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第19話「人狼狐への招待②」

「俺達の誰かがサチナを狙っている?はは、笑えない冗談だぜ」



 これが冗談だったらどれだけ良かったかと、心の底からそう思う。


 だが、村長の過去を知ってしまった今、楽観や希望的観測は死に直結している。

 この場にいる、俺、リリン、ワルト、メルテッサ、サチナ、ベアトリクス、全員がそう思っているからこそ、しばらくの間、沈黙が続いた。

 仲間を疑いたくはないが……、この中に裏切者がいる可能性すら考慮しなくちゃならないからだ。



「ここは代表して、このぼくが口火を切らせて貰うよ」

「メルテッサ?」


「ぼくは君に殺されている。ホーライ様の『死んだら無色の悪意の影響から脱却できる』という見解が正しいのなら、この場で最も中立だからね」



 村長の話では、死んだ人間は無色の悪意から脱却する。

 馬鹿は死ななきゃ治らないなんて諺がある通り、性根も死ねば治るらしい。



「その理屈で言うと、タヌキにぶっ殺された俺もセーフだよな?」

「そうなんだけど、タヌキとか言い出すと緊張感がなくなるから黙っててくれるかい?」


「キツネもタヌキも大差ねぇだろ、ここまで来ると!!」

「冗談冗談、だがねユニクルフィン。色恋沙汰って人を狂わす最たるものだ。君に冷静な判断ができるのかい?」



 まっすぐ見てきたメルテッサの瞳。

 その中に写っている俺の瞳は揺らいでいる。



「まず、誰が敵かを考察する前に、人狼ゲームとやらがどういうものかをはっきりさせよう」

「ん、知らない?」


「残念ながら、ブルファム王国ではなじみが無くてね。説明を頼めるかい?」



 メルテッサの言う通り、俺も人狼ゲームに関しちゃ馴染みがない。

 村長が持ってた本でそういうのがあるって見ただけで、実際にやったこともないしな。



「人狼ゲームは、ゲームマスター、村人、騎士、占い師、霊媒師、それと、人狼、裏切者の7つの役職に分かれる」

「ほうほう?それで」


「役職カードを配り、それぞれの役職をランダムに決めてスタート。まずは『夜』のターン、ゲームマスターだけが見える状況で人狼は自己申告をする。そして、占い師は一人を指定して、その人が人狼かどうかをゲームマスターが伝える」

「なるほど、占い師が人狼の正体を見破る役か」


「続いて『昼』のターン、占い師が『Aは人狼だ』や『Bは人狼ではない』などの占いの結果を伝え、誰が人狼なのかを議論をする」

「そこで裏切者や人狼が嘘を……、例えば、自分こそが占い師だと名乗り、誤情報を流すんだね」


「そう。そして『夕方』のターン、怪しい人を選んで処刑する」

「おっと、行きなり物騒だが……、やられる前にやれ理論は嫌いじゃないよ」


「そして、『夜』のターン。人狼は一人を選び襲撃する。それと同時に、霊媒師は処刑された人物が人狼かどうかを知り、騎士は一人を選択して守り、占い師は一人を選んで人狼かどうか占える」

「答え合わせは霊媒師、騎士のみが人狼に対抗でき、占い師は新しい情報を手に入れると」


「そして『朝』のターン。人狼に襲撃された人は死ぬ。ただし、騎士が守っていた人を人狼が襲撃していた場合は誰も死なない」

「で、結果を考慮しながら、『昼』のターンにまた話し合う訳だ。これを繰り返して言って、人狼を全滅させれば勝利か」



 ……なるほどな。

 このゲームの重要な点は、誰がどの役職なのか確証がない所だ。

 人狼側が嘘を吐くことはもちろん、やる気になれば村人が『俺が占い師だ!』などと言って、場を搔き乱すこともできてしまう。



「ルールは理解した。人狼の数=夜に減る人数である以上、人狼の数が人間を上回ったら全滅。人狼側の勝利だね」

「これはゲームだから盛り上がれる。けど……」


「現実だからこそ、判断ミスは許されない。……だが、そんなのは慣れてるよ。指導聖母ぼくらはね」



 命の重さは誰でも同じだと、俺は思っている。

 だが、優劣はその人にとって違う。

 見知らぬ他人とリリン、どちらかを選んで助けろと言われたら、俺は迷わずリリンの所に行く。

 もちろん、どっちも助けようとはするけどな。



「取捨選択はぼくらの本懐だろう。なぁ、悪辣。君の得意な破綻術、その足掛かりは組めたかい?」

「あぁ、前座ごくろうさん。おかげさまで金鳳花の狙いをぶっ壊せる方法を思い付けたよ」



 リリンが説明している横で、ワルトは静かに思考を回していた。

 俺達の現状を人狼ゲームに当てはめ、金鳳花の狙いを探っていたらしい。



「そもそもの金鳳花の目的は神を楽しませること。故に、ゲームマスターは『唯一神ヤジリ』で決まりだ」

「村長の過去編でも金鳳花と一緒に行動してたしな」


「普通の人狼と違う所は、奴らの狙いが①サチナの命 ②温泉郷の全ての命 と決まっている所。故に、サチナは無条件で村人側になる」

「で、俺とメルテッサ、ベアトリクスもセーフか?」


「可能性は高いが……、認識阻害や改変の恐ろしい所は、記憶違いによる誤認が起こること。例えば、ベアトリクスはラグナに殺されたとされているが、金鳳花がひそかに助けており、ユニ、ラグナ、サチナの認識の方を歪めているパターンなど」

「んなっ!?そんなことは、ない、はずだが……」


「だが、確証も立証もユニにはできない。そう、騎士であるユニにはね!」



 騎士って、人狼に武力で対抗できる役職だったよな?

 人狼から出来るだけ多くの人を守る。分かりやすくていいぜ!!



「人狼ゲームの中核を担う役職『占い師』と『霊媒師』。そして、記憶を読めるサチナこそが『霊媒師』、人食い狼を追い詰める切り札だ」

「温泉郷はサチナのなのです。守るためならどんな事でもやれるです!」


「サチナの役割は僕らの記憶を読み、無色の悪意の影響下にあるかどうかを判断すること。できるかい?」

「……がんばるです。でも、サチナの時の権能はまだ未熟で、さっきも……」


「大丈夫、一人でやるんじゃないからね。人狼を追い詰めるもう一枚の切り札『占い師』……、あぁ、ちょうど来たようだ。ここから先の話し合いは彼女を加えて進めよう」



 矢倉台の階段を上って来る足音は、普段の優雅さとは程遠い。

 聞こえてくる足音はヒール、ブーツ、軍靴3人分。

 そして、その先頭を走って来たテトラフィーアが、息を整える間もなく口を開く。



「さっきの不気味な歌は何なんですの!?人の声とは思えませんわよッ!!」

「やぁやぁ、テトラフィーア。待っていたよ」


「ワルトナさん?」

「君の役職は占い師だ。存分に聞き耳を立ててくれたまえ」



 記憶を読める霊媒師・サチナ。

 嘘を聞き分けられる占い師・テトラフィーア。


 この二人を軸に、まずは俺達の役職を決定させる。

 そして、隠れている9人の人狼狐を見つけ出し、一人の犠牲者も出させない完全勝利を手に入れてやるぜ。

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