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第26話「人狼狐・リリンサの主張」

 

「おねーちゃん、ゴモラ達の隠れ家に行くの?」

「カミナにちょっと話がある」



 仲間の中に裏切者がいる。

 それはリリンサにとって、何物にも替えがたい琴線だ。



 ……私は、ワルトナやお母さんの思惑の全てを知っている訳ではない。

 6年以上の月日を聞き終えるには、たった数日では全く足りていないから。


 それでも、私に悪意があっての事ではないというのは理解している。

 全てはあの子の為で、きっとそれは私の願いでもある。

 だから、騙されていた訳ではない。



「セフィナ、暫くは私と一緒に行動しよう」

「うん?ずっと一緒にいるよ?」


「言い方を変える。ちょっとでも見えない所に言ってはダメ。お友達と遊びたいのも我慢して欲しい。できる?」



 リリンサにとってのワルトナがそうであるように、セフィナにとってアカム達は大切な友達だろう。

 だが、そこに悪意が潜んでいるとしたら?

 そんな、自分と同じ悲しみは背負わせたくないというリリンサの思いは、セフィナに真っすぐ伝わった。



「なんか大変なんだよね?おねーちゃんの言うことをちゃんと聞くよ。だって私は子供じゃないもん!!」

「くすっ、それは凄い。セフィナと同じ年齢の頃の私は駄々をこねてばっかりだった」



 そういえば、忌むべき師匠達は何をしているだろうか。

 そんな事を考えつつセフィナの頭を撫で終えたリリンサは、異空間ポケットから三種類の果実ゼリーを取り出す。

 そしてりんご味とバナナ味を使い、可愛らしい友達を呼び出した。



「ソドム、ゴモラ。お願いがある。ムーの所に連れてって」

「……。まぁ、それは別に構わねぇけどよ。カミナ・ガンデは神じゃねぇと思うぞ」


「そうなの?」

「ユニクルフィンも言ってたが、唯一神って名は飾りじゃねぇ。世界に神が複数存在した知識はねぇよ」



 リリンサの疑いを否定したソドムだが、ゴモラが転移の魔方陣を作るのを止めはしなかった。

 それはもちろん、バナナゼリーを貰う為だ。



 **********



「おーい、ムーいるかーー?」

「いないね。材料揃えるだけで手伝いもしないクソタヌキに会うほど暇な奴は、このラボラトリー・ムーには一匹もいない」


「リリンサがメロンゼリーを奢ってくれるってよ」

「それはそれとして、腹が減っては研究は出来ない。だってタヌキだもの」



 ラボラトリー・ムーの魔導工学処理室のドアを開いて早々、辛辣なやり取りが発生した。

 それはソドムとムーにとって、日常的な触れ合い。

 ムーが放った一般タヌキを凍り付かせる絶対零度の視線と言葉も、同じ部屋にいるブログラマ・タヌキにとっては慣れ親しんだもの。

『いちゃついてる暇があったら仕様の確認しろ、確認』と思っている。



「カミナに用事が有って来た。会いたいんだけど何処にいる?」

「カミナっち?君らの祭りに行ったけど」


「ん!?そうなんだ」

「あー、何か訳ありっぽい?ソドムっちまで一緒に来るとか嫌な予感しかしない」



 リリンサとセフィナとゴモラにはジュースと菓子、ソドムに仕様書(仕事)を差し出したムーは椅子に座り、早速メロンゼリーに匙を入れた。

 レジェンダリア謹製の果肉たっぷりなそれを味わいつつ、面倒ごとに探りを入れる。



「やる気になれば、僕も記憶を覗くことはできる。でも怠いし話して欲しいんだよね」

「じゃあ率直に言う。カミナの正体が唯一神の可能性がある!!」


「ぶはっ!!くはっはっは、んな訳ないじゃん!!」



 おい。メロンゼリーが飛んで来たんだが?

 確認が済んだ仕様書がエライことになったんだが?

