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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第13章「御祭の天爆爛漫」

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第90話「人狼狐・夜の襲撃 ベアトリクスVS暗号熊③」

「ベアトリク……す?」



 鈍い打撃音と聞くに堪えない嗚咽が響く森を駆け抜けたリリンサは……、熊に馬乗りになって折檻している幼女を見た。

 そんな想定外の光景に、むぅ……?と声を漏らすも、戦闘が終わっていることに安堵を抱く。



「とりあえず、仲直りしたっぽい?」

「してねーゾ!オイラの恨みはこの程度じゃ晴れねーんダゾーー!!」


「でも、それ……、ぇっちなことだよね?」

「え”ッッ!?ダゾッ!?!?」



 残念なことに、リリンサの夫婦生活知識はまともではなかった。

 幼少の頃に見た、尊敬する父と母の触れ合いを疑問に思ったことはない。

 それに、白銀比の権能の中で再会した後に知識の補強が行われている。



「誰がするかこんな奴と交尾なんかっ!!ダゾ!!」

「グママっ!?」



 戦闘で勝利したベアトリクスは殺意が薄れ、今、行っていたのはただの嫌がらせ。

 回復量と同程度のダメージを与えることで拘束しつつ、痛みを与え続けるという、拷問に近い『序列の分らせ』を行っていたのだ。

 そして……、リリンサと同じく、ベアトリクスの性知識も偏っていた。

 その多くはテトラフィーアに教え込まれた、もしくは、こっそり覗いた熊同士のもの。

 王族、野生のクマ、そのどちらも情熱的で激しい行為が『是』とされており……、その結果、妙な疑問が生まれた。



「うぅー、これって交尾になるのか、ダゾ……?」

「普通はならんぞ」


「ダゾ!?って、なんでラグナガルムが居るんダゾ?」



 狼にスパンキングをする趣味はない。

 むしろ、愛情表現はその逆。

 甘噛みなどで痛みを与える意思がないことを示し、深い信頼関係を築くのだ。



「ワルトナに頼まれてな、リリンサを監視していたのだ」

「そうだったのかダゾ」



 リリンサとワルトナが友達だと理解しているベアトリクスは、ラグナガルムの証言に違和感を抱かなかった。

 アストロズは関係性を知らず、ゴモラやセフィナはまだ合流していない。

 だからこそ、複雑な感情を抱いたのはリリンサだけ。



「で、そっちはどうなったんダゾ。チィーランピンが簡単に引き下がるとは思えーゾ」



 先代のベアトリクスの直接的な死因はユルドルード。

 だが、命を賭けた世代交代を決意した原因はチィーランピンだ。

 そんな経緯から、暗号熊と同じ感情をベアトリクスも抱いており、いつの日にか倒すべき相手として認識していた。

 だがそれは、立派な皇として成長しきった未来での話だ。



「私とフェチで追い詰めたけど、トドメはラグナガルムが差した」

「獲物の横取りとか、褒められたことじゃねーゾ。あ、お前に言ってるんだゾ、ラグナガルム」


「いや、助かった。チィーランピンは奥の手を残していたように思う。もしかしたら形勢逆転されていたかも」



 チィーランピンは強い。

 万全な状態で戦った場合、この場の誰もが1対1では勝てない程に。



「リリンサを殺されるよりかはマシだろう。それに、我もチャンスを逃したくはない」

「なんのチャンス、ダゾ?」



 一匹限りの種族など、苦痛でしかあるまいよ。

 それに、奴は強すぎた。

 弱ければ適当な所で死んで楽になれただろうが、それは叶わぬ夢だと思ったのだ。

 こういうやり方をしなければな。



「先日訪れた満月狼の群れも、奴に何匹か狩られたらしくてな。疎ましく思う者も多かったようだし、ちょうど良いだろう?」

「そう言えばお前は、溶嶽熊と仲が良かったゾ」


「今頃、あの世でリベンジマッチでもしているかもしれんな」



 溶嶽熊とラグナガルムは、互いに眷皇種だった時代から幾度となく戦った好敵手ライバルだ。

 そして、ラグナガルムは先に皇になったことで公平性が無くなったと言い出し、溶嶽熊が追い付いた後は、良き好敵手ともとしての関係を築いていた。



