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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第13章「御祭の天爆爛漫」

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第44話「リリンサの主張⑦」

 

「千海山を握する業椀の所有者、アルカディアか。一戦交えてみてぇが……、オレンジ料理ってなんだ?」

「アルカディアの好物。わんぱく触れ合いコーナーで戦うには、好物を差し出すのがルール」


「そりゃ動物の話だろ」

「……。彼女は私たちのペット枠」


「おめぇ、魔王友達は極悪だけど、人の道は外れていないとか言ってなかったか?」



 アルカディアの正体がタヌキであることは、ユニクルフィン以外には周知の事実だ。

 セフィナもゴモラ経由で知らされている。


 だが、リリンサが直接的にタヌキだと言及したことはない。

 それがアルカディアとの約束だからだ。



「オレンジジュースでも絞ってあげれば良いんじゃないですか。そんなことより……」

「最後はロリコンの番。セフィナは私と同じ純粋な魔導師、こともあろうに人類最高の術師『黒魔導主義(ブラッククロニクル)』などと呼ばれているのなら、その実力を見せて欲しい!!」



 アストロズが放った殴打により、人形兎の群れは凄惨たる最期を迎えた。

 爆裂したゴム風船の如く散り散りとなり、そして……、撒かれた血液がさらなる危険を呼び込んでいる。



「ほぉ、これは珍しい。黒締嵐蛇グローツラングですか」



 リリンサ達を中心に放射状に染まった景色。

 その一方向だけは、深緑のままとなっている。

 血濡れを嫌った『風の支配者』により、撒き散らされた飛沫が弾き飛ばされたからだ。


 ズルり。


 巨木に巻き付いていた巨体が、うねりを上げた。

 全長35m、頭部の太さ80cm、レベル99999。

 文字通りの意味で鎌首を持ち上げたそれは、まごうことなき、巨蛇。



「黒締嵐蛇にしては大きいです。かなりの年月を生きていますね。それで、私はどうしましょうか」



 リクエストの受付したエアリフェード、その片眼鏡で隠された目がリリンサを値踏みする。

 弟子の成長はどれほどか。

 自分と同じ境域にたどり着いているのか。

 そんな彼の興味にリリンサが答える。



魔法十典範(オムニバス)はいくつ使える?」

原典に宿りし魔精王オムニバス・レメゲトンは使えますよ。私は創星魔法系ですので」


「……原色を照らす太陽王(オムニバス・アテン)原審を下せし戦陣王オムニバス・オーディンも使えるのは分かっている。そうじゃないと、

 あなたの得意魔法『絶望の雛』が成立しない」



 かつて、幾億蛇峰の胴体を分断せしめた究極の光魔法『明星殲滅アマテラス』。

 その威力は幼いリリンサに『これが英雄』と思わせた、……人生で初めて目に見える形で示された憧れだ。


 そして今、リリンサの興味は別のものに向いている。

 エアリフェードが本気の戦闘を行う際に必ず出現させる漆黒の球体、『絶望の雛』。

 彼の肩書きのモデルとなったそれこそが、幼いリリンサでは気づけなかった理解を超えた先にある……、異質。



「私と違い、セフィナは創星魔法系。すごく忌むべきことに、ロリコンと同じ」

「うん。リリンサ(・・・・)おねーちゃんとは違うって、ゴモラに教えて貰ってるよ」


「系統の違う私ですら、ロリコンの戦い方は為になった。セフィナにとってはもっと為になる」

「じゃあ、おねーちゃんが闘技場でやってた、魔法をバンバン使う戦い方って!?」


「ロリコンから学んだ方法。これから魔法を戦いの軸にしていくセフィナにとっては、欠かせない技術」



 リリンサは魔導師の師匠であるエアリフェードを『忌むべき変態(ロリコン)』と呼ぶ。

 そう、忌む『べき』変態。

 本来ならば近づくべきではない……、なのに交流を続けざるを得ない程、莫大なメリットを持つ存在。


 切り捨てたいけど、それをして損するのは私の方。


 だからこそ、リリンサはエアリフェードを、尊敬と軽蔑を込めて『忌むべき変態』と呼ぶのだ。



「おやおやおや、これだけ期待されて答えないのは、ロリコンの矜持に反しますね」

「私はもう16歳で成人している。子ども扱いは許さない」


「はぁ。何を言っているのですか、16も61も大差ありません。等しく妙齢とでも呼んでおけば宜しい。今の言葉はセフィナの期待に応えるということですよ」

「……くす、そうだね。60歳の誕生日が来ないあなたには、区別がつかなくて当然。」



 リリンサから発せられた、絶対零度の微笑ましい殺気。

 それを横で見ていたシーラインは、「お?魔王シリーズが無くてもコントロールできるじゃねぇか」と感心した。



「さてさて。黒締嵐蛇は風を操る蛇なのですが……、リリンサは知っていますか?」

「わんぱく触れ合いコーナーにいた偽物しか知らない。図鑑にも載ってないし」


「そう、一般冒険者の認知度は限りなく低い。それはなぜでしょう?」

「……個体数が少ないだけなら、珍しい物好きの冒険者が放っておく訳がない。だから、遭遇後の生存率が著しく低く、報告自体が少ないんだと思う」


「正解です。『魔導師殺し』、それがあの蛇の異名ですよ。シーライン、アストロズ。手出し無用ですが、備えておきなさい。奴の戦闘時には魔法詠唱が困難になりますから。では行ってきます。《二四刻を繰する王装(ヴァンパイアリッチ)、解放》」


