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第38話「ユニクルフィンの主張⑪」

「あの、これで良かったんでしょうか?ホーライ様は必要不可欠だと思うのですが……」



 村長の後ろ姿が見えなくなった後、サーティーズさんがぽつりと呟いた。

 明らかな動揺と落胆。

 それが、記憶を読めない俺にもよく分かる。



「俺だって期待してたさ。レベル99万のぶっちぎり人類最強枠。神殺しも持ってるし、嘘を嗅ぎ分けられる鋭い嗅覚も持ってる」

「でしたら、強引にでも引き留めた方が」


「……いや、いい。村長の言うことの方が正しい気がする。金鳳花による物語が一度や二度じゃないのなら、その度に世界が滅ぶ可能性があった。なのに滅んでいないって事は、誰かが尻拭いをしたからだ」



 最初から、村長は一貫していたじゃねぇか。

 物語の始まり……、親父達がヴィクトリアの名前を出した日に、村長は選択をした。

 私情を捨てて世界の為に、親父達の失敗を見据えた行動を起こしたんだ。


 それは保険だ。

 ユルドルード、アプリコット、プロジア、ノウィン……、人類の守護者である英雄。

 そしておそらく、前代の人間の皇も話に絡んでいる。

 何らかの理由で前代の皇は死んでいる、そうじゃないとアプリコットさんが人間の皇種になれない。



「村長が正しいんだ。俺、レラさん、ワルト、プロジアのメイド。英雄6名と、リリンやセフィナを始めとする英雄見習いがたくさん。もしも親父達が全滅していたとしても、これだけいれば次の時代も人間は生き残れる」

「人類の皇……?そのような方が」


「気にしなくていい。今回は話に絡んでこないと思うしな」



 プロジアは言っていた。

 アプリコットさんを殺し、皇種の資格を奪ったと。


 そして、それから8年。

 力を手に入れた奴は、何もしていない。


 これがきっと答えだ。

 俺達とは関係ない、別ルートの物語。

 神がどんなリクエストを付けたか知らねぇが……、『皇種に覚醒した僕ぁだけど、ハーレムメイドを育成します!!』って感じか?


 はっ、流石は皇種、御大層な良いご身分だぜ。

 こっちのハーレムは可愛い顔した魔王様だぞ。



「とにかく、俺達は白銀比を探す。つっても、当てはあるんだが」

「はい?あの、たぶん母様は自身に認識阻害を掛けて姿を偽っていると思います。鬼ごっこの時はいつもそうでしたから」


「時の権能を持ってないと見破れないんだろ。そこらへんも踏まえて、サーティーズさんや村長の人選だったんだろうが……、俺にはこの札がある」



 てーってっててー、ぐるぐるげっげー!!

『白銀比を呼び出すお札』ー!!


