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第100話「人狼狐・夜の襲撃 ダルダロシア大冥林⑤」

「そう。俺は白銀比母様の子。金鳳花の兄って言った方が分かりやすいかな?」



 リリンサの前に現れたラグナガルムの背の上には、サチナによく似た少年が座っている。

 白銀比ゆずりの可愛い狐耳と尻尾、身に纏っている白い着物と赤い袴は、和装フェアを実施した時にサチナが着たものに似ている。

 男の子だと分かる程度には逞しく、されど、幼さの方が強い。

 そんな狐っ子を見つけ出すことが、リリンサ達の人狼狐ゲームの目的だ。



「貴方が9つの指。人食い狐なんだね」

「うん、そうだよ!」



 否定も隠しもせず、その少年、紅葉くれははそうだと答えた。

 人狼ゲームは、狼が自ら名乗り出ることはない。

 だからこそ、これは別のゲームの証明となる。



「なぜ、ここに居る?封印されているって聞いた」

「金鳳花に起こされちゃったんだ。遊んでってせがんでくるのは、大きくなっても変わらないね」



 リリンサの質問には「なぜ、封印が解けている?」という疑問の他に、「何が目的?」という問いも含んでいる。

 それに返された答えは、「金鳳花によって封印が解かれた」。

 そして、「これから遊びをする」という宣戦布告だ。



「遊び……。ラグナガルムと一緒に居るのは、その遊びに誘ったということ?」

「そう、だっておねーちゃん足速いでしょ?」


「それなりには。少なくとも、貴方には負けないはず」

「でしょー。だからラグナガルムに協力して貰おうと思って」



 リリンサが追加で抱いた疑問は二つ。

 いつからラグナガルムと一緒に行動しているのか。

 そして、背中に乗っていたはずのベアトリクスはどうなったのか。



「率直に聞く。いつからそこに居る?ベアトリクスはどうした?」

「ずっとだよ」


「……ずっと?」

「昨日のお昼からずっと一緒に居るよ。ラグナガルムがおねーちゃんを助ける前ってこと」


「!!」



 目の前の少年が嘘をついている様子はない。

 だからこそ、リリンサは戦慄する。

 それはつまり、魔王シリーズや悪食=イーターですら看破できない認識阻害を所持しているという証言だ。



「……ベアトリクスは?あの子も背中に乗ったはず」

「いつバレるかと思ってドキドキしちゃった」


「じゃあ……、」

「ベアトリクスも僕に協力して貰うつもりだったんだけど、わんぱく触れ合いコーナーで死んで洗脳が解けちゃって。ほんと、余計なことをしてくれたねー。このー!!」



 ということは、ユニクと再会した時のベアトリクスは無色の悪意を持っていたことになる。

 交尾に興味津々でテトラを困らせたのはそのせい?

 むぅ!ラグナガルム、ナイスプレイだと思う!!


 ……ん、待って。それはおかしい。

 ラグナガルムも無色の悪意を持っているのなら、ベアトリクスは仲間のはず。

 なぜ、わざわざ戦力を減らすようなことをした?



「ラグナガルムが無色の悪意を持っているのは分かっていた。だけど、敵意は感じなかった。……さっきまでは。何をした?」

「ここ数年の記憶を、俺と一緒に過ごした記憶へ書き換えたんだ」


「そんな高度な洗脳は難しいと聞いたけど?」

「金鳳花にコツを聞いたからね。でもまだ慣れなくて、触っている間しか効果がないけどね」


「ラグナガルムの上に居た貴方を認識できなかったのは、その映像記憶が脳に保存される前に消されていたから?」

「正解!記憶されて知識になる前にどうにかしないとダメなんだって」



 なるほど、ゴモラすら欺いたのはそういう仕組みか。

 時の権能と知識の権能、そのどちらも始原の皇種が持っていた能力。

 互いに眷皇種同士なら騙せても不思議じゃない。



「なるほど、ユニクやワルトナですら見つけられない理由に納得がいった。かくれんぼだと手強そう」

「んーん、心配いらないよ!俺がやるのは鬼ごっこだから」



『鬼ごっこ』

 逃げる相手を触って捕まえるという、シンプルな身体能力ゲーム。

 故に、光速で移動できるラグナガルムを味方に付けたアドバンテージは絶大だ。



「私と貴方とラグナガルムで鬼ごっこをするということ?」

「んーん。三人じゃ面白くないでしょ。もっといっぱいでやらないと」


「見ていたのなら分かっているはず。あなたのお友達はもう居ない」



 既にダルダロシア大冥林の殆ど皇種が処理され、残りもゴモラによって捕捉されている。

 正体を隠されていたラグナガルムこそ漏れているが、優勢が揺らぐ程ではない。

 リリンサの懸念が実現しない限りは。



「この襲撃が鬼ごっこだったというのなら、もう既に勝負は決している」

「ん-、なんで?まだ始まってないよ??」


「んっ……」

「金鳳花がね、準備しててくれたんだ。この世界の代表者を集めた有史最大規模の鬼ごっこ!題して『130頭おに』」


「まさか、いや、そんなことは不可能なはず。別の大陸に住む皇種まで連れてくるのは無理がある」



 ダルダロシア大冥林以外に住む皇種の参戦は、ゴモラも警戒していた事態だ。

 だが、可能性は低いと判断していた。

 自分の縄張りを離れてまで優先する欲求がないからこそ、皇種同士は積極的に争わないと知っているからだ。



「んーん。連れて来なくても良くなったって」

「それはどういう……」


「過去にいた皇種の記憶を植え付けて、疑似皇種を作れるようになったからって」

「疑似、皇種……?そんなことができるというの?」


「できるよ。おねーちゃんのおかげでね」

「なん……」


「おねーちゃんを見て思いついたんだって。金鳳花は遊びをアレンジするの得意なんだ」



 ……私を見て思いついた?