「!そういうこと。そのマントも千海山シリーズなんだね」



 エアリフェードのシンボルである漆黒のマント、それが超常の魔道具だという認識は幼いリリンサでも持っていた。

 だが、その正体が神殺しの試作機であると気づいた今、秘められた破格の性能も理解する。


 本来ならば、短時間で消えてしまう魔法を保持する魔道具、かな。

 魔方陣を記録して適正外の魔法を発動できる魔道具とは、根本的に違うっぽい。



 マントの内側に張り付いていた星空。

 それがエアリフェードの陰に落ち、そして、漆黒の球体へと変貌する。



「ふむふむ、むやみに仕掛けず、策を弄して有利を形成する理知。あなた眷皇種ですね」

「しゅるしゅるしゅる……」


「アマタノが色んな意味で有名ですので目立ちませんが、古来より大型蛇による壊滅的な被害は存在します。特徴的に、アングルバミュの森にいるとされる個体ですかね」

「しゅっしゅっしゅっ……。しゅぃぃぃぃぃ……」


「空気圧縮による気圧変化。これにより声質が変わり、詠唱に必要な呪文が変わってしまう。魔導師殺したる所以がこれですね」



 甲高くなったエアリフェードの声は、変声期前の美少年のように美しい。


 魔導師の男女比率で女性が圧倒的に多いのは、声変わりすると必要な呪文が変化してしまうからだ。

 魔法詠唱が声紋を重ね合わせて魔方陣にするというシステム上、声質の変化=魔方陣の変化となる。


 声変わりの振れ幅が小さい女性の方が修正が容易であり、余った時間を研鑽に仕える為に大成しやすい。

 そんな理由から、魔導師の数は女性が圧倒的に多くなるのだ。



「通常個体の3倍以上の大きさ、蓄えられる空気の量も桁違いですね」

「しぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


「砂で汚れた服って、洗濯が面倒でしてね。こちらも風を使うとしましょうか」



 ぬるり。

 黒締嵐蛇が行ったそれは、疑似的な脱皮。


 全身の吸気口から発した爆風が、周囲の物質を取り込んで砂塵の蛇と化した。

 怒り狂う二匹目の黒蛇、その鱗は鉱石混合。

 万物を取り込みながら進むそれが向かった先にあるのは、絶望。



「《神風払(コアトルゼファー)》」



 その短い詠唱に、リリンサは二重の意味で驚いた。

 一つ、変わった声質では詠唱が成立しないから。

 そしてもう一つは、唱えられたのがリリンサと同じ創生魔法系の『原語を謳いし天空王オムニバス・アイテール』から派生した魔法だからだ。


 エアリフェードが腰から引き抜いた指揮棒タクト、魔導杖としては短か過ぎるそれに従い、不純物を含まない白の風蛇が踊る。

 黒と白の風蛇の挙動は、鏡写し。

 互いの中心点で対消滅する光景まで、完全同一だ。



「しっッ!!」



 天空から降る大質量、猛烈な勢いで突撃したのは黒締嵐蛇の頭部。

 蛇として真っ当な攻撃方法、噛みつき。

 熟知されている挙動であるからこそ、黒締嵐蛇は囮を用意し、必殺技へと昇華させている。


