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第35話「ユニクルフィンの主張⑧」

「……おい、なんだその物欲しそうな顔は?用は済んだから仕事に戻れ」



 ……やはり、ノーマルタヌキはタヌキじゃなかった。

 怒涛の如く押し寄せるタヌキ奉行、その隙間から悪食=イーターが三つも見えた時はヒヤッとしたが、グラムのごり押しでどうとでもなった。


 ばったばったとタヌキ共をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、5分。

 わんぱく触れ合いコーナーでぼっちになった俺は、成長したなぁ。という感慨に浸っていると、タヌキ共が続々と復活。

 どう見ても俺の圧倒的勝利、だが、どことなく勝った気がしないのは相手がタヌキ帝王じゃないからか?



「ほら、帰れって。サチナに怒られるぞ」

「……あの、ユニクルフィンさん?」


「どうした?」

「ここはわんぱく触れ合いコーナーですよね?」


「そりゃそうだろ」

「では、触れあった生物にご褒美を差し上げるのが筋では?」



 ……。

 …………。

 ………………あっ、やべ。完全に忘れてた。



「お前らはタヌキ奉行。運営側だろ?」

「記憶によると、触れ合いを行った場合にはご褒美を貰っているようですが?」


「……何が食いたいって考えてる?」

「えーとぉーー、……アヴァロン様と同じ奴?って、はわわ、何ですかこのバカみたいな料理の数!?」



 こんのタヌキ共ッ!!

 ここぞとばかりに『山盛りから揚げ、アヴァロンMAX』を要求してきやがったッ!?



「全員でシェアするんだよな?それならいいぞ」

「いえ、個別だそうです」


「うわぁ、ざっと数えて50匹以上いるぅ。6万エドロ×50=300万エドロか」

「あの、他の生物たちも物欲しそうな顔をしてますが?」


「……。」

「どうやら、わんぱく触れ合いコーナーの裏にタヌキ奉行の詰め所があるらしく、そこに訴え出る気満々だそうですよ?」


「……元締めはアヴァロンか?」

「いえ、那由他様だそうです」



 くっそ、流石に勝てねぇッ!!

 世界を作り直せる神獣だろうとも、飯をケチれば出陣する。

 それがタヌキクォリティ。やっぱりカツテナイ。



「て、テトラフィーアに……ダメだ。テトラフィーアに頼むと、今後もタヌキを利用、というか、絶対に軍事転用される」

「ゲロ鳥ですら、フィートフィルシアを絶望のどん底に落としましたもんね。私も開いた口がはわわわわでしたよ」



 しょうがない、ワルトに頼むか。

 ……怒るかな?