 何が……、いや、そんなことを考えている場合ではない。


 ざわつく心を押さえつけながら、リリンサは急転していく事態へ意識を向けた。

 優位に立っているどころではないと気が付いたから。



「それに俺は見ていたんだよ。おねーちゃんの戦い」

「しまっ……!!」


「白銀比母様の長男である俺にとって、目の前で散った命を弄ぶなんて児戯に等しいよ」



 くすくす、おーにごっこする者もの寄っといでー!


 紅葉の声に合わせて、無数の瞳がリリンサを見つめた。

 それは千差万別。

 様々な色や形を持ち、一つとして同じものは無い。

 だが、そこに宿る感情は『殺意』で統一されている。



「参加資格があるのは皇種、もしくは記憶を持っている疑似皇種」

「その理屈だと、私には参加資格が無い。貴方は遊びに都合のいいマイルールを設定するの?」


「何言ってるの?おねーちゃんも疑似皇種でしょ」

「えっ……」



 ゴモラから与えられた悪食=イーターの書庫の中に、開けない本があることは知っていた。


 それは唯のインテリア。

 キミの記憶を飾る、使えないアクセサリだよ。


 リリンサには使えない、内側インテリア装飾品アクセサリだとゴモラは言った。

 そこに含まれている真の意味、それに触れさせない様に。



「ちなみに、俺もおかーさんの記憶を持ってる。当然、参加するよ!」

「……勝利条件を教えて」


「生き残った参加者全員が終わりを宣言するまで。でも、それって難しいよね?だから一人になったら勝利だよ」

「もう一つ。参加者以外が戦いに介入したらどうなる?」


「この鬼ごっこは全員が鬼で捕まえる資格を持つってルール。逆に、部外者による参加者への攻撃は無効化される」

「では、部外者への攻撃は……?」


「知らなーい。何も設定してないから、普通だよ、普通!!」



 最悪だと、リリンサは思った。

 130の頭へ攻撃できるのは、皇種の資格を持つ者のみ。

 味方の陣営では、リリンサとベアトリクスのみ。

 ユニクルフィンやワルトナと合流できたとしても、一方的に蹂躙される。



「さ。そろそろ始めようよ」

「……。」


「おーにさんこちら、手ーの鳴る方へー!!」



 目視できる場所に8体。

 その後ろに控えている数を含めれば、20を超える。

 相手は皇種。

 それも、自分を敵として認識した上で殺意を持っている。


 ――負けられない。

 私が死ねば、130の頭を止める資格を持つ者が居なくなる。


 ――諦めない。

 どんな手段を取ってでも、勝って、生き残って。


 ――死にたくない。

 そして、ユニクと、ワルトナと、セフィナと、みんなで一緒に――。



「あぁあああああああああッ!!」



 魔神の脊椎尾を振るって、薙ぐ。

 迫っていた鹿の皇種・エイワズニールを弾き飛ばして振り返る。


 そこに居たのは山羊と蛙の皇。

 自分の肉体に魔法陣を転写しているタングニョルニル、そして、致死性の硫黄ガスを噴射し始めたヘカトンヘケト。

 それらへの対処として五十一音秘匿の魔法を発動、空気を遮断しそれぞれの攻撃を遮る。



「壁を乗り越……ッ!!」



 空を駆ける馬と豹の皇が、リリンサの上空を取った。

 魔神の左腕で導き出した迎撃で最も効果が高い魔法を打ち、それを豹が避けた光景を視認。

 魔神の右腕で両断する、そう決めた瞬間――、リリンサの周囲に『歯』が湧き出た。



「ッ!!」



 モリブデンデスワーム。

 地中を掘削する轟音も、複数の皇種との交戦状態となれば後回しにするしかなくて。

 結果、リリンサは豹へ向けるべき右腕をモリブデンデスワームに叩きつけるしかなかった。

 そしてその行いは、次の一手が出せない程に体勢を崩すもので。


 開いた口、並ぶ牙。

 加速する思考が、死を――。



「《神敗途絶・エクスカリバー》」



 豹の牙がリリンサを貫くより速く、金色の剣がアステカトリポカの喉を突き破った。

 そうして手に入れた数秒を使い、リリンサは魔神の脊椎尾の全砲門を開放。

 周囲へ無差別破壊を実施し、僅かな時間を稼ぐ。


 胸に抱いた『絶対勝利』を確定させるために。



「できたぜ、リリンサ」

「!!」


「呼べッ!!」



 アステカトリポカの攻撃を遮ったのは、リンサベル家の守護者・ソドム。

 なぜ、皇種の資格を持っていないソドムにそれが出来たのか。

 そんな考察は後で良い。



「《来て!=私達の魔帝王機ッ!!》」



 その機体は、空想上の産物でしかなかった。


 たった一度のみ実現した、魔導枢機・エゼキエルと攻勢眷属サムエル・防衛眷属エステルの三機同時合体。

 タヌキ帝王ソドムの激高とホロボサターリャの願いの果てに生まれた、『全きものの(オール・)善悪典型(ルシフェル・エノク)』。


 かつて世界の3分の1に蔓延った蟲を全滅させたその機体は、人間最高峰の英知を持つカミナ、世界最高の技術者ムー、そして、リリンサとソドムの浪漫によって新たなる姿を授けられた。



「「《エゼキエルリリーズ=ソドムッ!!》」」



 これは、歴史の幕あけ。

 カツテナキ機神の、誕生。




挿絵(By みてみん)



黒と金のカラーリングってカッコイイですよね。(※自画自賛)

ソドムも、うっきうきなタヌキステップで小躍りしてます!!

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