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第84話「人狼狐・夜の襲撃 チィーランピンVS魔王フェチ」

「おい、リリンサ……、チィーランピンはアマタノよりも強いと思うか?」



 背後で炸裂する熊同士の戦闘音を聞きながら、アストロズは思う。

 目の前の皇種は、かの幾億蛇峰に匹敵する存在なのではないかと。



「お前は言っていたよな?アマタノを殺すなら少数精鋭のチームでやると。なら……」

「チィーランピンとアマタノ、どちらが強いのかは……、不明」


「んだと」

「レベルミリオンを超えた生物のレベルは、見かけ上は変化しなくなる」


「999999が最高値、桁が違うだけで普通の生物と同じか?」

「その代わり、『レベル999999(ミリオン)』というレベル表記を複数持つようになる。これは、レベルミリオンに至った生物からレベル表記を奪えるようになるから」


「奪う、だと……?」



 リリンサが悪食=イーターで調べられる知識は、自身の記憶にある事柄のみ。

 彼女の記憶を目次として、ソドムとゴモラの知識でページが構成されている本のようなものだ。


 そして、リリンサはチィーランピンを視認し、『レベルミリオンを超えた生物』という存在を認識した。

 だからこそ、それに関する理を調べることが出来る。



「レベル999999を持つ生物を一匹殺すごとに、一桁レベル表記が増える」

「アマタノや白銀比には、そんなもんなかったが?」


「隠している。自分の実力を馬鹿正直に見せる奴ばかりじゃないということ」

「そうかよ、幾『億』蛇峰だもんなぁ……、なら、4匹~7匹のミリオンを殺したって事か?」


 億という階級は、それを持つ者の中で最も低い。


 万 (999999)ミリオン


 億 (100000000)

 兆 (1000000000000)

 京 (10000000000000000)

 垓 (100000000000000000000)

 抒

 穣

 溝

 澗

 正


 以下 七源の階級 = 始原の皇種


 千載 (1000載)

