第115話「心無き魔人達の質問コーナー!⑦」
「ちょっと情報を整理したいんだがいいか?」
「何か気になることでもあったのかい?ユニ」
ここで一度、頭をスッキリさせておきたい。
俺が対抗手段って言ったって、今のままじゃ何をしたら良いのか分からないからな。
金鳳花がばら撒いている無色の悪意は、付与した人が持つ欲望を刺激し、手段を選ばない方法で叶えさせようとする。
そして、その刺激する欲望は選択できるはずだ。
あの奉納祭は、村人全員が抱いていた『奉納祭を楽しもう』という欲望を刺激した上で、内容に関する記憶の書き換えが行われている。
『森に感謝を捧げよう』という意識を、『森に命を捧げよう』へ変え、村人全員を死地へと追いやった。
さらに、森に多くの皇種・超越者が集結していたのも金鳳花の仕込み。
恐らく『食欲』を刺激した上で、人間を好物だと思わせたんだろう。
気になったのは、蟲量大数ですら食欲によっておびき寄せられていた点だ。
そのせいで、スイカの名前をヴィクトリアだと勘違いし、話がややこしくなってしまっている。
「金鳳花は、欲望を刺激する無色の悪意の付与と、時の権能での意識改変の両方を行ってるよな?」
「だろうねぇ。ただし、時の権能の方は改変のみだ。まったく新しい意識を植え付けることはできないと僕は思う」
「何でそう思ったんだ?」
「面白くないからさ」
「おもしろ……?」
「唯一神が求めているのって面白さなんだよ。蟲量大数や那由他の能力に制限が掛っているように、時の権能にも制約があるんじゃないかな?」
「それは……、白銀比に聞いたのか?」
「名の知れた皇種の能力は不安定機構の秘匿文書に記述が残されてる。……が、これは当てにならない」
「んん?」
「本って記憶を元に書くものだからね。それが白銀比様の思う通りに改変されてたら嘘を書くしかない訳だ」
確かにそうだよな。
時の権能の最も厄介な所は、徹底的な情報隠蔽ができる点にある。
この温泉郷が出来て、約3年。
あんの畜生のタヌキ帝王共にすら、俺達が来るまでバレていなかった。
……ごめん。
「だとすると、なんで制限があるって断言したんだ?」
「連続性がないからだよ」
「……れんぞくせい?」
「神が凄く楽しんだ物語の続編を望む可能性ってあるよね? むしろあの性格だ、「えー、ここで終わりかよー」とか「もうちょっと見てたかったなぁー」とか平気で言いそう」
「その光景が目に浮かぶな」
「だから、似たような歴史が繰り返されてないとおかしい。人気作家の物語を真似るように”お決まりの展開”ってのが出来あがるはずさ」
闘技場にいたヤジリさん……、唯一神は何年も前のリリンのあだ名を覚えていて、それをネタにして実況を盛り上げていた。
続編が嫌いな性格なら、わざわざそんな事をしない。
「村長、質問だ。ラルバ以外に造物主や神像平均に似た能力の人物と接触した事は?」
「無い。メルテッサが始めてじゃわい」
例え気に入っていた物語で有っても、続編が出るまで何年も待たされてば購買意欲が下がってくる。
って待てよ?
村長の記憶が改変されている可能性は……、あぁ、村長も死んでるから耐性があるのか。
「記憶は完全に消せん。やり直した世界で既視感が起こったように、身体のどこかが覚えておるのじゃろう」
「ワルトの仮説が正しいとして……、快楽殺人者が大量に発生するって事態にはならないんだな。少し安心したぜ」
「それは軽率よぉ、ユニクぅ」
冒険者になって始めて覚えることは、『命を奪うとはどういう事か』だ。
街で普通に暮らしていれば、命を奪う経験は多くない。
精々、目障りな虫を駆除する程度……、手のひらより大きな動物を殺すことは殆ど無いだろう。
だから、命を奪いたいという欲求を持っている市民は限りなく少ない。
そう思ったんだが……、レジィの見解は違うらしい。
「無い欲求は煽れないんだろ?奉納祭は村一番の祭りで、何十年も続けてきたビッグイベントって話だし」
「じゃあ聞くけどぉ」
「おう」
「国民全てがリリン並みの食欲を発揮した場合、どうやって亡国を回避するのぉ?」
……。
…………。
………………無理難題を言うなよ。
そんなの亡国待ったなしに決まってるだろ。
「おぉう……。」
「ワルトナはお決まりのパターンが無いっていたけどぉ、戦争に至る典型例はあるのよぉ。三国間戦争なんてその代表例」
