第81話「人狼狐・夜の襲撃、ゴモラVS白虎皇」
「お前が介入してこないから、勢い余って殺してしまった。どうしてそんなにやる気がないの?ヒャクゴウ」
「くぁ~~あ。我に利益がない」
「金鳳花に媚びを売れる」
「そのかわりタヌキに睨まれる。プラスマイナス、ゼロだ」
アステカトリポカとサーベロスとゴモラ、三者の戦いをヒャクゴウは見ているだけだった。
戦いに介入しないどころか、戦闘の意思すら見せない。
ただ草むらに身を投げ出して、暇そうに欠伸をしているだけだ。
「じゃあなんで、金鳳花に加担している?」
「勝ち馬に乗っただけだ」
「なら、形成によってはこちら側になるということ?」
「……なると思うか?」
ゴモラの問いかけにヒャクゴウはつまらなそうに答えた。
それはまるで、答えを知っている大人のような余裕。
そして、まったくやる気のないその態度が、ゴモラの琴線に触れる。
「あまりにも不遜。やる気がなくて運動をしないからプルンプルンのお腹になる、メタボ虎」
「やる気?そんなもの久しく感じていない」
「なに?」
「逆に、お前らのような方が珍しかろうよ。我らのように階級を持つ者は数千年の時の中で、大体の欲求は叶えている。腹が減れば食らい、子が欲しければ生ませ、生を実感したくなれば戦ってな」
「だから?」
「飽きているのだよ、全てに。無色の悪意は欲求に反応する、金鳳花に植え付けられた時は僅かに期待したものだが……、大した刺激にはならなかった」
再び欠伸をするヒャクゴウ、その姿は隙だらけだ。
だからこそ、ゴモラは気に入らない。
それはまるで、ゴモラでは相手にならないとでもいうような――。
「そう。なら、本気で殺しに行っても良い?」
「いや、困るな」
「……は?」
「我は争いを望んでいない。我と種が生き残れるならば何でもいい。他者がどれだけ犠牲になろうとも」
そうして、ゴモラは理解した。
ヒャクゴウはもう、取り返しの付かない程に無色の悪意に汚染されていること。
そして求めている欲求が、『堕落』であることも。
何事にもやる気がない、争いを望まない、犠牲を厭わない平和主義者。
だからこそ、絶対に相容れない。
ゴモラの推理が正しければ、今回の金鳳花の最終目標はサチナの殺害ではなく――、リリンサ。
「お前、何を知っている?」
「口止めされているぞ、これは最後の引き金だからと」
「……分かった、もういい。二度と喋るな」
本当にいい度胸してるね、カーラレス。
そう呟いたゴモラがメルクリウスを構える。
そして、声に乗せて殺意を放った。
「五十重奏魔法連・原色を照らす太陽王」
それは、人繋ぎにされている、50個の炎の数珠。
バスケットボールサイズのそれらがヒャクゴウの周りに出現し、落下。
地面に触れた瞬間、大地が持つ原子が熱融合を始め――、眩い死の閃光が周囲を蹂躙することはない。
「レッスン3,高威力の魔法は防御魔法や空間魔法を併用して使う。環境への配慮と相手の回避妨害の為に」
「だが、階級を持つ相手には悪手だ」
原色を照らす太陽王を閉じ込めるように発動された、キューブ状の原始を守りし抱擁王。
その上に立っているヒャクゴウ、その四肢は太く、そして、腹がたるんでいる。
「メタボの癖に回避するとか、本当に腹が立つ」
「立派なものだろう、我の自慢の権能ぞ」
ふさふさな体毛で隠し切れていない贅肉が、プルンプルンと揺れる。
常識的に考えれば、それはデバフにしかならない。
筋肉ではない唯の重りなど、超越者同士の戦いでは邪魔にしかならないからだ。
だが、その法則はヒャクゴウには当てはまらない。
『白虎皇・ヒャクゴウ』
種族 白帝虎
年齢 推定3000歳以上
性別 オス
称号 白虎皇・ヒャクゴウ
レベル999999、階級『垓』
危険度 大陸滅亡の危機
『基礎情報』
ゴモラが知る虎の皇種は3体。
鳳皇を倒して皇になった初代、滅亡の大罪期でゴモラ達と戦った二代目、そしてコイツ。
少なくとも、皇種になってからは3000年以上、その前の眷皇種時代がどれだけ長かったかは不明だけど、初代から仕えていたのなら、4000年以上は生きている。
長く生きているという事は、それに足る実力がある。
レベル『垓』はソドムと同じ階級であり、京であるゴモラよりも上。
純粋な運動能力はソドムどころか、七源の階級『阿僧祇』であるエデンよりも上の可能性すらある。
だがその力の本質は、自身を知り尽くしているということ。
権能への理解が深い=戦闘能力。
それを体現しているのが、このヒャクゴウだ。
『戦闘能力』
肉体の大きさは約5m、そんなものは見かけ上の情報でしかない。
皇種になると、ある程度の肉体可変が可能になる。
これは、神の理から脱却した結果、自身の過去の姿を目指し、肉体を成長させることが出来るようになるから。
だけど、ヒャクゴウのそれは権能によるものだ。
『代謝の権能』
新陳代謝の権能であるこの力は、体内で起こせる化学変化を全て超高速で出来るというもの。
異常な肉体操作、新陳代謝、消化、再生、疲労物質の分解、若返り、成長、体に関することならなんでもできる。
汗を気化させて霧を作る事も、体表に象牙質を集約させて光を反射することも可能、ベアトリクスのような圧倒的なフィジカルを持ち、自分自身の種族限定になるが、アルミラユエトのように別個体にも変化できる。
それは、他の皇種が権能を用いて行うことの模倣。
最初から5個の能力を持つチィーランピンとは違い、コイツが扱える贋作の権能の数は増え続け、今となっては100以上。
故に、百業と呼ばれている。