 極

 恒河沙

 阿僧祇

 那由他

 不可思議

 無量大数


 であり、レベル999999が『億』に至る為には、同じミリオンに3回勝利する必要がある。

 そして、更に4回勝つと『兆』に、さらに4回勝つと『京』にと階級が上がっていくのだ。



「だけど例外がある。皇種が次代へ資格を引き継ぐとき、階級は一つ下がる。そして、アマタノは始原の皇種・恒河沙から見て11代目の皇」

「確か、始原の皇種はその名に階級を宿す……、恒河沙蛇から階級が11個下がって億になったと?」


「その理屈でからすると、アマタノはミリオンを最大で3匹しか殺していないことになる。だけど……」



 あの自堕落な蛇は、山に巻き付いて日向ぼっこをするのが趣味の日和見主義者でありんす。

 そんな白銀比の言葉に隠されている意味は、『戦う気がない』。

 そして……、



「チィーランピンを見たことで、私の評価が間違っている可能性が強くなった」

「アマタノの評価だよな?」


「階級を上げる為には強者同士の戦闘が必要、なら、あれだけ目立つアマタノが狙われないのはおかしい」

「……だよな?」


「なのに生きている。アマタノの権能は次元や空間に関するものであり、再生能力や防御力向上ではない。実際、ロリコンの明星殲滅で尾の切断に成功している」



 アマタノの性格や皇種のシステムを知ってりゃ、生かしておく方が利益があるわな。

 蓋麗山周辺の領主は苦慮しているが、最近では『皇種を見学しようツアー』などで稼いでる。

 だがそれは、俺様達の都合でしかない。

 弱肉強食こそが、自然の理だろうよ。


 アストロズが思い至った、答え。

 それが一つの真実を示す。



「返り討ちにしてるってことか。しかも余計な恨みを買わない様に、殺さないように手加減して」

「私達が生きているのも、アマタノが追って来なかったから」


「なるほどな。実力が未知数だから比べようがないと。……でだ、このチィーランピンはどうなんだ?」

「レベルの桁の数は25。階級は、じょ。ソドムやゴモラよりも多い、正真正銘の化物だよ」



 真理究明の悪食=イーターを持つリリンサの相貌は、強力な認識阻害を看破できる。

 だからこそ、その二つの瞳にはチィーランピンの強さを克明に写していた。


『―レベル999999―』

『―レベル999999―』

『―レベル999999―』

『―レベル999999―』

『―レベル9―』



「なら、レベルミリオンを20匹も殺してるって事かよ。おい、チィーランピン様よ、随分と友達想いだなぁ、えぇ?」



 不安定機構・白の最上位に君臨するアストロズですら、レベル999999という存在は数えるほどしか知らない。

 図鑑で見ただけという、不確かな情報を加えたとしてもだ。

 そんな目撃情報がない生物を20匹以上も探し出し、殺している。

 その事実に、アストロズの胸が高鳴る。



「勝算はあるんだな?」

「なければ見捨てている」


「はっ、そいつはお前らしくねぇ。昔は後先考えずに助けようとする、可愛げのあるクソガキだったのによッ!!」



 リリンサが悠長に喋って時間を稼いでいた理由、それはアストロズの自己再生を待つ為だった。

 衝撃蓄積機構でエネルギーを蓄えている肉体は変質し、魔力での修復が可能になっている。



「俺様が前に出る。指示はお前が出せ、リリンサァ!!」

「了解した」



 大地を踏みしめてチィーランピンに肉薄するアストロズ、そして、リリンサはその動きに合わせて回復魔法を張る。

 最低限の準備を終えるために。



「全力で殴り続けて。《原子を生みし武人王(オムニバス・イザナギ)》」

「うおぉおおおりゃぁああああああ!!」



 アストロズは、チィーランピンの蹴りを食らった直後は立っていた。

 だが、何らかによってダメージが遅れて発生し、体内をズタボロにされて倒れ伏している。

 その理由をリリンサは調べることが出来る。

 そして、回復魔法で対処可能であることも。


 アストロズが放った砲弾のような正拳突きに合わせられた、チィーランピンの後ろ足のひづめ

 真正面から衝突したそれによって空気圧縮が起こり、周囲一帯に暴風が吹きすさぶ。



「んだこりゃ、体中が痛ぇ……!!」

「ボディフェチを名乗るなら、筋肉痛ぐらい我慢して欲しい!!」



 アストロズの全身を襲う筋肉の悲鳴。

 それは、エネルギーを吸収しきれなかった筋肉が破裂し、そして、余ったエネルギーを使って肉体が再生する超回復による痛みだ。


 超回復……、いわゆる筋肉痛は、切れた筋肉が元以上に回復して成長する現象。

 普通の人間でも発生する仕組みだが、肉体を鍛え抜いているアストロズにとっては久しぶりの感覚だ。

 超回復を起こし過ぎたせいで、痛覚が鈍くなっているのだ。



「チィーランピンは発生させたエネルギーを爆発的に増大させられる」

「俺様がさっき食らったのはこれか。ちっ、体が熱ぃ、はち切れそうだゼ!!」



 ダ。ダ。ダ、ダダダダダダダダァアアアアッ!!

 一撃一撃がアストロズの全体重を乗せた必殺。

 そして、それが受け止められたなら、その威力のまま、当たるまで連撃を繰り出せばいい。


 やがて暴風は熱波となり、周囲の木々を燻ぶらせる。

 至る所で上がる火の手、立ち上る煙が一人と一匹の動きに合わせて踊り狂う。



「ところで、チィーランピン」



 アストロズの攻撃の隙間を縫い、リリンサの砲撃がチィーランピンの頭に直撃。

 だがそれは、威力のない牽制。

 それをチィーランピンも見抜いていたからこそ、防御も回避もしなかった。



「はぁ、はぁ……、」

「人間は脆弱だな。この程度で息が上がるのか」

「それは体を動かすと興奮する変態。そんな事よりも聞きたいことがある」



 リリンサは知っている。

 アストロズの体力の限界。

 チィーランピンの権能や、その性格も。



「それだけの数のミリオンを殺しておいて、アマタノに挑戦しないのはなぜ?」

「……。」


「くす、それとも、返り討ちに遭ったのに見逃された、殺す価値もない雑魚ということ?」

「……。すこし、調子に乗り過ぎではないのかね?」



 そして、無色の悪意に煽られている欲求が、『傲慢』であることも。

 その高いプライドが、簡単に傷つくということも。

 分かった上で、リリンサは嗤った。


 平均的な魔王の微笑みで。


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