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第79話「人狼狐・夜の襲撃、セフィナの暴走、ゴモラは困惑」

「えっと、えっと……、まずはコントロールユニットを接続しなきゃだね。いっくよ、《供食礼賛きょうしょくらいさん!悪食=イーター!!》」



 ゴモラがいなくなったコクピットで、純黒の髪の少女が咆哮をあげる。

 そうして、大好きな姉に頼られ、そして、一番の友達ゴモラから託されたお願いを達成するため……、セフィナは自重を捨てたのだ。



「ダイレクトブレインシステム同期、増幅走行フレームリミット解除、マジックグリース循環確認、OK、魔力出力向上200%……目覚めて、アップルルーン!!」



 ゴモラと契約して得る力、悪食=イーター。

 その力の真髄は、判断ミスが起こる確率を著しく下げることにある。


 人間の記憶力は不安定であり、寝不足などの体調不良で簡単に不具合を起こす。

 記憶が思い出せなければ判断の遅れにつながり、最悪、間違った結果を求めてしまうことすらある。

 そんな生物としての欠陥も、悪食=イーターの所持者には関係がない。


 ゴモラの悪食=イーターは巨大な図書館のように記憶が整理され、使用者は納得がいくまで情報を探すことが出来る。

 どれだけ時間を掛けようとも、現実世界にフィードバックされる時間は0.0001秒以下。

 そして、そこで得た知識はゴモラが集めた情報で補完されており、結果、使用者は最適解を選び続けることが出来るようになる。



「ここじゃだめだね、上に行くよ、アップルルーン!!」



 そうして脳内で作戦を立案し終えたセフィナは、帝王枢機の操縦桿を元気よく握った。

 瞬時に噴出した加速ユニット。

 推進エネルギーをまき散らしながら、天高くアップルルーンが飛翔する。



「こっちに出てこないようにするには……、恐怖結界の強化!」



 ゴモラはセフィナの悪食=イーターに細工を施していた。

 それは、一番目立つ位置に置かれた本、『ダルダロシア大冥林を、超カンタンにブチ黙らす方法!』だ。


 ゴモラが考えたそれは、恐怖結界にルインズワイズの『予兆』と『自滅』を同期させることで、内部の全ての生物に強烈な死の兆候を抱かせるという、カツテナイ大恐慌。

 自身が死する映像を延々と見せ続け、一時的な行動不能にする容赦ない方法だ。

 さらには、その為に必要な魔法もセフィナが扱えるように最適化済みという、ソドムもびっくりなクソタヌキムーブである。


 そして、そんな万全の準備へ、オリジナリティが追加された。



「それに、おねーちゃんをプラス!いっくよぉぉ、《五十重奏魔法連(クィンクァゲテット)×五十重奏魔法連(キュービクル)×五十重奏魔法連(マジック)!》」

「ヴィギルーンッッ!?!?」



 リリンサが指摘した懸念に嫌な予感を抱いたゴモラは、ひっそりと分身をコクピットに召喚。

 速攻でセフィナをなだめようとするも、時すでに遅し。



「あ、ゴモラ?」

「ヴィ、ヴィギルーン?」


「なにって、おねーちゃんみたいに魔法を分裂させて、いっぱいのアップルカットシールドを作るの!」

「……ヴィア?」


「だってカッコいいんだもん!!」


 方法も魔法も用意した。

 魔力も足りる、アップルルーンの中に居れば大抵の攻撃は防げるし、操縦権を乗っ取って強制離脱させることもできる。

 そんな幾重にも張り巡らせた策謀に不確定要素(アホの子そのいち)を追加する、これが不確定要素(アホの子そのに)の力かと、ゴモラは戦慄した。


 空に瞬く、12万5000の魔法陣。

 それら全てが生み出したアップルルーンの主武装たる『アップルカットシールド』が、空を深真紅に染め上げる。



「……ヴィ~~ア~~??」



 それは、分裂が得意なゴモラにしても想定外すぎる行いだった。


 ゴモラが持つ悪食=イーターは万物創造を中心能力にしており、他の悪食=イーターよりも物質の生成速度が速いという利点がある。

