表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1132/1329

第34話「ユニクルフィンの主張⑦」

 

「はわ……、はわわ……、あの、わんぱく触れ合いコーナーに着きましたが……、私は何をすればいいのでしょうか?」



 サーティーズさんの全力疾走に合わせて移動すること3分弱、俺達はわんぱく触れ合いコーナーの入口の前に到着。

 ふむふむ、流石は眷皇種。

 音速程度の疾走なら、息を切らせばできるらしい。



「中に居る全ての冒険者と危険生物を対象に、『鬼ごっこ』がしたい」

「はわ……はわ……、鬼ごっこ?」



 分かっている情報を整理すると、


 9匹の人狼狐がいる。

 人狼狐は明日の昼12時に正体を現し、『130の頭』へ、温泉郷を全滅させるように指示を出す。


 温泉郷内の人物は、すべて、人狼狐ゲームに参加している。

 人狼狐、9名。

 占い師陣営、俺達。

 村人、残り。


 問題は味方であるはずの村人が、サチナを人狼狐として排除しようとしている点。

 言ってしまえば、サチナとテトラフィーアが確かめていない人物は全員敵だ。



「祭りのイベントって体裁でな。できるか?」

「えぇ。ですが……、」



 そして、無色の悪意を持っている人狼狐とただの村人では、対処法が異なる。


 村人は、サーティーズさんが言っていたように、ちゃんとした人狼狐ゲームに参加させ行動理念を書き換えればいい。

 だが、無色の悪意を持っている人物は、その程度では止まらない。


 無色の悪意の対処法は、殺すしかないと村長が言っていた。

 本来ならば、仲間を殺すなんであり得ない選択肢だが……、レーヴァテイン、サチナの久遠竜世(とおりゃんせ)、ワルトの魔法技術、メルテッサの造物主、カミナさんが人狼陣営じゃなかった場合は最先端タヌキ医療、これだけ蘇生手段があるなら容易に行える。



「無色の悪意を取り除くには殺すしかない。で、わんぱく触れ合いコーナーに来た冒険者の多くは死ぬが、強者は生還するよな」

「えぇ、そうですね」


「そういう奴こそ警戒するべきだろ。だから、珍獣大決戦の頂点に立った俺 VS 全員の変則鬼ごっこで……、一人残らず殺しておく」



 人狼狐かどうかを確かめる場合、相手が誰だろうが数分の時間を要する。

 レラさんや大魔王陛下の場合なら、戦うよりも手軽で速い。

 だが、大した戦闘力を持たない相手の場合、俺が斬った方がよっぽど速い。



「でも、イベントという形にするなら、わんぱく触れ合いコーナー側の協力が必要になりますよね?」

「自分で言うのもなんだが、珍獣大決戦は伝説と化している。馬鹿でかい蛇 VS メカゲロ鳥ロボ VS クマ幼女アイドル VS 英雄の息子っていう空前絶後の話題性。今ならごり押せる」



 そんな珍獣大決戦の勝利者へ挑戦するって体裁なら、運営を動かせるはず。

 しくじった場合は二の足を踏むことになるが……、その時は、テトラフィーア、サチナ、ワルトを連れてくるしかない。



「こんにちは、わんぱく触れ合いコーナーへようこそ!!あら?」

「ユニクルフィンだ。すまんが、サチナからイベント開催をお願いされてな」



 受付けを覗いて事情説明を――、と思った矢先、受付のお姉さんが何かの書面を取り出した。

 んー、かなり豪華な紙の束……、ってそれ、不安定機構の勅令書じゃねぇか!?