 異空間ポシェットから取り出したこれは、クソタヌキが温泉郷に侵入したと知ってブチ切れた白銀比が、「タヌキを見つけ次第、呼ぶなんし」と言ってくれたものだ。

 結局、使うタイミングを逃していたものを俺が預かっていた。




「これを使えば白銀比を呼び出せる」

「……あの」


「すぐに使わなかったのは、村長の正体を確かめたかったからだ」

「いえ、あの、そちらのお札はお母さまを呼び出すものではありませんよ」


「……え?」

「こちらの現在位置を知らせるだけで、転移をするかどうかはお母さまの裁量によります」


「……。とりあえず使ってみるか。話はそれからだ」



 便利アイテムの存在を思い出して調子に乗ってたら、雲行きが怪しくなってきた。

 えーと、使うには魔力を通すだけで良い……、あ、光った。



「……。」

「……。」


「……来ないな?」



 ……。

 …………。

 ………………そして、光っていた札はその役割を終えた。


 ……来ないかぁ。



「私は来てくれなくてホッとしてます。機嫌が悪い母さまを一方的に呼び出すって、絶対にヤバいです。はわわ」

「……足を使って探すか?」


「ですね」



 そうして俺達は走り出した。

 ゲロ鳥のように。



 **********



「う”ぎるあ!!ゆになんちゃらが探してるし!!白銀比様の部屋に行くし!!」



 プラムと共に白銀比を探していたアルカディアは、馴染みある匂いを捕らえた。

 幾度となく餌付けされ友達となったレジェリクエ、そして、最大級の尊敬を抱く相手……バビロン。


 タヌキ帝王・バビロンの名は、タヌキ集落で暮らしていた時代のアルカディアでも知っていた。

 タヌキにして、タヌキの頂点に君臨せし者……、バビロン。


 ノリノリでロボを召喚するクソタヌキーズや、常に人化しているエルドラド。

 研究室に引きこもってるムー、強すぎるために逸話が残らないエデン。

 もはや神扱いの那由他など……、色物ぞろいのタヌキ伝説の中で輝く、真っ当なタヌキの姿をした超武闘派帝王。

 それがバビロン、そのタヌキなのである。


 そして、そんな憧れの存在が……、あろうことか、自分と同じガントレットを使い英雄(ユニクルフィン)を圧倒。

 こうして、アルカディアの好感度上位に躍り出たバビロンを見つけてしまっては、挨拶しない訳にはいかない。

 そうしてまんまと捕獲されたアルカディアは、レジェリクエに洗いざらいの情報を話した。



「……レジェリクエ陛下?」



 アルカディアへの誘導尋問を終え、ユニクルフィンが書いた簡素な手紙に目を通したレジェリクエは笑った。

 それが苦笑か嘲笑かは、ホロメタシスには分からない。



「おっと、ごめんなさいねぇ、ホロメタシス陛下。せっかくのお祭りなのに」

「いえ、何やら良からぬ気配が感じられます。遊んでいる場合ではないのでしょう」


「えぇ、そうよぉ。ワルトナだけでも大概に面倒だけれど……、腹心のテトラフィーアに睨まれるなんてねぇ。恋する乙女をからかった罰かしら?」



 レジェリクエはホロメタシスを歓待する為、温泉郷の各地を巡っていた。

 いくつも張り巡らせている暗躍、その中には、心無き魔人達の統括者にも内緒にしているものがある。

 そして、歓待ついでにそれらの下準備をする為に、招いた人と会うつもりでいたのだ。



「カミナ」

「解析なら終わってるわよ。今は使い方を考えてるとこ」



 ホロメタシスが贈った赤い宝珠『レヴュアタン・メノウ』。

 それを手に取ったカミナは、かつて抱いた夢を垣間見た。



「気に入ったようね。で、余にも分かるように説明して貰えるかしら?」

「賢者の石って聞いたことがあるかしら?」


「……不老不死に至る為に作り出された命の結晶、だったかしら?でもそれは」

「ファンタジーだとされて来た。これはその性質に限りなく近い物質よ」



 それが王蟲兵の核だとホロメタシスから聞いているレジェリクエは、ホーライの過去を知ったことで、一つの仮説を立てた。

『世界最強』の動力源。

 王蟲兵による滅亡の大罪期は、この宝珠を手に入れる為に行われていたのだと。



「王蟲兵が行使するエネルギーは莫大よ。神から力を奪った蟲量大数はともかく、配下が無尽蔵に使える力じゃない」

「その為に普通の王蟲兵は、大陸を滅ぼす勢いで生命エネルギーを食らい、体内に蓄える。そうして形成されたのが、その結晶なのね」


「神殺しのいくつかにも使われているわ。出自はどうであれ、有能な事には変わりないもの」



 神殺しは、唯一神が行使した力の残滓『神の情報端末(アカシックレコード)』を動力源としている。

 だが、他のエネルギーユニットが搭載されていない訳ではない。



「時間も無いことだしぃ、手っ取り早く使うにはぁ……、壱切合を染する戎具(ドッペルクルス)が良いかしら?」

「そうね。神殺しの覚醒システムの試作機であるそれなら、シェキナに対抗できる武器になるわ」


「くす……、よろしくねぇ」



 レジェリクエは考える。

 持っている手札は、5枚。

 カミナ、ホロメタシス、アルカディア姉妹、バビロン、ローレライ。


 失った手札は莫大。

 テトラフィーア以下、レジェンダリア軍

 ワルトナ以下、不安定機構関係

 リリンサ以下、英雄アプリコット関係


 だからこそ、次の一手は……、戦力の補充だ。



「メナファスと合流したい所だけどぉ、招待しておいたお友達が先かしら?」

「私に聞くの?答えなんて分かりきってるのに」


「あら?今更、人類の魔道具技術なんて興味ないと思ってたわ」

「そんなことないわよ。プロジア・フォルトマン。リリンで言う所のホーライ、レジェで言う所のレラさん。プロジア博士は私の憧れなんだから」



 その名をローレライから聞いたレジェリクエは、驚嘆のあまり硬直した。

 稀代の発明家『プロジア・フォルトマン』の名は、一定以上の施政者ならば全員が知っている人物。

 現代科学の基礎……、魔力に依存しない電気工学の基礎を発明した偉人と既知を結ぼうと、王貴族が躍起になっているからだ。



「待ち合わせは夜6時だけどぉ、もう既に温泉郷の中には入っているわぁ。迎えに行くぅ?」

「もう一組の方は間に合ったかしら?迎えに行くならこっちでしょ」


「戦争中に招待できたプロジアとは違い、そっちは零騎士経由だったからねぇ。白銀比様の結界に阻まれていないといいんだけどぉ」



 くすくすと笑みを零すレジェリクエの脳裏に浮かんでいるのは、愛すべき決戦兵器(リーダー)の嫌そうな顔。

 アホの子を制御する為の手札は一枚でも多い方が良い。

 それが、レジェリクエの結論だ。



「プロジア博士との話は、さぞかし有益でしょうね。だけど、今はサチナちゃんとサーティーズの捜索が最優先よ」

「二名の霊媒師の確保しつつ、ロゥ姉様が準備を終えるまで逃げ切る。相手がワルトナとテトラだものぉ、この策が最も勝てる確率が高いわ」



 **********



「……つっ!?セフィナ、下がって!!!!」



 よし、蹴散らそう。

 温泉郷から締め出されて平均的に不機嫌になったリリンサにとって、周囲の冒険者のトラウマなど知ったこっちゃない。

 ましてや、ここは戦場になる可能性が高い。


 戦火に巻き込まれずに済むのだから、むしろ感謝して欲しい!!

 そんな魔王の咆哮は、3人の冒険者を発見したことで急停止した。



「……むぅ、なんであなた達がここにいる。忌むべき変態共(ろりこんども)!!」



 いつもの平均的な表情を崩した、むき出しの嫌悪。

 鋭い犬歯すら見せ……、リリンサは三人の師匠と再会した。

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