第69話「人狼狐・夜の襲撃 ロリコン・フェチ・オタク」
「結界張りながら雑魚散らしができるくらいに、お前が器用なのは知ってるが……、毒物系は俺様が処理してやる。シーライン」
「では、我は遠距離系を。久々の死地だ、楽しんでいこうぜぇ」
「あー、毒系とか遠距離系とか好き嫌いは良くありませんね。というか、不可能です」
「「あ”?」」
皇種を含む超越者に喧嘩を仕掛ける。
入念な準備を行っていても、分の悪い戦いだ。
それをよく知っているからこそ、シーラインとアストロズは役割を分担し、勝率を上げようとしている。
「まずは、私がどのように結界を張り直すのかをご説明しましょう」
「先に言えや。で?」
「五十一音秘匿、私の世絶の神の因子は魔法や現象を秘匿して不可視・不認識化させるという、言ってしまえば収納BOXのようなものでして」
「便利そうじゃねぇか、保持型魔法剣の上位互換だよな、それ」
「ですが、数に限りがございまして……、51個ある保存BOXの殆どが、既に利便性の高い魔法で埋まっています。そして、その中には、接触型恐怖結界は存在しません」
「なるほどな、おめぇが時々、詠唱をすっ飛ばして魔法を打つのはそれが原因か」
エアリフェードが偉大なる魔法の師と呼ばれているのは、不可能な魔法現象を発生させるからだ。
炎系の魔法が着弾した瞬間、対象物が氷結する。
『魔法は、魔法次元から取り出しているだけ』という真理を理解すればするほど、それが不可能という結論に至る。
声紋によって魔法次元の扉を開くという性質上、詠唱していない魔法が発生するはずがないからだ。
「犠牲を出さない為には、まず、接触型の恐怖結界を五十一音秘匿で回収、それと同時に、結界が消えたという事実も秘匿します」
「ん?どういうこった?」
「結界が消えているという現象を秘匿、要するに、結界が変わらずそこにあるように見せる訳です」
「なるほどな、で?」
「見かけ上は変化なし、ただし、切り替わる際の魔法の揺らぎは発生してしまうでしょう。それを感知し、即座に結界の突破を狙う行動の速い皇種が侵入してくる訳です」
「張り直すのに1時間だったか?おめぇは被害を出さねぇとかほざいたが……、無理だ。我の剣でも流石に10km以上離れた敵は切れねぇ」
「いえ、あなた達にはそれぞれ8kmの守備範囲を防衛して貰います、それならば出来るでしょう?」
エアリフェードはアストロズとシーラインの実力を信頼している。
双方ともに本気で戦う時の有効攻撃圏内は10km。
彼らを中心に前後左右5kmに入った生物は、生殺与奪の実権を握られることになる。
「何か策があんのか?」
「ダルダロシア大冥林全体を覆うほどの広域結界は、一人の魔力で賄うことは難しい。それこそ、那由他や蟲量大数などの始原の皇種でなければ不可能です」
「そういやそうだな。燃費が良いっつっても、これだけの規模の結界を維持するのは並じゃねぇ」
「それを可能にしているのは、結界の内部に魔法ブースターという魔道具が設置されているから。この魔道具は、周囲で発生した魔法を吸収して増幅・拡散。数珠つなぎに設置することで、リレーのように魔法効果を伝播させ、広域へ効果を及ぼすものです」
古代魔道具であるそれは、ラルバの神像平均によって作り出されたもの。
魔法効果を平均値させ続けるそれは、世界各地に存在する人類生存圏を保護する重要な役割を担っている。
「魔力ブースターは、効果減退をさせずに受けた魔法効果を隣に流す。そして、それを輪状にすることで循環させ維持する仕組みです」
「へぇ、一か所止めれば良いって話か」
「正解です。結界を消した瞬間、左右の魔力ブースターが連鎖的に停止し始めます。その後、私が新たに張った結界が後を追う。図に書くとこんな感じですね」
結界(●)を秘匿した瞬間、私の左右に分かれて効果が停止、これには偽装工作(×)を施します。
●●●××××←エアリフェード→××××●●●
その後、新たな結界を発動。
●●××〇〇←エアリフェード→〇〇××●●
「ですが、効果が切り替わる瞬間の違和感は消し切れません、あなた達は、(×)を追いかけ、皇種の侵入を防いでください」
「その(×)の部分が8kmって話か。ダルダロシア大冥林の外周を左右に分かれて半周、移動速度は時速何kmになる?」
「左右の合流が1時間後ですので、ちょうど時速100kmですね」
ダルダロシア大冥林の面積は、直径65kmの円形。
円周は約200km、左右それぞれ100kmを一時間で駆け抜けることになる。
「結界停止が時速100kmで進み、5分後に再発動。計算すると、8km分(×)となり無防備です」
「我らは時速100kmで森ん中を移動しながら監視し、強力な生物が結界から出ない様に、5分間足止めすりゃいいって事か?」
「そうです。新しい結界に触れさせれば、恐怖を感じて森に帰るでしょうから」
「皇種にも効くレベルの威嚇をしながら、見通しの悪い森を高速で走れってか。かっ、こりゃ、相応の報酬が出ねーとやってらんねーな」
「それならば問題ありません。なにせ、私達にはアイドルユニット、びじゅある・びーすと個別ライブが待っているのですから!」
お前ら、オイラ達のファンになりたいのか、ダゾ?
そんなもん……、いくらでも歓迎するんだゾー!!
こんな感じでベアトリクスからライブの確約を取り付けた、ロリコン・フェチ・オタクは無敵モードに至った。
推しのライブを見るまでは死ねないと、全身に色んな魔力が漲っている。
「おい、そこの筋肉。お前は右に行った方が良いぞ~~」
「うさ皇、そっちになんかあんのか?」
「お前、毒担当だったろ。蛙皇合葬・ヘカトンヘケトの縄張りは右側だ」
「!!」
高麗人参酒を舐めながら様子見していたアルミラユエトが、上目遣いで話に加わった。
ただでさえ可愛い顔が酒で色付いているという口撃は、ロリコン・フェチ・オタクを二重の意味で悶絶させる。
「あの、クソ仕様毒蛙か……、他には?」
「んー、皇腸堀彫・モリブデンデスワームもそこら辺に居るらしい」
「クソ固ぇって伝説の銀ワームも居やがるのかよ」
「いるいる、何回か見たし。左側はよく分からんけど、逆に名前だけ聞いたことある奴がそっちに住んでんじゃねーか?有皇霧像・ガネシュガンパとか、羊骨皮皇・タングニョルニルとか」
「うさ皇、あんがとよ。この情報があるだけで、かなり助かるぜ」
オタク侍……、シーラインが抱いたのは、純粋な敬意だ。
噂や憶測が多い皇種の情報は、値千金の価値がある。
ましてや、縄張りをかけて争っている相手からのリーク情報、顔をほころばせたオタクがロリの頭を撫で回してしまうのも無理はない。
「おーよしよし、もっと酒飲むか?ほれ」
「ちょ……、べ、別に、お前らの為に教えたんじゃないんだからな!?縄張りが変わると困るし!?他の奴も迷惑するし!?」
再び放たれた、悶絶級の口撃。
明らかに酒のせいだけじゃない赤面での上目遣いに、ロリコン・フェチ・オタクはキュンキュンが止まらない。




