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第23話「盗賊」

「リリン、俺達……尾行されていないか?」

「されてる。結構な大人数だね」

「ぐるぐるげっげー!」


「なんでだろうな?」

「さぁ?おおかた、身の程もわきまえていないアホ盗賊かなんかじゃない?」

「ぐぅぅぅるぐるげっげー!」


「ほっとくのか?」

「まさか。戦いやすい場所に誘導中。そろそろ着くから心構えよろしく」

「ぐるぐるっげげー!!」



 慣れ慣れしく俺達の会話に混ざってくるゲロ鳥の籠にパン屑を放り込みつつ、俺はこうなった経緯を思い出した。


 あれから、和やかにハイキングでも楽しもうかとした矢先、背後に何者かの気配が現れたのだ。

 一瞬、タヌキかッ!?と身構えたものの、見え隠れする影はタヌキほど小さくはない。

 ちょっとだけ落胆しながらも周囲に気を配ってみれば、ちらほらと木や岩に隠れている人影が見える。


 リリン曰く、たまにこういう変なのが湧くそうだ。

 最近は一人行動も多く、人攫いや強盗などがこぞって、外見だけは可愛い少女のリリンを狙ってくるという。

 当然、結果なんて言わずもがな。

 一人残らず返り討ちにし、愚かな行為をした事の代償を支払わせているとか。


 そして、今日も現れた、と。


 盗賊や強盗っていう話だけどさ、素人の俺に見つかるなんてヘタクソも良い所だろ。

 俺は確かに目は良いが、そういった訓練は積んでいない。

 せいぜい、村でレラさんや村長と鬼ごっこをした程度だな。


 なのに目を凝らして探せば、見つかるわ見つかるわ。

 今わかるだけでも10人以上。

 これが盗賊だってのなら、お粗末な事この上ない。正直、俺達が相手をしなくてもそのうち誰かに捕まるだろう。


 だが、リリンに逃がす気がない様子。

 どうしようかなーと実に楽しげなのだ。


 俺としても、ちょうどいいかなと思う。

 なにせ、この理不尽系雷撃少女はタヌキを撃ち漏らしたことにより只今、欲求不満なのだ。

 このままでは非常に危険なので、申し訳ないが生贄となって貰いたい。


 そんな事を内心思いながらリリンとどうするかの作戦を組み立てた。

 おおまかにはこんな感じだ。


 ①それっぽい理由をつけて、リリンが魔法を茂みに打ち込む。

 ②それに驚いた盗賊が茂みから出てきて、俺達と遭遇。

 ③なし崩し的に戦闘にもつれ込む。その後、不可抗力を装い一網打尽にする。


 うむ、このテキト―具合。成功する気がしないが、まぁ、なんとかなるだろ。



「お!、広い場所に着いたな。さて?」

「見てユニク。あそこの茂みが揺れている。何か獲物がいるかもしれない」


「……獲物ね。いるかもしれないな、獲物」

「うん、魔法で牽制してみよう」


「いや、待てリリン!」



 うん。なかなかいい感じに小芝居が出来てる。

 と言うかリリンが凄く慣れてるな。一体、何人の悪人を闇に葬って来たというのか。


 そして、ここで一旦制止をかけたのは実はアドリブだったりする。

 一応、無害な人間を巻き込んでしまわないように確認をしておこうと思ったのだ。

 小声でリリンに事情を話し、もう一芝居することにした。



「ほら、人が居たら大変だろ?一応確認しとこうぜ?」

「それもそう。おーい、今からその茂みに魔法を撃つ。誰もいないよねー?撃つよー?痛いよ―?」


「…………。」

「…………。」


「出てくる気配ないな」

「よし。良い根性してる。それじゃ、テキト―に魔法を打ち込む。んー、これでいいや。えい《主雷撃プラズマコール 》!」



 ドギャーーーーーーン。

 おい、すげぇ音したけど大丈夫か?

