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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第117話「魔王の晩餐」

今回は、魔王な被害を受けた冒険者視点のアヴァロンMAX回です!!



「ふっざけんなよ、誰が食えるかッ!!こんなもん!!」



 その日、山盛り唐揚げ、アヴァロンMAXに5組の冒険者達が挑戦した。

 そして今叫んでいる男も含め、全員がカツテナイ絶望に沈んでいる。



「もーだめだ。もう唐揚げ一個すら入らねぇ。食ってくれぇ、ヴィシャ」

「あんたの大好物じゃない。いつも足りねぇぞっ騒ぐ癖に、今日は根を上げるのね、ヴァトレイア」



 横に座っている女――、ヴィシャの憎たらしい表情に苛立ちつつ、顔を見られる程に関係が回復している事実に内心でほっとする。

 そして、口直しの杏仁豆腐すら進まないヴァトレイアは、最近、道を踏み外してばかりだなぁと思った。



『タヌキ帝王・アヴァロン』


 わんぱく触れ合いコーナー(死地)を訪れたほぼ全ての冒険者が、タヌキが受付で入場券を販売している珍事件を鼻で笑い、掲示板で特殊個別脅威ネームド指定されているのを見て爆笑。

 そして「おもしれぇ土産げ話ができたな」とか言いながら、死地へ飛び込み……、危険生物に成す術なく殺された。


 そうして思い至るのだ。


 自分達が瞬殺された生物の勝率は70%前後しかない。

 極論、名前が付けられていない『雑多の群れ』でしかないのだと。

 一方、特殊個別脅威ネームドであるタヌキ帝王・アヴァロンの勝率は99%、一体どれだけ強いのかと。


 こうして、わんぱく触れ合いコーナー(死地)を訪れた冒険者は皆、タヌキ帝王・アヴァロンを知る。

 絶対に勝てない尋常ならざる化物、カツテナイ・タヌキであるのだと。



「だってよぉ、うっ……、」

「はぁ。勿体ないから食べてあげるわよ。ソクト達が」



 杏仁豆腐の皿を抱え込んだまま動かなくなったヴァトレイアも、アヴァロンの強さを知った一人。

 だが、一緒に触れ合いコーナーを訪れた元・パーティーメンバー、現・焼き鳥うんめぇ堂の親父ストラインが引きつった顔で呟いた「やべぇ」の一言があったからこそ、侮ったりはしなかった。


 ストラインに強引に温泉郷に連れて来られたヴァトレイア達を襲ったのは、タダでさえ砕け散っている自尊心が粉微塵にされるような超体験の連続。

「これ、仲直りって体裁の復讐だろ」と本気で思うくらいに、ストラインが見せる日常が眩し過ぎたのだ。


 そうして疲弊しまくったヴァトレイアが休憩していると、カツテナイ・アヴァロン敗北!!という気になる声が聞こえてきた。

 配っていたチラシを貰い、『アヴァロンMAX・完全攻略者、現る!!』という文字を見て、それが大食いチャレンジだと悟る。

 大食い(これ)なら……!と意気込んだヴァトレイアは幼馴染の鼻を明かしてやるため、こうして挑戦したのだ。



「めちゃくちゃ勝ち組になってるストラインのあん畜生の話を聞いちまったらよォ、俺だってってなるじゃんか……。何が愛する家族はゲロ鳥のフィィだ。良く聞きゃ、20歳の女に預けてきたって、同棲してるって、なんだよぉ……」



