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第57話「ワルトナの主張②」

「何があったのか、詳しく説明してくれるかい?ユニ」



 俺の目の前には、焦燥感に駆られたワルト、そして、静かに横たわるメイとセブンジードの傍で静かに涙を流すテトラフィーアやサチナがいる。


 セブンジードとメイを斬った後にも、レラさんは姿を現さなかった。

 サーティーズさんにお願いして周囲の認識を書き換え、騒ぎにならない様に工作したものの、いつレジェリクエに気が付かれて奇襲を受けるか分からず……、そして、白銀比を発見できないまま、セブンジード、メイ、メナファスを連れて白銀比の部屋まで戻って来た。



「メナファスがセブンジードを襲撃しようとして返り討ちに遭い、死の間際にローレライが介入。それを理解したユニはヴェルサラスクとシャトーガンマの命を優先して助け出すも、セブンジードとメイは記憶を封印されて意識不明のまま、か……」



 今、俺にできるのは、得た情報を歪みなく伝えること。

 村長から絶縁状を突き付けられたことも付け加え、情報共有を終える。



「……悪い。サーティーズが居ればセブンジードもメイも助けられるって思っちまった。浅慮過ぎて言い訳すら見つからねぇ」

「仕方のない事態だとは思うよ。ただ、浅慮なのはその通り。サーティーズに無色の悪意が宿っていた場合、蘇生自体が行われず、永遠に二人を失う可能性があった」


「俺が確かめた限りだと……、いや、何でもない」



 サーティーズに無色の悪意が宿っている、もしくは、金鳳花本人である可能性を疑わなかった訳じゃない。

 だが、どんなに確認しても騙されるからこそ、金鳳花は大聖母から逃げ続けられている。



「メイ、セブンジード、どうしてこんな……、」

「この記憶封印は簡単には解けない、です……、サチナの知らない、ぐす、見たことない権能の使い方をしてる、ですっ……」



 俺達が白銀比の部屋に着いた時には既に、ワルトとメルテッサはテトラフィーア達を連れて来ていた。

 どうやら直ぐに合流できたらしく、ここに戻ってきて情報整理をしていたらしい。



「ヴェル、シャトー、怖かったろう、悲しかったろう。辛かったね、傍に居れなくて……、ごめん」

「「メルテッサ、おねーさま……」」



 今回の騒動で最も傷ついたのは、ヴェルサラスクとシャトーガンマかもしれない。

 ほんの数十分前まで、二人は楽しい時間を過ごしていた。

 子守りが得意なセブンジード、そして、テトラフィーアの侍従として塔に出入りしていたメイとも仲が良い。


 そんな信頼する大人から剥き出しの悪意を向けられ、そして、状況を理解する間もなく殺された。

 ここに来る途中は一言も喋らずに、ただ、俺に背負われているセブンジードの手を握って着いて来ただけだ。



「……はぁ。僕は魔王で指導聖母、だから非情なことも言うよ。後悔は後にしろ」

「つっ!」


「最悪のシナリオどころか、終わってすらいない。むしろ、これは僥倖だ。取り返しのつかない失敗をする前に、情報が手に入った。お手柄だよ、ユニ」



 その言葉が俺を励ますための軽口だというのは分かってる。

 だが、零れたテトラフィーアやサチナ、ヴェルサラスクやシャトーガンマの涙を軽んじることは俺にはできない。


 だから、ここから挽回する。

 俺の全身全霊を掛けて、金鳳花の企みを……、ブチ壊す。



「ユニ。まずは、サーティーズとヴェルサラスクとシャトーガンマの身の潔白を証明しよう」

「あの、この期に及んで、まだ、私は疑われているんですか……?」


「僕も感情的には信じたいんだが……、理性的には疑ってる」

「はわ!?」


「その為のテトラフィーアとサチナと合流なんだ。という訳で、サーティーズ、君は無色の悪意を持っているかい?」



 無色の悪意所持者の判別方法は、


 ① 無色の悪意を持っているか?と問い掛け、返答の真偽をテトラフィーアが確認する。

 ② 封印された無色の悪意の覚醒条件を問い掛け、関連する記憶をサチナが見て確認する。


 この二つだ。



「持ってませんよ。他者への悪意など、会社経営者には最もあってはならない感情です」

「嘘はございませんわね。では、毎日している夜の日課を教えてくださいまし」


「はわ!?」

