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第55話「レジェリクエの主張③」

「とても有意義な会談だったわぁ」

「いやー、久しぶりにブルファム王国系のディナーを堪能できて満足だ。さ、みんなも礼を言っといて」


「「「「ごちそうさまでしたー」」」」



 リリンサとあの子の正体を探り終えたレジェリクエは、早々に会談を切り上げた。

 無駄な時間浪費を回避しつつ、相手を満足させて帰らせる手腕は女王として身に着けた強かな技術。

 そんな妹の成長を見ていたローレライは、事が済んだらしっかり褒めようと思っている。



「名残惜しいのだけれどぉ、今は一秒の価値が金塊に匹敵する状況。すべて上手くいったら、改めて会談を開かせて貰いたいわ」

「そりゃいい、カミナやタヌキの技術も気になるし」


「くす。最後に一つ聞いても良いかしら?」

「何かな?」


「現在、皇種を有している種族の数を教えて欲しいの」



 レジェリクエが会談を切り上げた理由は、時間の節約だけではない。

 プロジアの言動に対して確定確率確立を使用し、含まれている嘘の割合を測定する。

 その精度を上げるために、リリンサとあの子の正体という最も必要な情報に絞ったのだ。



「実はぼくぁも気になってね。さっき調べた結果、皇種を有する生物種の数は130だった」

「……そうよねぇ、やな予感は的中するものよねぇ」


「ユルドに言っとくよ。ぼくぁをのけ者にして始めた戦いなんだから、ケジメも自分で付けろって」



 言外に「巻き込んでくれるな」と言い残し、プロジア達は会談室からの帰路に着いた。

 それを見つめるレジェリクエ、その瞳には確かな焦燥感が燻ぶっている。



「……ロゥ姉様、カミナ、会議を始めましょう」

「えぇ」

「そうだね」

「う”ぃぎるあ!」


「《確定確率確立》、《プロジアの証言に含まれた嘘の割合は?》」



 ―000.000%ー


 **********



「プロジアの証言により、リリンとあの子の正体が確定。想定と一致するものとして、”敵”の考察を開始するわ」



 神の因子に誓い、プロジアの証言に嘘はないと証明された。

 それは感情を有する生物を経由しない、絶対に揺るがない事実。



「まずはおさらい。人狼狐の勝敗条件である『サチナの殺害』。この襲撃は明日の午前11時30分以降。異論ある人はいるかしら?」

「ないわ」

「おねーさんも。これがエンターティメントである以上、早々の決着なんて面白くないしね」



 温泉郷を舞台にした人狼ゲーム、それは、唯一神を楽しませる為の娯楽だ。

 故に、もっとも優先されるべきは”劇的な展開”。

 傍観者を驚かせて楽しませるストーリー、それが金鳳花の狙いだ。



「勝敗の分かれ目は、サチナ襲撃時間までに、どれだけ多くの仲間を寝返らせるか。最低でもリリンサ。次点でメルテッサが欲しいわね」



 レジェリクエ達がリリンサの情報を欲したのは、それこそが『ワルトナ』に勝ち切るために絶対に必要な前提だからだ。

 既に事態は温泉郷のみならず、世界存亡の危機に瀕している。

 そして、三人ともが肯定し、敵の真の目的についての考察が始まった。



「人狼狐の決着が付く明日の昼12時までは、敵はひと塊になっている。問題は、そのあと」

「ユニくんが欲しいテトラフィーアちゃんと、リリンちゃんとあの子が欲しいワルトナちゃん、この差は大きいね」


「ロゥ姉様は、あの子の蘇生は成功すると思う?」

「まず間違いなく、成功へのプロセスは整ってる。ただし、必要になる肉体はほぼ、99%完成って所だろうね」


「エンターティメント的に考えると、失敗する可能性が僅かに残っている状況からスタートする方が面白いものね」



 レジェリクエ達が話し合っているのは、人狼狐の『その後』。

 サチナの生死によって分岐するだけで、絶対に『その後』は発生するからだ。


 故に警戒するべきは、『その後』をどうやって生き残るか。

 それを有利に進める為ならば、たとえ愛しい妹分でも見捨てる選択をする、それがレジェリクエの中にある『女王』だ。



「色ボケ倒してるテトラフィーアは雑に処理するとして……、問題はワルトナね」

「そうだね。ワルトナちゃんが欲しているのは、あの子との未来。そしてそれは、蟲量大数の決戦の後にある」


「なぜ、蟲量大数との決戦を『ヴィクティム・ゲーム(・・・)』なんて呼ぶのか疑問だったけど……、『130の頭』が『130体いる皇種の頂点』という意味だとしたら、ヴィクトリアも絡んでくるかもしれないわ」



 世界最強である蟲量大数、愛絡譲渡を持ち世界を統べる資格を持つヴィクトリア。

 そのどちらも、『130の頭』と呼ぶにふさわしいという事実に、レジェリクエ達の瞳から光が失われる。



「ロゥ姉様、温泉郷内にヴィクトリアと思われる人物はいないのね?」

「いない。白銀比の結界を通り抜けられるとは思えないし、隠れているならダルダロシア大冥林の方じゃないかな」



 ローレライの世絶の神の因子『絶対視束アルゴリュート』は、24時間以内に見た視点を離れた位置から確認できる能力だ。

 人狼狐が始まった直後、彼女は温泉郷の全ての道を駆け抜け、視点を確保している。

 舗装された道とそこから見える景色に踏み入った瞬間、ローレライに知覚されるのだ。



「森そのものが敵とか想定外だもの……。ヴィクトリアはホロビノと取引を行っていた。木星竜と宜しくやってても不思議じゃないわね」



 蟲量大数の第一の権能『神奪』には100年間の制約が課せられ、期間が過ぎた場合、能力は自動で消滅する。

 故にレジェリクエ達は、神奪によって与えられた命の権能で生きながらえたヴィクトリアが、500年以上も存命している事実に疑問を抱いていた。



「ホーライの渋い反応から言って、ヴィクトリアが人類の敵になっている可能性がある。例えば、記憶を失った、完全に蟲になったなど。カミナ、人間の脳は500年以上も持つのかしら?」

