第104話「人狼狐・夜明け」
2024.8.10 内容を一部変更しました。
皆さま、こんにちは。青色の鮫です。
もうすぐ8周年が迫るというこのタイミングで、極大のミスをやらかしました。
今回の本文を修正し、訂正とお詫びを申し上げます。
「こちらルドワール隊新兵・ミディ。右方2時の方向に巨大な鳥影を視認、計器による測定では、えっ、あ、435m……?」
「我々の機体の約100倍だな、どう思う、ドゥニーム中隊長」
「今のオイラにゃ負ける気しませんに。彼女から貰った幸運の壺があるもんでね」
「ふっ、最重要ミッションに成功したようで何よりだ。ならば私も、ファンタジーな危機を乗り越えなければな!」
天窮空母より出撃したルドワール隊、総勢50機のフル武装エゼキエル軍は、5機編成×10のチームで構成されている。
航空陣形は正三角形、その最先端に配属された新兵のミディは、早くも涙目になりながら自分の運の無さを呪った。
なんかよく分からん不審エゼキエルを発見したらタヌキで、応援に来たルドワール隊長ともどもボッコボコにされ。
助けられたと思ったら、遊び人って評判のエルドラド様で、しかも国王機の色違いに乗っていて。
流されるまま王城に拉致されて、偉い人といっしょに睨んでくるカナン様から、事情聴取という名の八つ当たりを受けて。
……で、ゲロ鳥船に押し込められたと思ったら、なにこれ。
黒いもやみたいなのと一体化してる鳥……?
鹿の角っぽいの生えてるけど鳥だよね?
なにこれ、分かんない。
私、何すればいいの?新卒なんですけど??
「エゼキエル壊れたから出撃できない」って言ったら、「あら、ちょうど良いわ。人間用のシステムテストに付き合って」って凄そうな奴渡されたんですけど???
なにこれ、分かんない。
……分かんないけど、おい、ヒキガエル。
お前のお見合い成功してねーから、幸運を呼ぶ壺を売りつけられているとか、絶対詐欺だから。
ホントお願い、詐欺って事にして!!
「オイラ、この戦いが終わったら結婚すます。結納金も、もう払っただ」
「それはめでたい。陛下の件もあるし、礼服を新調せねばなるまいな」
さっきから、死亡フラグにしか聞こえねーんだよぉおおおおおお!!
ヒキガエル共ォゥアアアア!!
**********
「ソドム、あの赤い機体はルドワール?」
「おっ、今回は尻尾を装備してるな。これなら多少は期待できるってもんだぜ」
「その横の白いのってエゼキエル?ちょっとフラフラしてるけど?」
「あれはカミナ・ガンデが作ってた奴だな。元トロイア機の改修機だから、基礎性能はかなり良いぞ」
「あっ、そう言えばカミナのこと忘れてた。天窮空母に乗ってるってこと?」
『乗っていないけど状況は把握しているわよ、リリン、本当に便利よね、悪食=イーターって!!』
撃墜したエデンを追ってエルドラドも森に消え、エゼキエルリリーズは空に取り残された。
左右から接近してくる巨大な敵影が二つ、だがそれも、ルドワールとカナンが既に対処に向かっている。
そうして生まれた休息時間にするべきことは、裏で動いていた事態の把握。
何とかしてソドムから情報を聞き出そうと意気込んだリリンサは、真っ黒な友人の通信音声を聴いて目を細めた。
「……カミナ。その口ぶりだと全部分かっているっぽい。今までどこに居たの?」
「差し入れの調達も兼ねて、屋台で息抜きしてたのよ。サチナちゃんのライブも見たわ」
「率直に聞く。カミナは神様じゃないよね?」
「神に誓って違うわね」
「じゃあ狐?」
「そっちも神に誓って違うわよ。私は欲望を我慢しないわ。やれるからやる、できないからしない。この二択だから煽る欲求が極端に少ないんでしょうね」
リリンサの目線では、レジェリクエが所有する天窮空母は敵だ。
だが、そこから出撃したのはソドムの配下の魔導枢機霊王国軍であり、矛盾が生じている。
……カミナが嘘をついているとは思えない。
所在地が判明した以上、ゴモラが調べに行ったはず。
ソドムとゴモラは私の人生への過度な手助けはしないと宣言している。
そして、今回は直接的に喧嘩を売られてムカついたから、徹底的にやるとも。
ソドム達が本気を出しているのだから、そう簡単に欺けるとは思えない。
なら、カミナは友達のまま?
