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第95話「人狼狐・夜の襲撃 目覚め」

「ん……?」



 心地良い振動に揺られ、リリンサは目を覚ました。

 その横には持たれ掛かって来ているセフィナの寝顔。

 そして、だんだんと明瞭になっていく意識が、ここがアップルルーンのコクピットの中だと思い出させた。



「むぅ……、」



 私はボディフェチと合流して、チィーランピンと戦って……。

 今は、少しだけ休んで英気を養っていた。

 人狼狐はまだ終わっていない。

 むしろ、本番はこれから。

 ユニクやワルトナと合流して、9匹の狐を見つけて、問題を解決しなくちゃならない。



 思考を回したリリンサが思い描く、未来。

 そこにはユニクルフィンがいて、ワルトナがいて、セフィナがいて。

 きっとそこには沢山の愛する人がいて、そしてその中には――、あの子がいる。


 帝王枢機の操縦席という、お世辞にも寝るのに適しているとは言えない場所で目覚めたリリンサは、普段と同じかそれ以上の心地良さを感じていた。

 それは、見ていた夢のおかげ。

 幼い頃の自室、お気に入りの絵本を膝の上に乗せ、二人ともが互いに寄りかかる。

 背中合わせに感じる温もり、たまに交わされる他愛ない会話は日常で、幸せで。


 リリンサはそんな夢をたまに見る。

 交わした会話の内容は覚えていない。

 何かの約束だった気もするし、おやつを取り合う喧嘩だった気もする。

 ただ一つ確定しているのは、その相手が掛け替えのない存在だという事だ。



「ゴモラ、師匠と話がしたい。あ、セフィナはまだ起こさない様に」

「りょ」



 セフィナの膝の上で丸くなっていたゴモラを控えめに起こし、転移の魔法陣を作って貰う。

 それに触れたリリンサは、アップルルーンの掌の上ではしゃいでいるロリコン・フェチ・オタクの後ろに転移した。



「……。何をしている?」

「なにってお前、ロボだぞロボ!?我を忘れるのが礼儀ってもんだろ」


「もう一度言う。この緊急時に何をしている?」

「見てわからねぇのか?撮影会に決まってる」



 空を飛ぶアップルルーンの掌の上でポーズを決めている三人の師匠に向かい、リリンサの平均を下回るジト目が突き刺さった。

 そのあまりの冷やかさ具合に、毛繕いしていたラグナガルムの体毛がブワッと逆立つ。



「……今すぐ止めるといい。さもないとその写真が遺影になる」

「ちっ、寝起きに機嫌が悪いのは相変わらずか」


「そんなことはない。寝起きに遭う人物に問題がある」



 現在の時刻は午前3時過ぎ。

 だいたい2時間は眠っていたが、それでも通常の三分の一程度しか休めていない。

 だが、忌むべき師匠達はその貴重な時間さえも趣味に当てている。

 どう考えてもアホだとしか思えないリリンサは早々に見切りをつけ、自身の回復を優先した。



「ロリコン、そっちの報告をして欲しい。私が食事をしている時間を使って、手短に」

「常人なら一日掛けて食べる量ですが……、今の貴女なら30分って所でしょうか?」


「はやふ」

「えーまずは……」



 結界再設置の必要性から始まり、シーライン側の皇種戦の話。

 そして、ヴィクトリアとの遭遇。

 彼女の底は知れないものの、判明した考え方や能力など、必要な情報の交換を終える。



「ヴィクトリアは好意的に接してくださいました。アルミラユエトやベアトリクスちゃんの証言と比べると印象が違います」

「警戒されているんだと思う」


「警戒ですか?」

「ヴィクトリアは愛絡譲渡という声に愛情を乗せる世絶の神の因子を持っている。……こんなうさんくさいロリコン魔導師、通報されなかっただけ運が良かった」



 リリンサのキレッキレの暴論に、この場に居る全員が頷いた。

 揶揄されたエアリフェードすらしっかりと頷き、「実際、殺されても不思議じゃない状況でしたと」語りだす。



「彼女自身は争いや火種を避けているように感じましたが……、その一方で人間的な感覚が欠如しているようにも思えました」

「タングニョルニルを蘇生させたから?」


「彼女は生にも死にも慣れ過ぎている。その境界を超える敷居が低いのです」

「ん……、挨拶をするような気軽さで殺されるってこと?」


「実際、それくらいの力量差はあるでしょうね。それに、彼女の背後で控えていた者、あれは……」



 人間がどうこうできる存在じゃない。

 チィーランピンやヒャクゴウとは比べ物にならない、正真正銘の化物です。


 そういうエアリフェードは身震いをすると、空間から一枚の写真を撮りだした。

 そこに写っているのは、真っ黒な蟲人。



「おそらくこれが、アプリコットさんやユルドルードさんが言っていた王蟲兵でしょう。リリンサ、心当たりはありますか?」

「全身鎧外殻、身長3m超え……、特徴はホーライの話にも出てきたダンヴィンゲンに似ていると思う」


「ダンヴィンゲン?」

「ヴィクトリアの側近。その戦闘力は、おそらく、白銀比様以上」



 ホーライの話の中でもダンヴィンゲンは特別扱いされていた。

 ヴィクトリアが育てた他の王蟲兵とは違い、ダンヴィンゲンは自力で王蟲兵となった存在だ。

 三匹の王蟲兵が争い、勝ち残った一匹が残りを捕食して進化をした個体であり、神から力を貰っていない純粋な原生生物では最強だと語っている。



「ひとまず恐怖結界は稼働し、当面の危険は去ったと思います。ヴィクトリアもダンヴィンゲンも結界の内部に居ますし」

「……。それは――」



 早計すぎる。

 そうリリンサが断じようとした瞬間、足元にある森林が大きく騒めいた。

 それは、突風によって煽られた木々の音。

 日常でよく耳にする音であり、なんら特別なものではない。


 ……本当に突風が吹いたのであれば。



「なッ!?」

「ヴィギルーン、リリンサ、不味いことになってる!!」



 アップルルーンを空中で停止させ、改めて状況を確認。

 騒めき続ける森、だが、風は吹いていない。

 それは鳴動。

 大地に横たわり根を張っていた巨躯なる悪意の――。



「木星竜が起きた!!このままだと結界がぶち壊れる!!」



 ――目覚め。

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