 だが、大魔王陛下が敵だった場合、潤沢な資金を持っているのは、ワルト、テトラフィーアの二択。

 リリンもそこそこの貯えがあるだろうが……、タヌキと一緒に毎日アヴァロンMAXを食い始めそうなので、却下。



「悪いが、打ち上げパーティーは三日後だ。他の生物にもそう言っとけ」

「ヴィギロアン?」


「ワルト主体のイベントとしてやるが、準備に相応の時間が掛かる。それに、問題が起こったら祭りは強制終了。それまでに警備を怠るんじゃねぇぞ」

「ヴィッギル!!」



 俺から確約を貰ったタヌキ奉行たちは、うっきうきなタヌキステップで触れ合いコーナーの片づけに戻った。

 鼻歌交じりで落ちている武器の破片などを拾っている。


 ふぅ、我ながら上手い返しだったと思う。

 これで現在温泉郷内に居る危険生物は、ホロビノ、ラグナ、タヌキ帝王一派を除いて、全員殺傷済み。

 飯で釣っとけば、人狼狐の動きを邪魔してくれるはず。


 そんな俺の思惑の、唯一にして最大の問題点。

 それは、観客席からワルトとメルテッサが見ている所だ。



「やぁやぁ、ユニ。いつ僕がイベントを開くことになったんだい?」

「ははははは、今かな?」


「冒険者への補填も踏まえて、そうだねぇ、ざっと100億エドロくらいかな?心臓を貫かれている以上、防具は全滅だし」

「ははっ、天窮空母よりは安いな!」


「そうだねぇ、必要経費だねぇ。100億エドロ分、なーにして貰おっかなー!」



 自分で蒔いた種だが……、飯代100億エドロとか、軽くリリンの上を行った。

 つーか、それをリリンに知られた後が怖すぎる。

「ワルトナだけずるい!!私も100億エドロ分食べる!!」とか言い出しそう。



「で、随分と来るのが早かったなワルト。入り口は封鎖してくれってお願いしたはずだが?」

「経営者なんだから連絡は来るし、入れるのも当然でしょ」



 多大な借金が残ったが、ここで合流できたのは良い結果だ。

 早速俺達も観客席に向かい、サーティーズさんを含めた四人で状況確認を行う。



「サーティーズさんに協力をお願いするために、サチナ達の所に行ったんだが――」



 時揺れの閨室が開いていたこと、その中を確認して貰ったこと、白銀比の結界などの情報を手早く伝える。

 そして、俺の報告を聞いたワルトの表情は、どんどんと曇っていった。



「失策だねぇ、失態だねぇ」

「その様子じゃ、俺もやらかしてるみたいだな。どこら辺が不味かったんだ?」


「ユニ、グラムを構えな」

「……!!」


「現時点で、時揺れの閨室を開けた可能性が最も高いのは、サーティーズ。君だ」



 ……はわ?

