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第97話「人狼狐・夜の襲撃 ダルダロシア大冥林②」

「という事で、私一人で行く。足腰が弱ってる老師匠は大人しくしていると良い」



 唸る尻尾を振り回し、リリンサは眼下の森へ視線を向けた。

 そこは温泉郷の関所にほど近く、本気で走れば5分も掛からない。


 ん、あそこが戦いやすそう。

 魔神シリーズを装備しているとはいえ、私は光速での移動は出来ない。

 ぬかるんでいる足場で、適度に障害物がある場所ならば、速度の不利を覆せる。


 リリンサが選んだ場所はサチナが水田予定地として水を引いて土壌改善を行っている場所だ。

 まだ森林伐採を行っておらず、背の高い木々が何本も生えている。

 これなら立体的な動きにも対応できると、平均的な思案顔に自信が灯った。



「待ちなさいリリンサ。私も手伝います」

「……流石ロリコン、人の話を聞いていない」


「ロリコンは関係ないでしょう!」

「私の話を聞いていたのなら、足手纏いになるというのは分かるはず」


「話を聞くのはあなたの方ですよ!援護ぐらいはさせなさい。私はあなたの師匠ですよ」



 エアリフェードの提案を聞いたリリンサは平均的にイラっとした。

 一人で行く=ラグナガルムが最速で助けるであり、中途半端な増援は足枷にしかならないと分かっているからだ。

 だが、エアリフェードもそんなことは分かっている。



「リリンサやラグナガルムの行動に影響を与えない安全圏から援護する方法があります」

「そんなのがあるの?」


五十一音秘匿エアリワン、私の世絶の神の因子は物質や現象を特殊な空間に収納して、隠蔽するというものです。発動直後の魔法を保管しておけば、詠唱なしで使用できる訳ですね」

「異次元ポケットの上位版?なにそれ凄い便利そう。ずるい」


「色々と制約がありますが……、Aの収納円盤を結界の内部、Bの収納円盤をリリンサの前に設置して接続すれば安全に皇種を呼びさせます。ほかにも、周囲にC・D・E・・・・・・の円盤を設置することで、魔王シリーズの攻撃を保存できます」

「!!円盤の使用権を譲渡して欲しい。そうしたら使ってあげる」



 リリンサが真理究明の悪食=イーターを使って立案した戦略は、聖母守護聖界(セラフマリア)を使った同時多発飽和攻撃による滅殺だった。

 結界の中に魔法を閉じ込めておくことで、回避不能な全方向攻撃を浴びせ一撃で決める。

 それを繰り返して皇種を全滅させる、それが最も勝率が高いと試算したのだ。



「私のやろうとしていることはタイミングが重要。魔法通信によるタイムラグがあっては成立しない。できる?」

「可能ですよ。内部に魔法を封入した後、円盤の発射口にランク1の氷魔法を挟み込んで凝結。使う場合は氷を融解させれば隙間が生じ、内部の魔法が発する圧力によって蓋が開きます」



 エアリフェードはマントと同化させていた五十一音秘匿を発現させ、リリンサに見せた。

 それは、胡散臭いUFO解説本で見た、未確認飛行物体。

 なるほど、これまた胡散臭いロリコンにお似合いの能力だとリリンサが頷く。



「皇種の転移用に1個、攻撃用に10個をリリンサに預けます。扱い方は……」

「大丈夫、分かる」


「はて、それはなぜでしょう?」

「悪食=イーターで調べた。それと、結界の中にいるゴモラが色々と頑張ってくれているらしい。そっちは任せてって言ってる」



 リリンサが五十一音秘匿を認知したことで、悪食=イーターに知識が補填された。

 それを使って戦略を修正したリリンサは、節約した魔力をありったけの殺意へ変換していく。



「ラグナガルム、私はあなたとワルトナを信頼している」

「敵と知ってなお信じるか。足元を掬われぬとよいがな」


「大丈夫。もうどうしたいのかは決めてある」



 リリンサの脳裏に浮かんだのは、わんぱく触れ合いコーナー(示威)の映像。

 ユニクルフィンVSラグナガルムの戦いの記録を見たリリンサは、対ラグナガルムの戦略を立て終えている。



「じゃあ、行ってくる」



 アップルルーンの掌から飛び降りたリリンサが、森めがけて急降下していく。

 そして、狙い通りの湿地森林へ着陸、魔王シリーズに魔力を注ぎ込み、恐怖の波動をまき散らす。



 **********



「私達もできる事をしますよ。アストロズ、シーライン、あなた達にはまず、体力と魔力を回復して貰います」



 アストロズ達の状態は満身創痍としか言いようがないほど、傷ついている。

 彼らが無理やりはしゃいでいたのも、睡眠状態に入れば、そのまま戦線離脱になると感覚で理解しているから。

 リリンサの師匠という矜持が、朦朧とする意識を奮い立たせていただけだ。



「時間逆行による肉体損傷の回復は、実は、魔力を消費します。物質を再構築する材料が必要ですので」

救命救急救世クロノクロン、差すだけで回復するナイフにもデメリットがあったんだな」


「消耗しているあなた達に使えば魔力欠乏症は避けられず、昏睡状態となるでしょう。そこで、私が色々と仕込んで2時間ほどで目覚めさせます」

「薬だよな?毒じゃねぇよな??」


「この世には毒薬という言葉があってですねぇ」



 黒い顔で忍び寄るエアリフェード、だが、アストロズもシーラインも黙って腕を差し出した。

 永い間積み重ねた信頼は、冗談一つで崩壊したりしない。



「もう一度確認しますね。セフィナちゃん、アップルパイシェルターはどのくらい維持できますか?」

「ゴモラはこことは違う森にも気を配ってて、あんまり手伝えないみたいで、えっと、1時間くらいは大丈夫だと思います」


「では、私と一緒に魔法を使って強度を上げましょう。まずは――」



 黒魔導主義・エアリフェード

 大聖母ノウィン直属の私兵である、超常安定化に属する魔導師である彼の仕事は、徹底的な裏方仕事。

 リリンサのサポート、仲間の回復、結界の保持、そして、金鳳花を始めとする想定外の発見と対処。

 それらを同時に処理しつつ、この戦争の終着点を考え始めた。

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