第113話「心無き魔人達の質問コーナー!④」
「ねー、お師匠。ついでにおねーさんの質問にも答えて欲しいなー?」
「ほほほ……、有料じゃぞ」
「おねーさんからも!?リリンちゃんやユニくんの時には取らなかったじゃん!!」
「もちろん全員有料じゃよ。だが、リリンサやユニク達の質問料は後見人から先に貰っておるだけだ」
後見人から貰っているという村長の言葉で、頬を膨らませないタイプの大魔王共が凍りついた。
その後見人とは恐らく大聖母ノウィン――、リリンやセフィナのお母さん。
だが、その実態は真の意味での人類の支配者であることが、ついさっき語られている。
「そもそも、ホーライ伝説を執筆したのは生活費を欲してのこと。この歳になると日銭を稼ぐのも一苦労でのぅ」
「……そうだね。物凄く苦労するね、生態系が」
「と言うことで、ほれ、誠意を見せてみぃ」
そう言いながら朗らかな笑顔で手を差し出す村長。
なんというか、……地味にセコイ。
村長は初代英雄にして、旧時代の大陸の覇者ブルファム王国と、新時代の覇者レジェンダリアの立役者。
当然、その言葉には莫大な価値がある、つーのは分かる。
……だが、弟子相手に金をせびるんじゃねぇよ!!
つーか、一つ数十億エドロ以上の価値がある魔道具をいっぱい持ってるよなッ!?
大魔王陛下に適正価格で売れば、暫く遊んで暮らせるだろッ!!
「おい、村長。本当の狙いはなんだ?金じゃねぇのは分かってるぞ」
「はて?儂はタダで美味い酒が飲みたいだけじゃがのぅ」
俺達と違い、レラさんは村長を英雄ホーライだと知った上で行動を共にしていた。
おそらく、さっきの過去話に繋がる何かで触れて欲しくない情報があり、レラさんにそれを聞かれるのを恐れているんだと思う。
……よし、そっちの方向へ誘導しよう。
全力で。
「酒でいいのか。ではここで大魔王一派に質問です。美味しいお酒を提供できる人ーー?」
「ん、白銀比様にあげる用のがある。おじいちゃんに貰った高級な奴!」
「勿論、用意をしているとも。ノウリ国産の最高級米酒でいいかい?」
「余も当然用意してあるわぁ。はい、酒精強化ワイン『たぬきごろしぃ』」
「最近ウィスキーに嵌っててよ。自律神話教の酒蔵に有った奴がいい感じだぜ」
「辛口がお好みなら、無水エタノールもあるわよ」
うわーすげぇ。ありとあらゆるジャンルの酒が出てくる出てくる。
リリンの凄く価値がありそうなヴィンテージラベルのボトルから、白衣の魔王御用達の消毒液まで何でもござれだぜ!!
「既にお支払い頂いているって話とぉ、余達が英雄ホーライに礼を尽くすのは別だものぉ。受け取って頂けるかしらぁ?」
「くれると言うならありがたく頂戴するが……。これで良いのか?レラ?」
しっかり酒瓶を回収した村長が、物凄く良い笑顔をレラさんに向けた。
そして、レラさんが物凄ーく渋い顔をしている。
「……。」
「妹分や弟分、年下の子らに奢られて満足かと聞いておるのだ(笑)」
「あーもー、分かったよッ!!飯を作ればいいんでしょ!!」
「ほっほっほ。儂の好物を頼むぞ。無論、食材は獲ったばかりの新鮮なものに限る」
「好物ね。あれー、なんだったっけー?おねーさんの拳だったっけー?」
額に血管を走らせたレラさんが、すっと目を細めた。
そして、村で暮らしていた鈍い時代の俺ですら、脂汗が滝のように流れ落ちる程の殺気が放たれ――。
……おいタヌキども。
興味津々な顔でこっちを見るんじゃねぇ!!
