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第67話「人狼狐・夜の逢瀬 ユニクルフィンとリリンサ

 

「っと、関所に着いたが……、どこに行けばいいんだ?」



 最初に温泉郷を訪れた時に通っただけで、俺は関所に詳しくない。

 その時もサチナの案内に耳を傾けていて、よく見ていなかったしな。

 そんな訳でうろ覚えなんだが……、ん、あそこに人だかりが出来てるな?



「申し訳ございません!!ただいま、温泉郷からのご帰宅を制限させていただいております!!」

「だから、俺達は国がらみの大事な依頼があんだよ。ご帰宅じゃねぇ、仕事だ仕事、通しやがれ!!」


「本当に申し訳ございません!!現在、物理的に移動が困難となっており……」

「物理的だぁ?めんどくせぇ、いいからどけやぁ 」


「お客様!?」


 騒いでいるのは成人男性6人のガチ冒険者パーティー。

 レベルも全員が3万前後で、不安定機構支部の代表になっててもおかしくない熟練感が出ている。


 そんな彼らは関所と外を繋ぐ巨大な鳥居門の前に陣取り……、あ、強行突破しようとしたリーダーっぽい男が見えない壁に激突した。

 ゴシャァッッ!!って効果音付きの、良い自爆だったぜ。



「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

「……リーダー?」

「ぐぇぇ……。」


「っと、このように、物理的に遮断されておりますので」

「ぐぅぅぉぉ、誰だよこんなことした奴ぁ、これじゃ、噂の魔王を倒しにいけねぇじゃねぇか」



 そうか、命拾いしたじゃねぇか。

 尻尾が生えているタイプの魔王は締め出されてご機嫌ナナメだし、残りの魔王は殺気立ってる。

 喧嘩なんか売ろうもんなら、全身余すと来なくゴシャァッッ!!されるぞ。

 俺的にも面倒だし、大人しくしておけと忠告をしておこう。



「ちょっといいか?魔王って聞こえたが」

「俺達はブルファム王国を拠点にしている冒険者でよ、ついに魔王が攻め入ったって聞いたもんでリーダーが焦ってんだ」


「なるほどな、だけどもう急がなくていいぞ、戦争はもう終わったから」

「終わった?」


「詳しくは温泉郷内の不安定機構にでも聞いてくれ、広場に支部があったからさ」



 何の確証もない丸投げになっちまうが……、ワルトなら根回しをしている気がする。

 そう思ってした提案だったが、その読みはどうやら正しいらしい。



「お客様、今回の事態は全て温泉郷側に問題がございます。ですので、不安定機構を通して損害賠償の請求をしていただければ、私共が賠償を行わせていただいております」

「へぇ?ちなみに、俺達への迷惑料はないのかよ?」


「ございます。緊急事態ですので、どのような形での賠償になるかは決定しておりませんが、最低でも、お一人様あたり100万エドロ相当の迷惑料をお支払いすることが決まっております」