 そんな抗議の視線をものともせず、ムーは笑い声をあげている。

 だが、その目は僅かにも笑っていない。



「って、言い切れないのが、あんの神の怖い所でさ」

「何か知っているの?ソドムは可能性は低いって言ってたけど」


「おおかた、ソドムっちは神の唯一性について語ったんだろうけど……、それこそ神のみぞ知るって話でさ。今までがそうだったからと言って、これからもそうだとは限らない」

「それはそうだと思う」


「特に世界終世……、那由他様を殺そうとしている場合は、過去にない手段を使ってくる。それが知識の権能の真っ当な攻略手段だからね」



 知識の権能は究極の後手対応。

 あらゆる状況を挽回できる力である一方、打開できる余地がない相手には無力。

 それに気が付いているリリンサが最も警戒しているのは、『詰み』に陥ることだ。



「だから貴女にも事情を話した。悪食=イーターで那由他と繋がっているタヌキならば、神や金鳳花は成り代わられないはず」

「あぁ、そういうこと。あん畜生のかねきつねが絡んでる訳ね」


「かね、きつね?」

「金鳳花が持つ時の権能もやりようによっては、僕らの知識の権能に刺さる。絶対優位って訳じゃない」


「ん、そうなの!?」



 リリンサでは無色の悪意を見破れなくとも、ソドムやゴモラになら可能。

 秘かに思っていた第三の切り札が役に立たないと知り、リリンサの表情が僅かに崩れる。



「時の権能は始原の皇種に与えられた権能、つまり、那由他様の知識の権能と同格」

「確か、金枝玉葉……、白銀比様のお父さんの力だと聞いた」


「そう。そして、権能は次代に受け継がれると変質する。白銀比が持ってるのも金枝玉葉のとは僅かに違う」

「どう違うの?」


「普通は劣化する。皇位継承しまくった蛇の権能とか、自分自身の重量以下しか転移できないって条件のせいで、アマタノ自身も転移できなくなった超欠陥品」

「そういえば、アマタノはずっと蓋麗山に巻き付いている。権能があるのに変だとは思ってた」


「……だが、金枝玉葉は完全な形の時の権能を娘に与えつつ、神のシステムを利用して、新たな能力が追加されるように仕向けた。劣化どころか強化されている」



 始原の皇種同士の争い。

 金枝玉葉と戦った相手こそが那由他、それは、互いの思惑の上に成り立ったものだとムーは語る。



「金枝玉葉は人間と遊ぶのが大好きな妖狐で、狙って皇種になった物好き。だが、蟲量大数の戦闘力までは予想外だった。いずれは捕まって殺されるのを悟り、自分の娘に力与えてとっとと他界()した。あろうことか、那由他様を洗脳してね」

「ん!!那由他ですら防げなかったというの!?」


「こっちが究極の後手対応なら、あっちは究極の初見殺し。そんな訳で、那由他様は白銀比を庇護し育ててた期間がある」

「……でも、その割にはタヌキに詳しくなさそう?ゴモラとお母さんが友達なのも知らなかったし」


「初見殺しだって分かってて対策しない訳ないでしょ。那由他様は白銀比の権能を研究し、どう頑張っても勝てない様にガッチガチに縛ってる」

「そういうこと。なら、金鳳花の時の権能も那由他様なら見破れる?」


「当然。だけど、僕らの制限された悪食=イーターでは無理。疑わしい人物をじっくり観察して、やっと見抜けるのは真理究明の悪食=イーターを持つソドムっちくらいだね」



 唐突に話を振られ、ソドムはヤバいッ!!と思った。

 今はムーの目を盗んで休憩中。

 大切そうにバナナゼリーを空間に収納し、強者の風格を纏って語り出す。



「あぁ、俺なら何とかなる。……が、狐探しを手伝ってやる気はサラサラ無ぇ」

「……どうして?私はとても困っている。お母さんもセフィナも、将来的には困る。助けてくれると嬉しい。バナナケーキも用意する」


「媚びても無駄だ。金鳳花っつーか、無色の悪意には極力関わらねぇって決めてる。ゴモラもだ」



 いつもの雑な言葉使いではない、確かな拒絶。

 覆す余地が無いと気が付きつつも、リリンサは納得しなかった。

 バナナケーキを取り出しつつ、僅かにでも情報を手に入れるべく画策する。



「理由を聞きたい。教えて」

「約束があんだよ。『あなた達には、好きに生きて欲しい』。それが、愛を宿したシアンの最後の言葉だ」


「ごめん、無粋なことを言う。その愛って?」

「強制力なんかねぇよ。ただ、俺達の事を本気で考えた言葉だってのは伝わった。だからな、俺もゴモラも好き勝手に生きてる」


「それの結果が、歴史に名を残した偉業?」

「まぁな。俺達がシアンの血族と一緒に居るのも、気に入らねぇ奴をぶっ潰すのも、俺達の自由。それとこれも言っとくが、俺達はお前らが死に掛けたら見捨てる」


「ん」

「これもシアンとの約束でな。『病や寿命……、終わりがあるから、命は愛を育む。私が不死だったら、きっとあなた達を拾わなかった』っつって、笑顔で別れを告げやがった。だから、俺達はお前()の死を否定しねぇ」



 お前らと言ったソドム、その瞳には光が宿っている。

 まるで怒りを無理矢理に抑え込んでいるかのような強い視線、それにゴモラも賛同した。



「つーことで、金鳳花に関する情報を俺達から得ようとしても無駄だ。奴には積極的には関わらねぇって決めてるからな!」

「分かった。無理強いは私の好みではない、それでいい」



 リリンサは、ソドム達にかなりの期待を抱いていた。

 数々の歴史の展開点、その一役を担ってきた実力は英雄に劣るものではないと思っているからだ。


 だが、無理強いはしないと決めた。

 策謀や都合がある訳ではない。

 ただ、友達に迷惑を掛けたくないだけ。



「ちなみに、今、ソドムがしたいことって何?教えて欲しい」

「はっ。俺のエゼキエル再建に決まってるだろ!!」



 一切の躊躇なく放たれた言葉。

 それを聞いて凍り付いたのは、ひそかに聞き耳を立てていたプログラマ・タヌキ。


 あ、やっべぇ。仕事が増える。

 これ以上の無茶ぶりは死人が出るぞ。


 いち早く危機を感じ取った彼らは、ひそかに脱出を試みた。

 だが、暇を持て余していたセフィナの先制懐柔(攻撃)を受け、あえなく撃沈。

 一食の恩を軽んじる、それはタヌキ戒律で定められている禁忌だ。



「ムー、魔帝王機・エゼキエルリリーズはいつ出来る?」

「頑張って三日後」


「そうかそうか……、遅ぇ。明日中に仕上げろ」


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