「お話は伺っておりますよ。大牧師ラルラーヴァー様の名の下に、ユニクルフィン様達に協力するようにと」

「流石だぜ。ちなみに俺以外って誰だ?」


「ユニクルフィン様、リリンサ様、レジェリクエ様、カミナ様、メナファス様、ローレライ様、ミオ様、ホーライ様――」



 ワルトは主要人物の動向を把握する一手を打っていた。

 顔写真付きの名簿で仲間の支援をしつつ、容疑者の現在地を把握。

 流石は指導聖母、情報収集のプロ過ぎる。



「鬼ごっこですか?それで、そちらの女性に司会実況を任せて欲しいと?」

「おう。テトラフィーアは別件のイベントがあって来られなくてさ」


「お名前はサーティーズ様……、確か……、あぁ、やはりお姉さんでしたか。身元保証人にサチナちゃんのサインが押されています」



 ユニクルフィンに協力しろと言われていても、目の前の人物が『ユニクルフィンであるか』の確認は必須だ。

 持っていた端末で俺とサーティーズさんの写真を撮り、何かと照合。

 どうやら、温泉郷に滞在している人物は全て、その端末で管理されているらしい。



「へぇー、ちなみに、施設を利用している人のリストとか出せるか?」

「旅館内にチェックインしている方とわんぱく触れ合いコーナー内の人物は分かります。ここは性質上、利用者の身体情報を習得していますので」


「他の店までは分からないか。すまんが、俺が声を掛けるまで入退場を制限、その名簿リストをテトラフィーアに送ってくれ」



 これで、中にいる人達は人狼狐の容疑から外れる。

 現在の利用者は8801人、その中にメナファスは……、ちっ、いない。



 **********



「はわはわはわわ……、えーただいまより、わんぱく触れ合いコーナー(鬼)を始めます」



 目立つ演説台の上に移動したサーティーズさんが、堂々と演説を始めた。

 普段から社長をやっているだけあって、中々の饒舌っぷり。

 ゲロ鳥より声高らかに鳴き、蛇よりねちっこく、クマより脳筋で、狼より威厳たっぷりな珍獣ユニクフィンへの挑戦……ねぇ?


 この社長キツネもついでに狩っとくか?

 ちっ、協力をお願いする予定がないなら、一番に斬りに行くのに。



「ということで、制限時間は30分!私の歌が終わるまでにユニクルフィンを捕まえれば皆様の勝ち!人狼狐のハートを贈呈いたします!!」



 茶番の目的は二つ。


 ・人狼狐の容疑者の削減と、人狼狐そのものの排除。

 ・明日の12時に備えた、危険生物の排除。


 もしも俺達が失敗した場合は、130の頭が温泉郷を襲う。

 それが人狼狐ゲームが終わった後に起こる以上、無色の悪意による認識改変が行われている可能性が高い。


 そして、白銀比によって結界が張られた今、外から脅威は侵入できない。

 ここで危険生物をすべて殺し、無色の悪意の影響から脱却させておけば130頭を弱体化できる。



「それではいきますよー!おーにさん、こちら!手の鳴る方へー!!」



 聞き覚えのある鬼ごっこの童歌。

 それが始まった瞬間、一万を超える殺気が俺に向けられた。


 その中には、ランク6を超える冒険者やレベル99999のドラゴン、ちらほら珍しい生物も混じっている。

 だが……、それだけだ。


 ハナちゃんやラグナ、皇種や眷皇種が混じっているって事もない。

 ちゃっかりホロビノや冥王竜が混じってたりもしない。

 これなら楽勝だぜ。



「手加減はする。絶対破壊を纏わせて斬ると蘇生失敗するからな」



 満月狼とおっさんの群れへ、すれ違いざまに刃を通す。

 生命の急所、魔力と魂の保管場所たる心臓をひと突き。



「……ッ!!来たか」

「ヴィーギルルン!!」


「やっぱりお前らがラスボスだよなぁ、タヌキ共ッ!!」



 ささっとわんぱく触れ合いコーナーを処理し、最後。

 死んだ冒険者の片づけをしていた紛れもない死の使い、その名はタヌキ奉行。



「3匹、強そうなのがいるな。お前ら、名前は?」

「ニライカナイ」

「ニブルヘイム」

「ヴァルハラだ」


「んー?あぁ、アヴァロンのパシリ三獣士」



 その三匹は、タヌキ将軍を統べる者……、『タヌキ大将軍』。

 全長3mを超える巨体『ニライカナイ』。

 黒銀の毛並みを持つ体躯『ニブルヘイム』。

 輝く宝珠を首から下げた『ヴァルハラ』。


 この三匹こそが、タヌキ奉行総指揮官。

 タヌキ大将軍の雄々しき叫びを聞いたタヌキ奉行たちは、「へいへい、やりますよー」と先陣を切る。



「ほら、周囲もまとめて掛かってこい。俺にとってタヌキ帝王じゃないタヌキは、もはやカツテナイ魔獣(タヌキ)じゃねぇ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