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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第13章「御祭の天爆爛漫」

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第62話「人狼狐・夜の襲撃③ ワルトナとアルカディア」

「死んだら終わり……?そんなの、聞いてないし……」



 ねぇ、アルカディア。余のお願いを聞いてくれるかしら?

 う”ぎるあ?


 わんぱく触れ合いコーナーでワルトナを弄んでぇ、足止めして欲しいのぉ。

 足止めだし?別にいいけど……、ご褒美があるともっとやる気が出るし!!


 そうねぇ、貴女の集落のタヌキ全員をオレンジ食べ放題ツアーに招待しましょう。もちろん、用意するのはオレンジだけじゃないわよぉ。

 た、食べ放題!?200匹くらいいるけど大丈夫だし!?


 くす、大丈夫よぉ。だから、ぜひとも全力の殺る気を出して頂戴ねぇ。

 任せるし!!



 そんな安請け合いを経て、アルカディアはワルトナ襲撃を押し付けられた。

 絶望的に勝機が低く、起死回生すら無効化される可能性が高い戦いにタヌキを送り出す。

 それは人的損失を回避し、なおかつレジェリクエの目的『時間稼ぎ』を効果的に行う妙手だ。



「アホタヌキ。やる気がないなら、さっさとどっか行きな。というか、森に帰って二度と出てくんな」

「……でも、みんなにオレンジ食べ放題させてあげたいし」


「あ”ん?」

「ドングリのチームも頑張ってたし、プラムの友達とかも居る……、死ななきゃいいだけだし!」



 レジェリクエのお願いが時間稼ぎだという事は、アルカディアも理解済みだ。

 故に、逃がさないように星神支配を発動し、既に互いの魂を鎖でつないで戦闘不可避状態となっている。


 そしてアルカディアは赤いラインが走るガントレットを膝に当て、屈伸運動。

 いつの間にかいつもの姿に戻り、万全の戦闘準備を整えていく。



「……はぁ。あのさ」

「なんだし」


「僕がお前を疎ましく思ってるって、気が付いているのかな?」



 ピィン……と響く、音色。

 それは、弦楽器の調律と同じ意図。

 そうして戦いの準備を終えたワルトナは、神栄虚空シャキナ=神憧への櫛風沐雨アドマイアレイン・ゴッデスをアルカディアに向けた。



「何の音、だし!?」

「《これは、世界が軋む音。張り巡らされたイトは絡み合い、やがては己の運命すら断ち切ってしまうだろう》」


「音楽を伴った大規模な魔法詠唱!?まずっ……」



 上位者であるソドムやゴモラ、那由他との交流を経て、アルカディアはそこらのタヌキとは比べ物にならない知識を手に入れている。

 そして、生まれて20年も経っていない若輩タヌキが世界の頂点に立つ存在と交流、それを可能にしているのは、地雷を踏み抜かない危険回避の能力が備わっているからだ。


 そんなアルカディアは理解した。

 変貌していく空間は、さっき見た英雄のソレと同等以上。

 いや、殺意がむき出しにされているこちらの方が、圧倒的に危険だと。



「《折衝の雨(コーラス・レイン)》」



 水平に並んだ七本の矢が、アルカディアの横を通り過ぎた。

 彼女の回避が成功したのではない、そもそも、放たれた矢の狙いが違うのだ。


 それは、ワルトナが奏でる鎮魂歌の準備。

 七本の矢に付随する七つの音階を奏でる弦、それが環境と結合し、わんぱく触れ合いコーナーを楽器へと変貌させる。



「これは友の為に用意した曲なんだ。タヌキに聞かせるのは勿体ない」



 鳴り響く荘厳な音楽に合わせ、アルカディアでは想像しえない現実が創造されてゆく。

 ヴァイオリンの、ピアノの、チェロの、ハープの……、弦を用いるあらゆる楽器が織り重なった見事な音の羅列は、そのままの数の殺意となってアルカディアへ集中する。


 音速で迫る、魔法効果を宿した実物を伴わない空想の矢。

 唯一神は音を介して魔法を行使する理を定めた。

 故に、ワルトナは音こそ魔法であると想像する。



「すり抜……!」



 飽和する一斉集中放射、その中で最も脆弱な部位を見定め、アルカディアは駆け出していた。

 互いに歩み寄ったことで接触タイミングをずらし、綻んだ弾幕を拳でこじ開けようと思ったのだ。


 だが、一本目の矢をアルカディアは掴み損ねた。

 千海山を握する業椀の能力『蛇鱗折々(ティターン)』の不発……、エネルギー拾得に失敗し、取れる選択肢が一気に狭まる。



「う”ぃ、ぎるあ……」

「へぇ。大したもんだね。まだ生きてるとは」


「よく言うし……、」



 ぼたぼたぼた……と、アルカディアの全身から血液が滴り落ちる。

 その矢は実物を持たない空想の矢、故に、突き刺さった傷口は塞がることなく、血液を吐き出し続ける穴となる。



「わざと、エネルギーの低い攻撃にしてる。掴めないし、奪っても意味が薄い……」

「タヌキ相手にパワープレイとか。そんな考えなしはユニだけで十分でしょ」



 荘厳に続く鎮魂歌を背景に、ワルトナが微笑んだ。

 地に伏せ、血を臥せ、死に逝くタヌキを見下ろし……、その傷口に蹴りを入れる。



「う”っ……!?」

「なにが、ユニの通い妻だ」


「う”ぃ、ぎるあ……」

「なにが、愛するペット枠だ。僕の許可も無しに勝手に話を進めるんじゃないよ」



 美しい音楽に混ぜ込まれた、感情。

 自分でも抑えきれないソレが、ワルトナは嫌いだった。



