第34話「ユニクルフィンの主張⑦」
「はわ……、はわわ……、あの、わんぱく触れ合いコーナーに着きましたが……、私は何をすればいいのでしょうか?」
サーティーズさんの全力疾走に合わせて移動すること3分弱、俺達はわんぱく触れ合いコーナーの入口の前に到着。
ふむふむ、流石は眷皇種。
音速程度の疾走なら、息を切らせばできるらしい。
「中に居る全ての冒険者と危険生物を対象に、『鬼ごっこ』がしたい」
「はわ……はわ……、鬼ごっこ?」
分かっている情報を整理すると、
9匹の人狼狐がいる。
人狼狐は明日の昼12時に正体を現し、『130の頭』へ、温泉郷を全滅させるように指示を出す。
温泉郷内の人物は、すべて、人狼狐ゲームに参加している。
人狼狐、9名。
占い師陣営、俺達。
村人、残り。
問題は味方であるはずの村人が、サチナを人狼狐として排除しようとしている点。
言ってしまえば、サチナとテトラフィーアが確かめていない人物は全員敵だ。
「祭りのイベントって体裁でな。できるか?」
「えぇ。ですが……、」
そして、無色の悪意を持っている人狼狐とただの村人では、対処法が異なる。
村人は、サーティーズさんが言っていたように、ちゃんとした人狼狐ゲームに参加させ行動理念を書き換えればいい。
だが、無色の悪意を持っている人物は、その程度では止まらない。
無色の悪意の対処法は、殺すしかないと村長が言っていた。
本来ならば、仲間を殺すなんであり得ない選択肢だが……、レーヴァテイン、サチナの久遠竜世、ワルトの魔法技術、メルテッサの造物主、カミナさんが人狼陣営じゃなかった場合は最先端タヌキ医療、これだけ蘇生手段があるなら容易に行える。
「無色の悪意を取り除くには殺すしかない。で、わんぱく触れ合いコーナーに来た冒険者の多くは死ぬが、強者は生還するよな」
「えぇ、そうですね」
「そういう奴こそ警戒するべきだろ。だから、珍獣大決戦の頂点に立った俺 VS 全員の変則鬼ごっこで……、一人残らず殺しておく」
人狼狐かどうかを確かめる場合、相手が誰だろうが数分の時間を要する。
レラさんや大魔王陛下の場合なら、戦うよりも手軽で速い。
だが、大した戦闘力を持たない相手の場合、俺が斬った方がよっぽど速い。
「でも、イベントという形にするなら、わんぱく触れ合いコーナー側の協力が必要になりますよね?」
「自分で言うのもなんだが、珍獣大決戦は伝説と化している。馬鹿でかい蛇 VS メカゲロ鳥ロボ VS クマ幼女アイドル VS 英雄の息子っていう空前絶後の話題性。今ならごり押せる」
そんな珍獣大決戦の勝利者へ挑戦するって体裁なら、運営を動かせるはず。
しくじった場合は二の足を踏むことになるが……、その時は、テトラフィーア、サチナ、ワルトを連れてくるしかない。
「こんにちは、わんぱく触れ合いコーナーへようこそ!!あら?」
「ユニクルフィンだ。すまんが、サチナからイベント開催をお願いされてな」
受付けを覗いて事情説明を――、と思った矢先、受付のお姉さんが何かの書面を取り出した。
んー、かなり豪華な紙の束……、ってそれ、不安定機構の勅令書じゃねぇか!?
