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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第13章「御祭の天爆爛漫」

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第46話「ベアトリクスの主張①」

「傷の治りが悪い。ちっ、だから魔法攻撃は厄介なんだゾ……」



 人化の魔法陣を持って生まれたベアトリクスにとって、肉体損傷は馴染みのない事態だ。


 そもそも『人間』という種は、唯一神が作り出した同じ姿を持つ存在。

 それを模すとはつまり、神と同じ姿を得る事と同義となる。


 故に、人化の魔法は魔法十典範(オムニバス)の外側、『魔法創神典オリジンビリーフ』に記載されし魔法。

 神に知識を望んだ那由他(タヌキ)、人との遊びが願いだった金枝玉葉(キツネ)

 初めから理解していた両者とその種のみに許された禁忌であり、これ以外の種が人間の姿を模そうとしても、形だけを真似た不完全な存在にしかならない。

 世界最強である蟲量大数ですら、おおよそ人間のシルエットと呼べる程度にしかなれないのだ。



「隠れても、匂いでバレバレだゾ。どうにか、しないと……」



 そして現在、第三の特異点が生まれた。

 ランダムに選ばれた魔法を爪に宿す獣……、真頭熊ベトリーチェ

 それの対象は全ての魔法――、神にのみ扱うことが許された魔法創神典も含まれていたからこそ、起こった奇跡。


 骨格も筋肉もまるで違う存在になる人化の魔法は、肉体を一から再構築している。

 故に、自己再生も思いのまま。

 ましてや、肉体操作の権能『錬熊術師(アルティミスト)』を持つベアトリクスにとって治癒とは、呼吸と同じように自分の意思でコントロールできることのはずだった。



「はぁ、はぁ、ふぅ、血は止まったゾ。汚れた服は……、破くしかねーかダゾ」



 それが通常の傷だったのなら、10秒もしない内に完治しただろう。

 だが、ベアトリクスが傷を負ったのは、20分も前。

 ようやく塞がった傷口、そして、そこから流れ出た血液、そのどちらもベアトリクスにとって経験のない事態だ。



「エイワズニール、アルミラユエト。どっちも溶嶽熊よりも先に皇になった古強者。だけど、奴らは穏健派。縄張りを侵害されたら反撃するけど、侵略はしない。オイラと交わした協定も守っていたはずダゾ」



