第112話「心無き魔人達の質問コーナー!③」
「アサイシスは表の英雄、そしてラルバは指導聖母でありながら裏の英雄として活動していた!!あんな事があったのに、とてもすごいと思う!!」
一度は人生を踏み外したラルバやアサイシスも、村長と一緒に真っ当にやり直せたようだ。
その結果、ブルファム王国は少ない消費で高い戦果を上げ続け、現代に続く大陸の覇者となりえた。
だが、犠牲が出なかった訳ではない。
終世へと続く2年間では幾つもの戦争が行われ、数多の人々が命を落としている。
その中には、セフィロトアルテを攻めた軍人が先んじて死んでしまうなど、村長の記憶とは違う展開も起こった。
命のやりとりは僅かな要因で結果が変わる。
既視感があったとしても、必ずその通りになる訳じゃない。
「うーん、興味深い話だったが……、この話を民衆が受け入れることは無いだろうねぇ」
「メルテッサ?」
「ブルファム王家が発行している歴史書では、初代国王・ライセリアは崇拝される程の偉人。……が、ただの凡人で」
「特に目立った実績を上げてなかったしな」
「失策の象徴たるラルバが事実上の立役者。……だよねぇ?」
「村長が戻って20日で国王交代になるんだから、そうなるな」
「筋書き通りに進む2年間はしょうがないが、その後、ラルバがブルファム王家から出奔し、実質的な権力がライセリア夫婦に戻ったら失策のオンパレードで」
「そうか、ラルバがした事になってる失策はライセリア夫妻がやったのか」
「……挙句、ジュゼッペ殺されてるよね?ライセリアに」
「えっ?」
村長の話では仲違いしたって言ってたが……、大魔王陛下やレラさん、ワルトの表情を見る限り、メルテッサの思い違いでは無いらしい。
よし、真相を知っているであろう村長に吐いて貰おう。
「ほほほ、鋭い。流石は指導聖母じゃな。ちなみに、そう思った理由を聞いても?」
「ラルバの次の3代目ブルファム王・エヴァニ。彼はライセリアの甥とされているんだが……、正確な出自が不明でねぇ」
「ほう?」
「最有力説では、ライセリアの種違いの妹がラウンドラクーン家の末男と作った子供なんだけど、その両親の情報が何処にも記録されてない」
「暗い子じゃったからのぅ」
「エヴァニの即位前も含め、ロクな情報が無いんだ。それはつまりロクな結果を出していない訳で、そんな奴が国王になる?亡国の危機に?」
「当時の混乱は相当なものじゃったぞ」
「ぼくはもともと、エヴァニは傀儡の王だと思っていた。そこにライセリア夫妻が仲違いしていたって聞けば仮説くらい立つさ」
メルテッサを指導聖母に育てた人物は、指導聖母・悪典という、他者の意思の操作に長けた人物だったそうだ。
そのやり口は、予言めいた書物を配り、その通りになる様に人々を動かす。
そんな人物に育てられたメルテッサは仮説を立てるのが非常に上手いようで……、大魔王陛下とワルトが興味深そうに聞いている。
「ジュゼッペがライセリアを排し権力を手に入れたのなら、国名を変更するはず。別れた妻の家名の国を治める訳がない」
「ましてや、失策の後だしねぇ。余なら変えるわぁ」
「でしょ。だから勝ったのはライセリア。しかし功績は目立たず、民主受けが良くなかった。どう考えても、ジュゼッペの功績を手に入れている」
「革命家ゼペットはプライドの高い男だったとされているわねぇ」
「そう、奪うしかない。エヴァニ王は優れた施政者だった……、転じて、何らかの妨害を受けた形跡がない。なら、敵対しているジュゼッペは死んでいるよね」
なるほどな。
状況証拠的にライセリアが殺したのが有力ってことか。
……だが、ハズレだな。
だって、村長が朗らかな笑顔で笑ってやがる。
「ほほほ、惜しい所までは行っておるがのぅ。ジュゼッペはライセリアに直接殺されたのではないぞ」
「そうなんだ?詳しく教えて頂いても?」
「奴はのぅ、不倫相手に刺されて死んだんじゃよ」
「えっ」
「ある意味、ライセリアが殺したも同然ではあるが……、仲違いした後、調子に乗ったジュゼッペはあっちこっちで女を引っ掛けておった。次期王妃にしてやると言ってな」
「あー、男尊女卑になってきた」
「その中に、ライセリアの腹違いの妹『フロンゲンセ』が混じっておってのぅ。顔立ちも似ておるし妻に未練があったのじゃろうが……、実はこの子は、ラルバの同僚の指導聖母でのぅ」
「……。」
「結果、五股を暴露されたジュゼッペは刺された。そして、フロンゲンセの息子が国王になったと言う訳じゃ」
……。
妻の妹に手を出して不倫したら、まさかの指導聖母で密偵だったと。
で、正妻達に報告されて社会的に追い詰められ、結果、他の不倫相手に殺されてしまった訳だ。
物凄く分かりやすく整理すると、
俺 = リリン(正妻)
= ワルト(指導聖母でリリンの義姉妹)
= テトラフィーア
……で。
ワルトに唆されたテトラフィーアに刺されて死んだと。
ははっ、やべぇぜ!!
