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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第13章「御祭の天爆爛漫」

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第96話「人狼狐・夜の襲撃 ダルダロシア大冥林」

「木星竜が起きた!!このままだと結界がぶち壊れる!!」



 森のざわめきは次第に、地響きへと変わっていった。

 ダルダロシア大冥林の至る所から土煙が立ち上り、まばゆい月光を覆い隠してゆく。



「ゴモラ、木星竜が起きたとは?何が起こっている?」



 ダルダロシア大冥林が木星竜の背の上にあるという情報は、ここに居る全員が共有している。

 だが、それを真の意味で理解しているのはゴモラのみ。

 悪食イーターを持っているリリンサやセフィナであっても、木星竜を知らない以上は調べようがない。



「矜持に反することは分かっている。でも、教えて欲しい!」

「わかった、話す」


「えっ、ありがと!!」



 リリンサにとってのゴモラは可愛いペットであり、隠し事の多い秘密主義者だ。

 だが、嫌悪感を抱いている訳ではない。

 情報が隠されているのも、『自分には知る資格が無い』と理解しているからだ。


 授けられた悪食=イーターには制限が設けられている。

 全知の権能に触れた殆どの人物がそう思う中で、リリンサは逆だと理解した。

 本来知ることが無い情報を与えられたからこそ、見識という世界が広がり、知らないことが増えた。

 疑問に思うことすらない出来事が、『教えて貰えない』という段階までグレードアップされていると分かっているのだ。


 だから、今回の問いかけが空振りに終わっても仕方がないと思っていた。

 敵の情報が無いのは、当たり前だからだ。



「木星竜は不可思議竜の実子。白天竜じゃないけどホープの兄」

「!?」


「は世界各地に居るからいいとして……、基本的にめんどくさがり。日向ぼっこするのが趣味のまさしく日和見主義者。あんなバカでかい身体を作ったのも、光合成する面積を増やすため。あれだけ大きいと、天気が悪くてもどっかしらに日が当たる」



 日向ぼっこする為だけに背中に森を作る奴、いる?