「セフィナとゴモラの方はどうなったんダゾ?」



 リリンサが最も優先するのはセフィナの安全だ。

 だが、結界の保全という名目で戦闘から遠ざけた上にアップルルーンに乗っており、ゴモラのフォローも入るだろう。

『余計な過保護はかえって毒になる。慢心や油断という名の致命毒にね』

 かつてワルトナに言われた言葉を参考にしつつ、ベアトリクスへの加勢を選択したのだ。



「セフィナは結界の補強を終えて、これ以上の増援がないか周囲の警戒をしている。ゴモラの分身体も一緒みたいだし、心配いらない」

「ゴモラがそっちにいるってことは、ヒャクゴウから逃げたってことか、ダゾ」



 リリンサが身構えるほどの殺気を放ち、ベアトリクスとラグナガルムが身構えた。

 白虎皇バイフーワン・ヒャクゴウは、ダルダロシア大冥林の中で最上位に君臨する皇。

 その戦闘力を侮る者は、決して生き残れない。



「ん、そんなに強い皇種なの?」

「とにかく戦闘経験が豊富で、一切の慢心がない奴なんダゾ。那由他にも一目置かれてるゾ」

「ダルダロシア大冥林の皇は、あ奴に手合わせを願うものだ。そして、大体は苦い思い出になる」



 ダルダロシア大冥林の最強を多数決で決めるとしたら、ヒャクゴウになる可能性が最も高い。

 チィーランピンは姑息な手段を使うことも多く、ラグナガルムはまだまだ若い。

 そして、那由他が一目置いている、それは、帝王試験に呼びだされ、EXマッチで行われるタヌキ帝王との戦いに勝利しているという事だ。



「アイツの奇襲は怖いゾ、絶対に警戒を解いちゃダメだゾ」



 ベアトリクスの言葉を遮るように、ガサリ。と茂みから音がした。

 一気に張り詰める空気、満身創痍でラグナガルムに担がれていたアストロズですら拳に魔力を通す。

 そんな緊張状態の中、茂みからうっきうきなタヌキステップでゴモラが現れた。



「あ、おかえり。ヒャクゴウはどうなったの?」

「もちろんブチコロコロコロがしている。出血大サービス、いつもより多めに転がしておりますー」



 ゴモラの言葉を正しく理解できたのは、悪食=イーターを持つリリンサのみ。

 そして、ヒャクゴウは結界の中に転移しており、当面の脅威が去ったことを魔法で意識を繋いでいる仲間へ伝える。



「あ、そうだ。ベアトリクスにお願いがある。ラグナガルムの背中に乗って、一緒に行動して欲しい」

「なんでダゾ?」


「敵を欺くためのカモフラージュ。相手は皇種同士で徒党を組んでいる。こっちも同じことをすれば仲間だと思われる可能性が高い」



 ラグナガルムに聞かせる為の理由を口で言い、本当の真意は魔法を介して伝える。

 ラグナガルムは無色の悪意を所持していること、そして、それを隠していること。

 さらに、光速で移動できるラグナガルムに対抗するには、接触している状態が最も有利であることなど、を。



「分かったゾ。オイラも聞きたいことがあったし、ちょうどいいぞ」



 そう言いながら、ベアトリクスはラグナガルムの背中に飛び乗った。

 普段からクマに跨っているだけあって、なかなかの乗りこなしっぷりである。



「ぐぬぅ。我は乗り物ではないのだが?」

「こまけーことは気にするなって教えたの、他ならぬお前ダゾ!」


「……反乱を起こした配下を生かしておくのは、細かい事ではないのだがな?」



 ベアトリクスの嫌がらせから解放された暗号熊は急速に回復し、今は、そこらに生えていたキノコを食べて栄養補給中。

 それを見たラグナガルムは、皇の殺害を目論んだ者の態度ではないと苦言を零す。



「利用価値があるから生かしておくことにしたゾ」

「まぁ、皇のお前が決めたのなら文句はないのだがな。寝首を搔かれるようなヘマはするなよ」



 皇の紋章には配下の能力を使用できるという特殊効果がある。

 それは、種族内の別の生態系……、例えば、ラグナガルムの場合は太陽狼スソールや、波堤狼ハティなどの別の生態系の狼の能力を得るための仕組み。

 だが、真頭熊やドラゴンのように個別に魔法紋を宿す種族は、比べ物にならない恩恵を得ることができる。



「今度はオイラの質問に答えて貰うゾ。……なぁ、皇に自由はないのか、ダゾ?」



 それは、ベアトリクスがずっと悩んでいた疑問だった。

 クマの皇として行動している時に感じるのは、義務や重責。