 そこにあったのは確かな違和感。

 その正体を探るため、こんな事態になった切っ掛けを思い出す。



 **********


「……ダゾ?」



 濃い血の匂いを感じたのは、ダルダロシア大冥林に向かう途中。

 そこはサチナの縄張りであり、食物連鎖禁止結界があるべき場所。

 不慮の事故を除き、血が流れるはずがない。


 だが、匂う血液は2種族のものだった。

 真頭熊と破滅鹿。

 ありえるはずのない争いの痕跡、それをベアトリクスは見逃すことが出来なかった。



「オイラと大差ない、若いオス。皇の定めに反するような気概ある感じじゃねーゾ……」



 見つけた死体は3つ。

 真頭熊が1、破滅鹿が2。

 両者ともに損壊が酷い相打ち、それは食物連鎖禁止結界の効果が消えていることを意味している。



「サチナの結界が解けた……?ありえねーゾ」



 ベアトリクスはサチナと戦っている。

 その時に理解させられたのは、隔絶した才能の差。

 筋肉の質こそ上回っていたが、魔力量、魔法適性、肉体強度……それ以外の全てで劣っていたのだ。


 戦い終えた後の感想は、サチナはタヌキ帝王ソドムよりも上。

 事実、ソドムを追い払ったと聞いて笑顔になった半面、サチナを怒らせないようにしようと誓うぐらいに畏怖を感じた。


 そんなサチナが全力で張った結界が消失した。

 ベアトリクスが感じている危機感は、それだけではない。



「……格上だゾ。これ」



 そこら中から立ち上る、殺気とは呼べない、か細い何か。

 それは人間の街では経験できない、野生の厳しさ。

 ベアトリクスには、この感覚に覚えがあった。


『人外の皇・ユルドルード』


 かの英雄が放った自分へ向けた値踏み、そして、その後に続いた敗北。

 九死に一生は二度も続かないと、ベアトリクスは判断した。



「見てるのは分かってるゾ。縄張りに侵入してオイラの配下に手を出した以上、タダで返す訳にはいかねーゾ」



 ベアトリクスは声を張った。

 決して、不安を気取られてはならないと。


 カシュコン……。

 カシュコン……。

 カシュコン……。


 虚勢に返されたのは、死の足音の接近。

 現れたのは、全身が骨で出来た骸骨の鹿。

 ……否、全身を魔法紋が刻まれた角で覆った白亜の皇だ。



「エイワズニール。お前か、ダゾ」

「あルてィ。まーグマのこ。敗ボク者の、不熟な皇のこ」


「相変わらず、見下す癖は治ってねーのかダゾ。お前、ここが誰の縄張りなのか分かってんのか、ダゾ」

「キツネ。特別な竜と狐の相のこ。あすまでは」


「なんだゾ……?」

「明日にはダレのものでもなくナる。ワタシは欲しい。この地が」



 違和感が増えたと、ベアトリクスは思った。


『種の存ゾク、そのタメには、我欲を捨てなければナラナイ』


 この世には、話にならないレベルの絶対強者がいると。

 それらは戦ってみなければ分からず、だからこそ、こちらから仕掛けてはならないと。


 そんな考えの下、安定した種族統治をしている賢い皇。

 それが、ベアトリクスが抱いていたエイワズニールの評価だ。



「サチナはオイラ達より格上だゾ。森の最上位、ラグナガルムですら戦いたくないと言ってる。そんな相手に仕掛けるのか、ダゾ」

「クカカ、クカ。誰があんな化けモノと戦うものか」


「あ”?」

「化けモノはさらなる化けモノが始末する。ワタシの相手は格下、オマエだよ」



 パキン。と剥がれ落ちたのは、エイワズニールが被っていた仮面。

 骸骨の下に隠されていたのは、肉から芽吹く樹木の仮面。



「ッ!?」

「《カッ》《カッ》《カッ》《カッ》《カッ》!!《カッ》《カッ》《カッ》《カッ》《カッ》《カッ》《カッ》!!」



 地面に落ちた骸骨の欠片が、意志を持ったように地を跳ね駆け回る。

 ばらばらと砕け、数を増やし、それが攻撃だとベアトリクスが理解した時には既に、形成が決まっていた。



「解体して統合セよ《凝塊の権能(コアギュラ)emeth(エメス)》」

「高位魔法陣ダゾ!?」



 皇であるベアトリクスは、現存するクマが持つ全ての魔法紋を扱える。

 だからこそ理解してしまうのだ、目の前に広がっているのは『未知』なのだと。


 地上にバラまかれた骨が、正しい役割を発揮した。

 骨が肉を纏うように、大地を吸い上げて肉体を形成。

 それは、物語に登場するような、人造生命ゴーレム



「知恵比べヲ、しよう」

「どこが、ダゾッ!?」



 はるか上空から叩きつけられる巨腕を迎え撃ちながら、ベアトリクスが吠える。

 ぬかるむ大地から上半身だけ生えた異形の存在。

 泥で出来たバフォメット、いや、確かにそれは泥だった。


 ベアトリクスは、一方的に力負けした。

 変な方向に曲がった腕、裂けた傷口に容赦なく土石流が流れ込む。



「《二十重皇牙(ヴィゲテット)月欠けの輪(クレセント・ムーン)ッ!!》」