「待て待て、レラさんは病み上がりだろ。無理すんなって」
「そうだけどさー」
「村長も雑に煽るな。酒を貰ったんだから、それで手打ちにしとけ」
「美味い酒であろうとも、肴が無ければ味けないものじゃからな」
「ん、確かにそう!!食事は飲み物と料理のバランスが大事だと思う!!」
あっ。話題が料理になった瞬間、腹ペコ魔王様が活動を始めた。
何処かに電話をした後、とりあえずこれを食べればいいと思う!!とか言いながら、次々に料理を召喚してゆく。
「リリン。その料理は?」
「おじいちゃんに作って貰った、明日出すお店の試作品!!」
そういえば、リリンとワルトの勝負って明日なんだよな?
ぶっちゃけ屋台の準備をしなくて良いのか?って思ってたんだが……、どうやらリリンは、王国宮廷料理長に丸投げするつもりらしい。
アプルクサスさんは祖父の威厳を孫に見せられるし、腹ペコ姉妹は大食い勝負に専念できる。
そして、客はリリンのカツテナイ料理を食べなくて済――、げふんげふん。美味しい料理に舌鼓を打てるという、盤石の布陣だぜ!!
「それで何が聞きたいのじゃ?レラ」
最終的な落とし所として、明日のお祭りにレラさんも参加する事になった。
村長がリクエストした料理を多めに作って売り、その代金も全て村長に渡すという条件で決着。
話の流れで澪さんも協力してくれることになったんだが……、リリンが ぇ。 って言ったのがちょっと気になる。
「レーヴァテインの中のカツボウゼイって、お師匠が封印したんでしょ?」
「そうなるのぅ」
「なら、事実上は勝利してる訳だ。にもかかわらず、おねーさんがカツボウゼイを蘇生して斃そうとすると、自分より格上だと言うのは何なのかな?」
レラさんがレジェンダリアに帰らない理由は、レーヴァテインに封印されている化物を倒し切れていないから。
それが大魔王陛下と交わした約束であり、レラさんの目標なんだそうだ。
「嘘ではあるまい。カツボウゼイは『世界最速の王』。如何に儂とて、触れられなければ勝てんからのぅ」
「今もアダムスは持ってるし、レーヴァテインもその場にある。条件は同じ……、むしろ、研鑽を積んだ今のお師匠の方が強いでしょ」
「強化されるのは相手も同じ、いや、相手の弱体化が取り払われていると言うべきじゃろうな」
「……!あぁ、そういうこと」
村長と戦った時のカツボウゼイは、真の実力を出せない状態だった。
ヴィクトリアから殺さないでと命令されていた上に、満身創痍の人間が相手だという油断もあったからだ。
そんな弱体化を的確に狙った奇襲でしか勝ち筋がなかった。
直接戦ったからこそ、村長はカツボウゼイの実力の高さを理解している。
「ましてや、奴の視点では終世の真っ最中じゃぞ。おそらく、蘇生した瞬間に周囲一帯を全滅させようとしてくる。最短最速の手段でな」
「命の権能を持つヴィクトリアが近くに居ると思っているのなら、味方の巻き添えも考慮しないか」
「それだけでは無い。自分自身の肉体すら省みないだろう。それをレーヴァテインの能力以外で完封できる自信がお前にはあるのか?」
真っ直ぐ見つめてくる村長の視線へ、レラさんが返したのは『悔しさ』だ。
レーヴァテインは強力な特殊能力を持つ神殺しだが、殺傷力は普通の剣と大差ない。
そして、目的がカツボウゼイの殺害である以上、レーヴァテインの封印は使えず、自力で勝利できる実力が必要になる訳だ。
「ちぇー。わかったよ、降参!!私の傷が癒えているは勿論、明確な勝利手段を作ってからにする」
「その時は儂を巻きこんでくれるなよ」
「にゃは!お師匠という保険を掛けてる半人前じゃダメダメだってのも理解したさ!」
「ほほほ、分かればよろしい」




