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第28話「敵の考察」

「ユニク。私達に明確な敵が存在する事が分かった以上、のんびりはしていられない。計画を立てよう」

「あぁ、まずは現状確認からだな」



 俺達は盗賊を領主へ引き渡し、無事に任務も完了した。

 不安定機構の受付の人が、「えっ?本当に捕まえたんですか?ふぁあ、すごいんですねぇ」なんて驚き、「あ、それなら滞っている任務も」とお願いされたが、リリンが華麗にスル―。


 俺達は報酬をさっさと受け取り、宿に戻って来た。

 リリンが言うには敵は卓越した魔法の技術と、闇に生きる経験を備えたヤバい奴かもしれないとのこと。

 野生動物を狩りに出かけて、逆に狩られるなんてのは御免こうむりたい。


 ここは慎重に現状の確認と今後の計画を立てておくべきと、宿の自室で作戦会議を行う事になった。



「今日の襲撃は仕組まれたもの。相手は山に潜む盗賊を捕獲し、私達にけしかけた」

「盗賊のレベルは大した事がなかったが、数だけは多かったな」


「うん。そういった場合、魔法で蹴散らすのが手っ取り早いのだけれど、戦闘が始まる前に違和感に気付きバッファの魔法主体の戦闘を行う事にした。これにより誤情報を相手に与える事が出来たはず」

「なるほど、前衛職の冒険者二人組だと印象づけた訳だな。ん?でも、その情報間違ってないよな?」



 うん。だってリリンは嬉々として前に出る。そして暴力を振りかざすのだ。

 連鎖猪や三頭熊などは簡単に蹴散しているのだし、結局、近接戦闘に持ちこむのならその手段すら見せない方がよかったんじゃないか?



「私が近接戦闘を行うのは、その必要性がある為。結局、未だ戦闘に慣れていないユニクを前線、つまり囮役にするのは今は不可能」

「……めんぼくない」


「いい。私と同程度の近接戦闘を求めるのは酷というもの。私はこれでも心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)時代は、カミナとメナフと三人で前衛職だった。並みの剣士・戦士には負けるつもりは無い」

「だが、そうするとやっぱりバッファの魔法無しで、遠距離から対応した方が良かったんじゃないか?」


「いや、これでいい。この手法は心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)時代に良くやったから」

「どういうことだ?」


「私達のパーティーメンバーは5人もいるにも関わらず、一人として攻撃魔法を使わない。そうすることで、いびつに育った新米冒険者を演じていた。その実、5人中4人が攻撃魔法が得意だというのに」

「うわぁ……」


「そして、私達と対峙した敵は、誤った判断をすることになる。近接戦闘に手こずるなら、一度逃げるか遠距離から攻撃しようと」



 あぁ、腹黒い。

 最初から騙す気満々だ。流石、心無い魔人達の統括者



「そしてその際に、私に攻撃が集中する事になる」

「なんでだ?」


「私は意図的にレベル表示を下げている。なのでみんなに比べて倒しやすいと敵は判断するから」

「なんかそんなこと前に言ってたな……というかそれ、仲間からも騙されてないか?囮役押し付けられてない?」


「……。レベルを偽る魔法は私しか使えないので仕方がなかった。この魔法は自分自身のレベルしか下げれないし」

「そうか。話を続けてくれ」


「そして、意識が私に向いた所で、レジェ、ワルトナ、メナフが魔法を放って滅多打ちにする」

「ですよねー。つーか、死ぬだろそれ!」


「私が敵の懐に飛び込んで適度に防御魔法をかける。跡形もなく消し飛ばなければカミナが治療できるので問題なかった」



 私が懐に飛び込む。だと?

 つまり、遠距離攻撃が出来る残りの心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)は、リリンごと魔法に巻き込み敵を倒していたということか。


 あぁ、なんてことだ。

 なるほど、つまりこれが原因な訳だ。

 俺がリリンに訓練と称され受けてきた数々の暴力は、リリンのパティーメンバーから受け継いできたものだったと。


 心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)、マジ、心無い。

 しかも、失敗してもどうにかするらしい。悪魔か。



「治療するって言ったって回復魔法は大して効果がないんだろ?」

「それは術者に医療知識がない場合。カミナなら、脳と脊髄が無事なら存命出来ると言っていた」



 ……跡形もなく消し飛ばなければ治療できる。その前提が脳と脊髄が無事であること?

