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第24話「現実」

「おい譲ちゃんよ。もう良いのか?好きに喋れるのもこれで最後かも知んねえぞ?」

「いい。私達の準備は終わり、あなた達の運命は決まった。負ける気なんてさらさら無いから安心して?」


「かっ!!威勢のいいガキたぁこの事だな!せいぜい後で泣きごとを言わねえようにしてくれよ」

「そうだね。鳴きごとなんて聞きたくない。鳶色鳥で十分」


「はっ!テメエラぁやっちまいなぁ!!」

「くす。運動不足解消に、付き合って?」



 うん。リリンと盗賊の三文芝居を眺めていたが、本当に悪役テンプレまっしぐらだ。

 マジで誰かが台本でも書いているんじゃないかというくらいに盗賊している。

 なぁ、あんたら本当に盗賊なのか?劇団とかじゃなくて?

 ……まぁ盗賊なんだろうな。「やっちまいなぁ!!」のかけ声の後、使いこまれた鉈をやら斧やらを片手に俺達に突進してきているだから、たぶんそうだろう。


 でさ、もうちょっと装備品、なんとかならなかったのかよ?

 俺達は、皇種を倒したとされる伝説の剣とか、よく知らないが凄い効果のありそうな魔道杖、その他、高級な鎧やら魔道服やらをがっちり装備している。

 なんだか、申し訳なく思えてくるんだが。


 それとさ、オイ、その茂み。

 さっきからガッサガッサ何かしてるけど、伏兵ならもうちょっと大人しくしてくれない?

 気配丸わかりどころか、見えてるんだよ。靴・の・先・が!!


 ……総じて酷い。本当に酷い。

 何もかもが酷すぎる。

 良くこれで盗賊なんて出来たな。初めて会ったが、こんなどうしようもない集団なのかよ。

 小説とか歴史書とかで時々目にしていた想像とあまりに違いすぎて、別の意味で衝撃を受けたぞ?



 そしてもう一つ、酷いものがある。

 俺のパートナ―こと、無尽灰塵と名乗る少女リリンだ。

 なにせ、容赦をする気がまるでない。

 盗賊達が動き出した事を合図に、リリンも当然、というか嬉々として走り出していた。


 そして振われる暴力。

 ほら、また一人、杖でブン殴られて宙を舞った。

 杖が当たった瞬間の「メキャリ。」なんて効果音は人生初めて聞く音だな。


 一体、何が折れたんだろう?あぁ、心か。

 ぶっ飛ばされた仲間を見て、盗賊一同「なん……だとっ?」ってそりゃそうだよ。

 あんだけバッファ掛ければこうなるだろ。何で知らないんだよ?


 はぁ。


 さぁて、俺もボチボチ始めますか。

 盗賊達も一応チームプレーをするらしく、10人ほどが俺に向かってきている。

 だけど、走るの遅いなぁ。

 バッファの魔法全開のリリンのスピードに慣れているせいで、動きがスローモーションに見えるんだが。


 俺はふ―。と息を吐きながら、ただ真っ直ぐに走ってくる盗賊の一団にグラムを向けた。



 **********



「ヤロムの隊がやられそうだ!」

「ちっ、振りかえるな!片割れ取るのが先だ!」


「「「へい!副団長!!」」」



 俺に突進にしながら大声で叫ぶ盗賊達。

 一つだけツッコミを入れてもいいだろうか。


 あのさ、指揮官が先頭を走るなよ……。


 ほんともう、バカばっかりだ。

 だが、俺に迫る人物は軽く2mを超える大男。

 頭と思われる男も大男だが、あちらと違い、ただ上に長いのが特徴だ。

 思わぬ反撃を喰らわない為にも、しっかりと対応しなければとグラムを構え迎撃の準備。


 そして、迎撃態勢を取ったはいいものの、問題が一つ。

 どのくらいの力で攻撃すればいいか見当もつかない。


 大怪我させないようにかつ、反撃を許さない力加減とか何それ難しい。

 だけど、まずはそうだな。黒土竜に攻撃するくらいで行ってみようか。


 あ、そーれ!!


