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第64話「人狼狐・夜の襲撃⑤ ユニクルフィンとローレライ②」

 

「にゃは!にゃは!にゃはははははー!!」



 レーヴァテインの先端で地面を引っ掻きながら、ローレライが走り出す。

 あれは……、刀身と世界の両方を振動させて音を出し、魔法詠唱の代わりにしているのか。

 発声させた魔法は……、火と光、あとは虚無の魔法十典範だな。



「へぇ、相変わらず、小細工が好きなのか」

「相変わらず?」


「村に居た時も小細工してやがっただろ。昔は分からなかったが、今はバレバレだぜ」

「にゃは!」



 俺はボードゲームで村長には勝てるが、レラさんには負ける。

 そして、レラさんは村長に惨敗する。

 なんでだろうって思ってたが……、その答えがこの虚無魔法だった訳だ!!



「《単位系破壊=光輝ルクス》」



 空気に刃を通し、ローレライが発生させている光の異常屈折を破壊。

 1mほどズレていた視野情報、知らずに飛び込めばそのまま終わっていただろうが、無駄だったな。



「《単位系破壊=重量モル》。ぶっとべ」

「《疑心闇――!》」



 半歩、遅ぇよ。

 レーヴァテインが否定できるのは、成立した攻撃だけ。

 だから、間に合わせの防御しかさせなければ、重量破壊は防げない。



「くっ……!!」



 重量を破壊されると重力の影響を受けずらくなり、物質加速度が上がり、強度が下がる。

 そんな状態で真後ろに吹っ飛ばされれば身体中の関節がおかしな方向に曲がり、意識を失うのが道理だ。

 だが……、



「いてて、容赦ないなぁ」



 軽口を叩けるぐらいに元気なのか、流石だぜ。



「無事なのはレーヴァテインの副武装、その鎧のおかげか」

「進化と疑心の剣だからね、即死してちゃ適応できないでしょ」



 ぺっ、っと血を吐き出し、ローレライが獰猛に笑って走り出す。

 互いの距離は20mほど、超越者同士の戦いでは無きに等しい距離。

 ……それでも、確かにそこには距離がある。

 僅かにでも時間を要するなら、刃に魔力を通すくらい簡単だ。



「《神聖破壊・神すら知らぬ(グランドエンド)幕引き(ゴッデス)》」



 俺は何度か切り結んで破壊力をまき散らし、ローライの世界を調べていた。

 ここは柱のようなものが存在しない、真っ平は世界。

 紙で出来た箱のようなもんで、言ってしまえば、ここ自体がレーヴァテインで作った虚りの空間だ。


 そんな大前提をぶった切る為、肉薄したローレライへグラムを叩きつける。

 ありったけの破壊力、それと、レラさんへの思いを込めて。



「ちぇ、バレちゃったかぁ」

「レラさん、無色の悪意は欲望を加速させるんだろ?何が目的だ」


「なにさ?急に」

「村を出る時に約束しただろ。いつか強くなってレラさんの願いを叶えてやるってな」



 ……そうか。俺は悔しかったんだな。

 尊敬していた人が無色の悪意なんかに汚されちまったことが。

 願いを叶える為に取った手が俺じゃなかったことが、悔しいんだ。



「にゃは……。おねーさんの願いねぇ。すぐに分かるよ」

「こんな力の使い方をしたかったわけじゃねぇが、悪い、ちょっと痛いぜ」



 苦虫を噛み潰して笑うローレライごと、世界の壁を突き破る。

 ステンドグラスを叩き割ったかのように、色とりどりの結晶が空間から飛び散る。


 開けた視界はさっきよりも広く、そして、魔法陣が向き出しにされた場所だった。

 そこは戦闘中に準備するのではなく、あらかじめ全ての魔法(運命)が設置された……、真王姉妹の世界だ。



「ようこそ、余とロゥ姉様の世界へ」



 俺とレラさんの間に割り込んできた魔方陣から、歓迎の言葉が紡がれる。

 そこに宿っているのは、100%の好意。

 人は、好意を向けられると戦意や敵意を維持できない。



「……おい、どういうことだ?」



 ここにレジェリクエが悠然と立っている、それは敗北を意味している。

 分断して各個撃破、その目的の失敗が確定。

 あのワルトが負けた?

