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第29話「作戦会議」

「ふう。おいしかった。さて、話し合いを続けよう。ユニク」

「あぁ、ちっと食い過ぎで動きたくないしな。このままやろう」



 う、食い過ぎた。

 出てきた料理はいくらか量の調整がされていたものの、あれだけの品数だし、相当に厳しい戦いだった。

 初任務達成のお祝いなんてリリンに言われちゃあ残すに残せないしな。


 俺は腹をさすりながら、今一度机に向かう。

 反対側にはリリンでその傍らにはクッキーとオレンジジュース。食器を下げる際に追加で頼んでいた。


 ……まだ食うのかよ。



「それじゃこれからの予定の計画を立てたい」

「そうだな。そもそも、この後はどういう予定だったんだ?昔の仲間に会いに行くとか言っていたけど」


心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の仲間たち、私の親友にユニクを見つけたと報告に行こうと思っていた。まがいなりにも、みんなユニクの捜索に協力してくれていたから」

「そうなのか?」


「そう、まぁ、それぞれ自分の人生のついでだと言っていたけど、私のユニク探しの旅に同伴してくれたのは事実」

「これは聞いちゃいけないのかもしれないけど、今は何でリリン一人なんだ?」



 リリンの仲間の心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)

 ちょくちょく話に上がり俺を戦慄させている彼女達は、リリンにとってかけがえのない仲間だという。

 だが、リリンは俺に出会う一年前から一人で旅をしていた。


 今でも連絡を取れるみたいだから仲たがいした訳じゃないと思うんだが、これから会いに行くというのに触れてはいけない地雷が大量に埋まっているなんて事は避けたい。

 相手はリリンと同ランク。怒れせれば俺の命に関わるのだ。



「それは、ワルトナのせい」

「ん?ワルトナさん?その人はあんまり話題に上がらないよな」


「ワルトナは、後ろの方でこそこそ暗躍して、ニコリと笑うのが趣味の魔導師だからあんまり表だって行動しない」

「……あー。なんか思い出したぞ。パーティーの参謀役だったんだっけか?」


「そう。良いも悪いも大体ワルトナのせい。彼女が本気で組んだ計画は揺らぐ余地がない。私と同い年で有りながらその頭脳は他の追随を許さないから」

「……そんなにか。具体的には何をしていたんだ?」


「詐欺とか密売、あとは誤情報を売り付ける情報屋とか。……あとは、レジェと結託して戦争を誘発させて軍を乗っ取ったり、カミナと賭博場を始めてみたり。およそ殺人以外の犯罪ならなんでもやってると思う」

「……。リリン。よくそんな奴と一緒に旅が出来たな。ある意味感心するぜ?」


「ワルトナは私の最初の仲間。彼女がいたからこそ私は旅が出来たといえるし、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)を組み立てたのも彼女」

「そうか。んで、パーティー解散の理由も彼女なのか?」



 ここで新事実。

 リリンが初めて出会ったのは「戦略破綻せんりゃくはたん、ワルトナ・バレンシア」であり、彼女こそ心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の創始者であるという。

 ちなみに、現在までの話を聞く限り、悪人である。


 リリンはほんの少しだけ薄く微笑むと、懐かしむ様に話し出した。



「ワルトナがパーティーを解散しようと言い出したのは私以外のメンバーの目的がおおよそ果たされ、分散した方がユニクを見つけやすいと判断したため」

「ん?俺を探すため?」


「そう。レジェは近隣諸国の大半を掌握し終わっていたし、カミナの知識の収集も実戦経験を積むレベルまで来たと言っていた。メナフもやってみたい事が出来たと言い出したし、ちょうど良いと」

