第65話「人狼狐・夜の襲撃⑥ ユニクルフィンと英雄
「にゃは。面白い冗談だね、ユニくん」
目の前にレジェリクエとメルテッサ、背後にローレライ。
単純な戦闘力なら、ローレライが有利。
だが、メルテッサとレジェリクエの何をしてくるか分からない汎用性を考慮すると、どっちもどっちって所だ。
「メルテッサ、手加減は無しよぉ」
「ぼくにもプライドってものがある。二度も負けるのはごめんだよ」
レジェリクエが構えた双剣に見覚えが無い。
破壊値数的には神殺しとほぼ同等、レーヴァテインに感じが似ているが……。
「くすくすくす、行くわよぉ」
カツン。っとヒールを鳴らして、レジェリクエが走り出す。
両手に持った剣を翼のように広げた前傾姿勢、もともと小柄な身体をさらに小さく、そうして繰り出される疾駆は――、迅雷のごとく。
「マジかよ、リリンよりも速ぇ」
その動きには、一切の無駄がなかった。
魔王シリーズで武装しているリリンの方が瞬間速度は出ている、だが、100m走をしたらレジェリクエの圧勝だ。
それは、完成されている、武の型。
特殊能力を盛りまくっているくせに、剣士としてミオさん以上の技量を持ってるとか、予想外にも程がある。
「が、な」
「かふっ……!」
真っ当に強いってだけの剣士に、今更劣る俺じゃない。
眼前の空気圧を破壊し、レジェリクエの疾走を加速。
僅かに崩したバランスへ蹴りを叩き込む。
「天使の守り手!大丈夫かい?」
「準備万全、よぉ……」
見舞った蹴りが腹に食い込む前に、短剣を差し込まれて防御された。
だが、今の俺は身体に破壊エネルギーを巡らせている。
言ってしまえば全身がグラム、相応のダメージが入ったはずだ。
「絶対破壊で負った傷は簡単に回復できない。レラさんですら手こずる……、と思ったんだがな?」
「知っているんだから対策済みに決まってるでしょぉ。ねぇ、メルテッサ」
「そうだね。初めての痛みだったんだ、きっと、生涯忘れない」
レジェリクエを受け止めたのは、メルテッサが出現させた巨大な機械両腕。
黒い方は魔王シリーズ、そして、白い方は天使シリーズがモデルか?
ちっ、何処をどうしてそうなったのかは分からないが、見舞った蹴りの傷跡が消えている。
「今度は、ぼくら二人で行こう」
「そうね、余一人では荷が勝ちすぎているものぉ」
まったく、油断も隙もありゃしねぇ。
支配聖域を使って二人で行くと宣言し、俺の意識を誘導。
その致命的な隙にレーヴァテインを差し込もうと、ローレライが歩み寄る。
「勝ちに行くときは一切の容赦をしない、だろ、レラさん?」
「にゃは!おねーさんの趣味を把握してるとかさぁ、惚れちゃう、かも、ね!!」
グラムと激突し火花を散らすレーヴァテインの剣戟を偽り、否定する。
そうして巻き戻された互いの攻撃モーション、そこへ、間髪入れずにレジェリクエが突っ込み、完全な2対1の殺陣へと変貌。
ローレライが受け、レジェリクエが差し込む。
手数は俺の倍、しかも、レジェリクエが持っている剣も何らかの時間逆行能力が備わってやがる。
どんだけ破壊力を込めてグラムを叩きつけても、1秒以上、損傷を負わせることができない。
「英雄見習いは伊達じゃねぇか」
「これが余の答え。憧れを諦めるのではなく、余の好みに合わせて昇華させることにしたのぉ」
「そうかよ。……悪いな、壊しちまって」
「っ!?」
簡単な話だ。
何らかの魔法で状態が巻き戻るのなら、そのシステムの方を破壊すればいい。
同格の神殺しであるレーヴァテインを瞬時に破壊することは難しいが、それ以外の魔道具ならば問題なくできる。
ローレライへの迎撃を優先しつつ、レジェリクエが振るった剣にグラムを接触させること、3回。
ピシリ、と亀裂が走った刀身が砕け、花吹雪のように周囲に舞った。
「何のためにぼくがいると思っている?」
「随分と仲が良いじゃねぇか」
「友達だからね!!《造物主》」
世絶の神の因子は、自分で使っていない神殺しには干渉できない。
だからこそ、所詮は類似品でしかないレジェリクエの剣の欠片一つ一つに、過去最高威力を付与することができる。
「《単位系破壊=熱量》」
「《可逆肯定》」
熱量を破壊して空気を凍らせ、絶死の花吹雪の停止を狙う。
それをローレライがそれを否定、拮抗した世界への干渉力は、俺、ローレライ、レジェリクエの剣を一つにしようと膨張する。
「ごめん、ユニ。出遅れた」
天から差し込まれた、第三射。
俺の救出を想像し、現実へ創造させる矢を掴み、勢いに乗って脱出する。
「いや、ナイスタイミングだぜ、ワルト」
グラムとレーヴァテインの接触が強制的に中断され、エネルギーの主導権がローレライへ移る。
瞬く間に否定された光の中に、ローレライ。
そして、その横にレジェリクエとメルテッサが並び立つ。
「あらぁ、ワルトナじゃなぁい。デートはもう良いのぉ?」
「あん?」
「してたんでしょぉ?タヌキとランデブー」
「確かに、ふてぶてしいアホタヌキを探して走り回っていたけども、決してデートではない」
「その割には頬を赤らめているけれどぉ?」
「ブチギレてんだよ。分かってんだろ、言わせんな」
どうやら、ワルトはアルカディアさんに、まんまと逃げられたらしい。
流石はタヌキの集落で育った野生児。
きっと、死んだふりとかして出し抜いたに違いない。
「そんなに怒らなくてもいいのにぃ。だって、あなたの計画はこの上なく順調でしょぉ?」
「……いいや、想定外ばっかりで困っているよ。君らの排除もご覧のありさまだし」
「くすくすくす。……ねぇ、こんなものが、貴女の望みなのかしら?そんな結末で満足なのぉ?」
「……。」
「余には理解できないわぁ。たった一回のデートに命を賭けるなんて、自暴自棄にも程がある」
「そうだね、分からないだろうとも。誰彼構わず閨に誘う君には、僕の気持ちなんて一生理解できやしないよ」
これは、何の話をしているんだ?
意味的には分かる、レジェリクエがワルトナの恋心を弄って遊ぶ、いつもの光景。
分からないのは……、二人ともが一切笑みを零していない、冷酷な目をしていることだ。
「いいわ、邪魔をしないであげる。深夜の逢瀬に口を出すのも出されるのも、余の矜持に反するものぉ」
「お気遣いどうも。じゃあ、消えてくれるかい?」
「くすくすくす、せっかく幻夢におぼれているのだから、気が済むように楽しみなさいな。けれど、お昼過ぎまでベッドから出ないのはやり過ぎよぉ」
「口出ししないという割には饒舌じゃないか。心臓を射抜かれる前に、とっとと失せろ」
ワルトの鋭い眼光に射貫かれたレジェリクエ達が、三人同時に右腕を上げる。
刹那、魔法空間に亀裂が走り、地面に落としたガラス玉のように砕けて崩壊した。
投げ出された俺とワルトが立っているのは、リリンが待つ関所目前の場所。
想定通りの襲撃だったのに、想定以下の結果しか残せていない。
 