 魔法十典範『原審を下せし戦陣王オムニバス・オーディーン』を宿す上顎、同じく魔法十典範『原形に戻りし時計王(オムニバス・クロノス)』を宿す下顎。

 それらが噛み合わさって出来たベアトリクスの咆哮が、死の濁流を押し返す。



「知恵比べだったロう……?」

「がはッ、がふっ、汚ったねぇ、ゾッ!!」



 泥に塗れ、戯言を吐く。

 サチナと一緒に選んだ煌びやかな衣装は見る影もなく。


 ベアトリクスは即座に爪に魔力を通し、大量の水を召喚。

 それを頭から被る、そんな視界を失うリスクを負わざるを得ないのは、その泥が死に直結しているからだ。


 一方的な力負けの原因、それは『泥に足を取られたから』。

 ゴーレムに下半身が無いのではない、ぬかるんだ大地は既にゴーレムの一部となっていた。


 最初から最後まで、相手の掌の上。

 付着した泥を全て洗い流さなければ、どんな悪影響があるか分からない。


『洗い流す』

 それが正しいとベアトリクスは思った。

 そしてエイワズニールも、それが正しいと思っている。



「いねぇ――ッ!?」



 嗅覚を頼りに木の上に移動し、攻勢の機会を探る。

 だがそこに、エイワズニールの姿はなかった。


 高さ3m強の身体、小さくはない。

 隠せる障害物は周囲には存在しない、あるのは普通の森だけ。

 木と草と、……土の集合体のみ。



「ッ!?いっ、ぎぃ、ぁあ”あ”ッ!!」



 背後に感じた違和感へ、本能的に爪を差し向けた。

 刹那、それが押し返される。


 ゴキゴキと軋む指に安堵した。

 防御が間に合っていなければ、ここで終わっていたから。



「ほゥ?最低限の知恵はアルか」

「はっ、これは生存本能っていうんだゾ……」



『環境』が笑っていた。

 ぐにゃりと顔を歪ませて。



「あるティ。私が教えた、未熟なこ」

「お前の権能は物質の固さの操作。要するに、粘土遊びダゾ」


「遊びというにハ、イササか、滑稽な姿ダナ?」

「お前が言ったんだゾ。互いに手の内はバレてる、が、オイラの成長までは知らねーだろダゾ」



 ベアトリクスはエイワズニールと取引を行っている。

 相互不可侵条約、そして、その証明として互いの権能を明かしているのだ。


 それは、皇種同士の協定ではありふれた条件。

 賢いエイワズニールが得意とする戦場。



「クカ、クカカ」

「勝ち誇るには早いゾ、エイワズニール」


「そうカ?」



 どぽん。と跳ねた地面から、光の矢が飛ぶ。

 それを魔法無効の爪で弾き飛ばし、ベアトリクスも前に飛ぶ。



「だぁああああああぞぉおおおおおおおおおお!!」



 嗅覚を強化し、エイワズニールの隠れ場所を特定。

 そこはただの地面にしか見えない。

 だが、巨木と巨木の間、全身に迷彩柄を施したエイワズニールがそこに居る。


 凝縮させた筋肉に物を言わせた、ベアトリクスの突撃。

 音速を超えるそれは、ソドムのエゼキエルに対抗するために鍛えた技。


 魔導師系のエイワズニールでは反応できない。

 このまま無防備な首筋を爪で穿つ。


 無防備を晒したのは、ベアトリクスの方だった。



「がッ!?!?」



 真横から殴られた。

 ただそれだけ、だが、予期せぬ攻撃は容易に命に届きうる。


 結果としてベアトリクスは一命を取り留めた。

 先日、ラグナガルムから受けた奇襲があったからこそ、無意識下で警戒していたからだ。



「おイ」



 エイワズニールの苛立ちを聞いて、ベアトリクスは理解する。

 敵は一匹じゃなかったのだと。


 そして、ベアトリクスは走り出す。

 類まれなる身体能力を、逃亡に使用して。





 **********





「やっぱ変だゾ。先代同士の戦いで兎は熊に惨敗してる。協定を持ち掛けて来たのだって、アルミラユエトの方だったゾ」



 心の中で呟いて、その時の記憶を探る。

 アルミラユエト、兎の皇種。

 長きに渡り繰り返された縄張り争い、それにウンザリしている穏健派の皇種だ。



「溶嶽熊の記憶でも……」



 *



『ヴァジュラコック、アルミラユエト、エイワズニール、どいつもこいつも足りてねぇ』



 脳裏に浮かんだ、溶嶽熊の声。

 それは、アルティがベアトリクスになる前の記憶。



『おぉ、来たか。コイツが人化の魔法紋を持ってる小熊だ』

『ふむ?……熔嶽熊(マーグマー)よ、正気か?』


『あぁ、勝機(・・)だ。つーより、生き残るにはこれしかねぇわな。お前、名前は?』



 先代の熊の皇と狼の皇。

 その言葉の意味を、当時は理解できなかった。



『生まれたばかりではないか。こんなのを皇にしてどうする?』

『おめーに育てさせる」


『なんだと!?』

『くかか、冗談だよ、冗談。ちゃんと当てはある。……が、外れた時は頼む』



 皇にする。

 その言葉の重さは、今でこそ理解できる。

 溶嶽熊は言ったのだ、アルティに種族を賭けると。



『ヴァジュラコック、エイワズニール、アルミラユエト、どいつもこいつも足りてねぇ。直ぐにやられるぞ(・・・・・)