 ……。

 …………。

 ………………茂みの中から煙は出ているが、何の反応もない。



「リリン?」

「これは失敗したかも?」



 失敗かぁ……。

 そう呟きながら茂みを覗いて見ると、ボロボロのマントを纏った男がノビていた。

 風貌からして本当に盗賊のようだな。完全に白目をむいているけど。


 ズルズルと引きずりながら日の当たる所までひっぱってきて、じっくり観察。

 痛んだバンダナに、痛んだチョッキと痛んだズボン。

 真っ当な生活をしているとは思えない。

 リリンと俺とゲロ鳥で確認の検分の結果、満場一致で盗賊と断定。


 当初の予定とは違う動きなものの、茂みが慌ただしく動き始めた。

 仲間を囚われ慌てているんだろう。


 そしてその動きを見てにやりと悪い顔をする少女が一人。

 その少女の名前はリリン。とある界隈では『無尽灰塵』と呼ばれている彼女は、獲物を見定めるかのような目つきで盗賊を見下ろし、脅迫の言葉を吐いた。



「一応警告をしたというのに、なぜか人間に当たってしまった。これはいけない」

「どうする?今ならまだ誰にも見られていないぜ?」


「身ぐるみ剥がそう。とりあえず持ち物全部奪い取る」

「そうだな。その後は?」


「写真を撮っておこう。町にばら撒くと脅して、手持ちに無い金品も根こそぎ強奪。その後、奴隷商にでも売り飛ばせば証拠は残らない」

「あぁ、良い案だが、こんな汚い野郎、売れるのか?」


「売れなきゃ、その時は埋めてしまおう」



「テメエらは鬼か何かかッ!?」



 あ、釣れた。結構簡単な作業だったな。


 俺達の容赦ない言葉に耐えきれなくなったか、大男が茂みから飛び出し、それを皮切りに次々と盗賊達が現れた。

 盗賊達は口々に俺達を汚く罵り、罵倒を浴びせてくる。

 俺は未知の体験に少しだけたじろぎながらも傍らを見ると、リリンはまったく動じていない。

 それどころか、瞳の奥が笑っているようにさえ見える。


 あー。やりすぎないように注意しないとな。

 流石に人間と野生動物は違うし。

 俺はリリンと盗賊の両方に注意を払いながら、誰かが口を開くのを待った。



「いきなりなに。私達に何か用?」

「あぁ?いきなし魔法ぶっかけといて「何か用?」たぁずいぶんじゃねえか。嬢ちゃんよぉ?」


「あなた達が私達を尾行していたのは気が付いている。怪しい行動を取ったあなた達に非があると思うけど?」

「かっ!気が付いててこんな広い場所に来たってのか?なんでぇ、レベルが高くても、常識ってもんを知らねえらしい」


「常識?」

「あぁ、しょうがねえから教えてやんよ。俺達みてえな盗賊と出くわした時はなぁ、広い場所を避けるもんなのよ。こういう風に囲まれちまうからなぁ!」



 最初に口を開いたのはリリン。

 一応の礼儀として何か用かと尋ねたらしい。

 だが、当然意味ある言葉は返ってこない。当たり前のようにイチャモンをつけられ、尾行に気が付いていたとバラすや否や、開き直って俺達を取り囲んだ。


 はぁ、ここまでテンプレートな悪役っているんだな。

 今日日きょうび、小説にもなかなか出てこねぇよ。



「囲んでどうするの?ダンスでも踊るなら、鬱陶しいので他でやって」

「んねわけねえだろっ!?くくく、テメエラを捕まえて売っぱらうのさ」


「へぇ。私は野生動物とは違う。相応の覚悟は必要になるけど、それでも?」

「言い値で売れるってんでなぁ!野郎ども、準備しな!!」


「言い値で売れる……ね」



 お、盗賊が戦闘態勢。

 俺も一応グラムを構えつつ、相方のリリンを見た。

 だが、まったく何の準備をしていない。

 もともと手には杖を持っている為、何の準備も必要ないってことなんだと思う。



「じゃあいくぜ?嬢ちゃんよ。いいか?」

「全然よくない。一時停戦を要求する」


「は?」

「は?」



 えっ、断るなよ!?


