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第24話「人狼狐・ユニクルフィンの主張①」

「メナファスを探す……つってもノーヒント。足を使うしかねぇか」



 メナファスの正体が金鳳花。

 そう言われても、俺はピンと来ていない。


 頭の良いワルトの立てた仮説、それにリリンも反論はしなかった。

 俺だって、理屈の上ではメナファスが怪しいことも理解している。

 だが、なんていうか、メナファスはリリン達を大切に思っている、そんな気がする。

 闘技場で言葉を交わした程度だし、深い事情まで知っている訳じゃないが……、メナファスが金鳳花だというのはやっぱりピンと来ていない。



「まだ、無色の悪意を植え付けられてるって言われた方がしっくりくるが、どっちにしろ、捕まえてからの話だ。ベアトリクス、お前はどうするんだ?」



 カラオケ会場に集まっていた人達は、温泉郷の名所や店へ散った。

 ここぞとばかりにセールをしたり、特別な催しをしたりと、それぞれが祭りを盛り上げるために奮闘しているからだ。


 そして、身体能力に物を言わせて移動している俺の後ろ3m、そこに居るのは圧倒的なフィジカルモンスター幼女クマ

 雅熊皇・ベアトリクス=アルティだ。



「オイラには難しくて分かんねー話だったゾ。でも、無色の悪意はオイラにも無関係じゃないっぽいゾ」

「そうなのか?」


「オイラが探してた裏切者の暗号熊エニグマー。結局、見つかんなかったけど……、多分あいつ、無色の悪意を持ってるゾ」



 ベアトリクスに反旗を翻し、皇位を狙った熊集団。

 その頭目の名は暗号熊エニグマー

 前前代の皇ベアトリクス=アラサルシに、『落撃熊ワーグマー』、『混響熊ブルッグマー』と共に仕えた、強き眷皇種の一匹だ。



「暗号熊は頭が良い奴で、キングフェニクスと知略でやり合うやべー奴だゾ」

「マジかよ。ボードゲームに強い熊とか斬新すぎる」


「だけど、戦闘力は落撃熊達の方が上だゾ。オイラを殺そうとするのが脳筋のこっちで、それを止めようとするのが知的な暗号熊。そうなるのが普通だって、継承した記憶ではそうなってたんだゾ」



 突然、皇に覚醒したベアトリクスは孤立した存在となった。

 人間()と同じ姿に慣れる魔法を持っていただけの幼い存在が、大した努力もなく頂点になったんだから当然だ。


 それを狙ったのは、親父に討たれた前代の皇『熔嶽熊』

 どうやら人間を襲ったのは、ベアトリクスに皇を託すための自作自演。

 ついでに、人間の強さの情報を残すために親父との協定を破り、喧嘩を売ったらしい。



「熔嶽熊に人化の魔法を持つ子熊が生まれたら育てるように言ったのは、他ならぬ暗号熊だって記憶にあるゾ。なのに殺そうとしてくるのは変だゾ」

「だよな。ちなみに、溶嶽熊を追い詰めたのは誰だ?」


「麒麟……。金不朽麒きんぶきゅうりん・チィーランピン。謎の多い皇種だゾ」

「謎?」


「皇になると知識を引き継ぐから、何されたのか分からない超ド級のやべー奴以外は、戦った相手のことを知ってるもんなんダゾ」

「なるほどなるほど、それで?」


「チィーランピンの情報は限りなく無いに等しいんだゾ。それこそ、蟲量大数様や不可思議竜様、白銀比様並に何も知らねーゾ」

「で、溶嶽熊はその麒麟と戦ってると。じゃあ、何も分からなかった程に遥か格上か」



 そんな奴が近くの森に居る?

 ホロビノと同格の輪廻を宿す木星竜ってヤバそうなのも居るらしいし、嫌な予感がするな。



「暗号熊が仕掛けてくるなら、ここな気がするゾ。だからオイラは森に行く。サチナの迷惑になるのは御免なんだゾー」

「確かにこれ以上の混乱は避けたい。だから、さっさと勝って戻ってこい」


「ん」

「で、サチナを助けてやれ。友達なんだろ?」


「……んなこと、言われなくても分かってる、ダゾーーッ!!」



 ちょっと嬉しそうに咆哮したベアトリクスは空高く飛び上がり、屋根伝いに森がある方角へ走っていく。

 流石はフィジカルモンスター、俺の背中を踏み台にした見事な跳躍だぜ。覚えてろよ。



「人が多いな。何か催しでもやってるのか?」



 温泉郷を走り回ること30分、トレイン・ド・ピエロの天幕などが設営されている広場に人だかりができている。

 ちょっと気になったので速度を緩め、中心に向かって歩いてみる……と、何やら視線を感じるな?



