第41話「リリンサの主張④」
「ぶひゃひゃひゃひゃ!!お前の人生最高の剣技の狙い、尻穴だったってよ!!シーライン!!!!」
「……。」
リリンサ達の目的地は、ダルダロシア大冥林にあるベアトリクスの縄張り。
セフィナを探しに行った時に一度訪れており、迷うことなく進んでいる。
『ただ移動するのも味けねぇ。リリンサ、アマタノの弱点が尻ってどういうことだ?』
そんなアストロズの質問に渋々答えたリリンサの、『師匠達が狙っていたのはお尻の穴。というか、ぶったぎった頭だと思ってたのは、全部尻尾』という未曽有の供述により絶句。
その後、人類に伝わっている弱点は、白銀比の冗談によるものと聞いて、悶絶。
『そりゃ、あんなもんを尻穴に入れられそうになったら誰だってブチギレる』と、一同が苦笑いを零した。
「爆笑しやがってこの野郎、アストロズ……、だが、実際まいったぜ。仮に成功してたとしても、致命傷にゃ程遠い」
「一般的な蛇の弱点は心臓、五等分して頭から2番目とされていますが……逆に、尾の付け根には大した臓器がありませんね」
「それな。分岐してる頭の合流地点が、丁度、5分の2くらいになるのがいやらしい。……ちっ、」
冒険者にとって、蛇は最も身近な獲物だ。
巨大にはなるものの、手も足もなく、攻撃手段は頭のみ。
牙による毒殺、体による絞殺、そのどちらも時間が掛かるため、多対一では非常に不利という弱点もある。
「で、リリンサ。お前の見立てでは勝てるっつぅ話だが、……どうやる?」
「少数精鋭での短期決戦。私の友達10名程度で戦うのが、最も勝率が高いと思う」
「それっぽっちで何が出来んだよ」
「逆。一定基準に達していない人がいた所で、足手纏いにしかならない。兵法の基本『損耗率3割を超えたら負け戦』だと教えてくれたのは、オタク侍のはず」
「確かにそりゃそうだが……、その10名ってのは、ぶっちゃけ我らよりも強いのかよ?」
シーライン、アストロズ、エアリフェードの三名は、レベル99999に達した人類の頂点だ。
その実力は相当なものであり、同じ領域に達している者以外は自然と見下すことになる。
そんな彼らの視線は、リリンサのレベル94904に向けられた。
「確かにレベルは上がっちゃいるが、まだカンストしちゃいねぇ。魔王シリーズがあるお前はまだしも……」
「全員。レベル99999。」
「は?」
「みんな、私を差し置いてレベル99999になってる。というか、ユニクとワルトナに関してはレベル10万を突破してる。ずるい」
「……おいおいおい、どういうこった!?」
「どうもこうもない。ラグナガルムはレベル99万だし、ホロビノやゴモラはもっと上。」
レベル10万を超えた危険生物がいるというのは、アストロズやシーラインにとっては常識だ。
特殊個別脅威を管理する側の彼らは目にする機会も多い。
だが、その領域に達した人類がいるとは思っていない。
名高い英雄ユルドルードもレベル99999で活動しており、リリンサの供述は全くの想定外だった。
「マジかよ、レベル上限を突破する方法があるつぅのは驚きだぜェ」
「ふっ、英雄に比べれば、ボディフェチの身体など子供と変わらない!!」
「言うじゃねーか。で、そいつらと俺様達を比べると、向こうの方が勝つと?」
「それは……、そこのロリコンがレベル詐称をしているかどうかによる!!」
ひっそりと気配を消していたエアリフェードへ、リリンサのキラーパスが飛ぶ。
大聖母ノウィンの直属の部下であるワルトナが超越者である以上、同じカテゴリにいるエアリフェードも疑わしい。
そんなリリンサの鋭い視線は、見事に真実を見抜いていた。
「……えぇ、私のレベルは100000。超越者の資格を3つ所持した状態です」
「んだとッ!?」
「おいこら、エアリフェードォ」
「ついでに白状すると、不安定機構の上位組織『超常安定化』にも属しています。こちらの機密で喋れないことが多くてですねー、ハハッ、残念です」