「そうか……みんな仲が良かったんだろ?分かれて寂しかったんじゃないのか」


「私にはホロビノがいたし、寂しい夜はホーライ伝説があった。それに……」

「ん?」


「ううん。なんでもない」



 それだけ言ってリリンはクッキーに手を伸ばした。

 さくさくと空気感を誤魔化すようにクッキーを頬張っている。

 うまそうに食うなぁ。


 しかし、仲たがいして別れた訳じゃなくて本当に良かった。

 しかもみんな俺の捜索に協力的だったらしいし、無条件で攻撃をされる事は無さそうだ。


 話を聞くたびに、危機感が増えていくのはご愛嬌ということで。



「じゃあこれからは心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の仲間たちに会いに行くのか?」

「……そうする。私個人を狙っているとしても、繋がりを調べて仲間たちの所にも刺客が行くかもしれない」


「そうだな。警告をしなくちゃいけないもんな」

「警告?そんなことしなくても返り討ちだと思う。みんなの戦闘力は折り紙つき。というか、前衛職のメナフとカミナは私よりも強いくらい」


「リリンよりも強い!?うっそだろッ!?!」

「ホント。メナフは遠距離戦において、カミナは至近距離戦において私よりも遥かに効率の良い戦い方をする」


「……おう。ちょっと何言ってるかわからないな……」

「分からない?うーん、じゃ、三頭熊と比べてみよう」


「?」

「メナフは三頭熊に悟られない超遠距離から魔法を使った一撃で、魔法が効かないハズの三頭熊を消し飛ばす。カミナは三頭熊と組み合って、シンプルに殴り勝つ!」


「なんだとッ!!トンデモねぇじゃねぇか!!」



 おいおい、マジかよ……。

 三頭熊って言えば、あの三頭熊だ。

 最初こそリリンが蹴散らしたからその強さが分かりにくかった三頭熊も、今となってはその強さが嫌というほど分かる。

 俺達新人試験組は、熊狩りをしていた2週間の間に二度ほど、三頭熊と戦わせられている。

 三頭熊を見つけたリリンが悪ノリを言いだし、それに澪さんが乗ったのだ。


 結果?

 汗と涙と唾液が枯れるかと思ったぜ。ははっ。



「なので、暗劇部員如き、敵にならない。今の状況的に一番不利なのは、守るべき存在のいる私と言える」

「守るべき存在……?はっ!俺かッ!!」


「そう。現状、不覚を取るとしたらユニクが一番可能性が高い。これは後日トレーニングを行う事で解消する」

「トレーニング?なんかいやな予感がするんだが?」


「大丈夫。やるのは私と一対一の総力戦。魔法も使う。魔道具も使う。卑怯な手も使う実戦形式で体で語り合おう(ボディランしよ)?」



 大丈夫じゃねぇッ!?

 俺はそれを地獄と呼んでいるッ!!



「対人戦訓練か……。お手やらわらかにお願いするぜ?」

「お手柔らかになんかしない。スパルタ教育で一気にレベル10,000に到達したい」


「レベル10,000?……そういえば、俺の今のレベルって」

「レベル9846。タヌキ将軍と戦ったことで急激に上がったみたい」



 マジか!?……うわッ!マジだッ!!

 将軍ジャネラルすげぇぇぇぇぇ!!



「話がそれた。とにかく昔の仲間に会いに行って迎撃準備を整えたい。ここから先はスピード勝負となる」

「戦いの準備か……。でもさ、迎撃準備とか言ったって何をするんだ?」


「まずはカミナに会う。彼女には、装備面や備品面の充実化を図ってもらう。魔導具の改造の得意な彼女なら、ユニクの鎧に魔法紋を刻み込む事も当然出来る。着ているだけで強くなれる魔法の鎧になるよ」

「そんな事も出来るのかッ!鎧に魔法紋とかカッコよすぎるんだが!?」


「何を刻んでもらうかは要相談だけど、何処かにグラムを召喚する為の召喚紋を刻んでもらうつもり。時空間から引き抜かれる伝説の剣。カッコよくない?」

「すっげぇな!何かの主人公みたいだ!!」



 和やかな草原。

 俺は奴と対峙していた。タヌキ将軍、俺のライバルだ。

 奴の手には頑強な(鈍器)が握られている。ならば俺も相応の武器を召喚しなければならないだろう。


 《輝け、魔法紋よ!我が手に勝利をもたらさん!!現れよ、神壊戦刃・ぐら―――》



「おーい。ユニク。……えい。」

「あいた!ん?すまんちょっと妄想してた」


「いい。私も昔は良くしたから。ということで装備を整えたら次はワルトナの所、彼女と会って戦略を組み立てたい」

「参謀役のワルトナさんか。なんだか凄そうな作戦を立てそうだな」


「うん。彼女の手にかかれば、相手の人生は潰えたも同然。彼女と対峙した人のほとんどが、「生まれ変わったらレンガになりたい。唯のブロック塀として穏やかに一生を過ごしたい」と言うようになる」

「……。その作戦会議には俺も参加しても良いか?」


「良いに決まってる。むしろ嫌でも出て貰う」



 そうだな。嫌だけど、出なければなるまい。

 いくら俺達を狙ってきたとはいえ、「レンガになりたい」と言うほど追いつめたくない。

 一応女性だというし、なによりリリンに逆恨みをしているとのこと。


 火の無い所に煙は立たない。

 無いとは思うが、リリンが悪かった場合のフォローも考えとかなくてはいけない気がする。



「そして、メナフの所に遊びに行って、最後に―――」

「オイちょっと待て。なんだ今のふわっとした感じの奴は。メナファスさんの所には遊びに行く?」


「うん。メナフに何かして貰う事は、んー、あ。じゃこうしよう。ユニクと戦って貰う。私とばかりじゃどうしても偏りが出るし」

「……はい。ガンバリマス」



 うわぁぁぁぁぁぁ!!自爆したぁぁぁぁぁぁ!!