「確か、米と麦が交互に不作になったんだったか?」
「良く覚えていたわねぇ、偉い偉い。で、あの経済戦争は、主食の価値が乱高下したから発生したのよぉ」
「そうか、食物の価値が最も高くなるのは、腹が減った時だもんな」
「短期間で急激な食欲の増進は、備蓄食品の枯渇を招くわ。そして、本来はズレていた購入時期を一点に集約させて破綻させる訳ぇ」
あれ、米の備蓄が無くなっちまったな。買ってくるか。
そう思った人が10万人も居れば、店頭から米が無くなるのは必然だ。
だが、国の中では1年間分の米が生産さている。
結果、問屋が仕舞っていた米が流通すれば店頭の状態も元に戻るが……、その時には米は売れず、逆に余ってしまう。
「金鳳花がどれだけ大規模な能力行使ができるのか不明だけどぉ、不可解な戦争は度々起こってるわ。警戒するに越したことは無いわねぇ」
「なるほどね。ユニクルフィン、レジェリクエ、そしてこのぼくメルテッサ。この3人が死んでるのは僥倖だ」
「これから先の経済は余とメルテッサで回すようになるわ。互いが信用に足るって保証があるだけで選択肢が断違いぃ」
「しかも、レジェリクエには確定確率確立がある。金鳳花が関わっている可能性を調べることも可能。だからノウィン様はこのタイミングで無色の悪意の話をするように、ホウライ様に頼んだ。違うかな?」
話を振られた村長は、朗らかな笑みを浮かべていた。
露骨な態度で肯定し、黒幕がノウィンさんだと暗に告げる。
「なるほどぉ、こういう風にコントロールされていたのねぇ、余達ぃ」
「レジェリクエも指導聖母になるんだよね?良かった、仲間が居て」
なお、村長による補足によると、金鳳花は無色の悪意を大聖母には付与しないそうだ。
その役職が神の対談役である以上、物語に組み込めないからだ。
「大聖母が中立で良かったってぇ、本気で思うわぁ」
「まったくだね」
無色の悪意や金鳳花に対し、先手を取ることは出来ない。
耐性がある、俺、レジェリクエ、メルテッサを中心に各国経済やおかしな動きをしている偉人を見張り、後手で対応する。
それが現状できる一番の方法というのが、俺達の結論だ。
で、結論が出たとしても、俺に経済活動が出来る気がしないんだが?
「あの……、俺には期待しないで貰えると助かるんだが……」
「もちろんよぉ!ユニクぅに経済が出来る訳ないじゃなぁい。フェニクぅじゃあるまいし」
もしかして、キングフェニクスって経済を理解していらっしゃる?
あ、そうか。
アイツって大臣だったっけ。
「ユニクぅに頼みたいのは、何かと暴走しがちなアホの子を止めることぉ。ほら、今にも獲物に飛びかかりそうな目をしてるでしょぉ?」
食欲の権化である、美食の魔王様を止めろだと?
最近になってカツテナイペット共を懐柔しまくって勢力拡大中の魔王様を止めろだと?
「……ユニクユニク、難しい話は終わった?」
「おう。人間、何事も欲張り過ぎは良くないってことだな」
「ん!!じゃあ、みんなでご飯を食べに行きたい!!」
ほら見ろ!!
この美食の魔王様は、欲求を押さえるつもりが更々無ねぇぞ!!
今もタヌキ顔負けの緩んだ口元から、涎が垂れている。
「まぁ、日も暮れたし夕食を食うにはいい時間だよな?」
「今日はホーライのお話を聞くのに忙しくて、お昼御飯を抜いてしまった。だからいつもの3倍食べないといけないと思う!!」
「1食しか抜いてないのに3食分も食おうとすんな。つーか、おやつ食いまくってただろ」
「関係ない!お菓子は別腹だと故事成語でも語り継がれている!!」
くっ、飯が絡んだ時だけやけに賢いな、この魔王。
今の所、飯欲しさに他人を強襲とかしてないし無色の悪意の影響は受けてないと思うが……。
「あ!!こんな時こそアレに挑戦するべきだと思う!!このコンディションなら勝利は揺るぎない!!」
「止めなさぁい、ユニクぅ」
「無理難題すぎる!?経済の方が簡単かもしれねぇ!!」
村長の話+昼飯抜き(本人談)によって、リリンの我慢は限界突破。
いつも以上に食うつもり満々なのは、火を見るより明らかだ。
そして、温泉郷には平常時のリリンですら躊躇する何かがあるらしい。
その名は……、
「今こそ、『山盛り唐揚げ、アヴァロンMAX』に挑戦する時!!温泉郷の大食い王の座は私が頂く!!」
やっぱりオチはお前か、タヌキぃぃ!!




