第31話「ユニクルフィンの主張④」
「無色の悪意……、金鳳花お姉さまの話は母様から伺ったことがありますが……」
サーティーズさんが敵味方のどちらであれ、重要な立ち位置に居るのは間違いない。
敵の場合は当然、そして、味方に出来た時のアドバンテージは計り知れない。
人狼狐を見分けられる『占い師』や『霊媒師』が増えれば増えるほど、大胆な作戦が立てられるようになる。
そして、現時点でのサーティーズさんの怪しさは軽微。
能力的にはかなり怪しいが、どことなく漂うポンコツ感に疑問が残る。
ここで演技かどうかを見破り、万全を期してサチナとテトラフィーアに合わせたい。
「やっぱり聞いてるよな。出来るだけ詳しく教えてくれないか?」
「ちょっと待ってください、この状況と金鳳花お姉さまに何か関係があるのですか?」
サーティーズさんは金鳳花を知っていると言いつつ、質問に質問を返してきた。
その表情は怪訝そのもの……、不機嫌な時のリリンに似ている。
「ぶっちゃけると、俺は金鳳花が犯人だと疑っている。無色の悪意って奴はかなり厄介らしくてな」
「母様すらも欺いたくらいですから。なるほど、それで私にも疑いの目が向けられていると……」
「正直に言うとな。で、金鳳花についてなんだが」
「ユニクルフィンさんがお求めになっているのは、サチナちゃんですら知らない情報ですよね。申し訳ございません、私はそれを持ち合わせておりません」
俺の意図を正しく読み取ったサーティーズさんは、申し訳なさそうに一礼した。
一応、根掘り葉掘り聞いてみたものの、出てくる情報はサチナが知っていることばかりだ。
・金鳳花は白銀比の長女。
・無色の悪意に汚染され、兄二人を洗脳。その後、白銀比から逃亡し行方不明。
・サーティーズさんも接触された覚えはなく、認識改変も受けていない。
この証言を俺だけが聴いても確証にはならない。
だが、サチナ達がいる所で俺が問いを発し、それにYESかNOで答えさせるだけで決着が付く。
「今度はこちらから質問をしてもいいでしょうか?」
「おう?」
「シーグリンさんが私を襲ったのは認識改変を受けたから、そしてそれは金鳳花お姉さまの仕業だと仰いましたが……、私の視点では話が繋がっておりません」
「あぁ……、無色の悪意の正体は不安定機構を作った偉人。で、その目的は世界を不安定にして物語を発生させることなんだよ」
「物語……?それはもしかして、唯一神様の?」
「そうだ。歴史の大きな変化点のいくつかは金鳳花の仕業。身近な所だと……、ブルファム王国の建国にも関わってる」
「……えっ?ブルファム王国?金鳳花お姉さまが作ったって事ですか?」
「簡単に言うとな。そんで、次の舞台は温泉郷。ここなんだ」
出てくる情報や反応におかしい点はない。
情報の出所がホーライだというのもあえて口にしなかったが、サーティーズさんに許可を求められ、記憶を見せた。
その時の反応はまさしくタヌキに化かされた狐のような顔……、俺の判断だけなら、サーティーズさんは人狼狐ではないと感じた。
「はわわ……、では、このゲームを上手に終わらせないと弊社も一貫の終わり……?」
「ん?」
「だってそうじゃないですか!!終わらせ方を間違えると、私は永遠に従業員の皆さんから狙われるんですよ!!」
何かに思い至ったサーティーズさんはシーグリンを叩き起こし、強制的に視線を合わせた。
肌が張り付いたような感覚がして3秒後、真っ青になって震え出すサーティーズさん。
ゲロ鳥に鞄を襲撃された時以上の絶望を垣間見たようだ。
「もしかして、そいつに掛けられている認識改変の内容が分かるのか?」
「普段は記憶を読むなんて無粋はしませんが……、疑いさえ持てれば、確認は容易ですから」
「内容を教えてくれるか?」
サチナ達の前で確認する情報は、多ければ多いほど良い。
おっと、精度を上げる為にメモを取っておかないと。
「シーグリンさんに掛けられている認識改変は三つ」
『一つ、狐探しイベントは、温泉郷の正規イベントである』
『二つ、ハートを得る為の行いは、どんな事でもゲームである』
『三つ、ハートとは心、すなわち心臓である』
「この三つの些細な変更を組み合し、非常に強力で狡猾な認識改変が掛かっています」
サーティーズさんによると、一つ一つの改変は問題にならない些細なものであるらしい。
だからこそ、覆しがたい洗脳と化している。
「この温泉郷のイメージはサチナちゃんに集約、つまりキツネ娘がシンボルになっています。その狐を捕まえるゲームだと告知されれば、正規イベントだと判断するのが妥当です」
「だな。サチナが否定すればするほど、逃げるための口実に聞こえるしな」
「二つ目は、それぞれが持つ性格によって、発生する攻撃性が変化します。そして、獲物を狩って利益を得る冒険者にとって殺傷は身近な行為。忌避感を抱けません」
「じゃあ、強力な冒険者になればなるほど、手段を選ばなくなるのか。厄介な」
「三つ目は言わずもがな。『君に心臓を打ち抜かれた』などというように、日常でも使う言い回しを強制しているだけです」
「告白に使われるような言葉はプラスのエネルギーだ。当然、忌避感もないか」
「これらを組み合わせて、殺人を正当性のあるゲームとして成立させている。こんな酷いことを平気で行うなんて……、同じ時の権能持つ者として、看過できる事態ではありません」
弊社の信用問題にかかわりますので!
……おぉ、付け加えられた言葉のなんと心強いことか。
「サーティーズさん、正式に協力を要請したいんだが、良いか?」
「勿論です。……と、ここで安請け合いをするのも弊社の沽券にかかわりますね」
「……金ならいくらでも払うぜ!!」
テトラフィーアかワルトの意見を参考にしたサチナがな!!
たぶん、姉の矜持とか木っ端微塵にするほどの大金を叩きつけてくるッ!!
「ということで、サチナやテトラフィーアを交えて話がしたい。いいか?」
「分かりました。私からも提案したいことがあります」
「提案?」
「このイベントの終わらせ方についてです。正しい方法でイベントを決着させないと、キツネ娘を狙う輩が残ってしまいますので」
「正しい方法って……、それは無理だろ。勝利条件は心臓を手に入れる事なんだぞ」
「ですから、本当に9人のキツネを用意し、心臓の代わりとなるエンブレムを所持させる。そういう風に認識を変えてしまえばいいのです」
「!!できるのか!?」
「心臓を連想し、かつ、この温泉郷では入手できないものが望ましいです。用意できるでしょうか?」
そんなことで良いのなら、ワルトに言えばどうとでもなる。
そして……、決着方法以外にもサーティーズさんと話をしたことで、予定外の利益が発生した。
何度か記憶を読まれた事により、俺は時の権能を使われた感覚が理解できるようになった。
途中で思いついて意識してみたが……、神殺しを覚醒させていれば、権能にもある程度の耐性ができるようだ。
「出来るだけ時間を節約したい。急ぐぞ」
「えぇ、弊社に対する業務妨害、断じて看過できません」
「う”ぃぃぃーーぎるあーー!!」
「……。」
「……。」
「プラム、狐を見つけたら言うし!!捕まえるとごはん食べ放題になるし!!」
……。
…………。
………………狐のついでに、タヌキも捕まえておくか?
うん、そうしよう。
このタヌキ姉妹は放置するには狂暴過ぎる。
俺が探しているの、メナファスだったんだけどなぁ。




