第6話「祭りの始まり」
「みんなー!今日はサチナのお祭りに来てくれて、ありがとなのですー!!」
「うぉぉおおおおおお!!」
「うぉぉおおおおおお!!」
「力の限り、お財布が許す限り、遊んで遊んで、遊びつくすのですよー!!」
「うぉぉおおおおおお!!」
「うぉぉおおおおおお!!」
うぉぉおおおおおおお!!
今日も可愛いぜ、サチナた~~~~ん!!
L、O、V、E、!!
アイッ!!らぶっ!!サ・チ・ナっ!!!!
うぉぉおおおおおおお!!
……って感じに周囲が盛り上がっているので、俺も乗ってみた。
めちゃくちゃ可愛らしい顔で『破産しろ』って言われたような気もするが、ちょっとくらい良いかな?とか思わせてくるあたり、英才魔王教育が行き届いている。
「流石に気合い入ってるな、サチナ。来ている衣装も着物をイメージさせるドレスだし」
「うん、すごく可愛い!サチナにはアイドルの才能もあるっぽい!!」
「みんなで写真を撮ろうねぇ、きっといい思い出になるよ」
「あっ、あっ、私も!!私も可愛いお洋服を着てみたいです!!」
それぞれが開店準備に尽力していると、あっという間に昼の12時が近づいてきた。
急いで広場の中央に建てられた矢倉台ステージ前に移動すると……、タイミングよく、サチナが祭りの開始を宣言したようだ。
それにしても、巫女服系キツネ娘・ミニスカverを見上げさせるとか、あざと過ぎにも程がある。
だが、ピンク色のフリフリがいっぱい付いたニーソによって露出が控えられており、防御力は抜群ときた。
後でポストカードを買いにいこう。
「おねーちゃん、お祭り楽しみだね!!」
「うん。屋台には普段では食べられない料理も多い。全制覇するべきだと思う!」
普通の感覚でいえば全店舗制覇……のはずなんだが、この腹ペコ姉妹魔王の場合は、全メニュー制覇の可能性がある。
というか、確実にやる。
大食い競争という大義名分もあるし。
「ちなみにワルト、大食い競争をしている時って、店の運営はどうするんだ?リリンとセフィナが同時に抜けたら流石に厳しいだろ?」
「だからこそのシルストーク達さ。共用スタッフとして雇ってあるから安心してね」
へぇ、ちゃんと公平な増員を用意しているあたり、ワルトの本気度が伝わって来る。
敵陣営が雇ったスタッフを厨房に入れるなんて、普通ならとんでもない暴挙だが……、シルストーク達はリリンの飯へ向ける情熱を知っている。
素直に手伝ってくれる応援がいるのなら、俺も気兼ねなく遊べるってもんだぜ!
「配ってたパンフレットによると……、午後1時からサチナの1stライブ、そのままの流れでカラオケ音楽祭で、午後6時からは花火大会か」
「音楽も花火もお店をやってても楽しめるからねぇ。ライブステージだって見える位置だし」
もう後がないワルトの最優先事項は、大食い・販売対決の勝利だ。
それでも、せっかくの祭りなのにもったいないと思っていたが……、ばっちり対策を練ってあるとは、さすがは魔王集団の参謀だな!
「ユニ。覚えているかい?一緒にお祭りに行ったこと。僕の認識疎外の仮面は、その時に貰ったものと同じデザインなんだ」
「動物お面を買ってやるって言ったら、全部タヌキ、やだ……って言って涙目になったやつな」
「んなっ……!」
「結局、舞踏会用の仮面っぽいのを買ったら親父に爆笑されたっけ。そんで拗ねて――」
ちょっと恥ずかしくなって冗談で返したら、思ってたよりもワルトの反応が可愛かった。
普段は白くて影がある顔を赤面してるってのは、新鮮でいいぜ!!
「ねぇ、何の話?」
「君じゃ想像すらできないような、甘酸っぱい青春の話さ」
「むぅ!?私にだって甘酸っぱい青春くらいある!!」
「それはどこの食堂の話なのかな?」
「南国フルーツで作ったトロピカルジュースだから……、ノウリ国のお店だったと思う!!」
そうだな!
友達と飲んだトロピカルジュースも、ちゃんと青春してると思うぜ!