 メキャリ。



「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

「ん?」

「副団長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 あ、吹っ飛んでった。ちょっと強すぎたらしい。


 あれぇ?このくらいの剣撃なら、黒土竜達は上手く受け流すんだけど?

 それに、俺のグラムもメキャリ。って鳴ったぞ。

 へぇー。肋骨の辺りを殴るとメキャリ。って鳴るんだな。



「なんてこった!副団長が一撃でやられたぞ!!」

「あの『巨塊のファマ』がやられた……? くそ!」

「おい!どうすんだよ?どうすんだよ!?」

「く、だがこれで今夜はゆっくり眠れる!ケツに軟膏塗らなくて済むぞ!!」



 盗賊達、大慌て。

 いや、待て待て。俺の方が慌てたいんだが?

 なにぶん、さっき吹っ飛んでった副団長がピクリとも動かない。

 もしかして、ヤッっちまったかもしれない。早急に確認しなければ。


 つーか巨塊のファマ(副団長)、弱すぎだろ。


 なんでただの胴薙ぎがかわせないんだ?

 あんなもん、将軍はおろか、普通のタヌキですら余裕でかわすぞ?

「ぎゃあああああああああ」じゃねえよ。回避しろよ。


 それとな、お前、もしかしてホモォなお方なのか?

 そんな情報知りたくなかったんだが。俺の方がぎゃあああって叫びたいわッ!!


 俺は心の中でツッコミを入れつつ、冷静に盗賊達を観察する。

 そして、動きを予測しながら、スルリと前に身を出し盗賊の一人に迫った。

 さっきは失敗したからな。

 加減加減、っと。



「あ、アニキぃの仇ぃぃ!!」

「てぇい!」


「ち!こうなったらヤケクソだ!」

「そぉい!」


「くくっ!隙ありぃ!」

「ねぇよ!」



 ゴス。ドス。バキ。…………などなど。

 俺に走り寄って来ていた人数分の鈍い音を響かせ、俺の戦闘は終わった。


 ………………。

 ……つまんねぇぇぇぇぇぇ!!

 なにこれッ!?こんなもん、戦闘とは呼べねぇよッ!!

 これじゃ、リリンの肉弾戦訓練ボディランの方がよっぽど危険だぞッ!?


 あっちは一応怪我の無いように配慮はされているようだが、それ以外は度外視。

 人の精神に耐えられるレベルじゃないのが、たま―に混じるからな。


 それに引き換え、この戦闘のレベルの低さ。

 近づいてくるノロい敵を剣でブン殴るだけという、超絶簡単なお仕事だった。


 盗賊という恐ろしげな響きに、ほんの少しでも身構えた自分に嫌気がさす。

 30人もいたのに、今現在残ってるのは3人……いや、たった今、1人になった。

 歯ごたえと言うものがまるでない。


 これじゃ、普通のタヌキ10匹にも勝てないんじゃないのか?

 なんか拍子抜けだな。

 この盗賊が特別弱いのか、後でリリンに聞いてみるか。


 そんな事を考えながらリリンの方に視線を流す。

 今ちょうど最後の目標、ワザと残していたのであろう盗賊の頭が追い詰められている緊迫のシーンが始まった所みたいだ。



「後はあなただけ。覚悟はできた?」

「くっ!なんなんだよっ!!テメエら人間なのかっ!?」



 いえ。心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)ですが、なにか?


 俺は吹っ飛ばしたおっさんの生存を確認した後、テキト―に草をむしってゲロ鳥の籠を回収した。

 ぐるぐるげっげー!!と興奮しまくりのコイツに草でも喰わせて落ち着かせながら、リリン主演のコントでも見ようかと思う。



「私達はれっきとした人間。……人間以外に見えるの?」

「くっ!見えねえ……見えねえが、信じらんねぇんだよっ!見ろ!今テメエが吹っ飛ばしたアイツは体重100kgはあるんだぞ!?」


「100kg……どうりで重いと思った」

「重いと思った、で済ますんじゃねぇよ!意味わかんねぇんだよ、クソが!!」



 盗賊の頭はひどく狼狽し、軽い錯乱状態にあるようだ。

 今は人間に見えるよな。だが、その可憐な少女は夜10時を過ぎたあたりになると魔獣に変身するぞ?