……良かった。本当に。
「カミナ、どういうことか教えて。分かりやすく」
「人狼狐の歌を聞いた私はレジェと合流し、遠隔で天窮空母を緊急発進させるシステムを構築。で、今に至るわ」
レジェンダリア国・技術革新局長サンドクリムとその有志によって作り上げられていた2機目の天窮空母は国に戻り、保全とメンテナンスを受けていた。
初めての実践運用で得たデータを元に、機械的脆弱性の洗い出しを行っていたのだ。
だが、致命的な欠陥など存在しないと知っているカミナは、サンドクリム達の解析が追い付いてない未知技術理論の中に仕込んでいた遠隔装置を起動。
そして、勝手に動き出した天窮空母を前にしてパニックに陥っている技術者は、「緊急発進させるわぁ、30分でしたくなさぁい」という国王からの有難い命令に打ちのめされた。
それと同時刻、魔導枢機霊王国の枢機院も大混乱に陥っていた。
突然、内大陸と交流してくると言って出掛けた国王ホロメタシスが枢機院に怒鳴り込み、帝王騎士団の出撃を命令。
ホロメタシスの父を含む人間が唖然とする中、事情をある程度知っている枢機院に化けたタヌキ共は無言で起立。
国王の後ろから睨んできているカナンに怒られるのを避けるべく、粛々と準備に取り掛かった。
「レジェの?でも……」
「安心なさい。レジェは無色の悪意から解放されているわ。魔法で蘇生したとしても、死亡していたかどうかは体を調べれば分かるもの」
それならば辻褄が合う。
天窮空母が味方である理由も、ラグナガルムが敵であった理由も。
「レジェはホロメタシス陛下と婚約し、魔導枢機霊王国と正式に国交を結んだわ。ちなみに、今回連れて来たルドワールの軍は100%人間だからそれなりだけど、カナンの軍は50%タヌキ50%人間の混成エリート軍。そう簡単に負けないわ」
「鬼ごっこは資格が無いと参加できない。それはどうするの?」
「エルドラドとソドムが回収した皇の資格を、ゴモラの万物創造とムーの形態変化を用いて魔導枢機にインストールしたわ。出来る理屈は省くわね」
「さすが。これなら残りの疑似皇種や、ダルダロシア大冥林の危険生物を漏らさず処理できる」
右側に現れた影を纏う巨鳥へ向かい、ルドワール隊が強襲を仕掛けた。
フル武装エゼキエルで構成されている全機すべてに、魔王の脊椎尾をベースにした大口径遠距離砲が装備されている。
「カミナ、私は何をすればいい?」
「もう分かっているでしょ。リリンの直感は外れないもの」
「……うん」
「こっちの戦いは私達に任せて。紅葉やラグナガルムも捕まえておくわ。だからね、リリンは貴女達の戦いをしなさい」
「分かった。決着を、付けてくる」
カミナとの会話中に、リリンサとソドムとゴモラは綿密な打ち合わせを行っていた。
カミナ・ガンデの判定は無罪だということ。
魔導枢機霊王国軍も無罪、ここに集結している戦力は純粋な味方であり、信用して良いこと。
現在、アップルルーンは天窮空母の甲板に着陸、セフィナや師匠達は管制室へ移動中。
館内にはムーも搭乗しており、機体の安全性は保障されている。
エルドラドの乗るエルヴィティス、ゴモラの乗るアップルルーン、そして、ソドムが乗るエゼキエルリリーズ。
歴史に名を刻んできたタヌキ帝王の三大勢力が参戦。
特に、相手の戦意を侵食するルインズワイズを持つゴモラがいる限り、温泉郷に対する外部からの脅威は発生しえない。
憂いは消えた。
カミナやレジェリクエ、メナファスやローレライ……、友達が敵かもしれないという疑いも晴れ、そして。
リリンサの目の前に残ったのは、最初で最後の恋敵。
何度も何度も騙された、逆行する真実の虚偽。
ねぇ、どんな気持ちでこの計画を立てたの。
何を考えて、何が目的で、どういう未来を望んでいたの?
貴女は私よりも頭が良くて、物知りで、ちょっとだけ悪ぶるけど、みんなが幸せになる方法を必死に考える思いやりのある人。
その為に、自分の利益を犠牲にする人。
私の手を取って前に進み、彼と出会ってからは、一歩引いた立ち位置から支えてくれた。
ユニクルフィンに恋をしている私と一緒に、ずっとずっと世界を旅してくれた。
だから、私は勝つよ。
貴女がどんな願いを持ち、どんな欲求を無色の悪意に煽られていても。
それに価値があるとしても。
私が思い描く未来を勝ち取る。
貴女が好きな、みんなが笑顔になれる未来を絶対に勝ち取る。
まだ、大食い勝負の途中だけど。
決着を付けよう……、ワルトナ。




