それはそうかもしれないが……、それは悪辣の欲に反する、うわ、そういうことか」


「そう、ワルトナは初めから、テトラフィーアを生かしておくつもりが無い。ワルトナの目標はあの子とユニクルフィンを連れてヴィクティムゲームから逃げること。その為には、ユニクルフィンと友好関係にある人物を全滅させ、ワルトナに依存させなければならない」

「なにその悪辣すぎるヤンデレ。指導聖母である僕ですら、最悪過ぎて言葉が出ない」



 共依存、それは、恋愛における一つの終着点。

 強すぎる愛情によって相手を優先するために周囲を蔑ろにし、やがては自分自身すら見失ってしまう。

 それを良しとする感情論を作る為の最も手っ取り早い方法は、自分以外が居なければいい。



「ワルトナの真の目的は、リリンサ、ユニクルフィンの友人全滅。プロジアや師匠、ユニクルフィンの過去を知る者を呼び寄せているのもその為でしょうね」

「それをしてどうする?戦力が減れば、ヴィクティムに負けて終わり。意味が無くないか?」


「なぜ、戦う必要があるの?バックレるに決まってるじゃない」

「……は?」


「蟲量大数は確かに世界最強ね。だけど、始原の皇種は終生以外には手を出さないという協定を守っている。こちらから会いに行かなければ良いだけの話でしかないわぁ」



 この広い世界で、世界最強に出会う確率はどれくらいだろうか?

 考えるのがバカバカしくなる疑問にメルテッサが苦笑を零した。



「それに、金鳳花は記憶操作のエキスパート、ヴィクティムゲームを自然消滅させるという取引を行ってても不思議じゃないわ」

「確かに。奴なら神の説得くらいできそうだ」


「という事で、これからの作戦なん……、あら、丁度良かった。リリンから電話だわ」

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