 ヴァトレイアが荒れているのは、裏切って捨てた幼馴染の成功を知ってしまったから。

 そしてこの席にはもう一人、ヴァトレイア達『鳳凰の卵』が見捨てた者がいる。



「この英雄の子孫、ソクト・コントラーストに任せておけば問題ない!!と言いたいところですが、流石に私だけでは無理です。モンゼ、シル、ブルート、頼りにしているぞ」

「まぁ、普通に美味そうだから貰うけどさ。兄ちゃん、今の俺って失恋したばっかで胃が痛いんだけど」


「はっはっは!シルのそれは失恋では無いよ。なぜならこの英雄の子孫、ソクト・コントラーストの胃も痛いからね!」



 ヴァトレイア達のパーティ『鳳凰の卵』からストラインが抜けた直後に補充されたのが、新人冒険者の『ソクト』と『ヤミィル』だった。

 だが、ストライン無くしてパーティ運営が上手くいくはずもなく。

 それでも、冒険者の基礎知識を覚えられたのは彼らのお陰だと思っているソクトは、ヴァトレイアと定期的に連絡を取っているのだ。



「ロイ様が領主じゃなくてブルファム王子様って、それだけでも驚きなのに、騙したお詫びにパーティ一同を温泉郷にご招待って……、やばいわよね?」

「えぇ、拙僧もそう思いますぞ。ですが、妻の護衛をして欲しいと言われ、破格の料金すらも前払いで頂いてしまえば」


「まさか、これもリリ……、魔王様の掌の上って事は無いよね?ブルート」

「流石に考え過ぎでしょ、エメリ。この場だって、ソクトさんが昔のパーティーメンバーに偶然会ったから。第一、ブルファム王国征服で忙しいと思うし」



 このテーブルに着いているのは、鳳凰の卵のパーティーメンバー、ヴァトレイア、ヴィシャ、フーシ、ドゥーマ。

 そして、魔王の如き二人組幼女に分からせられた英雄の子孫パーティ、ソクト、モンゼ、ナキ、シルストーク、エメリーフ、ブルートの計10名だ。



「お前もお前だぞ、ソクト!!ちゃっかり俺達のレベル超えやがって!!そんなこと、手紙には書いてなかったじゃねぇか!!」

「わざわざ書く訳ないでしょう。それに、私達は魔王に鍛えられておりますので」


「魔王だぁ?こっちはゲロ鳥で絶望してんだっつーの!!どうだ参ったかぁ!!」

「そのゲロ鳥も、たぶん、魔王の眷族なんでしょうけどね。フィートフィルシアで降ってきましたから」



 わんぱく触れ合いコーナーを訪れたソクト達の目に飛び込んできたのは、満月狼に蹂躙されている『鳳凰の卵』の姿だった。


 ソクト達であれば、満月狼の群れの対処は難しくない。

 ワルトナから送られてくる神託書という名の脅迫命令書でドラゴン狩りに行かされる彼らにとって、地面に居て手が届く相手は、かなり戦いやすい部類だからだ。


 だが決して、満月狼の戦闘力を軽んじている訳ではない。

 しばらく鳳凰の卵の戦闘を眺め、互いの実力を理解。

 ヴァトレイアさん達も頑張っているが……、このままでは勝てない。そう思ったからこそ助太刀に入り、打ち上げと言う名の情報収集会が行われることになったのだ。



「ストラインさん……は酔っているので、ヴィシャさん、ブルファム王国で行われた戦争に参加されたんですよね?」

「したわ」


「率直に聞きたいのですが、魔王の戦闘を目撃なさいませんでしたか?」



 ソクト達は、自分達を鍛えたリリンサとワルトナの正体を知っている。

 正確には、背後の窓から放たれた、心無きぶにょんぶにょんどどげしゃー!!で思い知らされたわけだが……、フィートフィルシアでの一件が魔王達の本気だったとは思えないのだ。


