第63話「人狼狐・夜の襲撃④ ユニクルフィンとローレライ」
「にゃは!」
カツン、カツン、カツン……。
漆黒の空間にヒールの音が響く。
英雄ローレライの足取りは揺るぎなく、軽快に、威風堂々と、俺に向かって歩き始めた。
「《疑神不備典範・創神十理》」
俺が踏んでいる地面がぶにょん。っと沈む。
靴越しに伝わって来る柔らかな死、それが魔法十典範によるものだってのは分かっている。
視界に出現した7匹の竜、その口内に宿している魔法陣は、それぞれ、火、水、風、地、光、虚無、時の魔法十典範。
レラさんが飛び乗った竜は防御、そして、竜共の陰に隠れているのが回復とバッファか。
「《単位系破壊=粘度》」
俺の足と融合しようとする地面の間にグラムを差し込み、物質粘度を破壊。
分子の粒へと破壊し、そのままエネルギーをまき散らして吹き飛ばす。
「《単位系破壊=圧力》」
俺を中心に大気圧を破壊し、レラさんと竜にエネルギーを叩きつけて進行妨害。
そして、俺の前には邪魔な空気は存在しない。
「《単位系破壊=重力》」
一気に加速して肉薄し、近くに居た炎と水の竜の首を落とす。
刃に宿しているのは魔法の理を破壊するエネルギー、魔法十典範だろうが一方的に破壊できる。
……が、そう簡単に勝利にはたどり着けないようだ。
「《疑心闇技》」
3匹目、光の竜の首を両断した瞬間、ローレライが振るったレーヴァテインがグラムに接触した。
そして起こる攻撃の否定、その結果、破壊されたはずの光の竜は健在。
まばゆい殺意を俺に向け。
「《単位系破壊=光輝ッ!!》」
なりふり構っている場合ではない。
全力で放った光を破壊するエネルギーが互いの視界を犠牲に、光の竜の根源を抹消。
あとは、闇に紛れた残りの殺意への対処だ。
「《単位系破壊=圧力》」
再び大気圧を破壊、動き出した竜の動きが鈍る。
だが、止まらない。
背後に隠れていたバッファ魔法を宿す竜の援護により、無理やり圧力境界面を食い破って突き進んでくる。
「にゃは!」
「……見誤ったな、レラさん」
確かに俺は、一度目の拘束と同じく圧力を破壊した。
竜の前後で大気圧の密度の違いを作り、押す力と引く力が拮抗する力場を作ったのだ。
だが、今回は違う。
一気に遥か後方まで破壊し、竜の周囲の空気が持つ全ての圧力を破壊。
本来、大気圧によって押し止められているエネルギーは解放され、レラさんにとって想定外の誘爆が引き起こされる。
「!!」
コントロール不能となった魔法十典範のエネルギーが、漆黒の空間を埋め尽くした。
俺は四角く切って破壊した空間に逃げ込み、無事。
一方、レラさんは……。
「やるじゃん」
……はっ、流石だぜ。
無傷か。
「魔法十典範で作った竜をこうも簡単に処理しちゃうとはね。おねーさんビックリ」
「エデンと戦った話を聞いたからな。お宝を探しながら、俺ならどうする?って考えたんだよ」
「にゃはは、つくづく、情報は簡単にしゃべるもんじゃないね」
ここまでは想定内。
魔法十典範は強力な魔法だが、リリンだって使ってくる。
今更、知っている攻撃で後れを取って良いはずがない。
だが、ボロボロにするつもりだった魔法空間が無傷なのは、納得できねぇな。
「グラムは絶対破壊の剣、その性質上、過去に俺が一度でも破壊したことがある物質は一方的に破壊できる」
「そうなんだ?」
「前に戦った時はレラさんの世界をぶっ壊して外に出た。当然、その破壊力を攻撃に混ぜ込めば、さっさと外に出られる訳だ」
「にゃははー?あれー?おかしいねー?」
やっぱり、何かしてやがるのか。
その下手くそな誤魔化し方、村長にイカサマを見抜かれた時と同じだぜ。
「たった数日で成長しすぎだろ」
「ユニくんに言われたくなーい。今も、どう破壊してやろうか虎視眈々と狙ってるくせに」
グラムの破壊が全く効いていないとは思えない。
だからおそらく、グラムの刃自体が届いていない――、魔法空間の本体は二重になっている外側にあるとかか?
 




