第3話「破綻していた戦略」
「む”ぅ”う”う”う”う”--ッ!!」
……。
ご機嫌最悪・超魔王リリンがカツテナイほどブチ切れている。
そして、ただでさえ白い悪辣系牧師・ワルラーヴァーが顔面蒼白で立ち尽くしている。
いやマジ、どうすんだよ、これぇッ!!
あ、こら逃げんなッ!!クソタヌキーズッ!!
「……りり――ッ!?」
「……ずるい」
「リリン?」
「酷い。ずるい。」
カツテナイほど暴れていた尻尾すら沈黙し、残ったのは、か細い呟き。
『ずるい』
これがきっと、リリンの本音だ。
本当は、ダウナフィアさんとも仲直りしたい、けど、気持ちの整理がついていない。
突然、死別という形で家族と別れ、心細い日を過ごした。
それが嘘だったと告げられても、理由があると理解していたとしても。
同じ年の俺が言えたことじゃないとは思うが、リリンはまだ、16歳の女の子だ。
受け入れるには、手助けが必要だと思う。
「リリン、会いに行こうぜ」
「ユニク……」
「俺の予定じゃ、全部決着を付けた後で挨拶に行くつもりだったんだが、出てきちまったもんはしょうがない。会いに行くぞ」
「ん、まっ――」
待たねぇよ。
もう、5年以上も待ったんだろうが。
強引にリリンの手を取り、隣の店へ向かって歩き出す。
俺たちの後ろにはセフィナ、よし、しっかりタヌキーズも捕獲されてる。
「ダウナフィアさん、こんにちは」
実は、俺だって滅茶苦茶、怖い。
ダウナフィアさんの顔や声が怖い訳じゃなく、俺のミスで家族の関係にひびを入れてしまうかもしれないという恐怖がある。
だが、ここで逃げちゃだめだと思った。
「リリンは勇気を出したぞ、そっちも踏み出せよ」
「ユニクルフィン君。そして……」
ダウナフィアさんの姿は、大聖母の時の精錬静謐なものではない。
セフィナ似の黒い髪に、青いメッシュを二本入れた髪を結いあげている。
来ている服だって白を基調にした神官服ではなく、身だしなみを整えた普段着だ。
子が子なら、親も親か。
二人そろって思い合っていても素直になれない所とか、そっくりだぜ。
「リリンサ」
「うん」
「いっぱい、寂しい思いをさせてしまったわよね。ごめんなさい」
「うん、とても寂しかった。……ひっく」
「今まで褒めてあげなかったから、頭を撫でても良い?」
「……。やだ……」
「……っ」
「一回だけじゃ、やだ……。いっぱいして欲しい」
「リリンサ……!」
「ママ……!」
結局、互いにどうしたらいいのか、分からなかっただけ。
ほんのちょっと背中を押してやれば、ほら、仲直りだ。
二人で抱き合って泣きだしたリリン達、ゴモラを抱きしめて嬉しそうにしているセフィナ……まではいいとして。
あろうことか毛嫌いしていたソドムをりんごチップスで餌付けしている、そこのワルト。
そいつは俺たちにタヌキトラウマを植え付けた諸悪の根源な上に、好物はバナナだ。
色んな意味で間違ってるぞ。
「ゆにー……」
「この再会は仕込みじゃないんだろ?分かってるって。本気で勝ちに行こうとしてたのもな」
「ノウィン様……、超こわいぃぃ……」
……。
あれ、もしかして、タヌキトラウマ超えちゃった感じ?
「うん、呼んでないのに出てきたら怖いよな。で、どこら辺が一番怖い?」
「依頼した、お食事処『食い倒れ宮』と『とろける夢庵』は、ジャンルも規模も、出店してる国すら違うお店でさ」
「おう」
「旅のついでに買収した、つまり、ランダム性の高い契約なんだ。ノウィン様から指示を受けたどころか、報告すらしていない僕個人の資産」
「うおぅ」
「なのに出てきた。しかも、二人別々の店舗から」
「ダウナフィアさんはゴモラを飼ってるからな、残念だが、情報が洩れて買収されたって所か」
「……ちがうんだ」
「?」
「『食い倒れ宮』→倒れ、天球。……ダウナフィア」
「ッ!?」
「『とろける夢庵』→とろける、夢、あん=否定。……ディストロメア。この人、僕とセフィナの教育係のシスターサヴァン」
「ッッ!?!?」
「僕が買収した後、店名の変更もなければ、CEOの交代も起こっていない。この意味、分かるよね……?」
ってことは、買収した店が偶然、ダウナフィアさんとディストロメアさんの店だった?
いや、違うな。
もともと持っていた店に誘導されていた……?
「うわ、なにそれ怖い」
「でしょ。何がやばいって、僕はこの二人に直接会って契約してる。割と強引なやり方で……!!」
……。
そうか。
直接会ったのにもかかわらず、正体を見破れず。
向こうは、ワルトの性格や不当な契約を理解しているのにもかかわらず、あえて乗って、こういう形でどんでん返しをされた訳だ?
そりゃ、クソタヌキに餌付けしたくなるってもんだぜ!
「どうしよう……」
「ちなみに、今回選んだ理由はなんだ?他にも店はあるだろ?」
「……僕の傘下の飲食店の売り上げ、1位と2位。リリンに負けたくなくて、だから本気の人選で……」
「うわぁ、仕込みが用意周到すぎる。いずれはこんな感じで役に立つと思ってたんだろうな」
「読み切れなかった僕も迂闊だったけど……、ノウィン様、超こわい。」
俺も怖ぇぇよ。
だって、さっき啖呵切っちゃった。
おい、そこの歴史に名だたるソドム!!
バナナやるから助けてくれーッ!!