 草原に浮かび上がる二つの疑問の声。

 一つは俺で、一つは盗賊の頭っぽい人の声だ。



「オイオイ嬢ちゃんよぉ。こういう時はダメでも、「かかって来い」と言うか、無言で斬りかかるかするもんだぜ?」

「いや、これはお互いの為の停戦。そして、その原因は彼にある」



 ほら見ろ、ツッコミを入れられたじゃねぇか。


 つーか、話のダシに俺を使うんだな。

 いきなりそんな事を言われても困るんだけど?



「なんだ?そこのガキがどうしたって?」

「彼は対人戦に慣れていない。なのであなた達に怪我人および死者が出る可能性がある。なにぶん彼の剣はよく切れるから」


「怪我ぁ?死人?そんなの当然だろうが?」

「そっちはそれでよくても、こっちは良くない。不用意に人を殺して犯罪者になりたくない」


「じゃどうするんだよ?」

「5分で彼を教育する。待ってて」


「ちっ、早く済ませろ」



 そして、盗賊はもう一度「ちっ」と舌打ちをし、腕を組んだ。

 どうやら待っててくれるらしい。


 なぁ、敵の俺が言うのも何なんだけど、馬鹿だろ。コイツ。

 今、俺達の目の前にいるのは30人程度の盗賊達。

 人数比で言えば30対2の多勢に無勢状態である。


 だけどさ。なにぶん相手のレベルが低い。

 ランク1は大体超えているみたいだが、ただそれだけ。

 一番偉そうな目の前のおっさんのランクが21029、次点のレベルが18401。

 ついさっきまでレベル5万越えの魔獣と戦っていた事を考えると、どうしても物足りなく感じてしまう。


 第一、俺と大差ないお粗末なレベルで、レベル4万を超えるリリンに勝つつもりでいるというのが、もう既に笑いを誘う。

 この理不尽少女の前には物量なんてまったく関係ないというのに。

 それなのに余裕をかまし、5分も時間をくれるというのだ。


 リリンが本気でやったら、コイツら全滅させるのに1分もかから無いだろう。

 次の瞬間に全滅していてもおかしくないのだ。



「さて、じゃ、心構えの話をするね?ユニク」

「え? あぁ」



 あれ? この茶番、続けるんだ……。

 しゃねーな。乗っとくか。



「ユニク。対人戦に置いて、相手を殺さないのはことさら難しい。なにぶん相手は《空盾エアロシール》や《物理隔離パージアタック》を使ってくる。なので殺さないかつ、ダメージを与えられる威力の調整が難しい」

「ん?おう」



 ん?

 今、一瞬体が温かくなったような?



「だから、こういう風に剣の刃先に防御魔法を掛けておく。

 《幾年の戦争よ、この身一つで渡り合えると信ず! ―物理隔離パージアタック―》

 すると剣の斬れ味が悪くなり、打撃武器として使う事が出来る。なお、《結晶球結界プロテクトスフィア》だと与えるダメージ8割減、《第九守護天使セラフィム》ならダメージ無効化なので注意が必要」

「あ、うん。そうなのか」



 え? 剣に対衝撃魔法をかけると斬れ味悪くなるのかよッ!?。

 将軍相手に空盾をグラムに掛けちゃったのは失敗だったなぁ。

 一つ勉強になったぜ。


 んで、問題なのがその後だ。

 今のは間違いなく防御魔法を受けた感覚。という事は……?



「だけど、安心し過ぎてはいけない。自身に《飛行脚フライトステップ》や《瞬界加速スピーディー》をかけすぎると威力が出過ぎるので加減が必要となる。話の意味(・・)、分かった?」

「あぁ……。分かった」



 あぁ、分かったよ。

 話に混ぜ込んでバッファの魔法を俺達に掛けているのは、よーく分かった。


 ……汚い。味方ながらに、なんて汚いんだと思う。

 タダでさえ戦力差は圧倒的だというのに、これじゃ、万に一つも負けはなくなった。

 戦闘になるかすら疑わしく思う。


 でもさ、これ、気が付かない相手も悪いよね?


 俺は心の中で言い訳しつつ、盗賊の方に視線を合わせた。

 どいつもこいつも、俺達を見てへらへら笑っているだけで何の準備(バッファ)もしていない。


 ……コイツら、真正のアホだな。

 憐れむのはやめよう。だってコイツらが悪いし。


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