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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第13章「御祭の天爆爛漫」

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第28話「人狼狐・テトラフィーアの主張」

 


「母様、お部屋に入るですよ」



 白銀比の私室の前に転移してきたサチナは、急いで襖に指を添え声を掛けた。

 親の部屋に入るにしては他人行儀な物言いは、母の性癖を理解しているから。

 不意に発生してしまった二度の情事目撃は、顔を赤らめたサチナに『親しき中にも礼儀あり』を身を持って体験させている。



「……いないです?」



 いたずら好きな白銀比は、娘に見られた所でダメージはない。

 むしろ、娘の珍しい表情を情事の華にしてしまう質の悪い性癖すら持っている。

 だからこそ、サチナの声に返答がないのは、部屋にいない時だけだ。



「白銀比様はいらっしゃいませんの?寝ている可能性は?」

「母様は腐りきっても『極』の階級を持つ皇種です。寝ているぐらいでサチナの声を聞き逃さないです」


「では、混浴にでも行ってらっしゃいますの?」

「最近は”お気に入り”がいるので、男漁りはしないと思うです。……入ってみるです」



 するすると静かに襖を開け、靴入れを確認。

 やはり白銀比の草履はなく、見慣れた軍靴も無いことに安心した。



「誰もいないです。中で待ってるです?」

「そうですわね、皇種のお部屋なら相応の強化はしてあるでしょうし、籠城には最適です。失礼しますわ」



 一応の挨拶をし、テトラフィーア達は部屋に入る。

 今は午後3時過ぎ、照明を付けなくとも明るいはずの室内が、なぜか暗く見えた。



「カーテンが閉まっているから、だけではないですわね」

「……大変です」


「サチナちゃん?」

時揺れの閨室(ときゆれのけいしつ)の扉が、開きっぱなしです……!」



 白銀比の私室には、2つの寝室が存在する。

 一つは自分用、そしてもう一つは、幾重にも厳重に封印が施され、白銀比以外の存在の立ち入りを許さない――、子供部屋。



「時揺れの閨室、ですの?」

「一番上と二番目の兄さまが眠ってるお部屋です。ここは、そこに繋がる魔法規律陣で構成された部屋なのです」


「つまり、開いていてはいけない扉なのですわね」



 サチナが尻尾の毛を逆立たせる、それは、唯一神の来訪に匹敵する緊急事態だ。

 那由他とユルドルードの時にはこれ程の警戒は無く、頻繁に来るようになった唯一神には慣れた。

 人生中でも経験したことのない緊張に、サチナの喉がこくりと鳴る。



「本当は母様の許可なしには入っちゃダメですが……」

「どうしますの?」


「……一緒に怒られてくれると、嬉しい、です」

「くす、任せてくださいまし。このテトラフィーア、口の上手さには自信がありますわ」



 サチナ自身、この時揺れの閨室に入るのは片手で数えるほどしか経験が無い。

 ましてや、白銀比と子以外が入るのは数千年の中でも二度目。

 そんな稀有な経験をしているとも知らず、テトラフィーア達は歩みを進める。



「……とても綺麗なお部屋ですわね」



 体感で数分の徒歩の後、テトラフィーアの目に映ったのは美しい夜を模した部屋。

 その中に並べられているのは、たった二つの寝台。

 草原のように澄み渡る空気の中、その上だけが荒れている。



「……。いない、です」

「では、このねやの中にお兄様たちが?」


「居たです。時揺れの結晶の中で静かに眠っていたです」



 寝台の上に散乱しているのは、砕けたガラス状の結晶。

 そのいくつかに血痕が付いているのは、ここを訪れた者が思わず握りしめてしまったから。



「サチナちゃん、お兄様の事を伺ってもよろしくて?」

「母様に口止めされているです。……でも、必要なことです」



 ちょっと待ってろ、です。

 そう言い残して瞳を閉じたサチナは、数秒間の黙祷をした。

 そして目を開け、テトラフィーアに向き直る。



「母様は、一番と二番目の兄さま、三番目の金鳳花姉さまと一緒に暮らしていた、です」

「お父様はいらっしゃいませんのね」


「皇種や眷皇種と、ただの人間の時間の流れは違うです。だから母様のは”遊び”なのです」



 真剣に話すサチナと、ちょっと気まずいのテトラフィーア。

 レジェリクエによって性への強耐性を獲得させられた彼女だが、さすがに8歳児が女遊びを語り出すのは想定外。

 話の大筋には関係ないと、早々に話題を修正する。



「兄さま達が10歳になるまでは、健やかに暮らしていたです」

「確か、白銀様が子育てをするのも10歳までという話でしたわね?」


「一番上の紅葉くれは兄さまが10歳、二番目の紫蘭しらん兄さまが9歳。そして、金鳳花姉さまの6歳の誕生日の次の日に、無色の悪意(カラレスハート)がやって来たです」



 テトラフィーアも、白銀比の事情は朧気ながらに理解している。

 白銀比との交流中に聞き及んでおり、レジェリクエからの補完情報もあるからだ。


 そういえば、陛下は詳しい話を白銀比様や大聖母ノウィン様に伺っていましたわね?