 たしか、回復魔法は部位欠損などは直せないと言っていたはずだ。それなのに脳と脊髄以外のどの部位が傷ついても問題ないという。

 再生輪廻さん、どんだけすごいんだよ。


 その凄さも気になるが、もう一つ気になる事が出来たので確認しておこう。



「なぁ、リリンのレベルは昔から48471で固定なのか?」

「基本的にそう。これだけ下げれば嫌でも目立つ。通常ならランク4の魔導師なんて警戒に値するものだけど、一人だけレベルが低いとあらば、他の4人に育てられている途中の半端物に見えるはずだから」



 ……おう。いくつか気になる言い回しがあったな。

 まずは、「これだけ下げれば」という言葉。レベルが4万を超えているのにもかかわらず、だいぶ下げているらしい。

 もしかして、三頭熊よりちょっと高いとか言っていたのは謙遜なのか?


 次に「一人だけレベルが低い」という言い回し。

 これは、他の4人がレベル4万よりも圧倒的に高いということになる。という事は、レベルを下げる前のリリンと同等なのだろう。

 マジ恐い。本当に敵じゃなくて良かった。

 ……敵じゃないよな?



「リリン。今回の襲撃って女だったんだろ?もしかして、昔のリリンの仲間ってことはないよな?」

「それは無いと思う。みんなそれぞれ職についているし、私と敵対する理由がない。唯一レジェだけは私を手元に置いておきたいみたいだけど、こんな雑な手段を使う程、手ぬるくない」


「……ちなみに、レジェリクエ女王が本気を出したらどのくらいの規模の人間が攻めてくるんだ?」

「第九守護天使を使えるくらいの魔導師が1000人規模。それに加えてレジェ本人も来るだろう。戦闘の跡地は草一本残らない」


「……。興味本位で聞くけど、リリンに対処は出来るのか?」

「したくない。そんな規模なら相手を生かしながら勝つ事は不可能だから」


「やらなければいけないとしたら?」

「……私とホロビノの二人がかりなら、なんとかなると思う。あの子の本気は1000の魔導師に劣らない。そうなればホロビノの攻撃を掻い潜り、私の所にたどり着けるのはレジェだけ。後は純粋に力比べとなる。厄介な事には変わりないけど」



 ……おう。ホロビノに仕返しをするのは当分先だな。

 今度リリンが用意すると言っていたご褒美(エサ)に特製カラシでも仕込んでやろうかと思ったが、中止だ。まだ死にたくない。



「という事で、やはり私に逆恨みをした暗劇部員という線が一番濃い」

「なぁ、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)時代に恨みを買ったってことは?」


「その可能性が一番低いと思う」

「どうしてだ?」


「レジェとワルトナが禍根を残すなんてヘマをするわけ無い。敵はまとめて全部レジェンダリア国の管理下に置かれている」

「そうなのか……。別の意味で怖くなったな」


「?」



 敵は全部管理下に置いているって、凄すぎだろ。

 レジェリクエさん、マジ、運命掌握。

 絶対に逆らえないな。監禁、幽閉、なんでもござれ!



「じゃあ、敵は暗劇部員だという事を仮定して、その暗劇部員てのはどのくらい強いんだ?」

「暗劇部員は不安定機構アンバランスノワールに所属している。そして、黒に所属する条件はランクが3を超えていなければならない。つまり、最低でもレベルは30000以上」


「レベル30000……。俺じゃどうしようもなさそうだ」

「いや、ランク3程度ならユニクならば対等以上に立ち向かえるはず。あの×タヌキとの戦闘を見る限り、実力はしっかりと身についているから」


「そうなのか?」

「そう、ユニクは謙遜しすぎ。だいたい、あの程度の盗賊なら一人で対処できそうだったでしょ?」


「それはまぁ……弱かったし」

「ランク3の冒険者一人だと、それは厳しい。もちろん戦闘タイプにもよるけど普通は競り負ける。ユニクはもっと自信を持って」



 そうなのか?

 いつも理不尽を見ているせいで感覚が狂っているみたいだな。

 キミの事だよ。リリン。



「じゃあ暗劇部員がランク3以上として、明確に二人以上な訳だろ?どう対処するんだ?」

「普通の暗劇部員なら、見つけ次第、暴力によって決着をつける」


「おい」

「でも、相手は星魔法使い。適当にやって勝てる相手じゃないはず」


「そう言えばさっき星魔法がどうとかいってたな。盗賊から聞き出したのか?」

「ユニクが町に行った後、盗賊達を絞めあげてみた。すると、敵の飼い主と盗賊達が戦闘を行っていると判明した」


「ほう?」

「盗賊達の証言によると、一人で現れた女が、たったの一撃で盗賊30人を昏倒させたらしい。その際、輝く星の回廊を見たと証言が出ている」


「輝く星の回廊?めっちゃ凄そうなんだが?」

「恐らく結構すごい魔法。そして、その特徴から星魔法だと推測できる。ならば警戒しなければならない」



 星魔法を警戒?