エアリフェードは言外に、リリンサの母親の大聖母ノウィンも超越者だと告げた。
それに逆らえない、つまり自分よりも格上だと匂わし、早々に話を打ち切る。
「話を戻しますが、リリンサの友人は私と同じか同等以上の超越者。レベル99999の者もいますが、実力差は誤差と言って良いでしょう」
「……むぅ、随分と詳しそう」
「ワルトナさんの手が届かない、もしくは、知られたくない場所の調整は私が行っていましたから」
「ボディフェチ、オタク侍。ロリコンを縛り上げて情報を吐かせる時は私も呼んで欲しい」
おう。絶対呼ぶぜェ。
拷問に魔王シリーズは必要不可欠だからなぁ。
そんな肯定に頷きつつ、リリンサは話をアマタノ関連に戻す。
攻撃の意思のない皇種に喧嘩を売って人的被害を出し続けている現状が、どうしても気になるからだ。
「アマタノは日向ぼっこが好きなだけの温厚な蛇。こちらから攻撃しなければ何もしてこない」
「それも白銀比から聞いたのかよ?」
「そう。活火山である蓋麗山を湯たんぽ代わりにしていると」
「ゆたんぽ……」
「たぶん、昔の超越者もこれを知っていたから討伐しなかったんだと思う。もしもアマタノを殺してしまうと別の蛇の皇が生まれ、積極的に人類を攻撃してくるようになる可能性がある」
リリンサの懸念は事実だ。
ユルドルードが人的被害を出した皇種を一度は見逃すのも、自分という脅威を見せつけて自重させる為なのだ。
「マジかよ。……我の生涯の目標だったんだがなぁ」
「わんぱく触れ合いコーナーで、ベアトリクスにでも稽古を付けて貰えばいい」
「いや、皇っつっても子供だろ?」
「レベル78万だけど?」
「78万ッ!?」
「私と一対一だと、こっちが厳しい。聞いた話じゃ、殴った地面が溶岩地帯と化すらしいし」
わんぱく触れ合いコーナー(示威)の録画映像は回収されており、現在はワルトナの手中にある。
決着が付いたら上映会をしよう、みんなで。という約束を交わしており、未来の楽しみの一つとなっているのだ。
「溶岩だと……?アストロズ、おめぇが本気で殴ったらどうなる?」
「肉はいけるが、鉄は燃えねぇ」
「だよな。溶岩の温度は1000度以上、地面がそうなるってこたぁ、瞬間火力は数倍だ」
同じ身体能力特化のアストロズは、ベアトリクスの実力を……見誤っていた。
それは当然の結果。
クマの筋力を人間の幼女に凝縮した存在、ましてや、身体能力を変更しながら戦うベアトリクスの性能を、写真を見ただけで理解できる訳がない。
「俄然、やる気がわいてきたぜ。ベアトリクスに勝つと温泉郷の無料パスポートが貰えるってのもいい」
「ふっ、なんならバビロンにも挑戦して欲しい。もしも勝てたら、何でも言うことを聞いてあげる」
「「「んだとッ!?」」」
「バビロンの実力はレベル99万どころじゃない。さっさと敗北して、世界の頂の高さを知ると良い!!」
そんな雑談をしながら走る事、30分。
ここにいる全員が、同時に視線を感じて立ち止まった。
「見られてる。しかも結構強い奴」
「レベル99999なのは間違いないですね。こちらから仕掛けますか?」
「んー。なるほど、そこの100m先が食物禁止結界の境界っぽい。ちょうどいい、ロリコン共の今の実力が知りたかった」
平均的なふてぶてしさで、あの程度さっさと倒して欲しい!とリリンサが視線を送る。
サチナとの約束では、『食物禁止結界の外での戦いには、一切の口出しをしない』となっている。
冒険者が他者の命を狩って生計を立てる職業である以上、どこかに線引きは必須だからだ。
なお、万が一トラブルになっても、嫌われるのが師匠共なら問題ないという、魔王な思考も含まれている。
「セフィナ、今から、普通の人類最高峰の戦闘を見せる。憧れる必要はないけど、勉強にはなるから、よく見た方が良い」
「おねーちゃんもそうしたの?」
「不本意ながら。……ロリコン共、私とセフィナの期待に泥を塗るような真似をした瞬間、魔王で全部ブチ転がす。真剣にやって欲しい!!」




