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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第13章「御祭の天爆爛漫」

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第106話「人狼狐・夜の襲撃、狐と姫」

「テトラフィーア様、ひとつ、お聞かせくださいませんか?」

「……なんですの?」


「あなた様の望みは何でしょうか。俺にはもう、何がなんだか……」



 酩酊し気を失ったサチナを床に降ろしながら、セブンジードは傅いた。

 両方の膝と掌を地面について頭を下げるその姿は、打ち首を待つ犯罪者の風貌だ。



「俺がイカれてたのは分かってます。じゃなかったら、幾ら嘘でもガキどもの命を賭け札に使う訳がない」

「主人の命令に忠実であることが、良き下僕しもべの条件ではなくて?」


「メナファスを殺せと、貴女は俺に命じました。奴は敵の間者であり、レジェンダリア・フランベルジュ国、双方に危機をもたらすと」

「確かに言いましたわね。友であり情を抱いているリリン様やユニフィン様に気づかれないように秘密裏に処理なさいとも」


「そうだ、だから隠した。ガキどもを殺してテトラフィーアに復讐するというもっともらしい言い訳を使ってだ。……だが、これはなんだ?なぜ、育てていたサチナちゃんに危害を加える必要がある!?」



 セブンジードがテトラフィーアから命じられた仕事、それはメナファスの暗殺だった。


『セブンジード、貴方の銃の腕は確かです。ですが、メナファス様はその上を行く。真っ当に戦っても勝ち目はありませんわ』

『それを分かっていて、俺にやれというのか。奴は生粋の殺し屋だぞ、一度敵になっちまったら言い訳をする時間はねぇ』


『くす、私が命じているのは討論ではございませんの。この子たちを使いなさい。基礎的な訓練は済んでいますわ』

『……ガキどもが銃の扱いに長けていたのは、そういうことかよ』



 戦場で生きてきたメナファスの危機察知能力は、心無き魔人達の統括者の中でも随一ですわ。

 初手は、ほぼ確実に仕損じます。

 そこで、ヴェルサラスクとシャトーガンマを人質に取った振りをして、逃げる口実を作りなさい。


 メナファス様は子供が傷つくことをとても嫌がりますの。

 貴方を殺すよりも、この子達の安全を優先し、そして大いに隙を作るでしょう。

 無防備を晒す背中を打ち抜かれても、仕方がないくらいにね。


 教師が出来の悪い子供を導くように、テトラフィーアは微笑んだ。

 それは、セブンジードの欲求を満たす、女狐のささやき。



「俺は、お前らの命令で何度も死ぬような目に遭ったし、利益は殆ど奪われた。けどな、それはフランベルジュ国のエイトクロス家・嫡男であっても同じだったはずだ」

「ですわね。お兄様たちも馬鹿ではありませんもの」


「なら、素顔を晒し、目の前にしょっぺぇ利益を提示してくるお前らの下にいる方が面白い。結局、俺は小物なんだよ。数百億エドロなんかより、酒と肴と女と共に過ごす一夜の方が良い。楽しく飲める人生が良い。そう思ったから俺はメナファスに銃口を向けたんだ」

「この私の耳を侮っていらして?そんなこと百も承知ですわ」


「だったら教えてくれよ!!メナファスが敵ってのは、まだ理解できる話だった、もともと名の知れた殺し屋だからな!!だがサチナちゃんは違う、お前らと一緒になって利益を狙う、……友達なんじゃねぇのかよ」