「100万エドロ、だと!?」


「なお、事態が鎮静化するまで宿泊料金は発生いたしません、ご不便をおかけいたしておりますが、なにとぞ、ご容赦くださいませ」



 しっかりと頭を下げて謝罪する従業員の姿を見て、男も肩をすくめた。

 タダで温泉郷を満喫どころか、100万エドロ以上も得をすると聞かされれば納得もするか。



「従業員さん、俺もちょっといいか?」

「申し訳ございません、現在は――」


「通れないんだろ?それは分かってるんだが、関所のすぐ外に友人がいてな。どうにかして連絡を取りたいんだ」



 男達と入れ替わり、今度は俺が従業員さんに話しかけた。

 簡単に事情を説明し、サチナや心無き魔人達の統括者の名前も出す。

 従業員さんは驚きつつも丁重に頷き、こちらへどうぞと別室に案内してくれた。



「ユニクルフィン様がいらっしゃることは、ワルトナ様より伺っております」

「やっぱりか。それで、リリンと連絡を取ることは出来るか?」


「少々お待ちください、お呼び出し致します」

 《お呼び出しをさせて頂きます。リリンサ様、セフィナ様、至急、鳥居門までお越しください》



 従業員さんがマイクに向かって話すと、関所の外から声が聞こえた。

 どうやら、関所の外のスピーカーに繋がっているらしい。



「へぇ、声は届くんだな?」

「関所で遮断されているのは物質のみようです。先ほどの冒険者が勘違いした通り、外の様子を見ることも、外にいる人物と会話することも可能です」



 遮断されているのは物質のみ、か。

 そこん所が今後の鍵になりそうだ。



「ちょっと試しておくか。《単位系破壊=空間ベクトル》」



 見えない壁がある鳥居門に移動し、グラムを差し込む。

 帰ってきた手ごたえは、尋常じゃない固さ。

 グラムで無理やり破壊はできそうだが……、壊す対象は『空間』じゃないな。



「ユニク!!」

「おう、待たせたリリン。セフィナとベアトリクスも無事のようで安心した……、ぜ!」



 鳥居門の厚みは大体3m。

 互いに表情を確認し、リリンの笑顔に少しだけ癒される。


 そう、ほんの少しだけ。

 その笑顔の正体が、人間の領域を超えちゃったことによるドヤ顔だと気が付くまでの1秒だけだ。



「おぉう、レベルが10万になってやがる」

「ふっ、私もついに英雄の領域に踏み込んだ。鹿の皇種を斃して!!」


「ふっ、ちょっと見ない内にすくすく成長していくな、この魔王さま」



 皇種襲来を警告しに来たのに、もう既に戦っているどころか、しれっと斃しちゃってるんだが?

 確か俺達がリリンにお願いしたのは、外に居る冒険者を納得して帰らせろって指示だった。

 100%冒険者を蹴散らしているとは思っていたが……、ご冥福をお祈りします、鹿の皇。



「……って、待て待て、鹿の皇種と戦ったって、どういうことだよ!?」

「ベアトリクスの悲鳴が聞こえたので助けに行った。ロリコンと一緒に!!」


「やべぇ、謎が増えた」



 ロリコンからクマ幼女を助けた……んじゃなくて、ロリコンと一緒に助けに行った?

 ロリコン、ロリコン……、あ、師匠か!?!?



「その人って、黒魔導主義ブラッククロニクルとかいう師匠か?」

「そう。忌むべき変態エアリフェード、なお、筋肉フェチとオタク侍も一緒」


「なんでいるんだ?」

「なんか、レジェに呼ばれたらしい。蛇峰戦役の会議をする為とか?」



 ……レジェリクエに呼ばれた、だと?

 普通に考えれば敵って事になるが……、後から来るっていう『130の獣』がこいつ等って事か?



「そいつらは今、どこにいるんだ?」

「隔絶結界の状態を確認に行ってる。ホーライの回想に出てきたダルダロシア大冥林の境界になってる奴」


「そうかよ。なぁ、リリン。そいつら、無色の悪意の手下のなんじゃないか?」



 既に、9人の人狼狐は判明している。

 金鳳花、レジェリクエ、カミナ、メナファス、ローレライ、セブンジード、メイ、メルテッサ、アルカディア。

 だから、リリンの師匠の配役は130の獣、明日の午後に襲来する危機に属しているはず。



「むぅ?たぶん違うと思う」

「えっ、なんでそう思うんだ?」


「ロリコンは超常安定化バランシールに属するお母さん直属の部下で、金鳳花や無色の悪意と敵対している」

「でもそれは本人の供述だろ?ノウィンさんにも確認できないし」


「ワルトナに確認を取ればわかる。顔見知りだと言っていた」



 ワルトが事情を知っている……、なら、信憑性は高いのか?

 リリンに詳しく話を聞くと、どうやら、ワルトの手が届かない仕事を請け負っていたらしい。

 その為、かなり頻繁に連絡を取り合っていたようで、ノウィンさんの指示を実行するリリンやワルトの誘導役も兼ねていたとか?