「そこの人、俺の顔に何かついてるか?」

「いや……、お前、この間サチナちゃんと話してただろ?『人狼狐キツネ』の手掛かりを知ってるんじゃねぇかと思ってよ」



 俺が声を掛けたのは、レベル5万の男。

 腰に剣を二振りぶら下げており、動きも流麗。

 魔王ほどじゃないにせよ、真っ当に強い冒険者だ。



「人狼狐って、何のことだ?」

「ははぁん?とぼけ方が雑すぎるが、いや、本当に知らない?」


「何の話だよ?」

「コレだよ、コレ。このチラシに載ってる9匹の狐って、お前じゃねぇのか?」



 差し出されたチラシ、そこに載っているのは、ヴァトレイアが歌った不気味な歌をさらに分かりやすくしたもの。


 **********


 ~温泉郷・捜索ゲーム・人狼狐キツネを捕まえよう~


 温泉郷に潜伏している、9匹の人狼狐を捕まえて金銀財宝を手に入れよう!!

 それぞれの人狼狐が所持しているハートをゲット後、明日の12時に所持していた人に、温泉郷内に存在するモノの中からお一つ、プレゼントいたします。

 物品、地位、金銭、そして人権ですら、どんなものでも獲得可能!!


 さぁさ、奮ってご参加ください。なのです!!


 **********



「なんだ、これ……?」

「見ての通り、お祭りの催しだろ。手に入れたハートと何でも交換してくれるって太っ腹だよなぁ」


「ハートってなんだよ。そもそも、サチナはそんなもん見える所に付けてなかったぞ」



 そういうことかよ。

 人狼狐の参加者は俺達だけじゃない。

 この温泉郷に居る十数万人が敵であり味方。

 そして……、その殆どが、サチナを人狼狐だと思っている。



「サチナが人狼狐ってのは流石に安直すぎるし、違う奴じゃないのか?」

「だから、身ぐるみ剥いで確かめるっつー話になってるんじゃねぇか」



 それは別の方向に事案が発生しすぎるッ!?!?

 出来るかどうかは置いといて、むさ苦しいおっさん冒険者が幼女を剥こうとするとかヤバすぎるぞ!!

 タヌキ奉行が群れでやって来ること、待ったなしッ!!



「ふざけんな。つーか、剥いても持ってなかったらどうするんだ。んなヤバい大事件をした日にゃ、タヌキ奉行に尻の毛まで毟り取られるぞ」

「いやいや、絶対持ってるって」


「はぁ?だから」

「だから身ぐるみ剥ぐんだぞ。皮を剝いで、肉を剥いで、骨を削げば、心臓ハートが出てくるに決まってるじゃねぇか」



 何を馬鹿のことを言ってんだ、てめぇ。

 そう吐き捨てて歩いて行った男は、俺を常識知らずとでも言いたそうだった。



「……はは、ハートって心臓かよ。それをゲーム感覚で奪うって……」



 狂ってる。

 これが金鳳花のやり方か。


 多数の観光客は人狼狐を隠すモブなどではなく、俺達の行動を縛る鎖。

 そしてその中には……、セブンジードを始めとした、俺達に匹敵しうる実力者が混じっている。



「無色の悪意を持ってなくても、セブンジードやシルストーク達、暖色三人娘やグオも、全員がキツネ候補を狙ってる?……不味い。サチナやテトラフィーアの守りが薄すぎる」



 サチナは温泉郷内を自由に移動できる転移魔法を持っている。

 だから、ギンが私室に居たなら問題ない。

 だが、そうじゃなかった場合はギンを探しに行き……、自然な殺意を向けられることになる。



「サチナやテトラフィーアを守りに行くか?だが、」

「はわわわわわわーー!?!?」


「……。無事に合流できていた場合は、時間のロスになる。それに、さっきの男がそうだったように俺の行動が道しるべになる可能性が」

「はわっ!?!?はわわ!!!!なんですかのその目っ、服、を……?ひぃっっ、!?!?へ、変態っ変態ーっ!!!!」


「……。はぁ、とりあえず、あっちのキツネからだな」

「はわわわ!?何てこと考え……、はわ、はわわわわわ……ひぃ!!あっ、ユニクルフィンさん、助けてぇぇーー!!!!」



 ……ぇっちなお店で働いていたキツネさんが、人だかりの中心で剥かれそうになってる。

 この人、大魔王陛下とテトラフィーアとナインアリアさんを同時に相手にしてほぼ互角という、とんでもない強さの眷皇種。


 なのになんで、登場するたびにポンコツなんだろう。

 シリアスムードがどっか行っちまっただろうが、はわわ。

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