 だが、それに必要な魔力が減る訳ではなく、5000機もの大軍勢を召喚するには、世界最大の魔力量を持つムーの力を借りるしかない。


 いくらアップルカットシールドのみの創造と言えど、その数は12万5000。

 通常のアップルルーンに搭載されている数は6機であり、実に、20833機分ものシールドを展開したことになる。


 だが、セフィナはそれを自力で達成した。

 それが出来てしまった要因に思い当たったゴモラは、急いで、ソドムの真理究明の悪食=イーターを呼び出して調べる。



「……ヴィィ~~ア~~???」



 ……いや、世絶の神の因子はちゃんと封印されてる。三つとも。

 なのになぜ、こんなアホの子ムーブが出来た?意味わかんない。

 無断で借りた真理究明の悪食=イーターでは限界があると思ったゴモラは、情報をソドムに流して解析を押し付け……、考えるのを止めた。



「ヴィィギルムン!」

「手伝ってくれるの!?ありがとゴモラ!!」



 セフィナの頭の上で成り行きを見守っているゴモラへ、ソドムが導き出した答えが返された。

 それは、『ランクの低い星魔法の重ね掛けで、アップルカットシールドのパチモンを作った』だ。


 セフィナが悪食=イーターの中で調べたのは、アップルカットシールドに搭載されている魔法吸収・放出魔法陣。

 今回創造されたアップルカットシールドは、それを刻むだけの魔法プレートのような役割しか持たず、他の機能は存在しない。

 更には、外見こそ星魔法でそっくりに作っているものの、強度は比べ物にならない粗悪品となっている。


 だが、ソドムが送って来た報告書には、「マジで驚いたぜ。ムーも気が動転して新しい概念の武器作るって言い出して、他のタヌキをブチ切れさせてる」とカツテナイ称賛が添えられていた。



「えっとね、森全体をぐるっと一周、それでね、魔法でつないでね、」

「ヴィギルムーン!」



 目を離してさえいなければ、やりたいことは理解できる。

 その発想力に驚かされつつも、細かい矛盾点をゴモラがサイレント修正。

 こうして、12万5000発のシールド砲弾が完成した。



「いっくよぉ!!」

「ヴィィィギルムゥゥゥゥウン!!」



 アップルカットシールドの主な能力は3つ。

 魔法吸収、魔法伝達、魔法放出。

 その伝達機構に伝わった命令により、一斉に地面へ向かって飛翔する。


 アップルルーンを中心に、360度全ての方向へアップルカットシールドを発射。

 それらは約1.5m間隔、シールドの幅を考慮するとほぼ隙間なく地面に突き刺さり……、円周200kmのダルダロシア大冥林をぐるりと囲んだ。



「恐怖結界を吸収!!そして、反対側へーー、放出!!」



 森をぐるりと囲む、深真紅の円形。

 さらに、地面に突き刺さったアップルカットシールドの先端から黄金色の光が放出され、反対側のアップルカットシールドへ接続。

 交差するように伸びた光は、とある食べ物を連想されるものとなり――。



「完成!アップルパイ・シェルター!!」



 それは、通常の防御施設シェルターとは真逆の……、外部の人間を守り、そして、内部の危険生物を絶望へ閉じ込める脱獄不可能なカツテナイ牢獄。

 外周部に近づくほど命の危機を感じ、そして、生物が無意識に放ってしまった威嚇は光の網目に吸収されて伝導、全く関係ない場所で発露する。

 そしてその威嚇には、歴史に名を連ねた皇種が放ったものも含まれていて。


 ダルダロシア大冥林の外周部で一斉に放たれた、数々の皇の本気の殺意。

 恐怖の感情が複雑に融合して凝縮したそれは、遠くの山に巻き付いて日向ぼっこをしていた蛇を大混乱させるほどに濃密で。


 こうして起こったそれは、どんな書にも記載がない……、正真正銘の大災厄の前兆として歴史に刻まれることになる。

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