「無色の悪意とは関係ないけど、ある意味、ロリコンが黒幕だったと言っていい。ユニク、あとで本気でブチ転がすから手伝って!」

「おう、わんぱく触れ合いコーナーに連れ込んでやるぜ。ちなみに、残りの二人はどうなんだ?」


「ボディフェチとオタク侍は……、逆に、何も知らされていなかった。セフィナの事も知らなかったし」

「リリンを鍛えるために呼ばれた人材か。判断に迷うが……」



 人間も動物ではある。

 130の頭が様々な生物のトップを意味しているのなら、レベル99999の人間代表を入れるのはおかしくない……のか?



「130の頭じゃないかとも思うんだが……、」

「その事で報告がある。ユニク、130の獣とは、ダルダロシア大冥林の事を指すと思う」


「ダルダロシア大冥林?それはワルトも言ってたぞ、そこに住んでいる皇種が襲来する可能性が高いって」

「そういうことではない。ダルダロシア大冥林そのもの……、この森は巨大な森ドラゴンの背の上にある。そして、そのドラゴンとは輪廻を宿す木星竜、ホロビノと同格の惑星竜の一匹」


「なんっ……」



 そんな馬鹿な話があるのかよ。

 巨大な森を背負うって、それ以上の大きさって事なんだぞ。



「地図を持ってる訳じゃないが……、少なく見積もっても数km、下手すると桁が変わって来る」

「冥王竜が大体20m、100倍~1000倍の大きさになる」


「そんな奴がいる事にも驚きだが、そいつが敵だってのは確定してるのか?」

「した。戦ったもう一匹の兎の皇種が、木星竜によって無色の悪意を植え付けらえたと言っている」



 平然と他の皇種が出てきたが、冗談どころじゃねぇ。

 更に詳しく話を聞くと、木星竜の狙いはサチナ。

 戦闘になった兎と鹿の皇種はベアトリクスを殺しに来たそうで、サチナを相手にする気はなかったそうだ。



「エイワズニールもアルミラユエトも馬鹿じゃねーゾ。絶対勝てないサチナに喧嘩売る訳ねーんだゾ」

「その口ぶりじゃ顔見知りなんだな?ベアトリクス」


「色々世話になったゾ。あ、気にするなダゾ。エイワズニールが死んだのはリリンサよりも弱かったから。自然界は弱肉強食なんダゾ」



 なるほど、エイワズニールが鹿の皇種か。

 確かコイツ……、ずっと前に親父がシバいて、人間を襲わない協定を結ばせてたはず。



「おかしくなってるのは間違いない。そろそろ話をまとめるぞ、リリン」



 ダルダロシア大冥林そのものが意思を持つ敵、寝耳に水な話だったが……、いよいよ、ホロビノの動向も気にしなくちゃならないようだ。

 だが、その事をリリンに話す訳にはいかない。

 こうして顔を見て話は出来るが……、もしも動揺して窮地に陥っても守ってやることができない。



「この結界は白銀比が張ったもので、解除も本人にしかできない。探してるんだが見つからねぇ」

「それは予想してたこと。それで、私達は何すればいい?」


「ワルトから貰ってる指示は『ソドムとゴモラに協力を依頼し、帝王枢機でダルダロシア大冥林を撃滅しろ』だ。できるか?」

「ちょっと聞いてみる。ゴモラ、相談がある」



 一緒に居るのはゴモラだけなのか。

 そしてリリンはセフィナが抱えていたゴモラと話をし、アップルパイとバナナケーキを餌に協力を要請。

 超有名店であろう洋菓子店の名前が10を超えた時、声高らかに了解を得た。



「とりあえず、私達はアップルルーンに乗って森に向かうことにする」

「ちなみに、ソドムはどこに行ったんだ?」


「新型機の設計図の最終チェックをしている。明日中には完成させると言っていた!!」

「……、これほどお前が頼もしいと思ったことはないぜ、カツテナイ・タヌキィ!!」

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