 そして、その席には唯一神様も同席していたと言っていましたわ。


 思考を巡らせ、情報を整理してゆく。

 そしてまた一つ、彼女が思い描く盤面に駒が加わった。



「無色の悪意に心を汚された兄さま達は、ことあるごとに母様を殺そうとするです。そして、……それを悔いるです」

「……白銀比様に咎められ、後悔するんですのね」


「兄さま達は母様が憎くて殺そうとしている訳じゃない、です。ただ、母様と遊びたいだけ。その為の手段が行き過ぎるように歪められている……、です」

「私にもありますわ。小動物を愛で過ぎて傷つけてしまった経験が」


「そんな兄さま達が泣いて悔いるたびに、母様も泣いて許したです。でも、兄さま達から、殺して欲しいと言われ……」

「この寝室で眠らせたんですのね。もう二度と、愛しい子らを泣かせないために」



 二人の愛しい子を自らの手で封印する。

 それに、どれだけの苦痛と絶望を抱いたのだろうか。

 自分に置き換えて想像したテトラフィーアは、深い哀傷の意を示す。



「原因は金鳳花姉さまだったです。無色の悪意に汚染された姉さまは巧妙に隠し――、ッ!?!?」

「何事ですの!?」



 キ゜ィイィーンという、金属を掻き替えたような音。

 人生で経験が無いその音に、テトラフィーアは思わず耳を押さえる。



「今のは……?」

「サチナの結界が塗り替えられて……、温泉郷の出入りが禁止されたです」


「周囲に張り巡らせている防御結界ですわね。やったのは白銀比様ですか?」

「サチナが感知する間もなく出来るのは、一緒に結界を作った母様だけ、です」



 事態が凄まじい勢いで悪化してゆく。

 最悪中の妙手として考えていた、主要メンバーのみの離脱。

 それが、抗えぬ絶対強者たる白銀比によって禁止されたとなれば、打開する手段はない。



「母様は激怒しているです。兄さま達は母様の琴線、それをぐちゃぐちゃにされた代償は、決して安くはないです」

「それは……、もしや、”人食い狐”になりうると?」


「可能性はある、です。サチナの命を狙っている者が居ると知った母様が、犯人を一人も逃がさない為に皆殺しを選ぶかもしれない、です」

「……策謀の見直しが必要な緊急事態ですわね。ワルトナさんに連絡を取りますわ」



 町の現状がどうなっているのか分からない。

 場合によっては、明日を待たずに全滅する。

 そんな一刻を争う事態を打開するべく急いで白銀比の私室に戻り、テトラフィーアは携帯電魔を取り出した。



「……なぜですの?」

「どうしたですか?」


「私の携帯電魔が使えませんわ。サチナちゃん、あなたのを貸してくださいまし」



 何度、テトラフィーアが操作しても通話が一向に繋がらない。

 それはサチナが取り出した携帯電魔も同じだった。



「……こちらも駄目ですわ。完全に使用不能です」

「この機械は主さま達が作った専用魔道具です、それが壊されたって事は……、」


「出来るのは二人。先の戦争で同じことをしたメルテッサ、そして……開発者のカミナ先生だけですわ」



 メルテッサの疑いが晴れている以上、可能性が残っているのは一人。

 カミナ・ガンデの裏切り。

 そこに思い至ったサチナの奥歯が、ギリリと軋む。



「お医者さまがやったですか?」

「それしか思いつきませんわ。未知の神の因子という可能性もありますが、情報が乏しく想定するだけ無駄ですわね」


「……直接、母様の所に行くしかないです。サチナが母様と一緒に居れば馬鹿なことはしないはずです。けど、外は危険なのです」

「安心してくださいまし、私も最低限の護身術は弁えておりますわ。それに、嘘を見抜ける私達ならば仲間を増やすのも簡単。白銀比様を探しつつ、もしもの為の戦力を補充いたしましょう」



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