 そんな失笑を零すロリコン、オタク、フェチ。

 だが、ホーライの過去を知るリリンサは、ホープの兄を名乗るのは伊達ではないと思った。



「確か、木星竜は世界終焉以外では死んだことが無いとか言われている。それは本当?」

「だろうね。少なくとも、ゴモラとソドムは殺した事が無い」


「それはなぜ?背中が森だというのなら、そこから滅亡の大罪期が発生する可能性はあったはず」

「森を焼き払ったことはあるよ。だけど、木星竜自体にダメージは殆どない」


「命の権能を持つ者にとって、物理的な攻撃は意味が無いということ?」

「そういうことじゃない。ダルダロシア大冥林は、ソドムで言う所のエゼキエル。要するに、木星竜の住処であり鎧ってこと」



 全長60kmの帝王枢機。

 それがどれほどの破壊力を持つかは、リリンサでは計り知れない。

 だが、僅かな身動きで温泉郷を押し潰すだけの質量を持っていることは認識できた。



「セフィナ、起きてる?アップルパイシェルターの強度を教えて!!」

「頑張ってるけど、あんまり長く持たないよっっ!!」



 アップルルーンのコクピットに残してきたセフィナに向かい、リリンサが焦りを含んだ声を飛ばす。

 予想の通り、セフィナはアップルパイシェルターの維持を始めていた。

 直ぐにリリンサが見下ろした視界の先、そこでは虫取り網で押さえつけられたトカゲのような光景が広がっていた。



「うっすらとだけど竜の形になっている……。あれが木星竜」



 エンシェント・森・ドラゴンはブラキオザウルスのような、四足歩行の竜だ。

 だが、浮かび上がったのは、細長い蛇が蛇行して丸まっているかのような姿。

 楕円形だった森の至る所に亀裂が走り、数珠繋ぎの岩盤プレートが大地から飛び立とうと隆起している。



「あれを破壊するのは骨が折れそう。それに、命と連結していないから幾らでも治せる。そうだよね?」

「植物には種族のとして成長制限が無い。その仕組みを利用した無限肥大だから、竜の転生のように瞬時に再生はしない」


「だとすると、破壊は有効?」

「だとは思う。けど、リリンサの火力では中途半端。もちろんアップルルーンにも、そんな火力はない」



 それが鎧であるのなら、頭と思われる場所を潰して行動不能にすることは出来ない。

 それに、そんな大火力の攻撃を放てば、アップルカットシールドや結界装置が吹き飛び、皇種が解き放たれることになる。



「ゴモラの見立てを聞きたい。そもそも、木星竜は私たちの敵なの?」

「リリンサの敵ではなく、金鳳花の味方」


「ん……、同じだと思う」

「違うよ。金鳳花はリリンサをまだ殺す気がない。そうだよね、ラグナガルム?」



 ゴモラに名指しされたラグナガルムは、悪びれもなく溜息を吐いた。

 これだからタヌキに睨まれるのは嫌なのだと、悪態もつく。



「我に限らず、金鳳花と取引している皇種は多いだろうよ。従うかどうかは別として、奴はほぼ全ての皇種と交流をしていると言っていたからな」

「……ラグナガルムもそうだというの?」


「皇とは望んでなるものだ。自分の意思で種を守る立場となったのだ、手軽な方法があれば飛びついたとて不思議ではあるまい」

「あなたが交わした契約と、その報酬について聞きたい。結果次第ではここから降りて貰うことになる」



 ラグナガルムが無色の悪意を持っているというのは、リリンサも見抜いていた。

 だが、自分やワルトナを裏切っている感じもしない。

 チィーランピンを殺し損ねた段階で出来たのも、陰ながら見守っていたからだろう。


 だからこそ、交渉の余地があると、リリンサは思った。

 金鳳花以上の条件を提示して裏切って貰おうと考えたのだ。



「我の役割は130の頭の襲来後にリリンサの身柄の確保することだ。貴様を連れて光速で安全圏まで離脱する、周囲がどんな状況であっても見殺しにしてな」

「……それはなぜ?私だけを助けてどうするの」


「さぁ?奴は役割以外の情報を話さん。むしろ、感づかれた場合には記憶を消去する。そういう奴だ」

「その離脱にセフィナを含める事は可能?」


「近くに居ればついでに拾ってやらんことも無い。だが、アップルルーンに乗っている場合は見捨てる。ほじくり出すのに時間が掛かるからな」



 ラグナガルムは金鳳花に従っている。

 だが、万が一の保険になる程度には有用だと、リリンサは判断した。

 敵意を以て攻撃してくるどころか、失敗した時の離脱手段になるのだ、得でしかない。

 そしてリリンサは、考えを周囲に伝えない様に悪食=イーターの中で戦略をまとめた。


 ラグナガルムが助けてくれるというのなら、存分に利用しようと思う。

 私以外を見捨てるという事は、私だけが窮地に陥っている場合はデメリットが無い。

 だったら、かなり無理をしても大丈夫。



「ゴモラ、アップルルーンで木星竜を押さえきることは可能?」

「1時間が限界」


「なら、ワザと緩めて段階的に皇種を外に出して。木星竜が脱出する前に内部の皇種を全て私が各個撃破する」

「それは……、止めた方がいい。死ぬよ」


「危なくなったらラグナガルムが助けてくれる。それに、失敗してもユニクやワルトナには利がある。完璧な作戦だと思う」



 そのどこが完璧なんだと、この話を聞いた者は思った。

 唯一にがい顔をしていないのは、声が届いていないセフィナだけ。



「ゴモラはセフィナの護衛を最優先に。今までリンサベル家が途絶えていないって事は、絶対に最後の一人を死なせていないということ。できるよね?」

「……ゴモラ達は過度な肩入れも復讐もしない、死の否定をしない。けど、無意味に命を散らすことを良しとは思わない」


「あなたはシアンの子孫の幸せを見届けるためにいる。違う?」

「違わない」


「なら、戦わずに私だけが生き残るなんてのは論外。その先の未来で、私が幸せになることはないのだから」



 決意を新たに、足元に広がる森を眺める。

 温泉郷はすぐ近く、そして、130の頭の役割が温泉郷の壊滅である以上、ここに集結する運命は変えられない。


 これは自暴自棄ではない。

 木星竜はアップルカットシェルターの内側、殺せたとしても、それは結界の崩壊を意味している。

 そしてそうなれば、何体居るか分からない皇種が一気に押し寄せる。

 身体能力も権能のバラバラ、魔王の左腕で解析する間もなく圧殺される。


 だったら、一匹ずつ戦う方がマシ。



「セフィナ。はちみつ練乳キャラメリゼ、おねーちゃんとの約束を覚えている?」

「約束した美味しいお土産だよね!?」


「くす、そう。忙しくてすっかり忘れていたけど、この戦いが終わったら食べに行こう」

「分かった!楽しみにしてるね!!」



 劇的な物語を神が望むというのなら。

 いい。乗ってあげる。

 私だって愛読家。

 露骨に建てられた死亡フラグを回避する、そんな展開にはドキドキするのだから。

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