 それに……、



「メルテッサ」

「やぁやぁ、ぼくの愛しのユニクルフィン。ごきげんよう」


「お前、なんでそっちに居やがる?」

「何でも何も乗り換えたからだよ。良く考えてごらん、ぼくとキミら、ぼくとレジェリクエ、その友好度に絶対的な差なんてあったかい?」



 優雅に一礼し、メルテッサは指導聖母の仮面を被った。

 まるで感情を隠すように。



「お前が無色の悪意を持っていないのは確かめている。なら、今、カミナさんに何かされたって事か?」

「間違いだらけだね。ぼくは自由意思で君らを裏切ることにした。当然、無色の悪意なんて貰っちゃいない」


「なに?」

「目を覚まさせてくれたのは、レジェリクエだ。自分でも驚いているよ、持つべきものは友達なんてチープな格言に納得する日が来るとはね」



 キラリ。とメルテッサの左右が光る。

 仮面の認識阻害に魔道具を同期させて見えづらくしているようだ。



「ユニくんが気にしてたおねーさんのお願いなんだけどさぁ……、叶えて貰うまでもないんだよね。だってそれは、レジィがメルテッサちゃんを確保するまでの時間稼ぎなんだから」

「レベルが……、ちっ、英雄見習いになったのか」


「にゃは!レジィは努力型の子だからね。ちょっとした切っ掛けさえあげれば、この通り」



 俺の前にレベル10万の超越者が二人。

 背後にレベル29万の英雄が一人。

 ……はっ、上等じゃねぇか。



「その口ぶりじゃ、罠に嵌められたのは俺達の方だったようだな。ワルトはどうした?」

「タヌキと戯れてるわよぉ」


「どのタヌキだよ。いっぱい居るだろうが」

「あなたの通い妻ぁ」



 ちっ、アルカディアさんか。

 無色の悪意で無限の食欲を煽ったに違いない。



「なら、心配いらねぇな。ワルトが負けるとは思えない」

「あら、どうしてぇ?」


「人狼狐が始まって以降、後悔を押し殺すような声を出す時があってな。ワルトはお前らと交流が深い。親しい友を射抜くのに戸惑いが無いはずがない」

「くすくすくす……、そうかしら?」


「だが、アルカディアさんとは対して交流してないからな。躊躇が無いなら負けるはずがねぇ、ワルトは強いからな」



 戦争の時に見たワルトの実力は、その時点のリリンを凌駕していた。

 なにせ、戦場の盤面をひっくり返す際に、リリンとセフィナ、ホロビノと冥王竜が右側を担当。

 そして、残りの左側を一人でやったのは、ワルトだ。



「信頼しているのねぇ。くすくすくす……」

「何がおかしい」


「これが恋する幼虫が必死に考えた戦略だと考えるとねぇ、くすくすくす、あぁ、微笑ましぃ」



 唇に指を当て、レジェリクエは本当に楽しそうに笑った。

 その声から伝わって来る感情は、まるで、思春期前の子供の失敗を笑う大人のようで。



「頑張って誘ったデートを大人が邪魔するのは野暮ってものよねぇ。ロゥ姉様、メルテッサ、帰りましょぉ」

「……させると思ってんのか?」


「あら、デート中に別の女に手を出すなんてぇ、マナー違反も甚だしいわよぉ」



 そうだな。デートだったなら最悪も良い所だ。

 だが、残念なことに、これはデートじゃねぇ。



「俺がお前らを倒し、ワルトがアルカディアさんを倒す。これで残るのは金鳳花一人だ」



 セブンジード、メイ。

 レジェリクエ、ローレライ、メルテッサ、アルカディア。

 メナファス、カミナさんだって近くに居るだろう。

 これに金鳳花を加えれば、9人。


 まったく、ひっでぇ状況だ。

 だが、俺がちゃんとやれれば覆せる。

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