 魔法を封じ、不意を突いた二段構えの攻撃。

 音速を超える噛みつき、その先端は太さ20cmもある極太の双牙。

 動きが鈍い人間に避けられるものではない。


 更に、この黒締嵐蛇は、油断や奢りを欠片も抱いていない。


 この攻撃は、当たればどんな生物でも致命的な傷を負う。

 だが、竜などの高位生物は即死しない。

 だからこそ、その口内には、死を確定させる為の麻痺毒が充満している。



「《九肢鉈姫クシナダ》あなたは蛇です、地を這うべきでしょう」



 グシャり。と頭が斬り潰された。

 鉈でぶつ切りするようにあっけなく、9つに分かれた胴が地面にめり込んで停止する。



「みなさん、30秒ほど息を止めておくように。毒やら気圧やら、諸々の処理がありますので」



 そんな注意は、リリンサには意味が無かった。

 彼女は既に、息を飲んでいる。


 エアリフェードの背後で起こっている、様々なランクの魔法が同時に発動する光景。

 それは正真正銘の英雄、アプリコットの技術。

 発動に失敗するどころか、呪文が存在しない完全な無詠唱。

 リリンサですら完全に使いこなせていない、魔導師の極致だ。



「……解説を所望する。洗いざらい白状して欲しい!!」



 平均的にふてぶてしくなった声で、リリンサがエアリフェードに詰め寄った。

 その後ろにはセフィナ。

 姉妹どころか、ペットのゴモラまでもが目を丸くしている。



「絶望の雛は光を吸収して魔法を発動する技だと、以前に聞いた。アマタノを焼き切った明星殲滅(アマテラス)もそう。なのに、今使ったのは風魔法系統で矛盾する」

「いえ、矛盾はしませんね」


「なら、星・光・火、三つの魔法系統を生み出す技ではない?むぅ……?悪食=イーターのパクリ?」



 ゴモラと契約したリリンサは、理解しがたい現象を悪食=イーターで調べる癖が付いた。

 タヌキ帝王が当たり前に行っているチートを躊躇なく使い倒しているのだ。


 だが、今のつぶやきは悪食=イーターを呼び出すものではない。

 絶望の雛、その性質が悪食=イーターに似ていると思ったのだ。



「悪食=イーターとは何でしょうか?」

「那由他の権能」


「!なるほど。正解です」

「だとすると、絶望の雛の役割は、取り込んだ太陽光で魔方陣を描くこと。むぅ、だから黒魔導主義(ブラッククロニクル)


「魔法で魔導書を生み出すというのは、私の発案です。それを見て歴史書(クロニクル)と名付けたのは、大聖母であるあなた達のお母さんですがね」

「……ロリコン呼びはお母さんの指示だった?」


「バレてますからねぇ、性癖。ま、それはお互い様ですがね」




※補足1

この黒締嵐蛇はハナちゃんとは別個体の、普通の黒締嵐蛇です。

なお、眷皇種でありながら、アマタノの言うことを聞かないチンピラ蛇。


※補足2

アカムの両親の仇はコイツ。

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