 リリンと同クラスの前衛職、しかも戦いようによってはリリンより強いかもしれない人との戦闘。

 得意なのが長距離だって話だが、だからと言って安心できない。


 この世には魔導師の恰好をしながら、嬉々として肉体言語に訴えかけてくる人もいるのだ。

 遠距離とかぬかしといて、こん棒で殴りかかってきても不思議じゃない。

 なにせ相手は、心無き悪魔。常識が全く通用しない。



「最後にレジェの所に行く。そして、一応私の直轄と名義されている軍を動かし、決着をつける。相手は死ぬ」

「おい!殺すな!!」


「冗談。だけど相応の報いを受けて貰う。レジェの国で最下層の奴隷として働いてもらう事になるだろう」

「うわぁ……。最下層の奴隷ってもう聞いただけでヤバそうなんだが?」


「うんまぁ、一応命の保証はするよ?けど、それ以外は何もない所からのスタートとなる。あ、一枚のワンピースと首輪だけは標準装備。それ以外は下着すら無いけど」

「……一つ質問いいか?」


「どうぞ」

「男でもワンピース一枚なのか?」


「そう。レジェは男女差別はしない。よって男性でもSサイズのワンピース一枚となる」

「しかもSサイズッ!!極悪すぎるだろッ!!」



 レジェンダリア国、ヤ・バ・す・ぎ・るッ!!

 なにせ、犯罪を起こすのなんて大体ガチムチのおっさんが大半だろう。

 なのに支給されるのがSサイズのワンピースだとッ!?


 ぱっつんぱっつんだろッ!!

 ふざけんなッ!見たくないわそんなもんッ!!!!


 ……あれ?そう言えばレジェンダリア国と敵対していた奴がいたな。

 そっか、頑張れよ。ロイ。

 町で見かけても見知らぬふりをしてやるからな。



「じゃあさ、最終的に敵は捕らえてレジェンダリア行きか。一応命の保証はあるんだよな?」

「うん。まぁ、レジェの所の10等級奴隷なんて死んだも同然になると思うけど」


「奴隷にもいくつか階級があるのか……。一応相手は若い女性だって話だろ?温情とかないのか?」

「……盗賊をけしかけてくる時点で、かける温情なんてない。と言いたい。しかも相手は暗劇部員の指揮官クラス。生半可な覚悟だと競り負けるよ?」


「そうだよなぁ。甘さは弱みになると言うしな」

「そう。相手はタヌキと同等と思った方が良い。油断は死につながると!」



 やっべぇ。敵がタヌキだとか、考えただけで危機感がガンガン増えていくな。

 確かにタヌキと対峙した時のように生半可な覚悟じゃダメだ。


 取られる前に取る!自然界の鉄則だろう。



「よし、大体の方針は決まったな!明日から行動開始か?」

「そうしよう。幸いここからならカミナの所まで半日もかからない。明日の午後には着けると思う」


「……最初は再生輪廻のカミナさんか。なんだか緊張するな!」

「緊張?大丈夫。ユニクに危害は加えさせない。解剖なんてさせないから」


「解剖ッ!!?」



 おい、ちょっと待て、全然大丈夫じゃないんだが?

 なんだよ解剖ってッ!?どういう事だよ?



「ちょっと待ってくれリリン。カミナさんって初対面の人を解剖とかしちゃう人なのか?」

「そうだけど?むしろそれがお仕事で、最近ではビデオにとって高額で売りさばいているらしい」


「……怖ッ!!」



 なんだよそれ!?!解剖してビデオ撮影とか正気の沙汰じゃないだろ!?

 心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の中でもヤバさが段違いなんだけどッ!?!



「な、なぁリリン。やっぱり会うの、やめない?」

「ダメ。そもそもユニクのレベルの上がり方がおかしいので近々見せるつもりだった。いい機会だと思う」



 そんなッ!!会うばかりかじっくり観察までされるだと?

 俺、生き残れるのか?



「なんか、怖すぎるんだが?」

「大丈夫だよ、カミナは優しいから。そんな事より、明日は朝早く移動する事になる。もうお風呂に入って休む準備をしよう」



 知ってるかリリン。優しい人は解剖なんかしないんだぜ?

 俺は内心、生命の危機を感じながらも、さっさと風呂に入る準備を終えたリリンの後ろ姿を見送るしかなかった。



 **********



 リリンが風呂に入ると消えてから30分後、湯室からほんのり色ずいた顔つきのタヌキが出てきた。


 前門のタヌキ。後門の仲間(デヴィル)

 ……まさしく四面楚歌、俺に明後日はあるのだろうか。


皆様こんばんわ。青色の鮫です!ご愛読ありがとうございます!!


この話で第4章が終了となり、いつもの幕間を挟んだ後、第5章の開始です!

第5章『心無き魔人達の統括者・編』ではついにリリンの仲間たちが登場いたします。


……彼女達の数々の悪事も晒されますよ。

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