「なるほどねぇ、指導聖母の力が強いのはラルバの影響だけじゃなかったんだね。情報がないのも指導聖母なら納得だし」
「ライセリアとフロンゲンセの仲は悪く無かった上に、ラルバは断固として子供を作るつもりがない。時の流れと言うものじゃな」
「役に立たなかったんだもんな、村長の息子」
「健常なのに未使用な方が、どう考えてもヘタレじゃわい(失笑)」
うるせぇぞ!!
迂闊に手を出したら刺されるって分かってるだろうがッ!!
「くすくすくす……」
「何が可笑しい大魔王陛下?」
「別にぃ。微笑ましいから笑っていただけぇ」
くっ、自分には関係ないって顔しやがって。
どうにかこっち側に引きずり込め……、いや、やめておこう。
刺される可能性が高くなる。
「ユニくんもさぁ、少しはレジィを見習いなよ」
「え?」
「何年も女王をしてるのに王配が居ないって事は、すごく大事に考えてるってことでしょ。その慎重さを見習った方がいいと思うよ、おねーさんは」
……ほぉぉ?
レラさんはそう思ってるのか、へぇー。
大魔王陛下の弱み、ゲット!!って大魔王共の顔に書いてある。
あろうことか、頬を膨らませた大魔王ハムスターまで分かっていらっしゃる。
「ま、レジィの言うとおり微笑ましいとは思うけどさぁ……」
「何か気になる事があるのか?」
「出自が不明って言っても、まだ人じゃんって思ってさ」
「……うん?」
「レジェンダリアは初代国王がレーヴァテインで友を斬って起こした国だ。で、その人の母も不明なんだけどさ」
「そうなのか?ってまさか……」
「おねーさんが調べたそれっぽい記述によると、その国母は『スッス』って名乗っていたらしいんだよねー」
「……。なんか、聞き覚えがあるっすよー!?」
「その英雄アサイシスってさぁ……。タヌキとフラグが立ってたよね?」
……。
…………。
………………お前まさかヤッたのかッッッ!?
クソタヌキィィィィィィィっっっ!?!?!?
「いやさ、常識で考えれば有りえないんだけど……。人化していたって言うし、ロボを召喚するより簡単かなって」
「流石に無いと信じたいわねぇ。まさかの余が一番タヌキ属性が濃いとか笑えないしぃ」
いくらなんでもそれは無いと……、あ。
現在進行形でタヌキに言い寄られている英雄に心当たりがあるな。
カツテナイ急展開で目の前が真っ黒になっていると、大魔王ハムスターが何やらモゾモゾし始めた。
自分の魔導服の裾をめくって何し、おい、そんな所に居やがったのか。クソタヌキ。
「そうなの?ソドム」
「んな訳ねぇだろ。誰があんな奴と子供なんか作るか」
「じゃあ、相手は誰?」
「知らん。……が、どっかのサーカス団の奴だと思うぞ?」
セーフッッ!!
クソタヌキの子孫が築いた王国が大陸の覇者になったとか、未曾有の緊急事態は回避されたッ!!
……それはそれとして、頭のおかしいドラゴンピエロサーカス団フラグが立ったぞ。
「余から改めて質問させて貰っても良いかしらぁ?」
「なんですかな?」
「レジェンダリアの国母スッスって、アサイシスよねぇ?」
「そうだのぅ」
「なぜ、ブルファム王国から離れた地に国を興したのかしら?まさかこっちも仲違い?」
ピエロフラグなんて馬鹿な事を考えている俺とは裏腹に、大魔王陛下は真面目に歴史考察をしているらしい。
少し情報を整理すると、レジェンダリアの国母アサイシスは、村長と同じ村に住んでいた友達の娘だ。
あぁ、だからか。
レジェンダリア国王チュインガムと村長が顔見知りだったのは。
「アサイシスはあの性格じゃからのぅ。敵を作ろうと思っても作れんわい(笑)」
「そうよねぇ?なら、レジェンダリアの宝物庫に様々な魔道具が保管されているのは関係あるかしらぁ?」
レジェンダリアの由来は、伝説の武具が集まる土地だからだと前に聞いた。
その時には、誰が集めたのかは話題に上がらなかったが……。
流石は500年も生きてる妖怪英雄。
なん個も国を興してんじゃねぇよ。
「性能が元に戻っておるのは、2年間に操作した分だけじゃ。自国に残っていた過去の魔道具は処理したが、他国に流れたものもある。それをアサイシスに集めさせていたのじゃ」
「その保管場所がレジェンダリアなのねぇ」
「大陸の端にある辺境地で、何かと都合が良くてのぉ」
「レーヴァテインや壱切合を染する戎具、十本指を象る輪火。魔導銃の原型になった大罪シリーズもあったわねぇ」
「再び、造物主や神像平均が世に生まれた時、抑止力になればと思ってのぅ」
「くすくすくす……、いまいち活躍しなくて残念ねぇ」
大魔王陛下がメルテッサと直接対決した時、それらの魔道具を装備して戦ったらしい。
だが、敗北。
メルテッサが持ち込んだのは封印されしクソタヌキシリーズ。
それも、アホの子妹が召喚した機神によってバージョンアップしちゃった、カツテナイ天使武装だからしょうがないぜッ!!
「まさか、レジェンダリアの出自まで聞けるとは思っていなかったわぁ。ありがとぉ」
「儂にとって、アサイシスやエリウィスは他人では無い。何か困ったことがあったら相談に乗ってやろう。有料でな」
……。
…………。
………………、金取るのかよ、村長ーーッ!!