「さてと、リリン達は店に戻るんだよな。俺一人でぶらついて来て良いか?」
「いいけど……、テトラとデートするのは禁止!!」
「他の女の子もねぇ。僕の目の届くところでナンパなんてしようもんなら、神殺しの矢が降り注ぐから覚悟しな!」
一昨日は温泉郷に居なかったら無茶できたが、さすがに今日は自重するぞ。
セブンジード……、は手羽先姫と一緒にいるだろうし……、じいちゃんだけ居ないかな?
あ、できればベアトリクスにも出会いたくない。
抱きつかれたら言い訳不可能なんダゾー。
「じゃ、サクッと行ってくるぜ!」
「いってらっしゃい!」
「ちゃんと僕のお店にも寄ってね。10時間くらいいても良いよ」
真剣勝負と、せっかくの家族の団欒を邪魔しないように。
そんなことを考えつつ……、ふぅ、脱出成功。
一昨日に引き続き、自由時間だぜ!!
わっしょいわっしょい!!ぐるぐるきんぐー!!
「お、あの店は……、おーい!おっちゃーん!!」
ずらりと並んだ屋台の数は100を優に超えている。
そうなると当然、提供するメニューも被ってくる訳だが……、その中でも大繁盛している串焼店、それが『やきとり、うんめぇ堂』だ。
「お、ユニクルフィン様じゃねぇですかい!ちゃんと食いに来てくれたんですね」
「昨日の夜の侘びも兼ねてな。びっくりしたろ?魔王が群れててさ」
うんめぇ堂のおっちゃんには、昨日の夜も会った。
魔王共の群れに割り込んで言った姿は、英雄といっても過言ではないと個人的には思っている。
「まぁな。って、リリンサ様達は一緒じゃないんですかい?」
「二人ともあっちに自分の店を出しててさ、気が向いたら食いに言ってやってくれよ」
「そりゃもちろんですぜ。おい、ヴァトレイアッ!目の前の串が焦げてるぞッ!!てめぇ、偉そうな顔して火の番すらできねぇのか!!」
魔王様に喧嘩を売ってしまった鏡銀騎士団・ヴァトレイア小隊は、無事に魔王国のやきとり屋へ売り飛ばされた。
正確には、リリンが鏡銀騎士団のトップに就任したことにより、騎士団運営がブルファム王国からレジェンダリアへと変更。
そして、空き時間にレジェンダリア軍人をしているおっちゃんの指揮下に入り、こうして、やきとりを焼いている。
「タルテッテ、いろんな旨い串を選んで出してくれ、上客だ。あ、タヌキ以外でな!」
おっちゃんの横で串に味付けをしていた女性が、えっ!?って顔で振り向いた。
パッと見た感じ20歳前後、レラさんと同年代っぽい。
「無理でしょストライン!急に連れて来られてお店やれって言われただけで、いっぱいいっぱいなのに!!」
「でもこのお方、心無き魔人達の統括者の全員を口説き落とした男だぞ」
「ぐるげ!?ぐるぐるげっげーぇぇぇッ!?!?」
おぉ、これは見事なぐるぐるげっげー!だ。
だが、口説き落とした記憶はない。
全員から叩き落とされはしたけどな!!
「あ、あぁああああの!!おどうぞっ!!」
「おぉ美味そう。ありがたく頂戴するぜ!!」
戦々恐々と差し出された供物は、肉と餅が交互に刺さった変わった串焼き。
肉は豪華鳥、餅は米を突いた特注品で、甘辛いタレと青のりが掛かっている。
では、早速。
……もぐもぐ、うまっ!!
「美味いなこれ!?米の触感なのにちゃんと餅!!のびる!そして肉に合う!!」
「だろ!こいつは料理の天才でよ、レジィちゃんにも気に入られてんだ」
「えへへ!」
「誰だよそのレジィちゃん!?じゃなくって、やべぇぞ、ヴィシャが肉を炎上させたァァーーッ!!」
「あんたが酒を掛けろって言ったんでしょーがー!!」
奥の方が大変なことになってるっぽいが、楽しそうで何よりだぜ!
おっちゃんも笑ってる。
額に血管を浮かばせながら。
「はっはっは。あいつらは後で炙っておくから許してくれ」
「ミディアムレアぐらいにしてやれよ。友達なんだろ?」
「……だな。さっ、もちろん御代はいらねぇ。好きなだけ食ってくれ!!」
ぱぱっと腕を振るったおっちゃんの手には、旨そうな匂いのカラフル串。
白と黄色のチーズに茶色いタレ、食欲を掻き立てる青のりと赤唐辛子の鮮やかさも見事だぜ!!
 