『その中ではお前が一番若造なんだが?よくもデカイ事が言えたもんだと褒めてやろう』


『ブービーに言われたかねーよ。だがなぁ、まぁ、事実か』



 溶嶽熊が立ち上がり、その全身を露わした。

 当時は恐れながら見上げた。

 今は、困惑の方が勝っている。



『良く見ろ、メスガキ。酷ぇもんだろ?』

『これ、なんダゾ……?』


『負けるとこうなるっつー見本だよ』



 骨に皮が張り付いているだけ。

 熔嶽熊の下半身は理解不能なほど弱弱しい、皇が持つ回復力ではありえない事態だった。



『メスガキ……、いや、アルティ。お前はこうなりたいか?』

『い、嫌だぞ!なんか痛そうなんダゾ!?』


『じゃあ、よく見ろ。よく聞け。よく感じろ。しらねぇもんに手を出すな。いや、手を出す前に観察しろ』

『何の事を言ってるんダゾ!?』


『考えろつーことだ。お前が神から授かった魔法紋は、筋肉じゃ解決できねぇ差をひっくり返せる。皇である俺様には分かるんだ』

『皇さま、ダゾ!?』



 皇種とは、本能の根底に刻まれた『畏敬』。

 同種族の皇には絶対の忠誠を抱き、他種族の皇には絶対の恐怖を抱く。


 改めて理解したアルティは、感謝した。

 生き残る為の方法を教えられていたのだと。



『逝くのか、熔嶽熊マーグマー』

『ちょっくら人間を殺しにな。人がどういう動きをすんのか分かってりゃ、役に立つだろ』


『最後に出てくるのはユルドルードか。……勝てよ』

『あぁ、クソ不味い肉で宴会でもしようや。じゃ、娘を頼む』



 *



『……おい、ベアトリクス。俺が生きている内に人間に手を出したら殺すと言った。覚えてるか?』

『忘れちまったなぁ。代わりに教えてくれや、その時の俺様は、「ひぃ、分かりましたぁ、ユルドルード様の言う通りにしますぅ」とでも言ったか?』



 人間の頭をちぎって口に放り込むという、安い挑発。

 溶嶽熊の煽りに、ユルドルードは剣を抜く。



『それが答えでいいんだな』

『まったく、人間ってのはいつ食ってもクソみてぇな味がするぜ』


『ベアトリクスッ!!』

『クソ共。てめぇの尻くらい、てめぇで拭えや、人間』



 爆裂する溶岩地帯に沈んだベアトリクスには、両腕が無い。

 牙もない、片目もない。

 足もない、それでも権能を駆使して戦った。


 結果だけ見れば、ユルドルードの圧勝だった。

 だが、その戦闘時間は5時間を超える。

 神壊戦刃グラム――、世界最強の攻撃力を持つユルドルードの戦闘では、トップクラスの長さだった。



 *



「溶嶽熊がオイラに種を託した理由は……、リリンサ達が言ってた、無色の悪意って奴なのかダゾ……?」



 溶嶽熊の下半身をボロボロにした存在、それは植物だ。

 唐突に下半身から芽吹いた植物、その根が張っていたのは神経。

 それを権能で焼き切って取り除いた結果、足は二度と再生しなかった。



「エイワズニールの素顔にも、根っこが生えてたぞ。それに、アルミラユエトが擬態してたのも木……」



『ヴァジュラコックも、アルミラユエトも、エイワズニールもすぐにやられる』


 ……誰にやられる?

 再度、思い出した言葉は、すべての答え。

 知ってはいけない、事実。



輪廻を宿す(リィンカーネーション)木星竜(ジュピター)ッ!!」



 ぞくりとした。

 その仮定が真実なら、サチナですら――。


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