 ゆるい性格をしている落撃熊や混響熊ですら、何かと口うるさく文句を言い、行動を制限したり強制したりする。


 だが、ユニクルフィンやテトラフィーア、そしてサチナと一緒に居る時は、その苦痛を感じない。

 促されることはある、渋い顔をされる時もある、それでも最終的に選ぶのは自分だった。



「何を馬鹿なこと言っているのだ?お前は皇なのだぞ」

「っ!?ダゾ……」



 皇としての役目を全うしないお前に、自由に生きる権利はない。

 それは、言葉の表現に違いはあれど、幾度となく突き付けられてきた現実。



「皇ほど自由な存在はいない」

「ダゾッ!?」


「皇とは、自らが王だと、種の頂点だと名乗る者の事を言うのだ。その自由を奪う権利など、他の皇ですら持っていない。無論、種の配下にとやかく言われる筋合いなど、欠片もないのだ」

「ダゾッ!?」



 まさに青天の霹靂。

 雷に打たれたような衝撃がベアトリクスの身体を伝い、背中の毛を握り絞められたラグナガルムがうっ……、っと唸る。



「いいのかダゾ!?みんなオイラに、アレやれコレやれって命令してくるんダゾ!?」

「耳触りなだけだ。逆に、皇の言葉には強制力がある。工夫をしない限り配下は皇種に従うしかない」


「でも、でも、那由他も言ってたゾ!!ラグナガルムは呼べば必ず光の速さでやってくる、すごく便利な使い走りだって!!」

「……。利益があるから任意で従っているだけだ。タヌキと敵対しないという、極大の利益がな」



 始原の皇種である那由他様であっても、他の皇に対する絶対的な命令権など無い。

 従うも逆らうも自由、その先に死が待っているかもしれないが、選ぶ権利はこちら側にある。


 だが、皇と配下の関係性はそうではない。

 皇の紋章の効果は、『配下に力を与える』ことだ。

 故に、配下に『強制力』を与え、従えることができる。



「なんでそれを早く教えてくれなかったんだゾ!?」

「未熟な状態で使えば、容易に種が全滅するからな。チィーランピンみたいにな」


「うぅー。それは嫌だゾ」

「わんぱく触れ合いコーナーや、アルミラユエトとの戦いを見る限り、もう他の皇にも引けを取るまいよ。反勢力のトップを潰した今、好きなようにすればいい」


「でも、裏切られるって事は、オイラが未熟な証拠じゃ……」

「くははっ、眷皇種は二種類に分かれる」


「二種類?」

「皇とかめんどくせーし、だりーし、コイツにやらせとけば良くね?あ、死なれたら困るからほどほどに協力しよー、って奴か」


「ダゾ!?」

「その内コイツを殺して皇になってやる。あ、今の内に実績を積み上げて、偉ぶっておかないと。って奴」


「ダゾーッ!?」

「要するに、皇に忠誠を誓ってどんな命令でも絶対に遂行するなんて奴はいない。自分に利があるか、しぶしぶ従っている奴が殆どだ。それと毛を握るな、地味に痛い」



 驚愕のあまり手を握ったまま持ち上げようとして、我に返る。

 模倣していた落撃熊の身体能力を解除し、そっと手を放した。



「いいのか、ダゾ。オイラが自由に行動しても」

「我だって群れの統治はボスに任せている。意図的に種を滅ぼす行為をしなければ、皇種失格ではない」



 皇としての評価など、当てにならん。

 種を繁栄させて数を増やせば、それに比例して不満の声も多くなる。

 逆に、滅亡に瀕した種は一致団結し不満が消滅することがある。

 だが、それは果たして優れていると言えるか?


 極論、評価や外聞など気にするだけ無駄だ。

 そんなことを考えるくらいなら、種族の掟でも作って、面倒臭い奴を違反者にして始末しろ。

 それは皇の特権だ。



「皇種には特権まであるのか……、ダゾ」

「ある。自由とは権利だ」


「じゃあ、じゃあ……、オイラを孕ませたい奴は、人化の魔法を会得しろ、ダゾーーッ!!」

「ッ!?!?」


「お前らのなんか入る訳ねーんダゾ!?なんで、オイラが痛い思いしなくちゃならねーんダゾ!!マジ、納得いかねーんダゾーー!!」



 ベアトリクスの切羽詰まった雄叫びが、ダルダロシア大冥林に響く。

 そして、暗号熊を筆頭とするベアトリクスを狙っていた集団は、恐怖結界以上の絶望を味わった。


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