「僕がどんな気持ちで此処に来た思う?ねぇ、僕がどんな気持ちでこの場を用意したと思う?」

「う”ぃ……」


「全てを悟った僕が、どんな気持ちで、友達に弓を弾くと決めたと思う?なぁ、答えてみろよ、タヌキ」



 アルカディアの意識は既に朦朧としている。

 失血が多すぎて、あらゆる感覚が麻痺し始めているのだ。


 もう、後が無い。

 今から10秒以内、それが、最後のチャンスだし。



「う”ぃっ!ぎる、あ”あ”あ”あ”ッッ!!」



 目の前で弓を引き絞っていたワルトナを威嚇し、刹那、体を返して一直線に後ろに向かって走り出す。

 ここに観客が居るのならば、それを敗走だと捉えるだろう。

 だが、当事者はそう思っていない。



「げぶっ、《模倣する目撃者(タヌキメモリー)・バビロン様の技――!!》」

「おや、認識阻害を見破られるとは、僕もまだまだだねぇ」



 ワルトナはもとより、己自身で戦っていない。

 アルカディアの相手をしていたのは、シェキナで作り出した想像の姿。

 そして観客席でくつろいでいた本体は、鬼の形相で迫りくるアルカディアを眺め、ふーん、っと鼻を鳴らす。



「――に、那由他様の技を混ぜたとっておき!!《皇錬寺(オゥレンジ)文武駆ッ茶釜(ぶんぶくちゃがま)ァァァ!!》」



 タヌキ帝王・バビロンが放った必殺技『紫金銅文武駆茶釜』。

 それに憧れたアルカディアは、こっそり那由他にやり方を教えて貰っていた。


 千海山を握する業椀、その名の由来は……、その手で世界を握り潰すから。

 5本の指先で世界を引っ搔いて握りこみ、空間が所持していた神のエネルギーを拳と融合。


 それは、那由他が神を本気で殴る時に使う技。

 強制的に神の理を混ぜ込まれたそれは、疑似的な神殺しと化している。



「う”……!!」

「だから?」


「げぼっ……」

「僕は冒険者でもある。野生動物の最後の抵抗を想像しない筈がない」



 迸るエネルギーを宿した拳は、もう、地面に転がっている。

 ワルトナに肉薄したアルカディア、その振るわれた腕は上下から出現した矢に縫い留められた。

 明らかな危険物である拳には触れず、手首以降に集中するように想像されたその攻撃は、的確に。


 アルカディアの心臓を貫き、勝利の目を摘み取っている。



「……あ”。ごぼぉ……、ぷっ」

「恨むならレジェをどうぞ。あれは誰にも意図されていない生まれついての悪人だ。僕と違ってね」


「……?」

「くはは。……ごめん」



 アルカディアの胸に刺さった矢を掴み、捩じりながら引き抜く。

 吹き出した鮮血を浴びたのは、その方がマシだと思ったから。

 その程度で隠せるならと、ワルトナは自ら、手を汚したのだ。



「確か、そこらへんにお風呂があったはず。流石に下着まで染みてるのは……ん?」

「……。」



 そこにタヌキが死んでいた。

 血だまりの中で衣服と共に混ぜ込まれ、静かに横たわっている。



「……。」



 ワルトナはそっと動きを止め、持っていた矢を弓につがえる。

 きりきりきり……、と弦を引き、そして。



「おい。」

「……。」


「はぁ、流石にあり得ないよねぇ。サチナの命の権能を利用した蘇生不可逆なんだから」

「……。」



 ワルトナが行ったわんぱく触れ合いコーナーの改変とは、サチナの権能によって隔離された魂を自動で破壊するシステムへの改竄だ。

 瞬く間もなく魂を世界へ還元することで、何人であっても蘇生を不可逆にする。

 例え悪食=イーターを持っているタヌキであっても、魂の消滅を取り返す手段はない。



「はーあ、ペットをいじめ殺すとか、タヌキであっても良い気分じゃないな」

「……。」


「……。」

「……。ヴィギルアーーッ!!」


「えっっ!?!?!?」



 突然の雄叫びと共に、アルカディアの姿が消えた。

 そして、残されているのは、明らかな転移魔法の痕跡。


 要するに、逃げられた。

 それを理解したワルトナは呆然とし……。



「あぁ、なるほどねぇ。これがタヌキの死んだふりって奴か」


「……あんの、クソタヌキィああああああああああああ!!」




 **********



「お姉さ、ま”!?」

「ヴィア~~ン……。ぺっぺっ」


「めっちゃ血だらけ!?あせあせっ!!死んじゃう!?!?」

「ヴィィーギルアアーン」


「えっ、大丈夫?」



 レジェリクエが用意した一室でゴロゴロしていたプラムの上に、真っ赤なアルカディアが降って来た。

 そんな、べとぉ、っとした姉の身体と視線を拭うため、プラムは大急ぎで座布団をかき集める。



「怪我してない?ほんとに平気?ぷるん」

「ヴィギルアー」


「那由他様のおかげ?」



 アルカディアが生きている理由、それは、死んでいないからだ。


 一部のタヌキが人化している最も大きな理由。

『人化した肉体は魔法で作り出したものであり、どれだけ損傷しても命を脅かさない』

 基本的に面倒臭がりなソドムとゴモラが終生の時に人化して行動するのも、この法則を知っているからだ。



「ヴィギルアン……」

「でも、カードが壊れちゃった?そっか、宝物って言ってたもんね」



 ましてや、アルカディアの人化は那由他の手によるもの。

 変身サポートアイテムである『ユニクらぶカード』と引き換えに、アルカディアは九死に一生を得たのだ。

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