 そもそも、ソクト達はリリンサ一人に弄ばれている。

 そして、ブルファム王国での戦いはそれが児戯だったとロイから聞かされ、かなり興味を抱いているのだ。



「あなた達も見たでしょ?冥王ゲロ鳥」

「えぇ。ドラゴンに勝る絶望でしたね」


「それが変形してロボになって、二匹目の冥王ゲロ鳥をブッ殺したわ」

「は?」


「どっちもね、凄まじいレーザーを出すの。雷とか比じゃないレベルの」



 ソクト達が理解できたのは、『凄まじいレーザー』の部分だけだ。

 尻尾を生やしたリリンサが放った極太のレーザー砲撃……、ワルトナの教えを受けている彼らだからこそ、それが大規模殲滅魔法を超えた何かだと気が付いている。



「レーザーかぁ。あんなん、どうやったら出来るようになるんだろうな」

「シルも尻尾を生やしてみるとか?」


「何処で売ってんだよ、あんな尻尾。買えるなら欲しいんだけど」

「質の良い魔道具が売ってたわんぱく触れ合いコーナーでも、流石に無かったもんね」


「ワルトナならあるいは……。とりあえず、目の前の料理の攻略をしちまうか」



 山盛り唐揚げ、アヴァロンMAXの挑戦料、65,103エドロ。

 随分と中途半端な値段だな?と思いはしたが、それが出てくる料理の値段の合計だと分かるはずもなく。


 大体1000~3000エドロ前後の料理が、合計30品目。

 どれもが冒険者が納得する量の一人前……、それが机に並んだ光景は今日一番の絶望だろうとシルストークは思っている。



「もぐもぐ……、普通に美味いよな。10人で食えばの話だけど」

「これを一人で食べるとか、どうかしてるでしょ」

「女の子なら二人で良いらしいよ」


「女だけなら20人でも無理だろ。これ食いきるとかどんなバケモン女だよ」

「身長3mくらいあるとか?」

「それは人間じゃないよね。そっちのカレー、貰って良い?」



 和やかな会話をしつつ、シルストーク達がアヴァロンMAXへ勝負を仕掛けた。

 これこそが英雄の子孫パーティだとでも言うように、完璧な連携で綺麗に料理を平らげていく。

 そして、かなり満腹になりながらも、残すはデザートのみとなった。



「……ふぅ。何とかなったな」

「暫く唐揚げは食べたくないね。アイス貰うわー」

「じゃあ僕はスイカゼリー」



 こいつら、デザート分の腹を残してやがったな。

 まぁいいけどさ、それだってアヴァロンMAXの料理だし。


 そんな事を思いながらメロンソーダを飲んでいたシルストークは、なんとなく騒がしい入口を見た。



「ゲホォォォッッ!!」

「きゃあ!!シルッ!?」



 そこには、にこやかな笑顔の青い髪の魔王が立っていた。

 あろうことか、白い髪の魔王もいる。

 更には、赤い髪の魔王の恋人、そして、噂の黒い髪の魔王の妹まで。



「ゲホッゲホッ!!んなぁ……」

「何してるのよ。もー」

「勝利が見えて油断した?」


「……いや、魔王が見えて絶望した」

「は?」

「は?」



 いくらなんでもそれは……、そう思ったエメリーフとブルートは振り返る間もなく、鈴の様な声の魔王の「7名!あ、VIP席を利用したい!!」という声で絶望。

 食べた料理が汗になって噴き出し、思わず頭を両手で覆った。



「嘘だろ、おい」

「……今、VIP席って言った」


「ブルート?」

「この温泉郷には経営者がいつでも使えるVIP席がある。ってことは……」



 ここって、魔王の根城……?

 辿りついてしまった真実に、シルストーク達は三度、絶望する。



「あ。ワルトナがこっち見てる。オワタァ」

「なんでいるの!?ブルファム王国の征服で忙しいんでしょ!?」

「レジェリクエが居ないから、交代で休憩してるとか……?」



 ワルトナと目が合ってしまったシルストークは身構えるも、僅かに頬笑まれただけだった。


 何もしてこないって事は、俺達を狙ってる訳じゃない?

 そして、強かな見識を持つシルストーク達が選んだのは、魔王達の動向の静観だ。



「アイツら、何しに……」



『山盛り唐揚げ、アヴァロンMAXに挑戦する!!』



「「「えっ。」」」



 かの存在が、人智を超えた魔王だという事をシルストーク達は十分に理解している。

 だが、さっきまで目の前にあったアヴァロンMAXも人智を超えたタヌキの領域だ。


 いくらリリンサの食い意地が張ってるって言っても、流石に……。


 店に入ってきたのは7名といえど、子供と老人込みの人数。

 ユニクルフィンが3人前食べても苦しい戦いになると、シルストークは思った。



「冗談だろ?」



『ご注文はお決まりでしょうか?』 

『アヴァロンMAXに挑戦する!私とセフィナで!!』



 ……絶句。

 シルストーク達の感想はそれしかなかった。



「ぶわははは、馬鹿じゃねーのか、あの子供ガキッ!!食えるわけねーだろうが!!」

「ストラインさん、そんなに笑わなくても。分別の無い子供の言うこ……」


「あぁん?俺に意見たぁ偉くなったなぁ、英雄の子孫、ソクト・コントラースト様よォ」

「ひぃっ、今は名乗りは……」



 遅れて気が付いたソクトは、あろうことか魔王を『分別の無い子供』扱いした自分の浅慮を呪った。

 そして、シルストーク達と視線で作戦を練り、目標を『静観』から『生還』へ変更。

 静かに席を立とうとして――、机の上に刺さった


『良い度胸だねぇ、そこに居ろ』


 という矢に、四度目の絶望を垣間見る。



「シル……、どうする?キミの初恋相手が来たようだが」

「失恋したって言っただろ。ブチ転がすぞ、兄ちゃん」



 最早、胃が痛いとか言っている場合では無い。

 ここがわんぱく触れ合いコーナー以上の死地であるのは間違いないからだ。


 なにせ、相手はたった二日で大陸の覇国を征服した魔王集団。

 こんな店など、即座に支配できる。



「いや、リリンちゃんでもアヴァロンMAXは無理でしょ……。挑戦だけして、残った料理で宴会するつもりじゃない?」

「他の人、普通に注文してるけど?」

「……。食うのか?あれを??」



 信じられないという顔をしているエメリーフに、理解したくないという顔のブルート。

 そして、リリンサならやりかねないと思っているのがシルストークだ。



「料理、来たぞ。うわぁ、目を輝かせてやがる」

「隣の子、妹だよね?リリンちゃんより年下ってことだよね?」

「あ、取り分け用のお皿を貰った。そりゃそうだ――、えっ」



 リリンサが取り分け用の皿を受け取ったのを見て、安堵。

 そして、二人で天丼を山分けし始めたのを見て、絶句。



「いやいやいや!?どっちも食いたいだけかよ!?」

「く、食い意地が、張ってる……」

「僅か3分で天丼を完食って……」


「「「あ、あれが、魔王の晩餐……?」」」



 自分たちが苦戦した料理が、瞬く間に消えてゆく。

 そして、それが当たり前だと言わんばかりに、魔王集団はアヴァロンMAXに手をつけようとしない。



「……俺、誤解してたぜ。リリンサのこと」

「シル?」


「尻尾が生えてる時点でおかしいとは思ってたけどさ……、人間じゃなかったんだなぁ」



 あんな量の飯を食うから、尻尾が生えたのか。

 尻尾が生えたから、あんな量の飯を食うようになったのか。

 どっちにしろ、俺には理解できない魔王の所業だ。


 笑顔で食べ続ける魔王姉妹を見ながら、シルストークが呟いた。


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