『男とは気楽で愉快な仲間となり、女の子には優しく紳士に獣であれ』

 これがセブンジードの人生の主題であり、無色の悪意に煽られた欲求だった。


 母国を追われ、裏社会の支配者ファミリーの跡取りの座を奪われたセブンジードは、人生で初めて裏表のない本音をぶちまけた。

 彼は、時には王族を相手にしなければならないと父に言われ、礼儀やマナーについて厳しく躾けられた。

 本心ではつまらないと思っていても笑い、ぎこちない表情で人を誉め、騙して利益を得る。

 自分自身もそうだったし、周囲にいる人間……、家族や友人、当てがわれた女すらも全員そうだった。


 その全てを失い、ようやく逃げ出したボロい酒場のカウンターで、セブンジードは王を、国を、父を、友を、女を口汚く罵った。

 誰かに聞かせて操るのが目的でない、自然と湧いて出た暴言と怒り。

 そんな敗北者の叫びは、周囲で飲んでいた男たちには好評で。


 セブンジードはその時初めて、酒を奢って貰った。

 日銭を稼いで安い酒を飲む、そんな底辺男たちに囲まれて、心の底から笑ったのだ。



「納得させてくれ。得意だろ、そういうの」

「そうですわね。結論から言ってしまえば、貴方は納得できないでしょうね。永遠に」


「なん、だと」

「私の望みは全て、です。私は欲しいと思ったものを全て手に入れたい」


「そんなん無理だろ。人間には限界ってもんがある。ワインと米酒を同時に味わいたいと思っても不可能なようにな」

「ですから、その為の取捨選択は私の手で行いたい。この世で最も優先される施政者になりたい。それが私の望みです」


「!!だとすると……、陛下を裏切るって事かよ」

「裏切るだなんて人聞きの悪い。途中まで道筋が一緒だっただけの事ですわ」



 レジェンダリア軍の指揮権は、テトラフィーアが握っている。

 これは、事実上、国力の半分を掌握しており、貴族からの求心力が薄れている今、レジェリクエよりもテトラフィーアの方が優位に立っていると判断する者も少なくない。

 隷属法を制定し、国民すべてが王になる権利を持つと定めたのも、この布石だ。


 だが、それはレジェリクエの戦略だったと、ここ数日で判明した。

 レジェリクエの素性は不透明であり、レジェンダリア王家の滅亡を憂いた貴族が苦し紛れにでっち上げた生き残りの王族、そう思わされていた。

 だが実際は、レジェンダリア王族の殆どが名を変えて生き残っており、重要な拠点を掌握している。

 これは城に王族が引き籠っている状況よりも強固な王族支配が実現している証明だ。


 他国の生まれであるテトラフィーアに気づかれることなく、レジェンダリアの良き文化は残され、悪しき風習もコントロールされていた。

 付け入る隙が無い。

 それを知った時にテトラフィーアが抱いた感情は、屈辱だった。


『お前は姫なのだから、そのような事は覚えなくて良い』

『国の事は私たちに任せておけ。政治の場に女がでしゃばる物じゃない』

『女の戦場は社交界だ。見目麗しい深窓の姫、それだって立派だろう』


 蚊帳の外に追い出されるのが、嫌だった。

 女だから、姫だから、妹だからと事実を臥せられ、チャンスすら手に入らないのは嫌だった。


『くすくすくす、ごめんなさいねぇ。盤石な支配体形が完成するまで、誰にも知られる訳にはいかなかったのぉ。たとえ、一日に何度も顔を合わせる友人でもねぇ』


 ユニクルフィンとリリンサが城を訪れた日の夜の会話。

 テトラフィーアにとって、その言葉は……、裏切りだった。



「現在は戦争直後の混乱期、権力者が良いポジションを獲得するために暗躍する時間ですわ」

「テトラフィーア様の上に立っているのは、陛下、心無き魔人達の統括者、メルテッサ、……くらいか」


「えぇ、ですから残すのは、私の下に付くと明確に宣言した者だけ。ワルトナ様のようにね」



 僕の望みはユニクルフィンと添い遂げること。

 それはリリンと出会う前から抱いていた夢なんだ。


 テトラフィーア、君がユニクルフィンを独占するという事は、ユニクルフィンが君を独占するという事だ。

 もしもそれに不満があるのなら、ユニクルフィンの余った時間を僕にくれないかい?


 テトラフィーアは嘘を聞き分けられる。

 余った時間の下げ渡し――、指示に従うというワルトナの言葉に嘘はない。



「陛下は排除、似た理由でメルテッサもだな。サチナちゃんはピュアだからな。感情的に受け入れられるかどうか不明、敵に回る前にってことか?」

「えぇ。この子は私を受け入れて下さないでしょう。リリン様は排除ですから」


「なぜだ?政治なんかまったく興味ないだろ」

「ユニフィン様を手に入れる為ですわ。言っているでしょう。望んだものは全て欲しいと」



 そうかよ。

 まぁ、そうだよな。

 この女狐が男を諦める、負けヒロインになる訳がねぇ。



「……いいぜ。俺は貴女に仕えます。テトラフィーア様」

「くすくすくす、報酬は酒と女と金でよろしくて?」


「メイと同等以上の女がいい。最近、貴位の高い女を鳴かせるのが楽しくてよ」

「あらあら、そうすると条件が限られてしまいますわね。んー、こんにゃくはいかがですか?」


「せめて人間をよこせ」



 ナナちがうよー。こんにゃくは人間だよー。

 そうだよナナー。こんにゃくは王族だよー。


 難しい話に退屈していたヴェルサラスクとシャトーガンマは、こんにゃく姉様の話題に食いついた。

 彼女たちの願い、それは暗い顔をしている王族――、家族の幸せ。


 魅力的な男に抱かれる、それが女の幸せ。

 だから、敗北者である姉にも幸せを分けてあげよう。


 ヴェルサラスクとシャトーガンマは笑う。

 伝え聞いただけの『悦び』こそが幸せだと、信じて。



「お前らもいっちょ前の女か。狐の目的が揃いも揃って色恋沙汰って……、くはは、最高にくだらねぇぜ!!」

「あら、人狼には恋人という、特別な配役がございましてよ」


「あん、恋人ねぇ。確か、村人・人狼の勝敗に関係なく、恋人同士で生き残れば勝ちだったか?」

「えぇ。私の勝利条件はユニフィン様と共に生き残ることですわ」


「だが、繋がらねぇな?その理屈だと、リリンサ様を丸め込んだ方が楽だろ。ユニクルフィンの心象だって悪化しねぇし」

「いいえ、リリン様がいらっしゃる限り、ユニフィン様の生存は絶望的ですわ。……ヴィクティム・ゲームには絶対に勝てませんもの」



 ヴィクティム・ゲームが何を意味するのか、セブンジードには分からなかった。

 だが、強気なテトラフィーアが絶対に勝てないと宣言する何かであり、その阻止の為にリリンサを先んじて排除しようとしている。

 それを理解できただけで十分だ。



「タダの人狼ゲームじゃねぇとは思ったけどよ……、盛りが来た狼共が獲物を奪い合う熾烈な争いだった訳だ。こりゃひでえ」

「ワルトナ様も笑っていましたわ。これは人狼狐じんろうきつねじゃないねぇ。恋人こいびと狼狐ろうこ、狡猾な女が男を狙う残念な戦いだ、と」

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