「最新医学では2.5ペタバイト、途方もない量の情報を保存できると言われているけど……、新陳代謝によって古い脳が交換されていくことを考えると、記憶の保持期間は最長で200年くらいでしょうね」


「200年、一度も思い出さなかった記憶は消去される、そういうイメージで良いのね?」

「そのはずよ。皇種の知識継承や悪食=イーターは脳とは別の場所に記憶媒体が存在するから異なるけど」



 レジェリクエが想定する最悪のシナリオは、人狼狐で敵味方がボロボロになった状態で、蟲量大数やヴィクトリアが率いる皇種連合が襲来することだ。

 そうなった場合の被害は世界規模であり、爆心地であるこの地にいる命は例外なく潰えて消える。

 その対策の布石を運んできたアホの子姉妹に、レジェリクエは心の底から感謝を抱いている。



「なぜか温泉郷の外にいるという奇跡を起こしたリリンへのフォローとして、ホロメタシスに魔導枢機騎士団の出撃を要請したわ」

「タヌキが有する帝王枢機に劣るとはいえ、皇種から国を守る防衛戦力として運用されている集団だもの。ダルダロシア大冥林にも対応できるはず」


「万が一、リリンサが敵の傀儡となった場合の対抗札のつもりだったけどぉ、ホント、良い意味でも悪い意味でもアホの子過ぎてコントロールが難しいわぁ」

「そう言えば、師匠達は温泉郷内で確認できていないんでしたよね?今頃、リリンと合流してそうね」


「さっさと斬り殺して味方にしようと思っていたんだけれど、まぁ、合流してるならそれもアリよ。感情が高ぶれば制御しやすくなるもの」



 超常安定化に属しているローレライは、エアリフェードの同僚だ。

 直接的な交流は無いものの、それぞれ、『ホーライの弟子』『ノウィンの部下』という認識はしている。



「リリンを失えないワルトナもフォローするだろうし、放置しときましょう。そんな訳で、サチナ、メルテッサ、ユニクルフィンの確保が優先ね」

「サチナちゃんはテトラフィーアちゃん、メルテッサちゃんはワルトナちゃん、ユニくんはサーティーズと行動中。どうする?」


「神殺しを持つワルトナはもちろん、テトラフィーアとの接触も避けたいわ」

「戦闘力があからさまに低いはずのテトラフィーアちゃんが、命を狙われているサチナちゃんの護衛なんてありえない、ワザとだろうね」


「ずっと隠してる力があるんでしょうね。自国が滅びかけても使わないなんて、用意周到すぎるわぁ」



 テトラフィーアの証言によって、数々の嘘を見抜いてきたレジェリクエだが……、最初はその言質を疑いながら接していた。

 だが、出会った当初は確定確率確立で真偽を確かめていた証言も、次第に疑う回数が減少。

 この一年は一日三回の使用回数を戦争に使う為、テトラフィーアが証言を捏造できる状況となっていた。



「狙うとしたらユニクルフィンなんだけどぉ……、サーティーズの正体についてどう思うかしら?」

「サーティーズって、シルバーフォックス社の社長だよね。で、フォスディア家の名声を奪っていたのに知らない素振り。2分の1だね」


「サーティーズか、指導聖母・悪才アンジニアスか。ワルトナの後ろに立っているのは後者だけど」

「同一人物って可能性もある。おねーさんやレジィが援護しているとはいえ、ミオだけに向かわせるのはリスクが高いと思う」



 会談参加者にアルカディアが選ばれたのは、ミオが別行動をしているからだ。

 リリンサやワルトナと相性が良く、鏡銀騎士団の団長で得た見識も広い。

 偵察任務の経験も豊富であり、彼女自身が適材適所だと名乗り出たのだ。



「メナファスはどこにいるのかしら?」

「わんぱく触れ合いコーナーの売店。子供用のプレゼントを選んでる」


「腹が立つほど平和ねぇ。よぉし、さっさと殺して引きずり込みましょう」

「おっけーい」



 飯を食っていたタヌキが「めっちゃ悪い顔だし!?」と毛を逆立出せるほどの悪人顔で、ローレライとレジェリクエが笑う。

 勝つ為には友人の命すら持て弄ぶ。

 そんな魔王の所業を平然と決定したレジェリクエが口を開く。



「人狼は夜のターンに動き、犠牲者を発生させる。それはワルトナも分かってる」

「仕掛けてくるでしょうね。騎士ユニクルフィンが防衛しかしないなんて、それこそゲームの中の話だわ」


「確定確率確立の使用はあと一回。日付が変わるまでに仲間を増やしておきたいわ」

「優先順はリリン、メルテッサ、ユニクルフィン、あとホーライも入れておきましょう」


「そうね。人狼狐にヴィクトリアが関わっていると証明すれば、力になってくれそうだもの」



 決戦は、明日の昼11時30分以降。

 それまでに多くの仲間を集め、そして、残ったすべての命を殺して否定する。


 たとえその相手が、親しい友だとしても。

 たとえその相手が、数百体の皇種だとしても。

 たとえその相手が、唯一神すら殺す世界最強だとしても。



「運命の名の下に、貴女の人生すべてを掌握してあげる。待ってなさい、ワルトナ」


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