 可愛らしさと恐ろしさを兼ね備えていて、寝込みに不意打ちもしかけてくるという厄介な生き物だ。



「まぁ、信じなくとも良い。あなたが地獄に行くのは変わらない」

「は、地獄だぁ?盗賊なんてやってるとよぉ、毎日が地獄みてえなもんさ。生き汚い自分にほとほと嫌気がさすぜ」


「じゃ、死んじゃえば?」

「そういうこと簡単に言うんじゃねえよっ!!悪魔かテメエは!」



 唯でさえ弱っているというのに、言葉でとどめを刺しにいく、心無き魔人(リリン)

 まったくブレないその暴言は誰に教わったのだろう?最近、ちょっと気になりつつあるんだが。

 運命掌握な人とか、戦略破綻な人だろうか。

 あの電話を聞く限りだと、そんな気がする。



「どのみち、あなた達はこれからロクな目に合わない。だって指名手配されているよね?」

「ちっ、ばれてんのか……。あぁそうだよ!ついでに言うなら懸賞金もかかっているぜ?」


「へぇ。じゃあ、あなたをボコれば豪華なご飯?」

「おい、他人の人生をなんだと思ってやがる?」


「……食券?」

「俺の長い人生経験の中でも、今の暴言が最も酷ぇ!」



 ついにキレたのか、盗賊の頭は腰に差していたナイフを両手に持ちリリンに突撃をかました。

 だがまぁ、当たる訳がない。


 スッと避けられ、ついでに足を引っかけられ盛大に、こけ……ない!

 バランスを崩しながらも身をよじり、ナイフをリリン目がけて投擲。

 流石に頭は一味違う。

 それを証明するように、切っ先を真っ直ぐリリンに向け飛んでいくナイフ。



「えい。」



 おーと!リリンはこれをあろう事か平手打ちではたき落としたぁ!!

 これには盗賊の頭も苦笑い!慌てながらも四つん這いになって逃亡を図るッ!!


 だが、リリンが逃がさない!

 助走をつけて、そのまま、ケツに、シュートぉぉぉ!!

 これは痛い!盗賊の頭たまらず悶絶だぁ!!



「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

「ふふ、もうちょっと遊んで欲しい、かな」



 そして追撃はなおのこと続く。

 盗賊の頭は成すがままだ!



「ぐッ!、る"!、ぐッ!、る"!、ゲッ!、ゲェェェェェェェ!」


「ぐるぐるげっげー!」

「おい、違うぞ?ゲロ鳥。アレは仲間じゃないからな?」



 リリンの暴行に嗚咽を漏らすしか出来ない盗賊の頭。

 奇しくもその声がゲロ鳥っぽくなってしまって、仲間認定される始末。


 あ、盗賊の頭が「もうやめてくれ」と叫び出した。

 それを聞いて流石のリリンもやめ……ないな。数は減ったものの未だに蹴りを続行中。


 うん。止めに入るタイミングが分からない。

 それにリリンには何かの思惑がありそうなんだよなぁ。

 とりあえず、声をかけてみるか。



「リリン?そろそろよくないか?」

「……。コイツは唯の通りすがりの盗賊ではない。私、リリンサ・リンサベルを直接狙った確信犯」


「なんだって?」

「コイツは最初に「言い値で売れる」と言った。それはつまり、買い取り主がいるという事」


「……!」

「だから徹底的に絞めあげる。ほら、少しは抵抗して見せろ」

「お願いでッ、す!もう、ひゃ、めてくだッ、さいぃぃ」



 なるほど、情報ってのは会話の中にもあるんだなー。


 そう言えば、最初からリリンは会話中にも戦闘を有利にするような事を開始していた。

 相手を観察するのもいいが、合戦ってのは準備が十割、戦う前に決着が付いているとかいうもんな。


 ……そうなると、俺は早急にタヌキ語を覚えなくてはなるまい。

 あの狡猾なタヌキを罠にハメてやるのだ!


 こんなバカな事を考えているのは、現実逃避したいからに違いない。


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