「あなた自身が行っていたことです。洗いざらい白状しなければ身の潔白が証明されないことは、分かっていらっしゃる筈ですわ」


「はわ、はわ、はわわわわわ……、ぜんぶ……」



 結論から言えば、サーティーズさんは金鳳花ではなく、無色の悪意も持っていなかった。

 ただ、40代の女性の赤裸々な夜の日課を聞くのは、色んな意味できつかった。


 会社の資本金通帳に頬ずりしてニヤニヤしているとか、

 ガチの大人向け雑誌を熟読してるとか、

 どのメーカーの白髪染めを使おうか真剣に悩むとか、

 食費を浮かすために育てているプチトマトを1時間眺めているとか、


 本当にきつすぎて、サチナですら悲痛な顔をしていた。



「はわ、はわわ、私の尊厳、低すぎ……?」

「はいはい、後悔はあとで、後悔はあとで。次」



 離れようとしないヴェルサラスクとシャトーガンマに問いかけるのは、メルテッサの役目。

 こちらも問題はなく、夜の日課も『テトラフィーア御姉様に貰った教科書でお勉強』とかいう、可愛さと実益を両立した完璧な習慣だった。



「これで三人の無実は証明された訳だが……、テトラフィーア、何か気になる事でも?」

「サーティーズさんの言葉には、後ろめたさが含まれておりますわ」

「はわっ……、た、ただでさえボロボロな自尊心を、容赦なく死体蹴り……?」


「こんな状況で情報を隠そうとする奴とか面倒だねぇ。埋葬の方が楽だねぇ」



 さっさと話せ、もしくは死ねという脅迫に屈し、サーティーズさんが口を開いた。

 俺も雑に扱ったし……、後で手厚い優遇が受けられるように進言しよう。



「後ろめたいというか……、もしも、金鳳花お姉さまが本当にいるとしたら、指導聖母・悪才アンジニアス様なのかなー、なんて……」

「ふーん、で?」


「えっと、弊社は指導聖母・悪才様に経営指導を頂いておりまして……、敵対するよりも、寝返った方が、なんて、はわわ……」



 ……真正面から、寝返りたい宣言されちゃったんだが。

 なお、鞭ばっかりで、飴が足りなかったのは自覚している。



「なるほどねぇ……、ユニはどう思う?」

「正直、俺も怪しいと思った。わんぱく触れ合いコーナーにも居たしな。だけど、ワルトの師匠なんだろ?」


「悪才の正体が金鳳花なら、僕やテトラフィーアが無色の悪意を持って無いのはおかしい、そう思ったんだね?」

「そうだ」


「僕の意見は逆だよ。初めから敵対する相手として、僕やテトラフィーアと交流していた。物語を劇的にするためにね」

「金鳳花が求めているのは、面白い物語……、か」


「表で僕を、裏でレジェを育てて戦わせる。そして奴の視点では、どっちが残っても”弟子が勝った”になる。酷いマッチポンプだね」



 実は、ワルトやテトラフィーア、メルテッサも金鳳花の正体は指導聖母・悪才じゃないかと疑っていたらしい。

 ただ、同じくらい疑わしいサーティーズが居たため、断定をしなかった。

 そして、情報が揃ってきた今、ほぼ確定と判断したようだ。



「アイツのうさん臭さは尋常じゃないからね。ノウィン様が指導聖母になる前から在籍し、オールドディーンとは数十年以上争っている」

「えぇ、大陸経済連の理事長をしていらっしゃいますわね。フランベルジュ国も随分と毒牙に掛けられていましてよ」

「その話に絡むんだが……、悪典が三国間戦争を起こした理由は、悪才を蹴落とす力を欲したから、昔から、仲が悪いらしい」



 ワルトの断定に、テトラフィーアとメルテッサも同意した。

 金鳳花を探している大聖母の部下に紛れ込んでいたとか……って、そういえば、メイに化けて白銀比に抱かれに行ったとか言ってたな?

 もしかして……、いつバレるか分からないスリルを楽しんでいたのか?



「悪才を金鳳花だと仮定して……、9匹いる狐の内、セブンジード、メイ、悪才、レジェ。可能性が高いのは、カミナ、ローレライ、そしてメナファス、これで7匹」

「待ってくれ。メナファスはセブンジードに銃を向けようとしていた。無色の悪意同士なら仲間だろ?」


「レジェの狙いが自作自演なのだとしたら?」

「なっ……、」


「ローレライが出てこないのが証拠さ。セブンジードとメイを切って、ローレライとメナファスを信用させる。僕らが守りを固めてるサチナを殺すには懐に飛び込むのが手っ取り早いからね」


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