「お話は伺っておりますよ。大牧師ラルラーヴァー様の名の下に、ユニクルフィン様達に協力するようにと」
「流石だぜ。ちなみに俺以外って誰だ?」
「ユニクルフィン様、リリンサ様、レジェリクエ様、カミナ様、メナファス様、ローレライ様、ミオ様、ホーライ様――」
ワルトは主要人物の動向を把握する一手を打っていた。
顔写真付きの名簿で仲間の支援をしつつ、容疑者の現在地を把握。
流石は指導聖母、情報収集のプロ過ぎる。
「鬼ごっこですか?それで、そちらの女性に司会実況を任せて欲しいと?」
「おう。テトラフィーアは別件のイベントがあって来られなくてさ」
「お名前はサーティーズ様……、確か……、あぁ、やはりお姉さんでしたか。身元保証人にサチナちゃんのサインが押されています」
ユニクルフィンに協力しろと言われていても、目の前の人物が『ユニクルフィンであるか』の確認は必須だ。
持っていた端末で俺とサーティーズさんの写真を撮り、何かと照合。
どうやら、温泉郷に滞在している人物は全て、その端末で管理されているらしい。
「へぇー、ちなみに、施設を利用している人のリストとか出せるか?」
「旅館内にチェックインしている方とわんぱく触れ合いコーナー内の人物は分かります。ここは性質上、利用者の身体情報を習得していますので」
「他の店までは分からないか。すまんが、俺が声を掛けるまで入退場を制限、その名簿リストをテトラフィーアに送ってくれ」
これで、中にいる人達は人狼狐の容疑から外れる。
現在の利用者は8801人、その中にメナファスは……、ちっ、いない。
**********
「はわはわはわわ……、えーただいまより、わんぱく触れ合いコーナー(鬼)を始めます」
目立つ演説台の上に移動したサーティーズさんが、堂々と演説を始めた。
普段から社長をやっているだけあって、中々の饒舌っぷり。
ゲロ鳥より声高らかに鳴き、蛇よりねちっこく、クマより脳筋で、狼より威厳たっぷりな珍獣ユニクフィンへの挑戦……ねぇ?
この社長キツネもついでに狩っとくか?
ちっ、協力をお願いする予定がないなら、一番に斬りに行くのに。
「ということで、制限時間は30分!私の歌が終わるまでにユニクルフィンを捕まえれば皆様の勝ち!人狼狐のハートを贈呈いたします!!」
茶番の目的は二つ。
・人狼狐の容疑者の削減と、人狼狐そのものの排除。
・明日の12時に備えた、危険生物の排除。
もしも俺達が失敗した場合は、130の頭が温泉郷を襲う。
それが人狼狐ゲームが終わった後に起こる以上、無色の悪意による認識改変が行われている可能性が高い。
そして、白銀比によって結界が張られた今、外から脅威は侵入できない。
ここで危険生物をすべて殺し、無色の悪意の影響から脱却させておけば130頭を弱体化できる。
「それではいきますよー!おーにさん、こちら!手の鳴る方へー!!」
聞き覚えのある鬼ごっこの童歌。
それが始まった瞬間、一万を超える殺気が俺に向けられた。
その中には、ランク6を超える冒険者やレベル99999のドラゴン、ちらほら珍しい生物も混じっている。
だが……、それだけだ。
ハナちゃんやラグナ、皇種や眷皇種が混じっているって事もない。
ちゃっかりホロビノや冥王竜が混じってたりもしない。
これなら楽勝だぜ。
「手加減はする。絶対破壊を纏わせて斬ると蘇生失敗するからな」
満月狼とおっさんの群れへ、すれ違いざまに刃を通す。
生命の急所、魔力と魂の保管場所たる心臓をひと突き。
「……ッ!!来たか」
「ヴィーギルルン!!」
「やっぱりお前らがラスボスだよなぁ、タヌキ共ッ!!」
ささっとわんぱく触れ合いコーナーを処理し、最後。
死んだ冒険者の片づけをしていた紛れもない死の使い、その名はタヌキ奉行。
「3匹、強そうなのがいるな。お前ら、名前は?」
「ニライカナイ」
「ニブルヘイム」
「ヴァルハラだ」
「んー?あぁ、アヴァロンのパシリ三獣士」
その三匹は、タヌキ将軍を統べる者……、『タヌキ大将軍』。
全長3mを超える巨体『ニライカナイ』。
黒銀の毛並みを持つ体躯『ニブルヘイム』。
輝く宝珠を首から下げた『ヴァルハラ』。
この三匹こそが、タヌキ奉行総指揮官。
タヌキ大将軍の雄々しき叫びを聞いたタヌキ奉行たちは、「へいへい、やりますよー」と先陣を切る。
「ほら、周囲もまとめて掛かってこい。俺にとってタヌキ帝王じゃないタヌキは、もはやカツテナイ魔獣じゃねぇ!!」