 そんな控えめな抗議が横から聞こえた。



「え、ちょっと待ってください。なぜ私が」

「他に出来る奴がいない。以上」


「ですから、それは金鳳花姉さまがやったことでは」

「君が金鳳花。そうだったとしても、僕は何にも驚かないねぇ」



 ワルトの手には覚醒シェキナが握られている。

 明らかな敵意と殺意の矢をつがえて。



「はわ、はわ、はわわわわ……!」

「ユニも時揺れの閨室に入ったならともかく、君一人の証言じゃ確証にはなり得ない。中でテトラフィーアとサチナが倒れていても不思議じゃないね」


「可愛い妹と祖国の姫ですよ、そんなことする訳が」

「どっちも殺せば、利権が手に入ってめでたしめでたし。これ、レジェなら言いそうなんだよねぇ」



 とりあえず殺しておくか。

 もちろん、時の権能で復活できない様に神殺しの矢でね。


 ゆっくりと動き出したワルトと全速力で逃げようとするサーティーズさん。

 だが、先手を取ったのはワルト。

 放たれた神殺しの矢の先端が、サーティーズさんの背中に差し込まれ――、その瞬間にグラムで弾き飛ばす。



「はわ、はわわわわ……」

「確認はこれくらいで良くないか?ワルト」


「よくないねぇ。ま、そのヘタレ具合じゃ金鳳花ではないだろうけど」



 恐怖で完全に腰が砕けたサーティーズさんは、はわわわわ……と震えている。

 俺も注意しながら見ていたが、介入しなきゃ確実に心臓を射抜かれていた。



「すまないが試させて貰った。試験だねぇ、私見だねぇ」

「はわ、はわわわ……、」


「サーティーズは金鳳花じゃないだろうが、人狼狐の疑いまでは晴れてない。これ以上疑われたくなかったら、このヤジリを飲み込みな」



 ワルトが拾ったのは、シェキナの矢の先端についていた赤い鏃。

 大きさ的には、飴玉に近い。



「……はわわ、これを食べろと?」

「イチゴ味だよー、おいしいよー」


「味の問題じゃないですけど!?食べ物じゃないし、地面に落ちてるし!!」



 冗談で誤魔化そうとしているが、その鏃にはかなりのエネルギーが込められている。

 心臓に受ければ確実に致命傷、金鳳花かどうかの判断はつくが……、そんな手段で調べなくちゃいけないくらい焦っているのか?ワルト



「ユニ、時揺れの閨室を確認するまで目を離さないでおくれ」

「あぁ、自分の失態は自分で拭うぜ」



 俺は変な論理感を振りかざすのではなく、時揺れの閨室を全員で確認をするべきだった。

 だが、話は単純な俺のミスじゃ済まない。

 俺の意識がそうなるように誘導されていた可能性を指摘し、ワルトは自分側の実情を語り出す。



「偉そうなことを言ってるけど、僕らの方も目的を果たせていない」

「レジィ達が見つからないのか?」


「どんな思惑があるにせよ、意図的に隠れてる。気づかれる前に奇襲するのが最善だったんだが、流石はレジェだねぇ」



 指導聖母であるワルトの主な仕事は、不安定機構支部の管理。

 当然、諜報技術も超一流であり、あれだけ目立つレジィを見落とすはずがない。



「見つけられないのが証拠か。ん、メルテッサにも無理なのか?」



 メルテッサが持つ造物主の性能は凄まじい。

 圧勝できるはずだった戦争に苦戦したのは、すべてメルテッサの功績だ。



「ユニクルフィン。君は辞書の中から『ケーキ』を探す場合、どれだけの時間が必要だい?」

「いくら俺が馬鹿でも、辞書くらい引けるぞ」


「だよねぇ、じゃ、『練った小麦粉を丸く焼いて、クリームを盛りつけた菓子』は?」

「……それって説明文の話だろ?探せる訳ないだろ」


「それと同じさ。造物主で分かるのは魔道具の性能、現在地までは分からない」

「ん、なら、戦争の時はどうしてたんだ?俺の位置を把握してただろ」


「それは普通に観測の魔道具を使って。戦争の準備をしたのは君らだけじゃないんだよ」



 メルテッサの解説によると造物主に出来るのは、能力の把握とインストールのみ。

 万能のように見えるのは様々な魔道具をノータイムで使いこなせるからで、造物主自体に汎用性はないらしい。



「なるほど。大魔王陛下が持つ魔道具の性能が分かったとしても、それが何処にあるのかが分からないと」

「一応、範囲内の魔道具の有無は分かるから、情報を精査すれば当たりは付けられる。そんな訳で、君の所にはすぐに駆け付けられるよ」


「こんな時にワルトを煽るな。だが、神殺し程じゃないにせよレジィも特殊な魔道具くらい持ってるだろ?」

「レジェリクエやそこの悪辣は、露骨なぼく対策をしていてね。傷つくったらありゃしないよ」



 ワルト達がやっているのは、常に新品の服を着るっていう、シンプルで合理的な対策。

 心無き魔人達の統括者のシンボルである黒いコートは、特注で作らせているものの、由緒ある魔道具ではない。

 魔道具で武装するよりも防御力は著しく下がるが、隠密性は段違いなんだそうだ。



「悪いが、既知を得てから一週間程度の君を全肯定するほど、僕やレジェはアホじゃない」

「だろうね。ぼくだってそうするし」



 そうこうしている内に、白銀比の部屋の前までやって来た。

 現在の時間、3時50分。

 まだアルカディアさんは戻ってきていないらしく、人の気配そのものが感じられない。



「……ん?着信だね」



 中に入って待とうと襖に手を掛けた瞬間、ワルトの動きが止まった。

 そして、異空間から取り出された手には、ブルブルと振動する携帯電魔。



「待て、ワルトのは使えるのか?」

「どういう意味だい?」


「さっき連絡を入れようと思ったんだが電源が入っていないって言われてな」

「……!!ちっ、カミナの奴」



 忌々しそうに呟くワルト、その視線の先にあるのは携帯電魔の液晶画面。

 そこには、『リリン』と書かれている。


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