 そいう言えば俺は星魔法の事を良く知らない。

 この際だから詳しく聞いてしまおう。



「星魔法ってさ、そんなに凄いのか?」

「それはもうすごく……」


「すごく?」

「綺麗で派手。攻撃力はそこそこ」


「なんだそりゃ!綺麗で派手って戦闘にそんな要素いらないだろ!」

「うん。まぁ良くも悪くも子供受けが良い。子供向け小説や漫画などでは主人公はたいてい星魔法使いだったりする」


「……。なんかいっきに危機感が無くなったんだが?」

「そうでもない。星魔法には全ての魔法を統合したような便利性がある」


「便利性?」

「そう。星魔法はその魔法系統の中で攻撃やバッファ、防御、回復に至るまで、一通り全て揃っている。しかも、星魔法にしか存在しない特別な魔法も有る」



 前言撤回。そんなもん無敵じゃねぇかッ!

 しかも切り札まで有るだと?

 流石はリリンですら及ばないかもと警戒しているだけの事はある。



「特別な魔法?それって?」

星の対消滅(ディサピアル・スター)。この星魔法は発動を許せば魔導師にとって、絶対の致死となる。もちろん私も成す術がない」


「なんだって?リリンですら成す術がない?」

星の対消滅(ディサピアル・スター) を発動された場合、一定の範囲内での魔法の発動は星の対消滅(ディサピアル・スター) を発動させた術者の許可が必要となる。そして、その意思によって発動を打ち消す事が出来る」


「つまり、魔法が無効化されるのか……?」

「そう。どんな魔法でも、たとえそれがランク9の魔法であれ発動前に無効化されてしまう。もちろん敵側は色んな魔法を使いたい放題。当然、その魔法は全て生身で受けることになる」


「……魔導師どころか、前衛職の剣士でも絶対に勝てないだろ?つーか、そんな魔法があるなら、魔導師なんて職業が存在するのが疑わしいくらいだ」

「理由はとても簡単だよ。星の対消滅(ディサピアル・スター)は難しくて、発動する事が非常に困難」


「難しいのか?でも、難しさならランク9の雷人王の掌(ゼウスケラノス)も相等だろ?だって呪文が本だったし」

「うーん。星魔法は総じて言葉が難解で読みにくい。しかも、その長さはどれもこれもとんでもなく長い。それに、星の対消滅(ディサピアル・スター)は強力な効果の為、どの冒険者も一度は習得しようと挑戦している。だけど、ほぼ全員が失敗し、冒険者の記憶に最も警戒すべき魔法の一つとして記憶される。よって、疑わしい詠唱が始まったら速攻攻撃して妨害するというのが冒険者の常識 」



 なるほど、疑わしきは罰せよ精神で未然に防いでいるから使われる事は無いのか。



「それで、リリンはその魔法を発動するのにどのくらい時間がかかるんだ?」

「結構前にしか使った事無いけど、その時は3時間以上かかった」


「おーけー。使いもんにならない事が良く分かった」

「だけど、敵は星魔法使い、油断は出来ない。星の対消滅(ディサピアル・スター)ほど絶対的では無くても、一撃が戦局に多大な影響を与える魔法は数多く存在するから」



 星魔法、恐るべし。簡単に倒せる敵じゃないという事は良く分かった。


 そしてこれで大体の敵の推測は終わった。

 これからは具体的な対策を考えなければならないだろう。


 そんな事を俺は、おぼろげに考えていた。

 現状確認はひと段落し、今は休憩時間。

 俺はベットに腰掛けながら、受話器に向かって注文をしているリリンに視線を向けた。



「ディナーは豪華にいきたい。まず、この宿の一番値段の高いディナーセットは何?うん、それじゃ個別に注文を頼みたい。えーと前菜は海藻と野菜のサラダ。あとしゃきしゃき野菜スティック。ドリンクはブドウと林檎、後、お茶はほうじ茶で。パンは全部の種類を1個ずつ、それにスープはコンソメスープとカレースープがいい。さて、メインはステーキ、付け合わせはポテトと温野菜で。デザートはタルトとケーキ。これらは二人分という事を考慮して量の調整をしてほしい。あと、別途、一口チョコレートとチーズが箱で欲しい」



 ……相変わらずよく食うなぁ。


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